ラジオ番組企画&制作&音楽全般のプロデュースの株式会社 ヤング・スタッフ

新旧お宝アルバム!#56「Friction, Baby」Better Than Ezra (1996)

time 2016/09/12

2016.9.12

新旧お宝アルバム #56

Friction, BabyBetter Than Ezra (Elektra, 1996)

9月になってもまだまだ暑い中、それでも日々少しずつ秋の気配が感じられるようになってきている今日この頃。パラリンピック開催、テニスの全米オープンでの錦織圭選手の活躍、プロ野球では広島がセ優勝、MLBのポストシーズンの行方も混沌としてきているなど、スポーツの話題もいろいろと盛り上がってきた9月、洋楽も引き続きライヴイヴェントが目白押しで、いろいろ楽しみな秋になってきています。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は本来「新」のアルバムをご紹介するところですが、今週は今からいうと新旧中間くらいの時期、1990年代に活躍したいわゆるポスト・グランジとゆるーく総括されるオルタナティヴ・ロック・バンドの一つ、ベター・ザン・エズラがそのキャリアの頂点時期に発表したアルバム、『Friction, Baby』をお届けします。

better-than-ezra_friction-baby

このコラムを読んで頂いている洋楽ファンの方の多くは70~80年代の、日本で洋楽がメインストリームの音楽ジャンルとしてTVやラジオで聴けた時代に洋楽に親しんだ方々ではないかと思います。私の周りにもそういう方が多いのですが、そうした方々の多くが一様に言われるのは「1990年以降はほとんど新しい洋楽のアーティストとかアルバムを聴いていない」ということ。

1980年代終わりから90年代初頭にかけては、アメリカのヒットチャートの上位が粗製濫造されたラップやヒップホップ作品、MTVの盛り上がりが徒となり楽曲の魅力よりも映像のキャッチーさでヒットになってしまう楽曲などで占められた時期であり、確かにそうした傾向が多くの洋楽ファンを新しい音楽から遠ざけてしまう要因となってしまったことは否めないと思います。

しかし、1990年初頭にはシアトルを起点にニルヴァーナパール・ジャムなどのバンドを中心としたグランジ・ロックと呼ばれる、ハードなロックと思索的で社会との隔絶感を歌詞に乗せた新しいロックのフォームがブレイク、R&B・ヒップホップでもマライアのデビュー、ベイビーフェイスに代表される優れたR&B楽曲を発表するアーティストたち、パブリック・エネミーDr.ドレ、ウータンクランア・トライブ・コールド・クエスト、デ・ラ・ソウルなどがメッセージ的にも楽曲的にも優れたヒップホップ作品を発表、1990年代半ばにはアメリカの音楽シーンが一気に豊潤な状態になっていったのです。

その90年代半ば、グランジの波が過ぎた後に、グランジのスタイルを受け継ぎながら、よりメインストリーム的なアピールのある音楽スタイルを持った「ポスト・グランジ」と呼ばれる数々のバンドが台頭、今日ご紹介するベター・ザン・エズラもそんなバンドの一つです。

ベター・ザン・エズラはルイジアナ州バトン・ルージュのLSU(ルイジアナ州立大)に在学していたケヴィン・グリフィン(vo., g.)、ジョエル・ランデル(g.)、トム・ドラモンド(b)、ケアリー・ボンケイズ(ds)の4人で1988年に結成。

その音楽スタイルはストレートなギター中心のロックサウンドですが、ニルヴァーナパール・ジャムらのグランジ・バンドやR.E.M.等のオルタナ・ロック・バンドの先達達の影響を強く感じさせながら、聴いてすぐ耳に馴染んでくるポップな感覚を持ったメロディ・楽曲構成に特徴を持つバンドです。

今日ご紹介の『Friction, Baby』は『Surprise』(1990)でデビュー直後、ギターのジョエルを自殺で失うという事件でしばらく沈黙の後リリースしたセカンド『Deluxe』(1995)とシングル「Good」(1995年最高位30位)のヒットで注目を浴びる中、彼らとしてはキャリア上昇期にリリースされた作品。

