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新旧お宝アルバム!#70「This Girl’s In Love (A Bacharach & David Songbook)」Rumer (2016)

time 2016/12/26

2016.12.26.

新旧お宝アルバム #70

This Girl’s In Love (A Bacharach & David Songbook)Rumer (EastWest / Warner Bros., 2016)

さていよいよ今年も押し詰まって最終週になりました。#26のドーズAll Your Favorite Bands』から始まった今年2016年の「新旧お宝アルバム!」もおかげさまで今回を含めて45枚のお宝アルバムをお届けすることができました。拙い文章におつきあい頂き心より感謝すると共に、この「新旧お宝アルバム!」が皆さんが新しい音、今までよく知らなかったアーティストの作品などに触れるきっかけに少しでもつながっていれば望外の喜びです。来週は年末でお休みさせて頂きますが、また1月第一週からまた引き続きお届けしますのでよろしくお願いします。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は年末のほっこりとした気分そのままに、2010年代のカレン・カーペンターとの評判を取る歌姫、ルーマーが直球ど真ん中であのバート・バカラックハル・デイヴィッドのソングライティングコンビの作品に取り組んだ作品『This Girl’s In Love (A Bacharach & David Songbook)』をご紹介します。

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パキスタン生まれのイギリス人女性シンガー、ルーマーことサラ・ジョイスといえば、最近のメインストリーム・ポピュラー・ミュージックを追いかけている音楽ファンの間では、既にその美しい歌声による卓越した歌唱で評判を呼んでいるアーティスト。その歌声のジェントルさと、声域がやや低めのコントラルト・ヴォイスであることから、レコードデビュー当時、同じようなタイプの歌声のカレン・カーペンターに比せられていました。最近の彼女の歌唱はデビュー当初に比べるとややソフトになってカレンとの類似性はやや薄れたものの、安定した情緒満点の歌声は、聴く者の気持ちを落ち着けてくれるそんな素晴らしさがあります。

イギリス人ながら、産業エンジニアの父親の仕事の関係でパキスタンで生まれて5歳まで育ったルーマーは両親の離婚で母親とイギリスに戻った後、ジュディ・ガーランド、アレサ・フランクリン、ジョニ・ミッチェル、トレイシー・チャップマンといった女性シンガー達の歌声に癒やされながら音楽に浸る少女時代を過ごしました。しかし、ルーマーが21歳の時母親が乳がんで余命幾ばくもない時に、実の父親がパキスタン駐在時に使っていたパキスタン人のコックであったという衝撃の事実を知らされ、パキスタンに父を探しに行くのですが、現地到着時にその直前に事故で既に父親が他界していたことを知ります。彼女の歌声が美しいだけでなく、どことなく陰りと寂しさを湛えているように聞こえるのはそうした波瀾万丈の人生を若くして経験したことが大きな影響を与えているように思えます。

自分同様少女時代をアジア(今のバングラデシュ)で過ごした近代女流作家、ルーマー・ゴッデンの名前を頂いたステージ・ネームで20代前半からロンドンを中心に音楽活動を始めたルーマーは2010年にリリースしたデビュー・アルバム『Seasons Of My Soul』が全英3位、全米でも46位に昇るヒットとなり、その関係でバート・バカラックに紹介されたルーマーは彼の自宅に招待されて歌ったのがきっかけで『Rumer Sings Bacharach At Christmas』(2010)をリリース、彼女とバカラックとのつながりはこの時から始まっています。その後トッド・ラングレンギルバート・オサリヴァンなど男性シンガーソングライター曲のカバー作『Boys Don’t Cry』(2012)を発表、数々の名曲をルーマーの解釈で歌うというシンガーとしてのポジションを確立します。

その彼女をより広いオーディエンスに知らしめることになったのが前々作の『Into Colour』(2014)。冒頭の「Dangerous」は彼女には珍しく今風ダンス・ポップ的な楽曲ながら、彼女らしさを存分に聴かせる佳曲で、これが当時日本でも多くFM等でプレイされたことから彼女の名前が静かに音楽ファンの間に知られていくことに。昨年2015年にリリースした、あのフィル・コリンズマリリン・マーティンの1985年の全米No.1ヒット「Separate Lives」を作者のスティーヴン・ビショップとデュエットするなど、魅力ある楽曲選曲と歌唱で、ディオンヌ・ワーウィックリンダ・ロンシュタットといったカバー曲に自分の存在感を吹き込むシンガーの後継者としての実力を発揮した『B Sides & Rarities』を経て、今回、全面的にアメリカン・ソングブックの巨匠コンビ、バート・バカラックハル・デイヴィッドの作品集をリリースしたのです。

