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新旧お宝アルバム!#92「Waiting On A Song」Dan Auerbach (2017)

time 2017/07/10

2017.7.10

新旧お宝アルバム #92

Waiting On A SongDan Auerbach (Easy Eye Sound / Nonesuch, 2017)

雨が降らないとつぶやいてたら先週は九州地方を襲った台風の影響で悲しい災害が発生、多くの方々が被害を受けてしまいました。被災者の方々、そして不幸にも水害の犠牲になってしまった方々には心よりお悔やみ申し上げると共に、日常への一日も早い復旧を願っています。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は久々に今年発売された新譜を。2017年も折り返し点を過ぎて、各音楽誌や音楽情報サイトでは今年前半のベストアルバム、なんて企画もちらほら目にする最近、自分的にはかなりそういったリストの上位に入ってくるのではないかと思っているのが、オハイオ州アクロン出身のブルース・オルタナティブ・ロックバンド、ブラック・キーズのリーダーで、2013年には自分たちの作品やDr.ジョンのアルバムなどの仕事でグラミー賞最優秀プロデューサー賞も獲得しているダン・アウアーバックのソロ・アルバム『Waiting On A Song』。ドカスカビートと骨太のブルースっぽいロックを聴かせるブラック・キーズのサウンドとはひと味違った魅力を持つこのアルバムを今週は紹介しましょう。

ダンがソロ・アルバムを出すのはまだブラック・キーズが大きくブレイクする前の2009年の『Keep It Hid』以来8年目、2枚目になります。今回のソロ・アルバム制作のきっかけは、その後ブラック・キーズが大きくブレイクすることになったアルバム3枚『Brothers』(2010)、『El Camino』(2011)、『Turn Blue』(2014)の大ヒットとそれをサポートするツアー続きでほとほと疲れてしまったダンが、2014年から2015年にかけてレイ・ラモンターニュラナ・デル・レイ、ケイジ・ジ・エレファントらのアルバムをプロデュースした後2015年に再婚、そして2016年夏に休養宣言をしたことが実は始まりだったとか。

早くから南部の音楽のメッカ、ナッシュヴィルに移り住んでいたダンは、ひたすらレコーディングに、ツアーに、そしてプロデュースワークで駆け抜けた後はゆっくりアンプラグして過ごすつもりだったようですが、それまで時間なく交流がなかなかできなかった地元のミュージシャンや音楽関係者と交流するうちに、このアルバムを作ることになる二人の重要なパートナーと知り合ったといいます。

一人はこのアルバムのプロデューサーでもあり、このレコードが録音されたナッシュヴィルのEasy Eye Soundスタジオのオウナーでもあるデヴィッド・ファーガソン。彼はメンフィスのサン・スタジオを創始者のサム・フィリップスと共に支えた伝説のプロデューサー、”カウボーイ”ジャック・クレメントの直弟子で、90~2000年代にこちらも名プロデューサーのリック・ルービンの手腕で復活したジョニー・キャッシュアメリカン・レコーディング・レーベルから発表したその時代のアルバムのサウンド・エンジニアを務めた、ナッシュヴィルでも大御所のサウンド・プロデューサーです。

そしてもう一人が、デイヴィッドと親しくなったダンが連れて行かれたナッシュヴィルのライヴハウスでのジョン・プラインのライヴで、バンドのマンドリンを弾いていたパット・マクラフリン。彼は80~90年代にスティーヴ・ウォリナータニヤ・タッカー、ゲイリー・アランなどカントリー・シンガー達に数々の曲を提供してきて、ナッシュヴィルでも有数のシンガーソングライターとしての実績を持っていましたが、2010年にジョン・プラインのツアーの前座をやったのをきっかけにジョンのバンドに時折参加していたとのこと。巡り合わせというのはこのこと。

意気投合した3人は「とにかく曲を書こう」ということで毎日ダンの家に集まり、朝9時から夕方までとにかく共作で曲を書きまくったといいます。週の前半は曲を書き、後半はその曲のデモを録音する、というのを続け書き上がった曲は、他のバンドメンバーとの共作も含め200曲に上ったというから驚きです。

