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新旧お宝アルバム! #94「Lindsey Buckingham / Christine McVie」Lindsey Buckingham & Christine McVie (2017)

2017-07-24

2017.7.24

新旧お宝アルバム #94

Lindsey Buckingham / Christine McVieLindsey Buckingham & Christine McVie (LMJC / Merry Go Round / East West / Atlantic, 2017)

いよいよ学校の夏休みも始まり、梅雨も明けて、連日暑い日々が続く夏全開の今日この頃、皆さんは元気に洋楽ライフ、楽しんでますか?いよいよ今週末からフジロックも始まり、夏の音楽三昧の日々で盛り上がっている方も多いと思います。くれぐれも体調だけは気を付けて行きましょう。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は新しいアルバムをご紹介する番ということで今年の新譜。といっても70年代以来の音楽ファンにはすでにお馴染みのあのフリートウッド・マックの二人、リンジー・バッキンガムクリスティーン・マクヴィーが先月リリースしたデュエット・アルバム、既に耳にされている方も多いと思われる、その名も『Lindsey Buckingham / Christine McVie』をご紹介しましょう。

70年代からのフリートウッド・マックのファンの皆さんにとってはここ数年何かと話題が尽きないマック周辺。2013年にはあの70年代を代表するメインストリーム・ポップの名作『噂(Rumours)』(1977)の未発表音源を含むCD3枚組のデラックス35周年エディションがリリースされ、久しぶりにマックの話題でシーンが盛り上がったところへ、1998年にグループ脱退、「ふつうの人」に戻っていたブルース・マック時代からポップ・マック最盛期にかけての中心メンバーの一人、クリスティーン・マクヴィーが2013年に行われたマックのツアーのロンドンでの最終2公演に突然参加、翌2014年にグループ復帰をアナウンスするという展開に。同年9月からは『ファンタスティック・マック(Fleetwood Mac)』(1975)~『Tango In The Night』(1987)のマック最盛期のメンバー5人(リンジー、クリスティーンに加えてスティーヴィー・ニックス、ミック・フリートウッド、ジョン・マクヴィー)が揃ってUS、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドをまわり(残念ながら日本公演はなし)、計120公演、1年以上にわたる「On With The Show」ツアーを敢行し、世界中のマック・ファンにマック再始動の実感をいかんなく与えてくれたもんです。

このツアーは『』当時のファンだけでなく、その子供達の世代で『』の頃のマック・サウンドはクラシック・ロックFM局では聴いたことがあるけど生で聴くのは初めて、という観客にもマックのこの黄金期メンバーのサウンドが届けられ、当時のサウンドが次の世代にもリアリティを持って伝えられたという点で大きな意義があったと言えます。ツアー当時、このメンバーでの新作発表予定もアナウンスされ、ツアーが終了した2015年末には2016年にはほぼ30年ぶりにこのメンバーでのマックの新作が出る、と期待に胸を膨らませていたファンも多かったでしょう。

事実、そのツアーの直前、クリスティーン復帰直後の数ヶ月、リンジーはあの大作『Tusk』(1979)を録音したLAのスタジオに入って、クリスティーンと曲作りのセッションを始めていて、その出来に手応えを感じていたといいます。ツアー前までに、結果今回のデュオアルバムに収録される曲も含む8曲を、ジョンミックのリズム・セクションを加えた形で仕上げていたのです。ただその後、ツアー中約束されたマックの新作に彼らと共に取り組んでいたはずのスティーヴィー・ニックスが自分のソロ作のツアーに出てしまい、5人マックでのアルバムの仕上げが難しくなるという事態に。

もうこれ以上待てない、ということでリンジークリスティーンが2016年末から2年前に仕上げていた8曲を元に今回のアルバムを作り上げたのです。

リンジークリスティーンのデュオ・アルバムといっても、バックにジョンミックのリズム隊が入っていますから、実質本作はスティーヴィー抜きのマックの新作、と言ってもいいでしょう。そして『』の「Dreams」のような典型的スティーヴィー楽曲が当然含まれていないのですが、それがほとんど気にならないほど、アルバムとしての完成度は高いものがあります。

収められた楽曲は一曲ごとにリンジークリスティーンが交互にリードを取るという構成で、自分のリード曲は基本自分の作品、または自分の作品を元にもう一人が共作で仕上げたという機能的な共同作業の形を取っています。

そして、どの楽曲も聴いてすぐリスナーの頭に浮かんでくるのは『Tusk』から『Mirage』(1982)、『Tango In The Night』(1987)にかけての3枚の頃そのままのマックのサウンド。リンジーの奏でる光り輝くようなギターリフに乗るポップ・ナンバー、クリスティーンのたゆとうような、それでいてスケールの大きいメロディと楽曲構成の英米ポップ・ロックの要素が渾然一体となったナンバーなどがふんだんに盛り込まれているこのアルバム、当時のマック・ファンはもちろん、今のメインストリーム・ポップ・ファンにも充分魅力を感じてもらえるそんな素晴らしい作品に仕上がっています。

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イントロのギターとボーカル、そして『Tusk』期特有の飛び跳ねるリズムを聴いた瞬間に「あ、リンジーだ!」とすぐ分かってしまう冒頭の「Sleeping Around The Corner」、イントロのキーボードと紛う方なき成熟した歌声はクリスティーンなのだけど、メインのリズムはまたまた『Tusk』期のリンジー色が前面に出ている「Feel About You」、マイナー調のコードの出だしから一気に花が咲き乱れるようなギターフレーズとメロディが『Tango In The Night』で完全に主導権を持っていた頃のリンジーを強烈に感じるポップ・ナンバーの「In My World」と、この最初の3曲を聴いただけで、彼らのサウンドのファンの心を鷲づかみにしてくれるそんなアルバムの出だし。

クリスティーン独特の流れるようなコード進行とメロディ構成が『Tusk』収録の「Think About Me」チックな「Red Sun」、アコギでシンプルに聴かせるリンジーの「Love Is Here To Stay」、『』B-1に入っていた陰のあるロックナンバー「The Chain」を彷彿とする今回のアナログ盤でもB-1の「Too Far Gone」、そして『Mirage』期のリンジーの色が濃く出始めた時の「Hold Me」「Oh Diane」といったナンバーを思い出させてくれる「Lay Down For Free」など、アルバム中盤も一切テンションが緩むことなく、正にポップ職人リンジーと母性で包み込むロックシンガー、クリスティーンのコラボが素晴らしい楽曲群を紡ぎ出していきます。

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アルバム上がりの3曲の最初「Game Of Pretend」は、これぞクリスティーンの楽曲という、ピアノの弾き語りで迫り来るようにクリスティーンが歌いかけてくる「Songbird」系の楽曲。この間のツアーのタイトルをそのままタイトルに「僕が立ち続ける限り/君の手を取って僕のバンドと立ち続ける/ツアーに出てショーを続ける以外/他に行くところはない/だからさあ行こう、さあショーをやりに出かけよう」と、リンジーのこれからの音楽活動に向けての決意表明を前向きに歌う「On With The Show」はことに感動的ですが、これに呼応するかのように、ややブルージーにアルバム最後の「Carnival Begin」では「目を開けると海には船が出航している/初めて会う人々、行ったことのない場所/もうそれらを隠すには遅い/私はすべての色とブランコ、新しいメリーゴーランドが欲しい/カーニヴァルの始まりなの」と歌うクリスティーンも同様の気持ちを表明していて、少なくともこのマックの4人はまだまだこれからも新しい音やショーを届け続けてくれるのだな、とファンとしては大変嬉しい実感を持つことができます。

とにかく3年の年月をかけて、いい音や楽曲作りへの完璧主義者ぶりでは定評のある(笑)リンジーが渾身で作り出したハイクオリティのサウンドは隅々まで手が行き届いた職人仕事で、これにもう一人のサウンド職人、ミッチェル・フルームがキーボードとプロデュースで参加してますので、楽曲のみならず音の良さも素晴らしいものがあります。

是非昔からのマック・ファンも、マックは知らないけど最近のHAIMなどの良質で成熟したポップサウンドに興味のある若いファンも、是非このアルバムでリンジーの、そして4人マックのサウンド・コラボの生み出す楽曲を楽しんでみてはいかがでしょうか。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位17位(2017.7.1付)

同全米ロック・アルバムチャート最高位3位(2017.7.1付)


新旧お宝アルバム!#93「Journey To The Land Of Enchantment」Enchantment (1979)

2017-07-17

2017.7.17

新旧お宝アルバム #93

Journey To The Land Of EnchantmentEnchantment (Roadshow / RCA, 1979)

この週末は今日の海の日を入れての三連休。この週末からもう夏休みという学校も多いでしょうし、海に山に小旅行と連休を満喫されている方も多いでしょう。そういうレジャーにも是非いい音楽、いい洋楽を携えて楽しんでおられる方も多いことと思います。

さて今週の「新旧お宝アルバム」は久々に70年代に戻り、メインストリームでの商業的成功は今ひとつでありながら、その素晴らしいバラード・ナンバーの数々で当時のR&Bシーンに大きな存在感を残し、後の90年代にR&Bが復興した際、ジェシー・パウエルらの伝統的スタイルのR&Bシンガー達にも大きな影響を与えたデトロイト出身の5人組コーラス・グループ、エンチャントメントの3作目『Journey To The Land Of Enchantment』(1979)をご紹介します。

エンチャントメント、というと全米トップ40ヒットファンやソウル・ファンの間ではあの名バラード「Gloria」(1977年全米最高位25位)を含むファースト・アルバム、いわゆる「カエルジャケ」で有名な『Enchantment』(1977)や、もう一曲の全米トップ40ヒット「It’s You That I Need」(1978年全米最高位33位)を含むセカンド・アルバム『Once Upon A Dream』(1978)の方が知られているかもしれません。いやそれ以前にエンチャントメントというグループ自体、熱心なソウルファン以外にはあまり一般的には知られていないというのが実態でしょう。

エンチャントメントは古くからのソウル・コーラス・グループの伝統的スタイルを受け継いだ、バラード・ナンバーにその素晴らしさを発揮するグループ。しかし彼らのバラード・ナンバーというのはどれも、それはそれは宝石のように輝く素晴らしいナンバーばかりで、そうした卓越したバラード・パフォーマンスこそが彼らの最大の強みであることは間違いないでしょう。

