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新旧お宝アルバム! #94「Lindsey Buckingham / Christine McVie」Lindsey Buckingham & Christine McVie (2017)

time 2017/07/24

2017.7.24

新旧お宝アルバム #94

Lindsey Buckingham / Christine McVieLindsey Buckingham & Christine McVie (LMJC / Merry Go Round / East West / Atlantic, 2017)

いよいよ学校の夏休みも始まり、梅雨も明けて、連日暑い日々が続く夏全開の今日この頃、皆さんは元気に洋楽ライフ、楽しんでますか?いよいよ今週末からフジロックも始まり、夏の音楽三昧の日々で盛り上がっている方も多いと思います。くれぐれも体調だけは気を付けて行きましょう。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は新しいアルバムをご紹介する番ということで今年の新譜。といっても70年代以来の音楽ファンにはすでにお馴染みのあのフリートウッド・マックの二人、リンジー・バッキンガムクリスティーン・マクヴィーが先月リリースしたデュエット・アルバム、既に耳にされている方も多いと思われる、その名も『Lindsey Buckingham / Christine McVie』をご紹介しましょう。

70年代からのフリートウッド・マックのファンの皆さんにとってはここ数年何かと話題が尽きないマック周辺。2013年にはあの70年代を代表するメインストリーム・ポップの名作『噂(Rumours)』(1977)の未発表音源を含むCD3枚組のデラックス35周年エディションがリリースされ、久しぶりにマックの話題でシーンが盛り上がったところへ、1998年にグループ脱退、「ふつうの人」に戻っていたブルース・マック時代からポップ・マック最盛期にかけての中心メンバーの一人、クリスティーン・マクヴィーが2013年に行われたマックのツアーのロンドンでの最終2公演に突然参加、翌2014年にグループ復帰をアナウンスするという展開に。同年9月からは『ファンタスティック・マック(Fleetwood Mac)』(1975)~『Tango In The Night』(1987)のマック最盛期のメンバー5人(リンジー、クリスティーンに加えてスティーヴィー・ニックス、ミック・フリートウッド、ジョン・マクヴィー)が揃ってUS、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドをまわり(残念ながら日本公演はなし)、計120公演、1年以上にわたる「On With The Show」ツアーを敢行し、世界中のマック・ファンにマック再始動の実感をいかんなく与えてくれたもんです。

このツアーは『』当時のファンだけでなく、その子供達の世代で『』の頃のマック・サウンドはクラシック・ロックFM局では聴いたことがあるけど生で聴くのは初めて、という観客にもマックのこの黄金期メンバーのサウンドが届けられ、当時のサウンドが次の世代にもリアリティを持って伝えられたという点で大きな意義があったと言えます。ツアー当時、このメンバーでの新作発表予定もアナウンスされ、ツアーが終了した2015年末には2016年にはほぼ30年ぶりにこのメンバーでのマックの新作が出る、と期待に胸を膨らませていたファンも多かったでしょう。

事実、そのツアーの直前、クリスティーン復帰直後の数ヶ月、リンジーはあの大作『Tusk』(1979)を録音したLAのスタジオに入って、クリスティーンと曲作りのセッションを始めていて、その出来に手応えを感じていたといいます。ツアー前までに、結果今回のデュオアルバムに収録される曲も含む8曲を、ジョンミックのリズム・セクションを加えた形で仕上げていたのです。ただその後、ツアー中約束されたマックの新作に彼らと共に取り組んでいたはずのスティーヴィー・ニックスが自分のソロ作のツアーに出てしまい、5人マックでのアルバムの仕上げが難しくなるという事態に。

もうこれ以上待てない、ということでリンジークリスティーンが2016年末から2年前に仕上げていた8曲を元に今回のアルバムを作り上げたのです。

リンジークリスティーンのデュオ・アルバムといっても、バックにジョンミックのリズム隊が入っていますから、実質本作はスティーヴィー抜きのマックの新作、と言ってもいいでしょう。そして『』の「Dreams」のような典型的スティーヴィー楽曲が当然含まれていないのですが、それがほとんど気にならないほど、アルバムとしての完成度は高いものがあります。

収められた楽曲は一曲ごとにリンジークリスティーンが交互にリードを取るという構成で、自分のリード曲は基本自分の作品、または自分の作品を元にもう一人が共作で仕上げたという機能的な共同作業の形を取っています。

