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新旧お宝アルバム!#129「Out Of The Blues」Boz Scaggs (2018)

time 2018/08/27

2018.8.27.

新旧お宝アルバム #129

Out Of The BluesBoz Scaggs (Concord, 2018)

先々週はいよいよ秋の到来か?と思われるくらいの素晴らしい気候が何日か続いたのですが、先週は台風一過の後、連日30度台半ばのまたうだるような夏の暑さに逆戻り。こう暑さが続くと疲れてしまいますが、皆さん体に十分に気を付けていい音楽で最後の夏の暑さを乗り切って下さい。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、そんな暑さを忘れるべく、今年リリースされたボズ・スキャッグスの、渋い艶のあるボーカルが存分に楽しめる、ブルース・カバーを中心にしたニュー・アルバム『Out Of The Blues』をご紹介します。

ボズといえば70~80年代に洋楽に親しんだファンならアルバム『Silk Degrees』(1976)と大ヒット曲「ロウダウン」に代表されるファンキーで洒脱なブルー・アイド・ソウル・ナンバーや、「We’re All Alone」に代表されるR&Bテイスト満点のAORバラード・シンガーのイメージが強烈に残っているアーティストだと思います。

一方、彼の作品を追いかけていろいろ聴かれた方であれば既によくご承知だと思いますが、そもそも彼のルーツというか出自は、同じ黒人音楽でもより根源的なサウンドである、ブルース。彼のキャリアの振り出しは、あのスティーヴ・ミラー・バンドがまだブルースとサイケデリック・ロックのミクスチャー的ロックをやってた1960年代後半の頃のギタリストとしてであり、その後1969年にソロとなりディープなR&Bやブルースロックの聖地とも言えるマッスルショールズで、当時まだ存命だった故デュエイン・オールマンや、マッスルショールズ・スタジオ創設者の一人、バリー・ベケットらと実質上の初ソロ・アルバム『Boz Scaggs』(1969)をリリース、そこに収録されたブルース・ナンバーのカバー「Loan Me A Dime」は、存在感抜群のデュエインのギター・ソロと共にブルース・シンガー、ボズのアイデンティティを確立した有名ナンバーです。

Silk Degrees』『Down Two Then Left』(1978)そして『Middle Man』(1980)といった、当時のメインストリームだったAORブルー・アイド・ソウル・ブームの寵児となったボズでしたが、この後パッタリ活動を休止。1988年に8年ぶりにリリースしたアルバム『Other Road』は、ボビー・コールドウェル作の「Heart Of Mine」の小ヒットを含む、それまでの大ヒット路線を踏襲したものでしたが、この頃からボズは自分の出自であるブルースやディープなR&Bの方向に戻り始めます。

90年代から2000年代にかけ、『Some Changes』(1994)、『Come On Home』(1997)や『Dig』(2001)といった、ブルースやよりディープなR&Bナンバーのカバーと自作曲を含む好盤をいくつかリリースしたものの大きな商業的な成功は得られず。しかし一方で90年代初頭にドナルド・フェイゲンマイケル・マクドナルドと組んで「The New York Rock And Soul Revue」や2010年に同じメンバーでの「Dukes Of September Rhythm Revue」といったR&Bを基調としたライヴ活動に参加し、自分の方向性固めをした後、リリースしたのがボズのメンフィス・ソウルへのオマージュに満ちた素晴らしい『Memphis』(2013)でした。そしてこの作品はシーンからも高く評価され、あの『Middle Man』以来の全米トップ20アルバムとなったのです。

この直後の来日公演では、『Memphis』からの曲やR&Bのカバーを中心にやってたところ残念ながら多くの観客の反応が今ひとつだったためか「わかったわかった、これやればいいんでしょ」と言って「What Can I Say」から『Silk Degrees』のナンバーになだれ込んで見せたのがとても印象的でした。でも一部の熱心なボズのファンは『Memphis』の素晴らしさとそのライヴに喝采を送っていたと思います。

その『Memphis』に続いて更に様々なR&Bアーティスト達へのオマージュに溢れた『A Fool To Care』(2015)を経て、ブルース・R&B三部作の完結編として今回リリースされたのがこの『Out Of The Blues』。

このアルバムは、いくつかの点で三部作最初の二作『Memphis』『A Fool To Care』と異なっているところがあり、個人的にはそれらはボズの自分のルーツに忠実であろうとする思いの表れだと感じています。

一つには、今回のプロデュースは、それまでの二作でR&Bオマージュのテーマを的確に素晴らしいアレンジでいい仕事をしていたスティーヴ・ジョーダンではなく、基本セルフ・プロデュース。共同プロデューサーとしてクレジットされているのは、90~2000年代にブルースやR&Bテーマのアルバムを一緒に作り続けてきた盟友、クリス・タバレスマイケル・ロドリゲス。ここに彼がサウンドやアルバム作りにおいて気の知れた仲間と自分のやりたいことをやるんだ、という気持ちが表れていると思います。

