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新旧お宝アルバム! #95「Shot Through The Heart」Jennifer Warnes (1979)

time 2017/07/31

2017.7.31

新旧お宝アルバム #95

Shot Through The HeartJennifer Warnes (Arista, 1979)

先週いくつか近海で発声した台風の影響もあってか、雨が降ったりして蒸し暑い日々が続きましたが皆さん元気に洋楽の夏を過ごしてましたか?先週末はフジロック・フェスティバルも開催され、野外フェスシーズンもいよいよ本番という感じ、自分は今年は参戦できませんでしたが、大自然の中で音楽を存分に楽しまれた方も多いと思います。

さて今週の「新旧お宝アルバム」は先日他界した偉大なシンガーソングライター、レナード・コーエンや、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの創立メンバーの一人、ジョン・ケールらとの交流で知られ、今日ご紹介する作品がリリースされた70年代後半はロスの音楽シーンでユニークなポジションで活躍、そして多くの洋楽ファンには映画の主題歌のデュエットヒットの数々でその名前を知られた女性シンガーソングライター、ジェニファー・ウォーンズの1979年の作品『Shot Through The Heart』をご紹介します。

彼女の作品を耳にするたびに思うのは、ジェニファー・ウォーンズというのは何て不思議な魅力を持ったシンガーであり、ソングライターなんだろう、ということです。

歌唱テクニック的にはさして卓越したものを持っているわけでもなく、むしろ声域はあまり広くないので、高音域のメロディをしばしば苦しそうな裏声でしのいでいることも多く、決して「歌の巧い」シンガーではありません。

容貌も、ポップスターによくある美人とかコケティッシュとかいったこともなく、そういったルックス重視の観点からは御法度の眼鏡をかけた風貌はカリフォルニアあたりでよく見るちょっと知性派の女性といった感じです。

でも彼女の持つ独特の雰囲気、ちょっと気だるさや鼻にかかった感じの不思議な魅力をたたえた歌声、そして彼女の歌う彼女自身の作品や、他のアーティストの作品の解釈力や表現力に、多くの音楽ファン(特に男性ファン)は、彼女があのブレイクヒット「Right Time Of The Night(星影の散歩道)」(1977年全米最高位6位)でシーンに登場して以来引き付けられ続けてきたのです。

ほら、よくいるじゃないですか、クラス一の美人ではないんだけど、男友達も多く、なぜか気安く付き合えて、何かにつけて顔を見て話しをすると気が休まる、そんな女の子の同級生。ジェニファーって、何だかそういう魅力を持った女性であり、アーティストのように思えるのです。

今日紹介するこのアルバムは、その「星影の散歩道」の大ヒットを含むアルバム『Jennifer Warnes』(1976)の商業的成功を受け、これに続くアルバムとしてリリースされた作品で、前作がナッシュヴィルやイーグルスとの仕事で有名なジム・エド・ノーマンのプロデュースだったのに対し、あのザ・バンドのコンサート映画『The Last Waltz』のプロデュースで有名なロブ・フラボーニと共にジェニファー自らプロデュースを担当しており、よりジェニファー自身のクリエイティブ・コントロールが反映された作品になっています。

アルバムの冒頭を飾るのは彼女自身のペンによるタイトル曲。アンドリュー・ゴールドのピアノとバック・ボーカルで、ブルース・ロバーツルパート・ホルムスあたりのNY風の洒脱なメロディと軽快なリズムのこの曲で聴けるジェニファーの表情豊かなボーカルは、聴く者をまるで懐かしい我が家に帰ってきたかのような気持ちにさせてくれます。

この曲からの唯一のポップヒットで、彼女に取っての初のカントリー・チャート・トップ10ヒットとなった次の「I Know A Heartache When I See One」も彼女のボーカルの魅力を引き出しているミディアム・テンポの曲。ナッシュヴィルのソングライター・チームのペンによる曲ですが、ロブのプロデュース、アンドリューのピアノ、そしてこの曲で重要な腰の据わったドラミングを聴かせるあのレジェンド、ジム・ゴードンらのバックアップのためか、カントリーというよりもちょっとノスタルジックなメロディとアレンジが印象的な極上のポップ作品になっています。