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アナログ盤LPですと、緑いっぱいの庭にあるクラシックな感じの長いすに黒いハンサムな犬と物憂げに座るルーマーの姿がとても印象的なこのアルバム、オープニングは数々のバカラック作品のカバーシンガーたちが歌ってきた有名曲「The Look Of Love」で物憂げにゆっくりとスタート。ディオンヌ・ワーウィックが1972年のアルバム『Dionne』で歌っていた「Balance Of Nature」という、バカラック作品としてはあまり知られていない、それでもルーマーのチャーミングな側面を生き生きと聴かせてくれるミディアム・ナンバーに続いて、フィフス・ディメンション1970年の大ヒット曲(全米2位)の「One Less Bell To Answer」がオリジナルのアレンジにほぼ忠実な演奏に乗って歌われます。ルーマーのあくまでもソフトで感情を抑えめに表現する歌声がこのバラードの雰囲気によく合っています。

アコギのイントロからストリングスをバックにルーマーのコントラルト・ボーカルがこのアルバムの曲では一番カレンを感じさせるのが次の「Are You There (With Another Girl)」。これもディオンヌが1965年のブレイクアウト作『Here I Am』の中で歌った曲で、ブライアン・ウィルソンあたりが書きそうな感じの柔らかい楽曲ながら複雑なコード進行とリズム展開を含む楽曲をルーマーが軽々と歌っています。続く同じくディオンヌが最初1964年に歌い、後にスタイリスティックスがカバーしてヒットさせた「You’ll Never Get To Heaven (If You Break My Heart)」はあの名曲「サンホセへの道(Do You Know The Way To San Jose)」と同様にハル・デイヴィッドのポップソングらしくない歌詞が印象的な歌。

そしてアナログA面最後はバカラック・ナンバーの大定番「(They Long To Be) Close To You」。カレンとの類似性が盛んに言われてきたルーマーですが、ここではカーペンターズのバージョンからぐっとテンポを落として、ピアノとストリングスだけのバックで、どちらかというと1963年に初めて歌った俳優のリチャード・チェンバレンのバージョンに近いアレンジになっています。こうして聴くと、ルーマーの歌唱は楽曲のアレンジがシンプルで音数が抑えられた時にその存在感と表現力を増すように思えます。

アナログB面は、バカラック・ナンバーを多く取り上げたあのダスティ・スプリングフィールドの名盤『Dusty In Memphis』(1969)で歌われていたのが印象的な「(In The) Land Of Make Believe」でゆっくりスタート。そしてディオンヌの最初のバージョンもさることながら、故ルーサー・ヴァンドロスの名唱で知られる素晴らしいバラード曲「A House Is Not A Home」をルーマーが叙情性満点に、しかし抑えた表現力でゴージャスに歌っているのがこのアルバムでも一二を争う出来。

これもディオンヌの代表曲「Walk On By」とそれに比べるとやや知られていないディオンヌのオリジナルの「The Last One To Be Loved」に続いて演奏されるのは、バカラックハーブ・アルパートのために書いてハーブの初のNo.1ヒット (1968)となった「This Guy’s In Love With You」の女性版「This Girl’s In Love With You」。ここでは何とバカラック自らピアノを弾きながら冒頭部分で渋いボーカルを聴かせてくれるというバージョン。ここでもルーマーのボーカルは伸びやかで、こちらもオリジナルとほぼ同じようなアレンジのトラックをバックに暖かい歌を聴かせてくれます。

そしてアルバム最後は、おそらく最近の世界情勢や政治的状況に思いを馳せてのことでしょう、バカラックが1965年にジャッキー・デシャノンに提供してトップ10ヒット(最高位7位)になり、その後1971年にベトナム戦争で全米が揺れる中、LAのラジオDJトム・クレイが、キング牧師の演説やケネディキング牧師暗殺のサウンドビットをミックスし、ディオンの「Abraham, Martin & John」とのメドレーで再度全米8位のヒットになった「What The World Needs Now Is Love」。ホルンとストリングスを中心としたオーケストラをバックに荘厳な映画のサントラ盤のように始まるバックに乗って歌うルーマーの歌声はどこか深い哀悼の感じを湛えながら、歌のメッセージ通り、ポジティブなトーンを持ちつつアルバムのエンディングを演出しています。

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このアルバムのプロデュースとほとんどの曲でのピアノとベースは、現在のルーマーのご主人で、その昔バカラックのサウンド・プロデューサーだったロブ・シラクバリが担当し、バカラック・サウンドの意匠を確実に再現しながら、ルーマーの歌を引き立てるサウンドプロダクションに成功しています。タイトル曲でのバカラックの共演の他、ディーン・パークス(g.)といった達者なミュージシャンや、あちこちでふんだんにストリングスやホーンのミニオーケストラを使って完璧なバカラック・サウンドの再現を演出していますが、それを全体締めているのが、名匠アル・シュミットによる録音とエンジニアリング。

おそらくクラシックやジャズにチューニングされたオーディオセットで聴くと更にそのサウンドの重厚さが楽しめるであろうこの作品、皆さんのおうちのシステムでも、年末年始にぴったりな雰囲気が楽しめることと思います。どうか年末年始、このアルバムに耳を傾けながら、心豊かな時を過ごされますように、そして2017年が皆さんに取って、世界にとって、より良い希望に満ちた一年となりますように。

<チャートデータ>

全英アルバムチャート 最高位28位(2016.12.8付)

オフ会映像

ひたすら・・・歌い出しがタイトル!の全米トップ40ヒットを聴く飲み会

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