その彼らのスタイルの強みを最大限に引き出しているのが、ファースト以来このアルバムまで3枚の楽曲作りとプロデュースをつとめたマイケル・ストークス。彼の作り出す数々のバラードの名曲とサウンドワークが、エンチャントメントを70年代屈指のバラード・グループにした大きな要因でした。これほどのアーティストを育て上げたマイケル・ストークスですが、エンチャントメント以外ではこれといった実績を残しておらず、エンチャントメントマイケルの関係がお互い不可欠、ワン・アンド・オンリーであったことが分かります。

先ほどにも述べたように、このアルバムの前の2作からは全米トップ40ヒットも生まれていますし、前作はR&Bアルバム・チャートでもトップ10に入るなど、商業的にも盛り上がっていた後のこのアルバムからは前2作ほどの大きなヒットは生まれていません。しかし、このロードショー・レーベル最後、そしてマイケル・ストークスとの仕事最後となったアルバムは、その後半を構成する怒濤のようなバラード・ナンバーの洪水だけを持ってしても、充分「お宝アルバム!」の価値はある作品だと思います。

一方時は1979年、ディスコ・ブーム真っ只中の時代であり、アルバムの冒頭「Future Gonna Get You」は明らかにディスコな楽曲も用意しました、的な感じで正直あまり頂けません。2曲目の「Magnetic Feel」も同様の路線ですが、ただこちらはメインリフのクラヴィネットとホーンとベースのフレーズが、この2年後にブレイクするリック・ジェイムスの「Give It To Me Baby」を彷彿させたり、全体的にも70年代中期のテンプテーションズのアップナンバーを思い出させるようなしなやかさで決して悪くありません。このアルバムの最大の特徴は「だんだんよくなるエンチャントメントの3枚目」というものですが、正にその通りの展開で、次の「Anyway You Want It」はしなやかで洒脱なフレージングがフィリーソウルを思わせる素敵なミディアム・ナンバー。リードボーカルのエマニュエル・EJ・ジョンソンのファルセット気味のテナー・ボーカルが気持ちよく心に響きます。続く「Love Melodies」はちょっとサザン・ソウル風にスワンプ風味のギターとフェンダー・ローズとストリングスがダウン・トゥ・アースな気持ちよさを醸し出すゆったりとしたナンバー。

この後アルバムはやや中だるみとなり、ムーディなミディアム・スロー「Oasis Of Love」、これもややディスコ仕様だけど凡庸な「I Wanna Boogie」、そして何故かイントロにサーカスの呼び込みのメロディがあしらわれて、ややオールド・タイム・ミュージック風を狙っているような「Fun」の3曲が続きますが、正直この3曲は全体の流れを止めてしまっていて熱心なファン以外は飛ばして聴いて頂いても大丈夫です(笑)。

そしていよいよ怒濤の後半がスタートするのは「Let Me Entertainment You」。ここではまだ凄さはありませんが、エマニュエルを中心に60年代のテンプスか、70年代のフォートップスか、というくらい完璧にコーラスワークを決める5人のボーカルが、心地よくリスナーの耳を包み込んでくれるミディアム・ナンバー。「ここから思い切り楽しんでくれ」という彼らの決意表明のようにもきこえます。そしてホーンとストリングスとリズムセクションが刻むイントロが入ってきた瞬間に素敵な時間を予感させる彼ら屈指の名バラード「Forever More」。アルバムジャケにメンバーのバックに写る星空から降ってくる流れ星のような音をシンセで散りばめながら抑えたバックトラック、コーラスもやや抑えめにリードのエマニュエルの素晴らしいテナー・ボーカルに寄り添ったパフォーマンス。「君の愛と一緒にいると素晴らしい/僕はずっと永遠に君の愛を大事にするよ」というベタベタのラヴソングなのですが、ここでの彼らのパフォーマンスこそ素晴らしいの一言。

そしてこのアルバムの実質のラスト・ナンバー「Where Do We Go From Here」。知り合ったばかりの男女が二人きりになったのだけど、このまま何もなかったかのように立ち去るべきか、それともお互いに手を取って何が起こるのか試してみるべきなのか、ねえ君、これからどうすればいいんだろう、と歌うこの歌は、ギターとシンセによるスペーシャスなトラックをバックにゆったりと始まります。ここでもひたすらエマニュエルの素晴らしいファルセット・テナー・ボーカルとそれにぴったりと寄り添うコーラスによるエンチャントメントのパフォーマンスは、正に「クワイエット・ストーム」という言葉がぴったり。

曲はそのままアルバムクロージングの「Journey」になだれ込みますが、これは先ほどのスペーシャスなトラックがまた前面に出てきて2分ほど流れてフェードアウトする、というもの。

自分が1991~93年にNY駐在の頃、地元のブラック専門FM局、WBLSをよく聴いていましたが、週末の夜10時頃からやっていた名物番組「Quiet Storm」のDJだったヴォーン・ハーパーバリー・ホワイト顔負けのロー・バリトン・ヴォイスの名DJ、惜しくも昨年71歳で他界)はよく番組の最後にこの「Where Do We Go From Here」から「Journey」の流れを使っていました。彼の「Journey」にかぶせてしゃべる「昨日から今日に時間が変わる真夜中…あなたにお届けしてきたQuiet Storm…」というMCが本当に印象的で、このアルバムを聴くたびにあのヴォーン・ハーパーのセクシーなMCを思い出すということもあり、自分にとっては特別なアルバムなのです。

一部の曲は今聴くとやや時代を感じてしまうものもあるのですが、後半の一連のバラード曲は今聴いても全く古さを感じさせない、名ソウル・コーラスグループ、エンチャントメントの真骨頂とも言える素晴らしさだと思います。夏の夜、ジャケにあるような星空を見ながら、ソウル・バラードの神髄を楽しむには絶好の盤だと思いますので、是非一度聴いてみて下さい。

 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位145位(1979.4.28付)

同全米ソウル・アルバムチャート最高位25位(1979.4.7-14付)


新旧お宝アルバム!#92「Waiting On A Song」Dan Auerbach (2017)

2017-07-10

2017.7.10

新旧お宝アルバム #92

Waiting On A SongDan Auerbach (Easy Eye Sound / Nonesuch, 2017)

雨が降らないとつぶやいてたら先週は九州地方を襲った台風の影響で悲しい災害が発生、多くの方々が被害を受けてしまいました。被災者の方々、そして不幸にも水害の犠牲になってしまった方々には心よりお悔やみ申し上げると共に、日常への一日も早い復旧を願っています。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は久々に今年発売された新譜を。2017年も折り返し点を過ぎて、各音楽誌や音楽情報サイトでは今年前半のベストアルバム、なんて企画もちらほら目にする最近、自分的にはかなりそういったリストの上位に入ってくるのではないかと思っているのが、オハイオ州アクロン出身のブルース・オルタナティブ・ロックバンド、ブラック・キーズのリーダーで、2013年には自分たちの作品やDr.ジョンのアルバムなどの仕事でグラミー賞最優秀プロデューサー賞も獲得しているダン・アウアーバックのソロ・アルバム『Waiting On A Song』。ドカスカビートと骨太のブルースっぽいロックを聴かせるブラック・キーズのサウンドとはひと味違った魅力を持つこのアルバムを今週は紹介しましょう。

ダンがソロ・アルバムを出すのはまだブラック・キーズが大きくブレイクする前の2009年の『Keep It Hid』以来8年目、2枚目になります。今回のソロ・アルバム制作のきっかけは、その後ブラック・キーズが大きくブレイクすることになったアルバム3枚『Brothers』(2010)、『El Camino』(2011)、『Turn Blue』(2014)の大ヒットとそれをサポートするツアー続きでほとほと疲れてしまったダンが、2014年から2015年にかけてレイ・ラモンターニュラナ・デル・レイ、ケイジ・ジ・エレファントらのアルバムをプロデュースした後2015年に再婚、そして2016年夏に休養宣言をしたことが実は始まりだったとか。

早くから南部の音楽のメッカ、ナッシュヴィルに移り住んでいたダンは、ひたすらレコーディングに、ツアーに、そしてプロデュースワークで駆け抜けた後はゆっくりアンプラグして過ごすつもりだったようですが、それまで時間なく交流がなかなかできなかった地元のミュージシャンや音楽関係者と交流するうちに、このアルバムを作ることになる二人の重要なパートナーと知り合ったといいます。

一人はこのアルバムのプロデューサーでもあり、このレコードが録音されたナッシュヴィルのEasy Eye Soundスタジオのオウナーでもあるデヴィッド・ファーガソン。彼はメンフィスのサン・スタジオを創始者のサム・フィリップスと共に支えた伝説のプロデューサー、”カウボーイ”ジャック・クレメントの直弟子で、90~2000年代にこちらも名プロデューサーのリック・ルービンの手腕で復活したジョニー・キャッシュアメリカン・レコーディング・レーベルから発表したその時代のアルバムのサウンド・エンジニアを務めた、ナッシュヴィルでも大御所のサウンド・プロデューサーです。

そしてもう一人が、デイヴィッドと親しくなったダンが連れて行かれたナッシュヴィルのライヴハウスでのジョン・プラインのライヴで、バンドのマンドリンを弾いていたパット・マクラフリン。彼は80~90年代にスティーヴ・ウォリナータニヤ・タッカー、ゲイリー・アランなどカントリー・シンガー達に数々の曲を提供してきて、ナッシュヴィルでも有数のシンガーソングライターとしての実績を持っていましたが、2010年にジョン・プラインのツアーの前座をやったのをきっかけにジョンのバンドに時折参加していたとのこと。巡り合わせというのはこのこと。

意気投合した3人は「とにかく曲を書こう」ということで毎日ダンの家に集まり、朝9時から夕方までとにかく共作で曲を書きまくったといいます。週の前半は曲を書き、後半はその曲のデモを録音する、というのを続け書き上がった曲は、他のバンドメンバーとの共作も含め200曲に上ったというから驚きです。