そして二つ目の、そして最大のポイントは、今回の収録曲は、こちらもブルース・バンド時代からの盟友、ジャック・ウォルロス作の新曲4曲(1曲はボズとの共作)を含めすべてゴリゴリのブルース・ナンバーであるということ。しかも「I’ve Just Got To Forget You」「The Feeling Is Gone」と彼自身のアイドルであるボビー・ブランドのナンバーを2曲もカバー。前作までのように、アル・グリーンカーティス・メイフィールド、スピナーズザ・バンドらの曲をR&B手法でカバーする、という中途半端なやり方ではなく、自分の最大のルーツであるブルースに徹しているということ。ここにボズの本作に対する本気度を感じるのは自分だけでしょうか。アルバムタイトルはやや逆説的ですが、このアルバムではボズは完璧に「Into The Blues」状態で、それが彼自身の艶のあるボーカルも相まって、最高の結果を生み出しています。

https://youtu.be/VrdGuLPpO98

ジャック・ウォルロス作のオリジナル「Rock And Stick」でゆったりと体を委ねるかのように気持ちよく歌うボズの声は最高。ジャック自身のハーモニカのエッジの立った演奏も、このアルバムはブルース・アルバムだぜ!と宣言しているかのよう。メンフィスの夜を思わせるボビー・ブランドの「I’ve Just Got To Forget You」のカバーも色っぽく、イントロのフレーズから曲を通じてラフながらグルーヴ満点のチャーリー・セクストンのギターが効いている「I’ve Just Got To Know」、そして一昨年出たストーンズのブルース・アルバムのあの雰囲気を強く感じさせるリズム・セクションが凄いジャック作の「Radiator 110」とどっしりとしたリズムと演奏のナンバーが続きます。

https://youtu.be/7wY_zcFgpkE

アルバムA面ラストは、ジャックボズの共作で、ちょっとチャック・ベリー風のロックンロールテイストな「Little Miss Night And Day」。ここまで聴いてもブルースだからと単調なところは一切なし。バックを固めるドラムスのジム・ケルトナー、ベースのウィリー・ウィークス、ギターのチャリ坊レイ・パーカーJr.、そしてクラプトンの再来と言われるドイル・ブラモール2世といったここ数作のバックを努める最高のメンバーの演奏もボズのボーカルを引き立てる素晴らしいグルーヴを生み出しています。

https://youtu.be/Hmj6khcLM2Y

そしてアルバムB面に移り、ちょっと驚いたのはいきなりのニール・ヤングの「On The Beach」のカバー。アフターアワーのメンフィスのバーで演奏されるスロー・ブルース・ナンバーのようなアレンジで歌われるこのバージョン、最初聴いた時はニールのカバーとは気付かず、途中で作者クレジットを見てびっくりした記憶があります。オリジナルもムーディーなナンバーですが、これを自分のブルース・スタイルに仕立て上げるあたりが、本作でのボズの素晴らしいところ。

そしてシャッフル調のブルース・ナンバーで、今度はハーモニカをドイルが担当するジミー・リードのカバー「Down In Virginia」からジャック作のややアップビートなリズムにこのアルバムで初めてホーンセクションが絡む「Those Lies」と流れるように繰り出されるブルース・ナンバーの流れは、またまたアフター・アワーのブルース・バーの雰囲気に戻ってゆったりと歌われる、ボズのアイドル、ボビー・ブランドの「The Feeling Is Gone」のカバーで静かに終わりを告げます。

ここまで読んで来て、うーんブルース・アルバムねえ、ブルースってちょっとハードル高い、なんか難しそう、みんな同じような感じの曲なんでしょう、といった印象を持たれる方も多いかもしれませんが、そういう先入観を一切捨ててとにかくボズのこの新作、ガツンと聴いてやって下さい。

何よりも凡百のブルース・アルバムとの最大の違いは、ボズの素晴らしい声。あの『Silk Degrees』から40年以上経ちますが、年齢を重ねてその艶はますます増しているかのようです。

そしてそれ以前の70年代初頭の頃のボズのアルバムを聴いた後にこのアルバムを聴いても全く違和感がないのも、それだけボズというミュージシャンの軸がぶれていないことの証明だと思いますし、だからこそこのアルバムにはボズの本気度がみなぎってるように感じるのだと思います。

まあ、堅いことは抜きにして今夜はこのアルバムを聴きながら、バーボンでも傾けることにしますか。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位82位(2018.8.11付)

同全米ロック・アルバム・チャート 最高位12位(2018.8.11付)

同全米ブルース・アルバム・チャート 最高位1位(2018.8.11付)

同全米アメリカーナ・フォーク・アルバム・チャート 最高位3位(2018.8.11付)

オフ会映像

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