プロデューサーには、ジョン・クーガーフーティ&ザ・ブロウフィッシュといったアメリカン・メインストリームロックアーティスト達の大ヒット作を手がけたことで有名なドン・ゲーマンを迎え、グランジ的な肌合いを残しながら、極めてメインストリーム感満載の作りになっています。

friction-baby-back

音楽的にも文化的にも高い多様性を持つニュー・オーリンズをベースに活動するバンドらしく、このアルバムもメインはグランジ的なハード・ロック系の楽曲とシンプルなギター中心のオルタナティヴ・ロック系の楽曲が大半を占める中、そこここにブルース色の濃い楽曲(ブラック・クロウズあたりを思わせる「Still Life With Cooley」)やディキシーランド・ジャズっぽいアレンジと楽器演奏がグランジ・ギター的ストロークと共存している曲(「At Ch. Degaulle, Etc.」)などが織り交ぜられ、他のオルタナ・ロック・バンドの作品とはひと味違う作品になっています。

例えば冒頭の「King Of New Orleans」や「Long Lost」「Scared Are You?」「Return Of The Post Moderns」などはは大音量のギターストロークがメインリフで、ファズや軽くディストーションがかかったアルペジオ・ギター・フレーズがバランスよく配されるなど、ニルヴァーナパール・ジャムといったグランジ・バンドや、ブッシュフーファイターズ初期を思わせる典型的なポスト・グランジ・タイプの曲ですし、「WWOZ」は、エレクトリック・ギターのシンプルな爪弾きリフと70年代ウェストコースト・ロック的なコーラスのサビが印象的な曲。「Happy Endings」はちょっとレトロでマイナー調のアコギのフレーズが全編を通じて清々しいバラード、そしてアルバム後半の「Speeding Up To Slow Down」は、同じ頃リリースされたR.E.M.の『New Adventures In Hi-Fi』あたりと共通するような雰囲気のオルタナ・ロック・ナンバーです。

そんな中で彼らのキャッチーなメロディとポスト・グランジ的ギターロックが独特な魅力を発揮しているのは、シングルカットされ、全米最高位48位のスマッシュ・ヒットとなった「Desperately Wanting」。90年代オルタナ・ロック然としたエレクトリック・ギターのイントロから始まりながら、サビに至ると魅力的なメロディとケヴィンのボーカルがバックの演奏と相まって思わず耳を引くこの曲、ラジオなどでかかったら「お、これ誰だ?」と思わず気になってしまうだろう、そんな魅力を持った曲です。

desperately-wanting

残念なことに、このアルバムの発表前に脱退したオリジナル・ドラマーのケアリーが、ロイヤリティの支払不平等を主張してバンドを訴えたり、このアルバムの次に発表した意欲作『How Does Your Garden Grow?』(1998)が商業的に不振で、これを最後にエレクトラ・レコードから契約を解除されたり、満を持して移籍した先のインディ・レーベルが倒産したりなどの不幸な状況が相次ぎ、2000年代に入ってからのバンドの活動はいくつかのインディ・レーベルを転々としながらの細々としたものにならざるを得ませんでした。

それでも2014年、ベックなどのプロデュースで知られるトニー・ホッファーをプロデューサーに迎えた5年ぶりの新作『All Together Now』が久しぶりに全米チャートにランクインするなど、現在もバンドはケヴィントムに、ドラムスのマイケル・ジェロームを加えた3人組として活動中のようです。

80年代後半の低迷期を乗り越えて多様な音楽スタイルの勃興で再び豊かな時代を迎えていた90年代アメリカ音楽シーンで、そのキャリアの最盛期を迎えていたベター・ザン・エズラというバンドのサウンド、今聴いても充分楽曲クオリティの高さは変わっていません。1990年以降の新しい洋楽アーティストを聴いていないというベテラン洋楽ファンの皆さんも、一度彼らの瑞々しくも若さと意欲にあふれたこの作品、聴いてみてはいかがでしょうか。

 <チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位64位(1996.8.31付)

オフ会映像

ひたすら・・・歌い出しがタイトル!の全米トップ40ヒットを聴く飲み会

Facebook