このレコードのもう一つのポイントは、バックをつとめるバンドのメンバーがほぼ全曲不動であるということ。ギターのラス・パール、ベースのデイヴ・ロー、キーボードのボビー・ウッド、ドラムのジェフ・クレメンスの4人はダンと共にこのアルバム収録の10曲のほとんど全部を不動のメンツで固めて、骨太でタイトで、それでいてしなやかな演奏を聴かせてくれます。スペクター・サウンドの成功のバックにレッキング・クルーが、モータウンの成功のバックにザ・コーポレーションが、そしてスタックスの成功のバックにブッカーT&MGズが、と古来成功したサウンド・プロダクション・チームには不動のバンドメンバーがいましたが、このアルバム制作にあたってはそれを念頭に置いていたとダンは言います。そしてそれに加えてゲスト参加しているミュージシャンはすべてレジェンド級のアーティストばかり。ラウンジっぽいギター音のレゾナンスが聴いた瞬間に彼と分かるデュアン・エディ、マーク・ノップラー、そしてブルーグラスの世界でドブロ・ギターと言えばこの人、ジェリー・ダグラスなどがダンデイヴィッドパットのペンによる楽曲のレベルを一段と上げているのです。

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サウンドは、ブラック・キーズのドカスカビートのブルース基調のロック・サウンドを想像するといい意味で大きく裏切られます。このアルバムのきっかけとなったジョン・プラインとの共作曲でオープニングのタイトルナンバー「Waiting On A Song」はマイアミ・ソウル風のベース・リフで軽快に始まり「おっ、何だこれは」と思ううちに、思いっきりカントリーに寄り添ったジョン・メイヤー、といった感じのオーガニックなブルー・アイド・ソウルに転じていく、実にオープニングにふさわしい目の前に道が開けていくような曲。ストリングをバックに構えながらメンフィス・ソウル風なリフがこれも心地よい「Malibu Man」、ニック・ロウか、トラヴェリング・ウィルベリーズかといった軽快なロカビリー基調の軽快なサウンドの途中に紛う方無きデュアン・エディ御大の骨太のギターが登場して、思わず体が動く「Livin’ In Sin」といったあたりを終わる頃にはこのアルバムの虜になっていました。

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続く「Shine On Me」もジュース・ニュートンの「Queen Of Hearts」やトラヴェリング・ウィルベリーズに共通するロカビリー・タッチのとてもポップなリフのキャッチーな曲。ここでのメイン・リフのギターを弾いているのはマーク・ノップラーですが、バンドメンバーと一緒に楽しんでプレイしているのが目に見えるよう。

ひとしきりビートの軽快なナンバーが続いた後は、ムーディなナッシュヴィル・ソウル歌謡、といった感じの「King Of A One Horse Town」からダンラスのアコギとデイヴのアコースティック・ベースにこちらもナッシュヴィル・レジェンドのジェリー・ダグラスのドブロが絡む「Never In My Wildest Dreams」にかけては、いわばこのアルバムのレイドバック・セット。「Cherrybomb」は妖しげな魅力をたたえた女性とその冷たさを歌うというカントリーでは定番のテーマの歌詞を、60年代のゾンビーズあたりを思わせるミステリアスな雰囲気のサウンドに乗せて歌うというもの。

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アルバム終盤の3曲はまたちょっとアップテンポのビートに戻って、カントリー・クラシックに対するオマージュとも思えるタイトルの「Stand By My Girl」、ちょっとダウンテンポながらノーザン・ソウルの雰囲気をたっぷり称えたソウルフルなナンバー「Undertow」、そしてハンドクラッピングとジャンプするような軽快なリズムに乗って軽々とダンが思わせぶりな女の子に「その気があるなら態度で見せてくれ/その気がないのならいい加減僕を自由にさせて/僕の気持ちは最初から見せている/ねえ君、君の気持ちを見せて」と歌う「Show Me」でほんわかしたムードでアルバムは完結。

このアルバムに入った10曲以外にも190曲のストックがまだあるわけで、この3人のソングライティング・チームの楽曲のクオリティの高さからいって、このセッションの2弾目、3弾目も今後出てくるのではないかと期待させます。そんな期待を膨らませてくれるほど、このアルバムはいつも変わらないバンドメンバーが集まって普通に楽器を弾いて、キャッチーだけど単純ではなくレベルの高い楽曲を演奏しているダン達の楽しさが伝わってくる好盤。是非ともストリーミングで、そしてCDショップで実際に聴いて見て下さい。アメリカン・ルーツ・ミュージック(含むR&B)がお好きな方であれば絶対お気に入りの一枚になると思いますので。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位41位(2017.6.24付)

同全米オルタナティヴ・アルバムチャート最高位5位(2017.6.24付)

同全米ロック・アルバムチャート最高位8位(2017.6.24付)


新旧お宝アルバム!#91「How Will The Wolf Survive?」Los Lobos (1984)

2017-07-03

2017.7.3

新旧お宝アルバム #91

How Will The Wolf Survive?Los Lobos (Slash / Warner Bros., 1984)

先週は一週間US出張の関係でお休みしてしまったこの「新旧お宝アルバム」、帰国してみると成田を立つ前に比べて湿気も増えて、少し梅雨らしくなったなあ、と思ってましたが肝心の雨はそこそこで蒸し暑さだけは全開のここ数日。皆さんも体調崩さぬよう洋楽ライフを楽しんで下さい。

そのUSは正に今独立記念日ホリデーの真っ最中ということで、ゆったりした時間が流れているようですが、ここ東京では週末の都議選の結果が自民惨敗、小池都知事の都民ファーストの圧勝となりました。この後の展開は不透明ですが、奢れる安倍下ろしの一歩になったのであれば国民にとって歓迎すべきことだと思います。

さて今週の「新旧お宝アルバム」は時代を80年代に戻して、自らの民族的ルーツと音楽的表現を試行錯誤しながら見事にオリジナルでカッコいいロック作品を作り上げた、ロス・ロボスのメジャーブレイク作『How Will The Wolf Survive?』(1984)をご紹介します。

ロス・ロボスというと、全米トップ40ファンの間では1987年の同名映画の主題歌で、その映画の主人公でもあった50年代のロカビリー・スター、リッチー・ヴァレンスのヒット曲のカバー「La Bamba」の全米No.1が最もお馴染みだと思いますが、彼らがロック・シーンにおいてメジャー・ブレイクを果たしたのはその3年前にリリースされたこのアルバム『How The Wolf Survive?』でした。

メンバーはLAで最もラティーノの人口割合が多い(90%以上がラティーノ)イーストLA出身の6人組、特に自らの民族的ルーツをメキシコに持つメンバーが多く、このアルバムにおいて彼らはメキシコの民族性とロック・サウンドの融合による新しくオリジナルなスタイルでのテックス・メックス・ロック(メキシコ音楽とカントリーの融合した音楽スタイル)を見事なサウンド・プロダクションと楽曲で実現しているのです。

メンバーのうちリーダーのデヴィッド・ヒダルゴ、ルイ・ペレス、セザール・ロサス、そしてコンラッド・ロザーノの4人はギター、ベースといったロック・バンドの基本楽器の他、テックス・メックスに欠かせないアコーディオン、レキント・ハローチョやギタロン、ハラーナ・フアステカといったメキシコ音楽特有の弦楽器の数々を要所要所で駆使しており、これが彼らの独自のサウンドに欠かせないものになっています。

そうしてこうした文化的多様性を内包した音楽性を見事にロック作品として昇華しているのに欠かせないのが、後にコーエン兄弟の映画『オー・ブラザー(O Brother, Where Art Thou?)』(2000) のサントラ盤やアリソン・クラウスロバート・プラントの歴史的コラボ作『Raising Sand』(2007)などでアメリカン・ルーツ・ミュージックを基盤とした音像豊かなロック・プロダクションで知られる名匠Tボーン・バーネットのプロデューサー・ワークです。彼の必要最低限の音数を使い、余計な装飾的なサウンドを一切廃した「引き算」のプロダクションがこのアルバムをとてもタイトに、されどインパクトあるものにしているのです。

アルバムはいきなりストレートでシンプル、でもインパクトのある軽快なロック・ナンバー「Don’t Worry Baby」で勢いよくスタート。ロス・ロボスは90年代にこちらも名プロデューサーのミッチェル・フルームを迎えた『Kiko』(1992)『Clossal Head』(1996)といった名盤をものしていますが、そのあたりのサウンドの萌芽を感じさせるような、力強いサウンド。ここでは伝統的なロック楽器のみの演奏ですが、既に何か違うぞ、的なものを期待させてくれるそんなオープニングです。

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このアルバムに先立ちリリースされたEP『…And A Time To Dance EP』(1983)で買ったGMドッジ・バンで全米ツアー中に、このアルバムの最初の曲として作られた次の「A Matter Of Time」もまだ通常のギター中心のサウンドですが、レイド・バックしたブルース調の楽曲とギターの音色がテックス・メックス色を強く醸し出している気持ちのいいナンバー。

そして次の「Corrido #1」からはアコーディオンとドラムスをバックにしたエキゾチックな演奏で、一気にテックス・メックスの世界に突入。シャッフル調のリズムが心地よい「One Last Night」、ヒダルゴの要所要所を締める巧みなギターリフとアコーディオンのバッキングとレトロな曲調が楽しい「The Breakdown」、そして軽快なギターリフとリズム、そして「昨夜はジン一本ですっかりベロベロ/でも気分は最高/昨夜はウィスキー一本で酔っ払っちゃったぜ/でもそう、俺は気分最高」という楽しい歌詞で思わず踊り出したくなる「I Got Loaded」あたりまでは一気にロス・ロボスの軽快でノリのいいテックス・メックス・ロックの世界に引き込まれてしまいます。

自らの民族性への誇りを思わせる伝統的メキシコ音楽スタイルに徹した演奏で、全編スペイン語の歌詞の「Serenata Norteña」(北部のセレナータ、セレナータというのは夜に女性の窓の下に来て歌う求愛歌)がそうしたロック・サウンドに続いて登場するこのアルバム構成、嫌がおうにも彼らのスタイルの独自性を実感させられますが、続く「Evangeline」「I Got To Let You Know」ではすぐさままた彼らのテックス・メックス・ロックスタイルに戻り、思わず聴きながら体が動いてしまう演奏で盛り上げてくれます。ラス前の短いインスト・ナンバー「Lil’ King Of Everything」ではメンバーがギターやベースをメキシコ音楽特有の弦楽器に持ち替えて、砂漠に開くサボテンの花を思い浮かべるような美しいメロディを聴かせてくれます。

