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新旧お宝アルバム!#42「Ghost On The Canvas」Glen Campbell (2011)

time 2016/05/09

2016.5.9

新旧お宝アルバム #42

Ghost On The CanvasGlen Campbell (Surfdog, 2011)

見事に好天に恵まれた今年のゴールデン・ウィーク、皆さんはいかが過ごされたでしょうか。自分は近くの山ハイクやハーフプレイのゴルフに行ったり、たまったレコードや音楽データを整理したり、家族とBBQしたりと久しぶりにゆったりとした時間を過ごして充電することができました。今週からは皆さん忙しい日々に戻られていると思いますが、風薫る五月、音楽も忘れずに公私ともにエンジョイして下さい。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は「新」のアルバムのご紹介の順番ですが、年初から続く有名ミュージシャン達の訃報の中、5年前に自身のアルツハイマー病発症を受けて自分の最終スタジオ作品として見事なアルバムを作り上げた、60~70年代を通じてロック・カントリーの分野で活躍した巨人、グレン・キャンベルが2011年にリリースした、その最終スタジオ作品『Ghost On The Canvas』を取り上げます。

Ghost On The Canvas

自分の誕生日に最新作を発表した直後にこの世を去る、という劇的な形でこの世を去ったデヴィッド・ボウイの自分のアーティスト人生とのけじめの付け方がいかにもボウイらしかったように、既に70年代までに功成り名を成し遂げた感のあったグレンが、自らの病を知ってすぐに制作に着手したのがこの『Ghost On The Canvas』。そのアルバムを包む雰囲気は、自らの状況や既に老齢期にあることによる懐古的なトーンはあっても、決して陰鬱になることなくむしろグレンの歌声の張りとアップビートさには驚きを覚えるほど。アルバム収録曲も、この前のアルバム『Meet Glen Campbell』(2008、これも素晴らしいアルバムです)のスタイルを踏襲し、「いま」の若いミュージシャン、それもロック系のミュージシャン達の楽曲を取り上げたものがほとんどで、いずれもグレンの力強く瑞々しい歌声で、グレン自身のうたとして、説得力を持って迫ってくるものばかりです。

前作の『Meet Glen Campbell』ではフー・ファイターズ、トム・ペティ、ジャクソン・ブラウン、トラヴィス、U2、グリーン・デイといった自分より遙かに若い世代のミュージシャン達の楽曲を取り上げ、それぞれを強く説得力と解釈力に富んだボーカルで自分のものとして表現しきっていたグレン

今回はより今の時代のインディー・ロックやオルタナティヴ・ロックのミュージシャンの曲を多く取り上げながら、前作でも全面的にバックを固めていたロバート・マニングJr.(90年代のアメリカ・インディ・ポップ・シーンを代表するバンドの一つ、ジェリーフィッシュのリーダー)が明らかにビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』(1966)を彷彿するような、各楽曲をつなぐインストゥルメンタルの短いインタールードを提供していて、これがアルバム全体のトータル性を高めています。

アルバム冒頭はグレン自身のペンによる、アコギのスリーフィンガーによる短い「A Better Place」。自分の人生を振り返りながら、自分はいろいろ恵まれてきたが「より良い場所が待っている」と歌うグレンは自分の運命を受け入れながらこのアルバムを作ったことをこの冒頭のナンバーがはっきり示しています。

続くアルバムタイトルナンバー「Ghost On The Canvas」は、80年代のインディ・ロック・シーンで活躍したリプレイスメンツのリーダー、ポール・ウェスターバーグのナンバー。もともとはポールの2009年のEPに収録されていたもののカバーですが「自分は生と死の間の場所を知っている」という歌い出しのこのドラマチックなバラードは、ポールのソングライティングの素晴らしさもあいまって、あたかもグレンのために用意された曲であるかのように、正しくこのアルバムのトーンをセットするナンバー。

短いインスト・セグメントの「The Billstown Crossroads」を挟んでグレンとプロデューサーのジュリアン・レイモンドの共作による「A Thousand Lifetimes」は力強いリズムにグレンの驚くほど力強いボーカルが乗ったロック・バラード。「一つ一つの呼吸は自分にとって授かり物/決して当然のこととは思っていない」というリフレインがこの歌を歌うグレンの気持ちを表現しています。

グレン自作の「It’s Your Amazing Grace」はトラヴェリング・ウィルベリーズなどを思わせる、力強いギターストロークが印象的なナンバー。その歌の中で「私が君を常に思っていることは君に取って驚くべき恵み(Amazing Grace)なんだよ」と語りかけるグレンは、既に自分が去った後のことを考えているかのよう。

