新旧お宝アルバム

新旧お宝アルバム!#40「We Are KING」KING (2016)

2016-04-25

2016.4.25

新旧お宝アルバム #40

We Are KINGKING (KING Creative, 2016)

先週金曜日の4月22日(日本時間)、突然世界中に伝わったプリンスの訃報でこの週末、彼の音源を聴いたり、にわかにネット上にアップされ始めた様々なプリンスの映像を見ながら呆然と過ごした音楽ファンはもの凄い数に昇ったに違いありません。かくいう自分もその一人。それほどまでに、革新的でありながらR&B、ジャズ、ヒップホップ、ロックといった伝統的な音楽文化の要素を絶妙にブレンドして昇華させた作品をこの35年間世界に送り出し続けたプリンスという天才クリエイターの喪失は、世界中のファン達の心に大きな穴を開けたのです。

そんな大きな損失の痛みを胸に、今週お送りする「新旧お宝アルバム!」は「新」のアルバム紹介。プリンスという巨星は天に旅立ってしまったものの、そのレガシー(遺産)をいろんな形でそこここに感じさせる作品を、これからの音楽シーン、そしてファンに送り出してくれるのでは、と思わせてくれる新しいグループの素晴らしい作品をご紹介します。ロサンジェルスをベースに活動する女性3人組のR&Bグループ、その名もKINGのデビュー・フル・アルバム『We Are KING』です。

We Are King (Front)

このKINGというグループ、実は既に今の音も追っかけている熱心なR&Bファンの間では少し前から評判に昇り始めていました。2011年に最初のEP『The Story』をリリース、エリカ・バドゥやヒップホップ・グループのザ・ルーツのリーダー&ドラマーであるクエストラヴといったシーンの重要なアーティスト達が彼女達への高い評価を示したことで、シーンでは注目を集め始めました。そんな彼女たちが一般の音楽ファンの耳にも広く入るようになったきっかけは、第55回グラミー賞で最優秀R&Bアルバムを受賞した、今乗りに乗るロバート・グラスパーのアルバム『Black Radio』(2012)収録のトラック「More Love」にフィーチャーされたこと。そして今回満を持して彼女ら自身のレーベル、KING Creativeからリリースされたのがこの『We Are KING』。

3人のメンバー、双子のパリスアンバー・ストロザー、そしてアニタ・バイアスが全曲自分達で書き、プロデュースもパリスが行ったこのアルバム、全体を通じて大きな魅力となっているのは、メロディやボーカルなどの基本的スタイルは伝統的なR&Bでありながら(スティーヴィー・ワンダーの60年代のバックアップ・シンガー・グループだったワンダーラヴを引き合いに出す向きもあり)、エレクトロニックなサウンドを巧みに多用しながら心地よいグルーヴを作り上げていくという、各楽曲の組み立て方は明らかに90年代ヒップホップ以降の色合いを強く感じますし、ジャネ・アイコティナシェ、ケラーニといった2010年以降の新しいオルタナティヴ・R&Bアーティストたちのスタイルもしっかり睨んだつくりになっています。従って70年代からのR&Bファンにも、90年代以降ヒップホップ中心に聴いているファンにも、そして最近の新しいR&Bが好きな若いファンにも、広く受け入れられる、そんな多彩さと多才さを存分に備え持ったグループであり、作品です。

エレクトロニックなイントロからシンセ・ベースに乗ったドリーミーなサウンドとコーラスで始まる「The Right One」で始まるこのアルバム、一曲目からいきなりKINGの夢見るような世界に誘い込まれてしまいます。

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続く「The Greatest」もエレクトロニックなサウンドと妙にレトロなリズムが摩訶不思議なグルーヴを生み出す楽曲。「Red Eye」はやや実験的なエレクトロなサウンドの使い方をしているのですが、基本メロディやコーラスの使い方がちょっとジャズ・フュージョン的なグルーヴも感じられる曲です。

デビューEPにも収録されていた「Supernatural」のエクステンデッド・バージョンは、ピアノを冒頭にフィーチャーしアコースティックな味わいを見せながら、中盤以降大きなうねりのグルーヴとアップテンポでジャジーな終盤への盛り上がりを見せる、ほぼ7分に及ぶ大作。アルバム中盤の「Love Song」「In The Meantime」の流れは、冒頭の「The Right One」「The Greatest」の流れを更に深度を上げてループするような感覚を与えてくれますが、そこから「Carry On」「Mister Chameleon」と続くあたりは、これらの前半の楽曲よりもマイナーなキーを主題とした曲調でアルバムのトーンを少し変えてくれます。

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ミニー・リパートンに代表されるような70年代の女性R&Bボーカルのアルバムに出てきそうなしっとりとしたイントロから歌い出しの「Hey (Extended Mix)」で始まるアルバム後半は、エレクトロニックな70年代デビュー時のポインター・シスターズ、といった雰囲気の「Oh, Please!」を経て、また冒頭の数曲を思い出させるようなエレクトロでドリーミーで大きなうねりのグルーヴが感じられる、デビューEPのタイトル曲でもあった「The Story (Extended Mix)」で静かな盛り上がりを見せ、ラスト・ナンバー「Native Land」で、シンセベースの生み出す心地よいグルーヴに身を任せるうちに、あたかもアフリカの天然色の自然に包まれる中で静かに目を覚ました時のようなイメージでアルバムは幕を閉じます。

We Are King (Back)

何にしてもデビュー・アルバムにしてこの高いクオリティの作品を作り上げてしまったKINGのこのアルバム、今年のR&Bシーンにおける重要作品の一つといって過言はないでしょう。先にも述べたように、R&Bファンであれば是非ともこのアルバムを体験すべき、そういう一枚。そして先週突然旅立ってしまったプリンスの作り出していた作品にも共通するR&Bやジャズ、ヒップホップといった要素をたくましく昇華して自らのサウンドを作り上げている彼女達の作品には、確実にプリンスやその先達達のレガシーが脈々と流れていることは間違いありません。

折しもゴールデンウィークの真っ只中の5月2日には、六本木のビルボード・ライヴで早くも来日ライヴを行うというKINGの3人組。7月にはあのスティーヴィー・ワンダーの傑作『Songs In The Key Of Life』のリリース40周年を記念してロンドンのハイド・パークで開催される、「Stevie Wonder’s Songs In The Key Of Life」というイベントに参加し、スティーヴィーファレル・ウィリアムス、コリン・ベイリー・レイといった錚々たる顔ぶれとの共演も果たすようです。

2016年、このKINGというグループ、あちこちの耳目に上ってくる話題のアーティストになる可能性大です。まずは来るゴールデン・ウィーク、彼女たちのこの素晴らしい作品で、KINGの世界に身を委ねてみませんか。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位158位(2016.2.27付)

同全米R&B/ヒップホップ・アルバム・チャート 最高位20位(2016.2.27付)


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