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ラストナンバーの「Will The Wolf Survive?」ではまたテックス・メックス・ロックのスタイルに戻り、ヒダルゴのギターリフやメキシコ弦楽器の美しい音色をバックに「果たして俺たち(ロス・ロボスというのはスペイン後で「狼」の意味)はこの厳しい音楽シーンで生き残っていけるのだろうか?」というある意味深刻なメッセージを、極めて明るく開放的なトーンで唄いながら、アルバムを締めます。

このアルバムはリリースされるや、数々のロック評論筋から高い評価を受け、かのローリング・ストーン誌などは1984年に発表した「1980年代で最も偉大なアルバム100枚」の第30位にこのアルバムを挙げるなど「テックス・メックス・ロック」という新しいジャンルを確立した作品として広く受け入れられたそんな作品。

ラ・バンバ」の思わぬヒットでイメージを限定される恐れもあったのですが、その後前述した90年代のミッチェル・フルームを迎えての作品群への高い評価や、2000年代に入って自らプロデュースした『Good Morning Aztlán』(2002)、エルヴィス・コステロトム・ウェイツ、サルサの雄ルーベン・ブラデスらを客演に迎えた『The Ride』(2004)、グラミー賞の最優秀アメリカーナ・アルバム部門にもノミネートされた『Tin Can Trust』(2010)など、コンスタントにクオリティの高い作品をリリース。2015年には17枚目にあたるオリジナル・アルバム『Gates Of Gold』を発表、相変わらず力強くもやや円熟の域に達しつつある、彼ら独特のテックス・メックス・ロックを聴かせてくれます。

先週のUS出張の帰りにLAに立ち寄りましたが、日本と違ってLAは昼間は30度を超す猛暑の毎日で、ロス・ロボスのこういう乾いた、それでいてメキシコの異国情緒を感じさせる音が似合う気候でした。日本はまだ湿気も多くカラッとは行きませんが、これからどんどん暑くなる毎日。ロス・ロボスのレコードでも聴きながら辛いメキシコ料理とビールで夏を乗り切ってみる、というのも乙なのでは?

 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位47位(1985.3.9付)


新旧お宝アルバム!#90「Break Up」Pete Yorn & Scarlett Johansson (2009)

2017-06-19

2017.6.19

新旧お宝アルバム #90

Break UpPete Yorn & Scarlett Johansson (Atco, 2009)

6月も後半に入る今週、相変わらず梅雨はどこに行ったのかっていうほど、雨の気配のない天気が続いてますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。いよいよ今年後半の各種洋楽ライヴのアナウンスやチケット発売も始まり、あっというまに2017年もそろそろ折り返し。来週くらいには、今年前半のおすすめアルバム、なんてリストも考えてみたいと思っています。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は最近、といいながらもう8年前のアルバムになるわけなんですが、ちょっと今の季節感にはそぐわなくて、どちらかというとまだ寒さを感じる初春の暖かい日だまりでセーターを着ながら日なたぼっこをしてる、っていう感じのアルバムをご紹介します。今回ご紹介するのは、90年代後半からブレイクし始めたシンガーソングライター、ピート・ヨーンと、映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)でブレイク、その後マーヴェル映画のアヴェンジャー・シリーズではブラック・ウィドウ、『世界でひとつの彼女(Her)』(2013)やリュック・ベンソン監督の『ルーシー』(2014)などでセクシーで印象的な女性(または女性の声)を演じ、今年は日本アニメの傑作『攻殻機動隊(Ghost In The Shell)』のハリウッド・リメイク版に主演した皆さんご存知のスカーレット・ジョハンソンが2009年にリリースした、幸せを感じられるデュエット・アルバム『Break Up』をご紹介します。

このアルバムはもともと、1960年代にリリースされた、当時フランス一のセクシー男性シンガーと言われたセルジュ・ゲインズブールと、一時は彼の妻でもあり、こちらも当時セクシーな女優として知られたブリジッド・バルドーによるデュエット・アルバムをイメージにおいて作られたというもの。

ただ単なる企画もの、過去の有名作品のアイディアに乗っかった作品というレベルに止まらず、ピートの楽曲とスカーレットの不思議な魅力たっぷりのボーカルとがなかなか素敵なケミストリーを生み出している素敵な作品。

本家のゲインズブール&バルドー同様、男と女が二人の関係の移り変わりをデュエットを通じて物語っていく、というコンセプトが二人の間の幸福感やオプティミズム、そして時には不安や希望を実に表現していて、時々引っ張り出しては聴きたくなる、そんなアルバムです。

今ハリウッド一のセクシーで演技派女優、スカーレットのことはもう皆さんよくご存知なので今更上記以上のご説明は不要でしょうが(笑)、ピートのことはちょっとご説明しておきます。

彼はニュージャージー州出身のシンガーソングライターで、1999年にキャメロン・ディアズ主演の大ヒットコメディ映画『There’s Something About Mary(メアリーに首ったけ)』(1998) を監督したファレリー兄弟の映画『Me, Myself And Irene(ふたりの男とひとりの女)』(2000)に提供した楽曲が全面的に映画に使われたことでブレイク。翌年リリースしたデビューアルバム『musicforthemorningafter』が高い評価を受けて、その年ローリング・ストーン誌の選ぶ「2001年注目のアーティスト」に選ばれるなど、USロックシーンではその実力を認められたシンガーソングライターの一人。また、自らの作品の楽器演奏はほとんど一人でやってしまうというマルチ・インストゥルメンタリストでもあります。

今回紹介するアルバムの楽曲も1曲を除いてはピートの作品で、その作風は90年代のグランジ・ムーヴメントやR.E.M.ベックに代表される90年代後半のアメリカン・オルタナ・ロックのバンド達のサウンドに明らかに多くの影響を受けたと思われる、ポップなフックが耳になじみやすいメロディーと、音使いはシンプルでややラフながら、楽曲の骨組みや楽器(特に時折ノイズ的に使われたシンセやドラムス・パーカッション)の使い方がいかにも90年代ロックを通過してきました的な、不思議な魅力を持った楽曲を多く聴かせてくれます。

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しかしこのアルバムのもう一つの、そして最大の魅力はスカーレットのハスキーで、やや気だるそうな、それでいて存在感のあるボーカルでしょう。彼女が全面的にリード・ソロを取る楽曲は一つもなく、主たるパートを最も多く唄っている曲といえば、ピートと交互にメイン・ヴァースを唄う、アルバムオープニングのリズミックでウキウキする「Relator」とナッシュヴィル・バラード的な3曲目の「I Don’t Know What To Do」、そしてラス前でメンフィスあたりのラウンジで演奏されているのでは、といったギターの音色が印象的な「Clean」くらいで、それ以外の曲では要所要所でボーカルを入れたり、ピートのボーカルにハーモニーで寄り添ったり、といったパフォーマンスが多いのですが、彼女の声が入ってきた瞬間に一気にその存在感が耳に飛び込んでくるのです。特に「I Don’t Know~」でスカーレットのボーカルがふわっと立ち上がってくるあたりはかなりヤバいです。是非聴いてみて下さい。

彼女のボーカルは、技巧として高いものは当然ないのですが、発声の仕方やそもそも声質がなかなか聴かせるところが多く、単なるハリウッド女優の隠し芸的なレベルで終わっていないところには、正直最初聴いた時は驚いたものでした。

一方、4曲目の「Search Your Heart」でのイントロで軽快なギターのリフをバックに2人がサビのフレーズを繰り返し歌うあたりや、ベックの初期の曲を思わせるシンセとリズム・マシーンのイントロからR.E.M.っぽい透明感のあるギターサウンドに変貌する「Shampoo」でスカーレットピートの3度上下のコーラスを付けながら歌う、シナトラ親子の「Somethin’ Stupid」を彷彿させるようなボーカルコラボなどは、二人がこのコラボを楽しみながらやっているなあ、と聴きながら思わず幸せを感じることができる楽曲です。

アルバム最後は、こちらもナッシュヴィルやメンフィスの古いライヴ・バーで演奏しているような雰囲気のゆったりした、骨太のギターの音色をバックに、ところどころに90年代的なノイズ一歩手前のパーカッシヴ・サウンドが入る楽曲をピートが唄う「Someday」で締められます。ここでは自らの存在をアルバムからフェードアウトするかのように、スカーレットは完全にバックコーラスに徹しているのも、それまでのアルバムを通しての彼女の存在感を考えると印象的ですね。

もともとこのアルバムの音源のセッションは、2006年には録音されていたのですが、諸般の理由からすぐにリリースされませんでした。その間にスカーレット自身、このセッションで音楽活動への自信も得たのか、2008年にはオルタナ・ロック・バンド、TVオン・ザ・レイディオのリーダー、デイヴ・サイテックをプロデューサーに迎えた初ソロアルバム『Anywhere I Lay My Hat』をリリース。何とデヴィッド・ボウイと3曲客演しているこのアルバムは1曲以外はすべてあのトム・ウェイツのカバーという、女性アーティスト、それもプロのミュージシャンでないアーティストによるソロ・デビューとしてはとても異色のもので、シーンで賛否両論を得たようです。

そうこうする中、同時期に、同じような女優と男性シンガーソングライターによるユニット、She & Him(映画『あの頃ペニー・レインと(Almost Famous)』(2000)や米FoxのTVシリーズ『ダサかわ女子と三銃士(New Girl)』での主演で有名なゾーイ・デシャネルM.ウォードのデュオ・チーム)がリリースした『Volume One』(2008)が人気を呼んだというのがおそらくきっかけになって、録音以降棚上げになっていたこの音源がめでたくアルバムリリースに至った、ということではないかと個人的には見ています。

ピートはその後もソロで着実な活動を続けていて、昨年も7枚目のアルバム『Arranging Time』(2016)をリリース、ロック・プレスの評価もそれなりに高いようです。一方スカーレットの音楽活動もその後いろいろと続いており、最近では2015年にLAのポップ・オルタナ・バンド、HAIMの長姉エステを含む4名でザ・シングルスなるバンドを結成、シングルリリースするなど、相変わらず音楽活動への意欲は捨ててないようです。