ここからLPならA面の残り3曲はジェニファーの真骨頂であるカバー曲が続きます。まずはバカラック作品で1962年のディオンヌ・ウォーウィックのヒットで知られる「Don’t Make Me Over」。この曲でもアンドリュー・ゴールド他ギターのバジー・フェイトンなどの名うての面々がバックを努める中ジェニファーが情感たっぷりに歌います。時に高音分で少し音を外したりとご愛敬(笑)ですがそれも彼女の味の一つになってますね。

次は孤高のシンガーソングライター、ジェシ・ウィンチェスターの『Nothing But A Breeze』(1977)に収録の「You Remember Me」。しっとりとピアノをバックに、好きなんだけど恋愛の相手として認めてはくれない相手に最後の別れを告げに立ち寄る、という内容の切ないバラードを歌うジェニファーの大人っぽい歌声がちょっとした感動を呼びます。

そしてディランの「Sign On The Window」。1970年のアルバム『New Morning』収録のこれも実現することのない愛を振り返りつつ自らの人生を歩む者の心境をさりげなく、しかししっかりとジェニファーが表現します。

LPのB面は再び自作曲でスタート。「I’m Restless」も相手への愛を応えてもらえずにいる者の苦しい気持ちを切々と歌うバラードですが、サビ部分のメロディが高音域のためラインごとに裏声になったり、絞り出すように歌ったりというジェニファーのボーカルがかえってこの作品の情感を強調する効果となっているのが印象的。ちなみにこの曲、1994年にUKのベテラン・ロック・バンド、ステイタス・クオーがカバーしてシングルにしてるという意外な来歴を持った曲です。。

続いてはレオ・セイヤートム・スノウの二人のペンによる「Tell Me Just One More Time」。根音が半音ずつ下降していくコード進行(ビートルズの「You Won’t See Me」などもそうです)が何とも言えない洒脱さとポップ感を演出しているミディアム・ナンバーです。このアルバムからの3枚目のシングルカット「When The Feeling Comes Around」は、ハワイ出身のソングライター、リック・クンハ作の、サム・クックあたりの60年代R&Bの香りいっぱいの作品で、リンダ・ロンシュタットあたりも歌ってそうな素敵なミディアム・ナンバー。

B面は再び自作の「Frankie In The Rain」はニュージャージー出身のパンク野郎、フランキーに「少しは優しさ見せたら?」と諭すピアノ・バラード

そしてアルバムを締めるのは、何と19世紀の作曲家、フォスター晩年の作品「すべては終わりぬ(Hard Times Come Again No More)」を、ジェニファーリンダのバック・ベーシストとして知られるケニー・エドワーズ、USロック・シーンを代表するハモンド・オルガニストのマイク・フィニガンそしてブライアン・ラッセルの4人がアカペラで歌ったもの。黒人霊歌を彷彿とさせるフォスターのメロディが、このしなやかで魅力的なポップ作品の完結として不思議にふさわしく思えます。

ジェニファーはこの後親友レナード・コーエン作品のカバー集『Famous Blue Raincoat』(1987)、よりジャズやR&Bに近づいた『The Hunter』(1992)、クラプトンの後継者の最右翼とされるギタリスト、ドイル・ブラムホール2世とのコラボが目を引く『The Well』(2001)と、ポツリポツリと忘れた頃に新作を届けてきてくれてますが、何と現在最新作の制作に入っているとのこと。あの知性的な若々しさが魅力的なジェニファーも今年70歳ですが、その新作でも変わらぬ瑞々しさを届けてくれると信じて、彼女が女盛りであった頃のこのアルバム、改めて楽しんでみてはいかがでしょうか。

 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位157位(1979.6.16付)

オフ会映像

ひたすら・・・歌い出しがタイトル!の全米トップ40ヒットを聴く飲み会

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