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新旧お宝アルバム!#166「Laura Allan」Laura Allan (1978)

time 2020/02/17

2020.2.17

新旧お宝アルバム #166

Laura AllanLaura Allan (Elektra, 1978)

グラミーアカデミーもそしてスーパーボウルも、いずれも興奮の結果を残して終わってしまい、この時期のイベントが一巡。あとはいよいよほぼ1ヶ月後に迫ったプロ野球・MLBの開幕を待つばかりとなり、心なしか窓の外の気候も日々少しずつ緩んで来ているような気がします。河津桜は今が満開、もうすぐ梅もほころび出す中、巷は新型肺炎でザワザワしていますが、いい音楽で何とかそんなものをふっ飛ばしていきたいものです。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、70年代後半、世はディスコブームが佳境に入ろうと言う中、ひっそりとリリースされた女性シンガーソングライター、ローラ・アランの正にこの初春の雰囲気にぴったりの素敵なデビュー・アルバム『Laura Allan』(1978)をご紹介します。

このアルバム、AORファンやフリー・ソウル・ファンの間では昔から根強い人気のある作品なので、自分もこの「新旧お宝アルバム!」でとっくに紹介したものだと思ってたんですが、今回確認したらまだご紹介してないことに気が付きました。折から季節的にもこのアルバムがぴったり、ということで今回ご紹介することにした次第。

ローラ・アランという人は、カリフォルニア州出身のシンガーソングライターで、1970年頃にかのデヴィッド・クロスビーと出会い、認められてクロスビーの最初のソロ・アルバム『If I Could Only Remember My Name』(1971)収録の「Traction In The Rain」でオートハープ(ツィターの一種)を演奏したのがこの業界でのキャリアのスタートというから、最初は恵まれた出会いがあったものの、この初ソロアルバムの1978年まで随分と時間がかかったもの。

しかしこのアルバムで聴かれるソウルフルさと可憐さを両方備えた彼女のボーカルは、あの名シンガー、ヴァレリー・カーターを彷彿とさせる(ヴァレリーもこのアルバムのバックに参加してます)一度聴いたら耳から離れない、そんな魅力を持ったもの。そしてこのアルバム収録曲は1曲(1950年代に活躍したロックンロール・スターで、クラプトンもやってる「Willie And The Hand Jive」で有名なジョニー・オーティスの「So Fine」のカバー)を除いてはすべてローラの自作。またオートハープ以外にも、ダルシマーやカリンバ(親指ピアノ)など、自ら作っていたという独得な楽器を演奏するなど、ことごとく彼女の才能を感じさせるのがこのアルバムだ。

そしてこのアルバムをプロデュースしているのが、70年代はオーリーンズアンドリュー・ゴールドらを手がけて、このアルバムの後80年代にはブルース・スプリングスティーンボブ・ディランのプロデュースで大物プロデューサーとなったチャック・プロトキン。バックを固めるミュージシャンもセクションのメンバーをはじめ、当時のLAの名うての連中ばかりで、ドラムスにはジェフ・ポーカロジム・ケルトナー、ベースにチャック・レイニーリー・スクラー、ギターにはワディ・ワクテル、キーボードにビル・ペインクレイグ・ダージ、そしてバックコーラスに先述のヴァレリービル・チャンプリンと、まあ豪華な名前がズラズラと並んでいる。

結果、ローラの才能と歌声、そしてバック・ミュージシャン達の素晴らしいパフォーマンスとチャックのプロデュースによって、ある時はがっつりとしたグルーヴ満点のリズム・セクションに支えられたブルー・アイド・ソウル的な楽曲だったり、フォーキッシュな美しいバラードだったり、ローラのコケティッシュなボーカルの魅力が炸裂するポップ・ナンバーだったり…まさしく様々なスタイルの楽曲が、渾然一体と一つの作品にまとまっているのがこのアルバムだ。

渋谷系フリー・ソウル・ファンの間でも一時期人気が高かった冒頭の、アコースティック・ブルー・アイド・ソウル的な「Opening Up To You」で、ローラのボーカルが入った瞬間、ヴァレリー・カーターを想起するリスナーは多いと思うが、この曲がこのアルバムの魅力を最も雄弁に聴かせてくれる、そんな曲。ローラのカリンバの音色がドリーミーな魅力を醸し出している「Slip & Slide」や、ビル・ペインのエレピに乗って「あなたは何も自分を証明してみせなくてもいいの/あなたのままで来てくれればいいの/ただ自分らしく、あなたのままで私のところに来て」とローラが歌う歌詞が心に染みるバラード「Come As You Are」、そしてメランコリーなメロディがいい「Hole In My Bucket」など、このアルバムの前半を聴いただけで完全にローラの世界に持って行かれること間違いなし。

ロックンロール・スタイルの「So Fine」でちょっとギアをチェンジするローラは、すぐにまたアコギと控えめなドラムスをバックに、AメロからBメロへの移行がちょっと普通でないところが魅力的なバラード「Love Can Be」、アコギの弾き語りでしっとりと聴かせる「Promises」やちょっとクラシックでトラッド・フォークな感じの「Sunny Day」、そして春雨が降り注ぐようなピアノの弾き語りをバックに、叙情的なバラードでアルバムを締める「Stairway」まで、アルバム全11曲を流れるように聴かせてくれる。それは彼女のボーカルの魅力もさることながら、様々なスタイルで、フォークやクラシック、R&Bの要素を上手に取り入れて書かれた彼女の自作曲の楽曲水準の高さあってこそのことだと思う。

このアルバム、AORファンや70年代ウェストコースト・ロック・ファンの間ではつとに有名なのだが、気取らないカリフォルニア・ガールということなのか、お世辞にもスタイリッシュとはいえない服装で(赤のTシャツにプリントのフレア・スカートですぜw)しかもサンバイザー付のキャップを被って○ン○座りしてるというジャケットで、かなりイメージ的に損してるよなあ、ということでも有名なアルバム。日本では2002年に初CD化、そして2013年にはワーナーさんがデジタル・リマスタリングした素晴らしい音源を使って、新名盤探検隊シリーズの一枚として再度CDリリースされているので、中古CD屋さんに行くと結構な確率で見つけることができると思う。

一方、このジャケが災いしたのか、これだけ素晴らしい内容とバックの演奏と録音なのに、本国アメリカではまったく売れていないしチャートにも入っていないのが残念。

この後ローラはインディから『Reflections』(1980)、『Hold On To Your Dreams』(1996)、『Telegraph』(2000)と3枚のアルバムを発表したものの、いずれも商業的成功には恵まれず、2008年に惜しくもガンでこの世を去っている。

ことほどさように残念ながら華々しい脚光を浴びることはなかった彼女だけど、彼女の作品と歌声の素晴らしさはそれで価値を失うものではまったくないと思うし、今もこのアルバムを聴き返すたびに心の奥の方がほっこりと暖かくなる。そんな気持ちにしてくれる彼女の歌声を、毎年これくらいの季節になると無性に聴きたくなるというのが、彼女の素晴らしさを証明しているんだと思う。

梅や桜にはまだ少し時間があるけど、その間僕らはローラの歌声で、来たるべき春の暖かさをほんのりと感じてみたいものだ。

<チャートデータ> チャートインせず

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