同じタイプのコラボであるShe & Himがその後『Volume Two』(2010)『A Very She & Him Christmas』(2011)、『Volume 3』(2013)、『Classics』(2014)などとコンスタントに素敵なアルバムを作ってるし、スカーレットも映画が忙しいのでしょうが、ピート&スカーレットの続編アルバムで、また素敵な楽曲と二人のボーカルコラボを聴きたい、と思っているのは多分自分だけではないはず。その日が来るのを期待しながら、このアルバムでほんわりした気分をお楽しみ下さい。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位41位(2009.10.3付)


新旧お宝アルバム!#89「American Flyer」American Flyer (1976)

2017-06-12

2017.6.12

新旧お宝アルバム #89

American FlyerAmerican Flyer (United Artists, 1978)

関東地方は梅雨入りしたそうなんですが、連日夏になってしまったかのような暑くいい天気が続いていて雨の気配もあまり感じられないここ数日、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。空梅雨というのも秋のお米、そして日本酒の出来のことを考えると困るもので、多少雨も降ってもらって、7月にはからりと梅雨明けそして夏!という風にいきたいものです。

さて今週の「新旧お宝アルバム」はここ数日のさわやかな天気を思わせる、フォーク・ロックの素敵なアルバムをご紹介。イーグルスに続くウェスト・コースト・ロックのスーパーグループか?と当時ちょっとだけ評判になりましたが、本来受けるべきちゃんとした評価を得られないままアルバム2枚で解散してしまったグループ、アメリカン・フライヤーのデビュー・アルバム、『American Flyer』(1976)をご紹介します。

1972年『Eagles』で鮮烈なデビュー、その後『Desperado(ならず者)』(1973)、『On The Border』(1974)を経て彼らの最高傑作『One Of These Nights(呪われた夜)』(1975)で人気の頂点を極めたイーグルスの成功は、折からのFMロックステーションの隆盛と相まって、フォーク・ロック、カントリー・ロックといったジャンルに対する人気の高まりを呼び、当然ながら各レコード会社のマーケティングはこのジャンルのアーティストへ集中することになりました。

特にこのジャンルに力を入れたのは、ジャニス・ジョプリンらを見いだし、機を見るに敏で利に聡く、当時コロンビア・レーベルを離れ自らのアリスタ・レーベルを立ち上げていたクライヴ・デイヴィス。「Peaceful Easy Feeling」などイーグルスの初期の作品の作者だったジャック・テンプチンと、90年代のSSW(シンガーソングライター)ルネッサンスの旗手の一人となるジュールズ・シアーを擁したファンキー・キングスを「次のイーグルス」として売り出そうとしたり(彼らは以前このコラムでも取り上げました)、イーグルスバーニー・レドンの弟、トムを擁したシルヴァーを売り出したりしたものです。

そういうトレンドに乗って出てきたわけではないようですが、機を同じくしてそれまでロック・シーンで着実な活躍をしてきたアーティスト4人が、集結して結成したのがこのアメリカン・フライヤー。そのイーグルスCSN&Yを想起させる軽やかなフォーク・ロック・ベースの楽曲と、美しいメロディとハーモニーで達者な魅力満点のパフォーマンスを聴かせるこのバンドは、このアルバムをプロデュースした、ビートルズアメリカのプロデュースで有名な、あの故サー・ジョージ・マーティンの手腕も相まって、素晴らしい作品となっており、このジャンルのファンにも人気の高い盤です。

アメリカン・フライヤーを語るに当たってまず名前が出るのは、メインのボーカルでこのアルバム12曲中6曲を書いているメインソングライターでもあるエリック・カズ。彼の名前は70年代ウェストコースト・ロック・ファンの間ではつとに有名で、リンダ・ロンシュタットボニー・レイットが特に彼の歌をカバーしていて、特にこのアルバムでセルフ・カバーもしている「Love Has No Pride」は彼のシグネチャー・ソングの一つ。その他にもこの2人がやはりカバーしている「Cry Like A Rainstorm」、イーグルス脱退後のランディ・マイズナーのヒット「Hearts On Fire」「Deep Inside My Heart」など数々の作品をいろんなアーティストに提供してきたシンガーソングライターなのです。

もう一人の主要メンバーであるクレイグ・フラーは、このグループに加入する直前までは、オハイオ州シンシナティを中心に活躍するカントリー・ポップ・グループ、ピュア・プレイリー・リーグの中心メンバーだった人で、PPLの最初のヒット曲「Amie(いとしのエイミー)」(1975年最高位27位)の作者ながら、この曲のヒットを最後にPPLを脱退、このアメリカン・フライヤーに合流しています。

残るメンバーも、60年代にアル・クーパー率いるブルース・プロジェクトに在籍後、ブラッド・スウェット&ティアーズにいたスティーヴ・カッツと、こちらも60年代後半NYの先鋭的ロックバンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに在籍していたダグ・ユールと、錚々たる顔ぶれでした。

そうした名うてのミュージシャン達が結成したスーパーグループ、ということ以上にこのアルバムを特別なものにしているのは、ほとんどの曲でペンとボーカルを取るエリッククレイグの二人の織りなす楽曲の素晴らしさと、メンバー4人によるハーモニー・ボーカルの美しさ、そして随所に職人芸的に施されたジョージ・マーティンのアレンジによる管楽器やストリングスで、これらが見事に調和してそんじょそこらのフォーク・ロック作品とは違った音色のゴージャスさを生み出しています。

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物憂げなピアノのイントロから印象的なリズム・パターンのリフとエリックの魅力満点のボーカルで冒頭からリスナーをつかむ「Light Of Your Love」や、シングルとして小ヒットもした、サビのコーラスが豪華な「Let Me Down Easy」など、エリッククレイグの共作によるナンバーにはこうした、このアルバムを特別にしている要素が包含されていて、特に全体の中で抜き出た楽曲に仕上がっています。

エリック単独作品の数々ももちろんこのアルバムの中心的な構成要素となっていて、2曲目のスケールの大きいメロディが印象的な「Such A Beautiful Feeling」、静かなアコギと簡単なリズムセクションに管楽器・ストリングスが豪華に調和する「M」、シンプルなカントリー・ロック・バラードにラリー・カールトンのギターをフィーチャーした「Drive Away」、そして彼の看板ソングでもある「Love Has No Pride」などは、このアルバムの柔らかくふっくらとしたトーンを終始コントロールした、ある意味「幹」の役割を果たしています。

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一方、クレイグの作品もエリックの作品と異なる表情をアルバムに与えています。アナログだとB面冒頭で、ポコあたりを思わせるより伝統的なカントリー・ロックといった味わいの「The Woman In Your Heart」や、大胆にストリングスが無数に配されて、マーティン卿の手腕が遺憾なく発揮され、もはやロックの域をやや超えてしまっている豪華なアレンジの「Call Me、Tell Me」はそうしたクレイグの味を感じられる作品。これらにアーニー・ワッツのサックスをフィーチャーし、この曲の中で一番イーグルスを思わせるスティーヴ作のノスタルジックな曲調の「Back In ’57」や、ラテン・パーカッションを配してトロピカルな曲調が楽しいダグ作の「Queen Of All My Days」などが全体に多様な表情を加えているのです。

Call Me, Tell Me」の最後のストリングス・フレーズが終わった後に厳かに、しかしもの悲しくも美しいメロディを奏でる1分足らずのストリングスのインストゥルメンタル曲「End Of A Love Song」でまるで映画の終わりのように静かにアルバムは終わるのですが、この曲はエリックマーティン卿の共作。アルバム全体のコンセプトと空気感を見事に作り上げるエリッククレイグ達の楽曲とマーティン卿のプロフェッショナルなプロデューサーワークが見事に大団円を迎える一瞬です。

彼らはこの後2枚目の『Spirit Of A Woman』(1977)を出した後に解散。しかしエリッククレイグは解散後も活動を共にし、翌年には『Craig Fuller & Eric Kaz』(1978)というこちらも地味ながら素晴らしいアルバムをリリースしています。その後エリックはSSW活動を継続、前述のランディ・マイズナーとの仕事の他にも、ドン・ジョンソンの「Heartbeat」(ウェンディ・ウォルドマンとの共作、1986年最高位5位)やマイケル・ボルトンと共作で「That’s What Love Is All About」(1987年最高位19位)といったヒット曲も提供、2002年には初来日を果たして、日本のアメリカSSWファンの間での根強い人気に本人も多いに喜んだとか。最近では2015年に41年ぶりのソロの新作となる『Eric Kaz(エリック・カズ:41年目の再会)』をリリースして、これもファンの間ではちょっとした話題になりました。

一方クレイグは、エリックとのデュオ・アルバムの後は1987年にそのボーカルがあの故ローウェル・ジョージに酷似しているということもあり、新生リトル・フィートにギター・ボーカルとして加入、1993年までに3枚のアルバムに参加しています。また1998年にPPLを再結成したり、2011年にはリトル・フィートの大晦日コンサートに参加したりと、今も活動を続けている様子です。

まだ30歳そこそこの若いメンバーの才能の瑞々しさと、それを包み込みながら彼らの良さを見事に引き出しているマーティン卿の仕事ぶりが存分に楽しめるこのアルバム、一度お聴きになる価値は充分以上。昨年にはユニヴァーサル・ミュージック・ジャパンさんの「名盤発見伝シリーズ」の1枚として、SHM-CD仕様で再発もされていて、CD屋さんでも比較的見つけやすいと思いますので、是非一度アメリカン・フライヤーを体験してみて下さい。

 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位87位(1976.10.16付)


新旧お宝アルバム!#88「Blue Boy」Ron Sexsmith (2001)

2017-06-05

2017.6.5

新旧お宝アルバム #88

Blue BoyRon Sexsmith (Ronboy, 2001)