再びロバート・マニングJr.の短いインスト「Second Street North」を挟んで、ニック・ロウあたりを思わせるロカビリー調の「In My Arms」では、クリス・アイザック、元ストレイ・キャッツブライアン・セッツァー、そして60年代サーフロック・ギターの大御所、ディック・デイルをバックに従えてロケンロールしているグレン。とてもアルツハイマー患者とは思えません。この曲はあのUKフォーク・ロックの伝説的グループ、フェアポート・コンヴェンションのメンバーだったリチャード&リンダ・トンプソンの息子のテディ・トンプソンのペンによるもの。

再びマニングのインスト「May 21, 1969」を挟み、アコギの弾き語り的に歌われるのは、ジェイコブ・ディランの曲「Nothing But The Whole Wide World」のカバー。またまたマニングのインスト「Wild And Waste」を挟んで歌われるのは「Hold On Hope」。「誰もが希望にすがっている/それが僕をまともに支えてくれている最後のものなんだ」と、あくまでポジティヴなボーカルで歌うグレンのパフォーマンスには軽い感動すら覚えます。

Ghost On The Canvas (Insert)

映画のサントラのようなマニングのインスト「Valley Of The Son」に続いて歌われるのは、再びポール・ウェスターバーグのナンバー「Any Trouble」。とても明るい曲調でアコースティック・シャッフルのトラックにのってグレンは「面倒なことには近づくな/僕がもう長くないことは君も知ってるだろ/息を止めるように僕を抱きしめて/僕が死ぬまで僕のことを頼りにしていい/君の周りの面倒なことが消えてなくなるまで」と歌います。自分の人生の終わりを見つめながら、こんなに明るく、他の人への思いやりを歌えるグレンの素晴らしさにまたまた感動してしまいます。

次の自作の「Strong」ではオレゴン州出身のインディ・ロック・バンド、ダンディ・ウォーホルズと共演して歌うこのうたで、「君にはとにかく強くあってほしい/何かあったら僕がいるから」とあくまで自分のことより周りのことを気遣っているグレンの思いが伝わってきます。

アルバム最後のセグメントはマニングのインスト「The Rest Is Silence」(休息とはイコール静寂だ、という意味深なタイトル)に続いて「There Is No Me…Without You」。スマッシング・パンプキンズビリー・コーガン、チープ・トリックリック・ニールセン、ブライアン・セッツアーといった錚々たるロック界の面々を従えてグレンが「天国は二人のための場所/僕らはいつまでも二人一緒/だって君なしの僕なんてあり得ないから」と切々と歌う様子を聴きながら、思わず目元がうるむのは私だけでしょうか。

Ghost On The Canvas (Back)

このアルバムには、上記に言及した他にもグレンをリスペクトするミュージシャン達が多数参加しています。ロジャー・マニングジェリーフィッシュで共に活動したこともある90年代のアメリカを代表するインディ・ロック・シンガーソングライターのジェイソン・フォークナー、プリンスレヴォリューションのギタリストとしても有名なウェンディ・メルヴォイン、ポップ・カントリーの大スターであるキース・アーバンなどなど、多士済々のアーティスト達が、グレンの人生最後のスタジオアルバムであるこの作品をサポートしているのです。優れた作品になって当たり前でしょう。

このアルバムリリース後、グレンは「Good Times – The Final Farewell Tour」と銘打って、自分のアルツハイマーが悪化する前にと2011年8月から2012年11月まで1年以上にわたり北米とヨーロッパのツアーを敢行しています(観たかった!)。そして2013年にグレンは最後の曲「I’m Not Gonna Miss You」を録音、この曲は翌年に公開されたドキュメンタリー映画『Glen Campbell: I’ll Be Me』にフィーチャーされ、2014年の第57回グラミー賞で最優秀カントリー・ソング部門を受賞、同年の第87回アカデミー賞でも最優秀オリジナルソング部門にノミネートされるという、最高の結果となりました。

現在はナッシュヴィルのケア施設で静かに暮らしているというグレン、既にもう判断能力はかなり失われているということですが、5年前にリリースされたこのアルバムでのグレンは、あたかもキャリア絶頂期にいるかのような素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれています。この偉大なミュージシャンの訃報を聴く前に、是非この魂の作品を一度聴いて見て頂ければと思います。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位24位(2011.9.17付)

同全米カントリー・アルバム・チャート 最高位6位(2011.9.17付)

全英アルバム・チャート 最高位27位(2011.9.4付)

オフ会映像

ひたすら・・・歌い出しがタイトル!の全米トップ40ヒットを聴く飲み会

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