そして、どの楽曲も聴いてすぐリスナーの頭に浮かんでくるのは『Tusk』から『Mirage』(1982)、『Tango In The Night』(1987)にかけての3枚の頃そのままのマックのサウンド。リンジーの奏でる光り輝くようなギターリフに乗るポップ・ナンバー、クリスティーンのたゆとうような、それでいてスケールの大きいメロディと楽曲構成の英米ポップ・ロックの要素が渾然一体となったナンバーなどがふんだんに盛り込まれているこのアルバム、当時のマック・ファンはもちろん、今のメインストリーム・ポップ・ファンにも充分魅力を感じてもらえるそんな素晴らしい作品に仕上がっています。

イントロのギターとボーカル、そして『Tusk』期特有の飛び跳ねるリズムを聴いた瞬間に「あ、リンジーだ!」とすぐ分かってしまう冒頭の「Sleeping Around The Corner」、イントロのキーボードと紛う方なき成熟した歌声はクリスティーンなのだけど、メインのリズムはまたまた『Tusk』期のリンジー色が前面に出ている「Feel About You」、マイナー調のコードの出だしから一気に花が咲き乱れるようなギターフレーズとメロディが『Tango In The Night』で完全に主導権を持っていた頃のリンジーを強烈に感じるポップ・ナンバーの「In My World」と、この最初の3曲を聴いただけで、彼らのサウンドのファンの心を鷲づかみにしてくれるそんなアルバムの出だし。

クリスティーン独特の流れるようなコード進行とメロディ構成が『Tusk』収録の「Think About Me」チックな「Red Sun」、アコギでシンプルに聴かせるリンジーの「Love Is Here To Stay」、『』B-1に入っていた陰のあるロックナンバー「The Chain」を彷彿とする今回のアナログ盤でもB-1の「Too Far Gone」、そして『Mirage』期のリンジーの色が濃く出始めた時の「Hold Me」「Oh Diane」といったナンバーを思い出させてくれる「Lay Down For Free」など、アルバム中盤も一切テンションが緩むことなく、正にポップ職人リンジーと母性で包み込むロックシンガー、クリスティーンのコラボが素晴らしい楽曲群を紡ぎ出していきます。

アルバム上がりの3曲の最初「Game Of Pretend」は、これぞクリスティーンの楽曲という、ピアノの弾き語りで迫り来るようにクリスティーンが歌いかけてくる「Songbird」系の楽曲。この間のツアーのタイトルをそのままタイトルに「僕が立ち続ける限り/君の手を取って僕のバンドと立ち続ける/ツアーに出てショーを続ける以外/他に行くところはない/だからさあ行こう、さあショーをやりに出かけよう」と、リンジーのこれからの音楽活動に向けての決意表明を前向きに歌う「On With The Show」はことに感動的ですが、これに呼応するかのように、ややブルージーにアルバム最後の「Carnival Begin」では「目を開けると海には船が出航している/初めて会う人々、行ったことのない場所/もうそれらを隠すには遅い/私はすべての色とブランコ、新しいメリーゴーランドが欲しい/カーニヴァルの始まりなの」と歌うクリスティーンも同様の気持ちを表明していて、少なくともこのマックの4人はまだまだこれからも新しい音やショーを届け続けてくれるのだな、とファンとしては大変嬉しい実感を持つことができます。

とにかく3年の年月をかけて、いい音や楽曲作りへの完璧主義者ぶりでは定評のある(笑)リンジーが渾身で作り出したハイクオリティのサウンドは隅々まで手が行き届いた職人仕事で、これにもう一人のサウンド職人、ミッチェル・フルームがキーボードとプロデュースで参加してますので、楽曲のみならず音の良さも素晴らしいものがあります。

是非昔からのマック・ファンも、マックは知らないけど最近のHAIMなどの良質で成熟したポップサウンドに興味のある若いファンも、是非このアルバムでリンジーの、そして4人マックのサウンド・コラボの生み出す楽曲を楽しんでみてはいかがでしょうか。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位17位(2017.7.1付)

同全米ロック・アルバムチャート最高位3位(2017.7.1付)

オフ会映像

ひたすら・・・歌い出しがタイトル!の全米トップ40ヒットを聴く飲み会

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