6月に入りましたが、時折ゲリラ豪雨はあるもののまだ梅雨の気配があまり感じられず、結構暑い毎日が続いていますが皆さん体調管理をしっかりして洋楽ライフを楽しんでおられることと思います。フジロックサマソニなど、毎年のサマー音楽フェスのラインアップも決まり、既に梅雨の先の楽しい夏の洋楽ライフが目の前に迫ってきているようで楽しみですね。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」はちょっと前ながら比較的最近アルバムのご紹介です。今回は、つい最近こちらも素晴らしい出来の最新作『The Last Rider』(2017)をリリース、一昨年のビルボード・ライヴでの素晴らしい来日ライヴに続いて、今年のフジロック・フェスティバルでの再来日も決まっている、21世紀を代表するシンガーソングライターの一人、といってもいいロン・セクスミスがメジャー・レーベルからインディに移籍後リリースした最初のアルバム、5作目の『Blue Boy』(2001)をご紹介します。

ティーンエイジャーの頃から地元、カナダはオンタリオ州のセント・キャサリンという街のバーで弾き語りしてミュージシャンとしてのキャリアをスタートしたロンが、80年代後半にトロントに移り、自分の書きためた曲をまとめて最初のアルバム『Grand Opera Lane』(1991)を自費でリリースしたのは、ロン27歳、結婚して最初の息子が6歳の時という、遅咲きのシンガーソングライター。そのもっちゃりとした風貌にそぐわぬ線の細い繊細な、それでいてどこかしらソウルフルさも感じさせる歌声で、傷つきやすい男の気持ちを詩情溢れる歌に託す、というスタイルが静かな共感を呼び、このアルバムがエルヴィス・コステロの耳にとまって彼の絶賛を受けたことがきっかけで次の『Ron Sexsmith』(1995)でインタースコープ・レーベルからメジャー・デビュー。90年代にその音響派と言われた独特のサウンドプロダクションで、クラウデッド・ハウス、ロス・ロボス、コステロら数々のロック系のヒット作を手がけたミッチェル・フルームのプロデュースで、一気に新進の実力シンガーソングライターとしてシーンで認知されました。

その後『Other Songs』(1997)、『Whereabouts』(1999)と、同じミッチェル・フルームチャド・ブレイクのプロデューサーチームでかなり質の高いアルバムをコンスタントにリリースしたロンでしたが、時代はよりエッジの立ったグランジやミクスチャー・ロックといったジャンルがメジャーな中、彼のスタイルがメジャーのマーケティング方針と合わなかったのでしょう、インタースコープの契約がなくなったロンが、心機一転、Ronboyという当時自主制作だったんではないかと思われるインディー・レーベルから、オルタナ・カントリーのパイオニアの一人として有名なあのスティーヴ・アールをプロデューサーに迎えてナッシュヴィルで録音、リリースしたのがこのアルバム『Blue Boy』です。

このアルバムでも彼の従来なアコースティックな演奏をベースに自分の心情や思いを歌詞に乗せて歌う、という彼のスタイルは根本的に変わっていませんが、スティーヴの影響や、メンフィスやマッスルショールズといった南部の音楽都市に近いカントリーのメッカ、ナッシュヴィルでの録音といったことが影響したのでしょう、それまでのアコギポロポロ的なスタイルから、全体的によりバンドサウンド的、曲によってはホーン・セクションやジャズっぽいアプローチも見せるなど、楽曲的にはそれまでで最も多様なスタイルを満載した、躍動感溢れる意欲作になっていて、メンフィス・ソウル・バンドをバックに歌う骨太のシンガーソングライター、といった風情に脱皮している感じが素晴らしい出来になっています。

一皮むけたのはサウンドだけでなく、リリックにも自分の歌唄いとしての立ち位置を再確認して、それを自信を持って表現しようという彼の決意が見て取れるのがこのアルバムの味わい深いもう一つのポイント。冒頭ドラムスとホーンをバックにソウルフルに始まる『This Song』では、こういった感じです。

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ちょっと歌を作ってみた

ただ言葉にメロディを付けただけ

僕の目の前でぶるぶると震えるこの歌

いったいこの歌は生き残ることができるのか

そして今、僕は自分が対峙しなきゃいけないものが見える

君が耳にしたことのある歌一つ一つのために

こわいと感じるのも無理はない

この世に生まれたかと思うと死んでしまう歌の何と多いことか

この歌、いったい生き残れるのか?

続く「Cheap Hotel」「Don’t Ask Me Why」も正にメンフィスあたりのバーでギターとドラムスとベースだけの、それでいてタイトなリズムにソウルを感じる演奏にロンのおなじみのもっさりしたボーカルが乗って不思議な一体感を醸し出す楽曲たち。トランペットとピアノで静かにニューオーリンズあたりジャズ・バーで演奏されているかのような「Foolproof」は、これまで夢を見続けては裏切られた男がもう僕の心は愚かな甘い期待なんか持たない、と切ない心境を吐露する、というしみじみとしたバラード。

アルバムではこの他にも、スティーヴのプロデュースが効いている、ギターを前面に出したソウルフルなバンドサウンドの「Just My Heart Talkin’」や「Keep It In Mind」、アコギでシンプルに聴かせる「Tell Me Again」やこのアルバム中唯一のカバーであるフォーク・シンガーソングライター、キップ・ハーネスの「Thumbelina Farewell」、ピアノ弾き語りの「Miracle In Itself」、レゲエのリズムとホーンのアレンジが南部を突き抜けてカリブを思わせる「Never Been Done」などなど、アルバム通じてロンのほんわかした歌声は変わらないのに様々な楽曲スタイルによるロンの世界が展開され、それがこのアルバムの魅力の大きな要因になっています。

このアルバムの後、ジェイソン・ムラーズKTタンストールらを手がけたことで有名なスウェーデン人のプロデューサー、マーティン・テレフェを迎えた6作目『Cobblestone Runway』(2002)や7作目『Retriever』(2004)ではシンセサイザーやキーボードを大胆に導入したポップ・サウンドを展開して、更に新たな境地を見せ、それがまたシーンでは高く評価されました。

正直な話、ロンのアルバムは今年リリースされた最新作『The Last Rider』で14枚目になりますが、どのアルバムを取っても楽曲とパフォーマンスの質が高く、多くの場合期待を裏切られることがないという、ある意味稀有なアーティストだと思います。そして最新作が、今回紹介した『Blue Boy』同様、かなりバンドサウンドを前面に打ち出した、リズミックなナンバーを中心に充実した内容であることも、彼の軸足が大きくぶれることなく安定した質の作品を発表し続けてくれていることを再確認させてくれました。

自分は2015年のビルボード・ライヴで彼のライヴを初めて体験しましたが、かなり地味なステージになるのかな、と思いつつ望んだところ、確かに派手な演出はないものの、楽曲のパワーとロンの存在感が自然にカタルシスを呼ぶ、そんなステージで大いに得をした気になったものです。

ライヴの途中「エミルー・ハリスが僕の曲をカバーしてくれて、しかもアルバムタイトルにしてくれた時は最高だったな。あのエミルーがだよ!」と嬉しそうにしながら、『Retriever』収録で2011年のエミルーの同名アルバムでカバーされた「Hard Bargain」をプレイするのを見て、思わずオーディエンスの間に暖かい空気が広がったのも素敵な体験でした。

今年フジロックへ出かける予定の方、ビョークゴリラズロードといったメジャーでロックなアーティスト達もいいですけど、同じグリーン・ステージで最終日の早めの時間にやっているはずのロンのステージもちょっと覗いて、ほんわかした気分になってみるのもいいかも知れませんよ。

<チャートデータ> チャートインせず


新旧お宝アルバム!#87 「Breakwater」Breakwater (1978)

2017-05-29

2017.5.29

新旧お宝アルバム #87

BreakwaterBreakwater (Arista, 1978)

風薫る5月もいよいよ最終週となって、そろそろ来る梅雨の気配も感じられる中、それでもUSではメモリアル・デイ・ホリデー(戦没者を追悼する休日ですがアメリカ人一般には夏の到来を告げる休日で、各地でバーベキューを楽しむ家族が多い週末)のこの週末はいい天気で運動会なども多く開催されたようですが、皆さんも音楽とアウトドア、楽しまれましたか?

さて今週の「新旧お宝アルバム」はちょっと昔の旧盤をご紹介する番ですが、今回はそういう夏に向かう雰囲気にピッタリの軽快なグルーヴとライトでダンサブルなファンク・ナンバーを楽しく聴かせてくれるフィリー出身の8人組、ブレイクウォーターのデビュー・アルバム、その名も『Breakwater』(1978)をご紹介します。

70年代初期にフィラデルフィアで結成されたブレイクウォーターは、リード・ボーカルでキーボード、シンセ担当のケイ・ウィリアムスJr.、もう一人のリード・ボーカルでトランペットとフリューゲル・ホーン担当のジーン・ロビンソン、ジェイムス・ジー・ジョーンズ(ds.)、リンカーン ”ラヴ” ギルモア(g.)、スティーヴ・グリーン(b.)、ヴィンス・ガーネル(sax.)、メンバー中唯一の白人メンバーであるグレッグ・スコット(sax.)そしてジョン”ダッチ”ブラドック(perc.)の8人による、いわゆる70年代ソウル的に言うと、ボーカル&インストゥルメンタル・グループ。テンプテーションズフォー・トップス、スピナーズなど伝統的なソウル・グループがもっぱら歌唱に徹するスタイルであったのに対し、初期のコモドアーズがそうだったように、自らボーカルやコーラスだけでなく、楽器も全部こなしてしまうグループのことです。

このアルバムは既にフリー・ソウルのコンピに曲が取り上げられたり、今年になって音楽評論家の金澤寿和さん監修によるディスク・ユニオンさんのAOR名盤千円シリーズでCDが再発されたりしているので、特にAOR系や70年代80年代ソウル好きに方々の間ではお馴染みの盤かと思います。

でもこのグループのこのアルバム、1978年というディスコ全盛まっただ中の時代に、いわゆる安易なディスコ・プロダクションに流れることなく、正統派のダンサブルなソウル・ファンクをベースに、曲によってはAOR的な味付の楽曲や(すべてがAORではない)、曲によっては当時盛り上がりつつあったフュージョン的なスタイルを取り入れた楽曲で多様性を持たせながら、アルバム全体がガッチリとしたキャッチーなプロダクションで統一されているところが非凡なレコードだと思います。

ポイントはリーダーのケイ・ウィリアムスを中心にジーングレッグの3人がそれぞれのスタイルの曲を書くことができること、そしてこの後80年代にエア・サプライ、シンディ・ローパーフーターズなどメインストリームのポップ作品を次々にプロデュースすることになるリック・チャートフが絶妙のさじ加減で全体の楽曲スタイルと演奏をまとめ上げていることの2つでしょう。