このレコードのもう一つのポイントは、バックをつとめるバンドのメンバーがほぼ全曲不動であるということ。ギターのラス・パール、ベースのデイヴ・ロー、キーボードのボビー・ウッド、ドラムのジェフ・クレメンスの4人はダンと共にこのアルバム収録の10曲のほとんど全部を不動のメンツで固めて、骨太でタイトで、それでいてしなやかな演奏を聴かせてくれます。スペクター・サウンドの成功のバックにレッキング・クルーが、モータウンの成功のバックにザ・コーポレーションが、そしてスタックスの成功のバックにブッカーT&MGズが、と古来成功したサウンド・プロダクション・チームには不動のバンドメンバーがいましたが、このアルバム制作にあたってはそれを念頭に置いていたとダンは言います。そしてそれに加えてゲスト参加しているミュージシャンはすべてレジェンド級のアーティストばかり。ラウンジっぽいギター音のレゾナンスが聴いた瞬間に彼と分かるデュアン・エディ、マーク・ノップラー、そしてブルーグラスの世界でドブロ・ギターと言えばこの人、ジェリー・ダグラスなどがダンデイヴィッドパットのペンによる楽曲のレベルを一段と上げているのです。

サウンドは、ブラック・キーズのドカスカビートのブルース基調のロック・サウンドを想像するといい意味で大きく裏切られます。このアルバムのきっかけとなったジョン・プラインとの共作曲でオープニングのタイトルナンバー「Waiting On A Song」はマイアミ・ソウル風のベース・リフで軽快に始まり「おっ、何だこれは」と思ううちに、思いっきりカントリーに寄り添ったジョン・メイヤー、といった感じのオーガニックなブルー・アイド・ソウルに転じていく、実にオープニングにふさわしい目の前に道が開けていくような曲。ストリングをバックに構えながらメンフィス・ソウル風なリフがこれも心地よい「Malibu Man」、ニック・ロウか、トラヴェリング・ウィルベリーズかといった軽快なロカビリー基調の軽快なサウンドの途中に紛う方無きデュアン・エディ御大の骨太のギターが登場して、思わず体が動く「Livin’ In Sin」といったあたりを終わる頃にはこのアルバムの虜になっていました。

続く「Shine On Me」もジュース・ニュートンの「Queen Of Hearts」やトラヴェリング・ウィルベリーズに共通するロカビリー・タッチのとてもポップなリフのキャッチーな曲。ここでのメイン・リフのギターを弾いているのはマーク・ノップラーですが、バンドメンバーと一緒に楽しんでプレイしているのが目に見えるよう。

ひとしきりビートの軽快なナンバーが続いた後は、ムーディなナッシュヴィル・ソウル歌謡、といった感じの「King Of A One Horse Town」からダンラスのアコギとデイヴのアコースティック・ベースにこちらもナッシュヴィル・レジェンドのジェリー・ダグラスのドブロが絡む「Never In My Wildest Dreams」にかけては、いわばこのアルバムのレイドバック・セット。「Cherrybomb」は妖しげな魅力をたたえた女性とその冷たさを歌うというカントリーでは定番のテーマの歌詞を、60年代のゾンビーズあたりを思わせるミステリアスな雰囲気のサウンドに乗せて歌うというもの。

アルバム終盤の3曲はまたちょっとアップテンポのビートに戻って、カントリー・クラシックに対するオマージュとも思えるタイトルの「Stand By My Girl」、ちょっとダウンテンポながらノーザン・ソウルの雰囲気をたっぷり称えたソウルフルなナンバー「Undertow」、そしてハンドクラッピングとジャンプするような軽快なリズムに乗って軽々とダンが思わせぶりな女の子に「その気があるなら態度で見せてくれ/その気がないのならいい加減僕を自由にさせて/僕の気持ちは最初から見せている/ねえ君、君の気持ちを見せて」と歌う「Show Me」でほんわかしたムードでアルバムは完結。

このアルバムに入った10曲以外にも190曲のストックがまだあるわけで、この3人のソングライティング・チームの楽曲のクオリティの高さからいって、このセッションの2弾目、3弾目も今後出てくるのではないかと期待させます。そんな期待を膨らませてくれるほど、このアルバムはいつも変わらないバンドメンバーが集まって普通に楽器を弾いて、キャッチーだけど単純ではなくレベルの高い楽曲を演奏しているダン達の楽しさが伝わってくる好盤。是非ともストリーミングで、そしてCDショップで実際に聴いて見て下さい。アメリカン・ルーツ・ミュージック(含むR&B)がお好きな方であれば絶対お気に入りの一枚になると思いますので。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位41位(2017.6.24付)

同全米オルタナティヴ・アルバムチャート最高位5位(2017.6.24付)

同全米ロック・アルバムチャート最高位8位(2017.6.24付)

オフ会映像

ひたすら・・・歌い出しがタイトル!の全米トップ40ヒットを聴く飲み会

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