アルバムオープニングはフリー・ソウルのコンピで取り上げられてその筋にも人気があったという「Work It Out」。静かなエレピのイントロから始まってだんだんテンポを上げていってメインは軽快なカッティング・ギターをバックにトロピカルな味付けのミディアム・ダンスナンバーになっていくというアルバムのウォーミング・アップ的楽曲。続くは「You Know I Love You」。こちらは白人メンバーのグレッグ作だからというわけでもないでしょうが、初期ホール&オーツ的ブルー・アイド・ソウル風味全開のバラードでリスナー思わずほっこり。ソングライターメンバー3人の共作による軽快な正統派的ソウル・ファンク・ナンバーの「Unnecessary Business」に続いて炸裂するのが、個人的にはこのアルバムのベスト・カットではないかと思う「No Limit」。70年代のこの時期に既に80年代のチェンジS.O.S.バンドといったバンドが達成していた、シンセベースとカッティング・ギターの組み合わせによるスタイリッシュでいて腰の入ったメロウ・ファンクを聴かせてくれます。おそらく80年代にダンスフロアで青春を過ごした年代の方々であればたまらない楽曲でしょうね、これは(笑)。ちなみにこの曲はこの直前にLTDの「Back In Love Again」(1977年最高位4位、ソウル・チャート1位)の作者としてブレイク、自らも同時期「Dancin’」をソウル・チャート最高位8位のヒットとしていたグレイ&ハンクスの作品。熱心な70年代のソウルファンであればこの名前、よくご存知のはず。

LPだとB面に移ると、今度はソウル風味のメインストリーム・ポップ・ソング的メロディとリズムが魅力の「That’s Not What We Came Here For」。この曲がちょっと他の曲と毛色の違う、ポップ色の濃い曲調なのはこの曲の作者がこの後80年代にエア・サプライEvery Woman In The World」、シーナ・イーストンModern Girl」、パティ・オースティンEvery Home Should Have One」といった数々のポップ楽曲をヒットさせるドミニク・ブガティフランク・ムスカーのソングライティング・チームだったため。続くのはダンサブル・ファンクのお手本のようなケイによる「Feel Your Way」。すぐさまブレイクウォーターの本来のスタイルに戻してくれるこの曲はシンプルな歌詞で演奏を前面に押し出した、フュージョン的な色合いの濃いダンス・ナンバーです。シンセ・ベースをガンガンにフィーチャーして更にソウル・ファンク・ナンバー「Do It Till The Fluid Gets Hot」はメンバー全員の共作。ボーカル&インストゥルメンタル・グループのアルバムには必ず1曲は入っている「皆でジャムってたらこんな曲できたよ」って感じでライヴなグルーヴがビンビンに伝わって来ます。

そしてアルバムラストはホーン・セクションを前面に押し出したイントロからこちらもメロウな感じを残しながらベースはブチブチのファンクの「Free Yourself」で締めです。

リーダーのケイ・ウィリアムスJr.はよくフリー・ソウル系の情報だと「後にチェンジハイ・グロスに参加した」と書かれてますが、チェンジのメンバーであったことはなさそうで、唯一彼らの1982年のアルバム『Sharing Your Love』に収録の「Keep On It」の作者として名前をクレジットされているだけのようです。ハイ・グロスについては未確認なのでご存知の方の情報、お願いします。それよりも彼は80年代のソウル・グループ、キャシミアのプロデュースや、「On The Beat」のダンス・ヒットで有名なBB&Qバンドの最後のアルバム『Genie』(1985)の全曲提供とプロデュースなどで主としてプロデューサーとして活躍、1988年には同じフィリー出身の3人組、プリティ・ポイズンの大ヒット「Catch Me (I’m Falling)」(最高位8位)のプロデューサーとして晴れてメインストリームの成功を収めています。

セカンド『Splashdown』(1980)リリース後、ケイのプロデュース業以外では消息を知られていなかったブレイクウォーターですが、ここ数年再評価の動きもあり、地元フィリーやロンドンでのR&Bやファンクに関わる各種イベントに昔のメンバーを中心に集まった11人のメンバーでライヴ参加しているとのこと。フィリーもロンドンもこの手のサウンドには目のないファンが多い土地なので、まだまだ彼らのサウンドへの需要は尽きないのでしょう。フィリーやロンドンでなくとも、こういうちょっとスタイリッシュで、でもガッチリとしたファンクサウンドはこれからの季節にピッタリ。再発CDも1,000円で買えるとのことですので是非この機会に手に取ってみて下さい。

 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位173位(1979.4.21-28、5.12付)

同全米ソウル・アルバムチャート最高位36位(1979.3.17-4.7付)


新旧お宝アルバム!#86 「Americana」 Ray Davies (2017)

2017-05-22

2017.5.22

新旧お宝アルバム #86

AmericanaRay Davies (Legacy / Sony Music, 2017)

いやいや急に連日真夏日が続いて一気に街はみんな半袖になってしまったこの週末、皆さんは如何お過ごしでしょうか。寒暖の差が激しいと体調を崩しやすいのでお互いに健康には気をつけて楽しい洋楽ライフを楽しみましょう。

さて先週お休みを頂いてしまったこの「新旧お宝アルバム!」、今週は最近リリースされたアルバムをご紹介する番。今回は、60年代からブリティッシュロックを代表するバンドの一つ、皆さんよくご存知キンクスのリーダー、レイ・デイヴィーズがフルオリジナルのソロアルバムとしては10年ぶりにリリースした「Americana」(2017)をご紹介します。

このアルバムのタイトルを見て「イギリス人のレイが『アメリカーナ』ってどういうこと?」と思った方も少なからずいるでしょう。
実はオリジナル作としては3枚目になる今回のソロはいろんな意味でこれまでのキンクスの顔としてのレイのイメージからするとえっ、と思うところの多いアルバム。
まず、レイのバックを固めるのは、これまでのイギリスのミュージシャンを中心としたベテラン達ではなく、今のアメリカのオルタナ・カントリー・ロックシーンを代表するバンドの一つ、ギターのゲイリー・ルイス率いるジェイホークスの面々。彼らは『Hollywood Town Hall』(1992)、『Tomorrow The Green Grass』(1995)、『Rainy Day Music』(2003)などのアメリカーナ・ロックの名盤と言われる数々の作品でシーンで絶対的な地位を占め、昨年も新境地を模索するかのような新作『Paging Mr. Proust』をリリースしたばかりのバリバリの一線級バンド。その彼らが全面参加したこのアルバムのサウンドはまごうかたなき、正真正銘のがっしりとしたアメリカーナ・サウンドです。
しかし、これもこのアルバムの魅力の大きな一つの要素なのですが、そうしたジェイホークスの面々が奏でるサウンドによる楽曲が、すべてレイ自身の作品。さらにジェイホークスの新作といっても通りそうな曲にレイのボーカルが入ってきた瞬間に、それこそ一瞬にしてレイの世界になってしまうのには驚きです。。
つまりこの二つ~ジェイホークスのアメリカーナサウンドとレイ一流のスタイルと練られた楽曲~が見事に渾然一体となって、アルバムとしての素晴らしい一体感を作り出しているのがこのアルバムの最大の魅力でしょう。

レイの楽曲スタイルは明らかにカントリーやゴスペルやラグタイム、果てはニューオーリンズのクリオールといったアメリカの伝統的音楽スタイルを意識しながらも、そうしたアメリカ音楽が、過去半世紀間トップブリティッシュ・ロック・アーティストとして歴史的な活動をしてきた彼自身の音楽にどう影響してきたか、彼がどう消化してきたかを今一度見つめ直してアウトプットしてみた、そんな作品に聞こえるのです。

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冒頭のタイトルナンバーでは、アコースティックなサウンドに乗って「バッファローがさまようこの素晴らしいパノラマの広がる自由の国、アメリカーナに住みたい」なーんて、真面目だかシャレだか判らんなぁと思いながら聴いてると、「Poetry」なんてモロ90年代のジェイホークス、だけどボーカルはあのウインクしながら皮肉っぽく歌うレイだし、かと思うと「A Place in Your Heart」なんて100%カントリーロック。「Rock ‘N’ Roll Cowboy」なんてタイトルもまんま、曲もフィンガーピッキングのアコギでもろナッシュヴィル、歌詞も「ロックンロール・カウボーイよどこへ行く/OK牧場の決闘での最後の撃ち合いの後で/引退した老いぼれみたいに夢を追うのはあきらめたか/ それともまだ敵の顔をハッタと睨むだけの元気はあるのか」と自らを叱咤激励するかのような内容ではっとさせられて。ウディ・ガスリーの曲を思わせる華やかなアコギの「The Invaders」もいい出来です。

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一方でイントロでいきなりキンクスの代表曲の一つ「All Day And All Of The Night」のリフが出てきてニンマリする「The Man Upstairs」とか70年代前半のキンクス彷彿しまくりの「The Deal」とか、80年代前後久々にハードロックしてたアルバム『Low Budget』(1979)や『Give The People What They Want』(1981)の頃のキンクスを思わせるハードながらポップセンスが隠れたカッコいいリフと相変わらずフワッとしたレイのボーカルのアンバランスさが憎い「The Great Highway」など、ホントにこの二つの要素がうまく共存していて、聴いててどんどん引き込まれていくこと請け合い。何せ、クラブでいい女に会ってよくよく話してみると実は性転換した男だった、なんていうユーモアと諧謔たっぷりの曲「Lola」を1970年に大ヒットさせたキンクスの親分だけに、なかなか一筋縄ではいかないし、それがまた大変魅力的なのです。

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レイはこのアルバムに先立って同名の半生自伝を2013年に出してるらしいですが、今回はそれを音で表現、発表したという位置付けなのかもしれません。 思えば60年代から活躍してるブリティッシュ・ロッカー達は、ビートルズやストーンズ、ツェッペリンの例を挙げるまでもなく、一貫して米国音楽への憧憬と愛憎を糧に大きくなって来てる訳で、この年になってそうした自らの音楽遍歴を俯瞰したくなったとしても不思議はないのです。

このアルバムにいくつか収録されているレイのモノローグもそうで、「The Man Upstairs」ではブルースアコギの音色をバックにツアーで訪れるいろんな街のホテルの部屋やバーの荒んだ様子を回顧したり、「Silent Movie」ではニューオーリンズを訪れた時の回顧で、ニューオーリンズを離れる前の夜に友人のアレックス・チルトンが訪ねてきて、曲作りがいかに喜びを与えてくれるかを長々と語り合ったと独白。アレックス・チルトンといえば1967年の「あの娘のレター」のヒットで有名なボックス・トップスのリーダーで、90年代にはパワーポップ・バンドのビッグ・スターのリーダーとして復活、レイのこの前のセルフ・トリビュート・アルバム『See My Friends』(2010)でも共演していた、レイを敬愛してやまなかったミュージシャン。そのアレックスがその後2013年に他界したこともこうした独白を自分の音楽遍歴の集大成的な今回のアルバムに入れた理由なのでしょう。

そしてこの芳醇な作品を聴きながらふと思ったのは、ひょっとしてこのアルバム、今年のグラミーのアルバム部門にノミネートされちゃうかも、という突拍子もない予想。考えてみれば今アメリカは、トランプ大統領就任からこっち、特にここ数週間のトランプのFBI長官解任に端を発した目が点になるような展開で、史上かつてないくらい世界のリーダー国としての尊厳を揺るがす展開が続いている状況(もっともそれは、アメリカが過去水面下で国際紛争を助長すべき行ってきた数々の諜報活動を知らされない善良なアメリカ人達にとっての尊厳なのだが)。そこでこうした、アメリカの文化への赤裸々なリスペクトに満ちた、しかも作品としても素晴らしいアルバムが出てきたわけで、これを聴いて感激するアメリカ人は結構多いに違いないことは想像に堅くない。そう考えるとなかなか愉快ではないですか。

ま、そんな予測の当否は半年後には明らかになるわけですが、その間、レイ一流の乾いたウィットとスタイルを持って、英米の音楽史を今の表現として形にしたこの素敵な作品をじっくり楽しもうではないですか。

<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバムチャート最高位79位(2017.5.13付)
同全米アメリカーナ・フォークアルバムチャート最高位3位(2017.5.13付)


新旧お宝アルバム!#85「A Quiet Storm」Smokey Robinson (1975)

2017-05-08

2017.5.8

新旧お宝アルバム #85

A Quiet StormSmokey Robinson (Tamla / Motown, 1975)

終始天候に恵まれた今年のゴールデンウィーク、皆さんはいかがお過ごしでしたか。自分は5連休でしたが、丹沢と奥多摩の御岳山にと2度登山ハイクにでかけ、その合間を縫って嫁さんと越後湯沢まで日帰りで温泉&日本酒三昧の小旅行に行ってきました。9連休の方はもっとダイナミックなホリデーを過ごされた方も多いでしょう。そしてそのお供に常に素敵な音楽がご一緒だったことと思います。

さてGWも終わり日常に戻った皆さんに向けて、今週の「新旧お宝アルバム」はまだ頭に残っているゆったりとした休暇のイメージを想起させるような、ゴージャスな雰囲気たっぷりのソウルの名盤をお送りします。ソウル界の大御所でこのアルバム発表当時はモータウン・レコード副社長を務めながら、60年代大成功したミラクルズを脱退し、ソロ・キャリアをスタートさせたばかりのそう、皆さんよくご存じのスモーキー・ロビンソンのアルバム『A Quiet Storm』(1975)をご紹介します。

スモーキー・ロビンソンといえばあのヴェルヴェットのようなファルセット・ヴォイスのボーカルによる歌唱がつとに有名ですが、スモーキーは60年代、モータウン・レコードの看板グループの1つ、ミラクルズのリード・シンガー時代から、シンガーとしてだけではなくソングライターとしても非常に素晴らしい楽曲をつくり出しています。

ミラクルズ時代の60年代のヒット曲で後にカバーヒットとなっている「Shop Around」(1960年最高位2位、キャプテン&テニールのカバーで1976年最高位4位)、「Ooh Baby Baby」「Tracks Of My Tears」(いずれも1965年16位、いずれもリンダ・ロンシュタットのカバーで1978年7位&1976年25位)、「More Love」(1967年23位、キム・カーンズのカバーで1980年10位)などは言うまでもなく、他のモータウンのアーティスト達の数々のヒットも書いています。メアリー・ウェルズのNo.1ヒット「My Guy」やテンプテーションズの「My Girl」「The Way You Do The Things You Do」「Get Ready」をはじめ、マーヴィン・ゲイ、マーヴェレッツらのヒット曲を量産していた、モータウンにとってはスーパーマンのようなアーティストだったのです。その貢献度から60年代半ばに20代の若さでモータウンの副社長に任命されたのもむべなるかな、です。

そのスモーキーがツアーから離れて家族との時間を確保すると共にモータウン副社長の仕事に専念するために1972年にミラクルズから脱退して一旦アーティスト引退。しかし間もなくソロとしてカムバックしてアルバム『Smokey』(1973)、『Pure Smokey』(1974)を発表しましたが当時ヒットを連発していたレーベル仲間のマーヴィン・ゲイスティーヴィー・ワンダーらの成功には及ぶべくもない状況。そんな中発表されたのがこのアルバム『A Quiet Storm』でした。

同時期のスティーヴィー・ワンダーの大ヒットアルバム『Fulfillingness’ First Finale(ファースト・フィナーレ)』(1974)などでも使われていたアープ・シンセサイザーの電子的なトーンとタイトルから暗示されるような嵐の風音で始まるタイトル・ナンバー「Quiet Storm」は、これぞスモーキー、という感じのヴェルヴェット・ヴォイスで官能的に歌われるゴージャスなR&Bソングで、7分半以上に渡ってアープ・シンセやフルートのソロをバックにいきなりリスナーをカタルシスに持って行きます。

充分暖まったところに往年の60年代モータウンソウルを彷彿させるようなクラシックな感じのリズム・パターン(彼の80年のカムバックヒット「Cruisin’」のイントロのリズムを思い出して下さい)で始まる「The Agony And Ecstasy」は「僕らの愛は簡単じゃないんだ/エクスタシー(快感)を得るためには苦悩の時期を耐えなきゃいけないんだよ」と歌う、ちょっとイケない愛の関係を想起してしまう、これもスモーキーの官能ファルセットが切々と歌うバラード。

続く「Baby That’s Backatcha」は、一転して当時流行初めのディスコ・ビートを意識したアップテンポのナンバー。意識したといってもあくまでビートと楽曲はスモーキースタイルの洒脱なもので、この曲は彼に取ってソロ転向後初の全米ソウル・シングル・チャート1位のヒットとなりました。

マイケルを初め兄弟がモータウンから移籍する中一人モータウンに残ったジャーメイン・ジャクソンの結婚式のために書かれたというちょっとハワイあたりの風景を想起する「Wedding Song」に続くのは、当時レーベル仲間のダイアナ・ロスビリー・ホリデイ役で初の映画主演を遂げた映画『Lady Sings The Blues(ビリー・ホリデイ物語)』にフィーチャーされた、ピアノ一本をバックに静かに歌い出し、後半ストリングスやリズム・セクションが加わる中、ちょっとジャズ・ボーカル風の曲調でデリケートに、しかしドラマティックに歌い上げる「Happy (Love Theme From “Lady Sings The Blues”)」。正に映画の一場面を想像させてくれる素晴らしい歌唱を聴かせてくれる、こういうスモーキーもいいもんですね。

アルバムはちょっとこの中では異色な感じの,シンセベースを特徴的に使ったマイナーなアップテンポの「Love Letters」から、この時期台頭していたソウル・ジャズを思わせるような曲調で女性コーラスをバックにスモーキーがクールに決める「Coincidentally」でクロージングを迎えます。

しかしこのアルバムの制作コンセプトで面白いのは、各曲の曲間が無音ではなく、嵐のSEだったり、前の曲のエンディングと後の曲のオープニングを被らせたりと、全体のトータル感を強く意識している点。しかもアルバム最後の「Coincidentally」のエンディングのアープ・シンセサイザーの電子トーンとお馴染みの嵐のSEがそのままアルバムオープニングの「Quiet Storm」の冒頭の音とつながっていること。つまり、このアルバムをiTuneのリピートモードで聴くとサウンドの違和感なしに延々ループして聴くことができるのです。これ、なかなか素敵なコンセプトだと思いませんか?

全曲スモーキーのペンによる(タイトル曲と「Happy」は共作)このアルバムは上述のようにスモーキーにソロ初の全米ソウル・シングル1位をもたらし、Hot 100でもその「Baby That’s Backatcha」と「The Agony And Ecstasy」がそれぞれ26位、36位とヒットするなどスモーキーに取ってソロ・キャリアを確固たるものにした作品でした。

しかしそれ以上に何よりもこのアルバムが重要なのは、このアルバム(及びタイトル曲)の「Quiet Storm」というのが、この後全米のブラック・ラジオ・ステーションで、スローでゴージャスな楽曲中心にオンエアするプログラムのフォーマットの総称として使われるようになったこと。

このアルバムは、彼にとってこの時点でソロアルバムとしては最高の商業的成功を収めたわけですが、それだけでなく「クワイエット・ストーム」という音楽ジャンルを定義するという、黒人音楽文化に大きなインパクトを与えた歴史的アルバムとして評価されるべきなのです。

この後スモーキーはソロ作をリリースし続けますが、モータウン副社長の業務との二本草鞋ということもあり、なかなかヒットにめぐまれず。彼が再びヒット作に恵まれるのは、1980年のカムバックヒット「Cruisin’」(最高位4位)を含む『Where There’s A Smoke』まで待たねばなりませんでした。

スモーキー自身は有名なアーティストですが、そのアルバムというとなかなか聴く機会がこれまでなかった方も多いのでは。春から初夏に向かっていこうというこの時期、気持ちをぐっとゴージャスに挙げてくれるスモーキーのボーカルをふんだんにフィーチャーしたこのアルバム、是非聴いてみてはいかがでしょうか?

 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位36位(1975.6.14 – 28付)

同全米ソウル・アルバムチャート最高位7位(1975.6.7 – 14付)


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