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新旧お宝アルバム!#180「Duo」César Camargo Mariano & Romero Lubambo (2002)

time 2020/06/01

2020.6.1

「新旧お宝アルバム !」#180

DuoCésar Camargo Mariano & Romero Lubambo (Trama, 2002)

緊急事態宣言解除から一週間経ちますが、ある程度予想されたように感染者数等の指標がジワジワと戻ってきているようですね。この週末は解除後初の週末ということで特に都心は結構な人出になったようですし、営業再開となった施設も多いようですが、まだまだ注意しながら最低限の感染拡大防止行動は取り続けなければいけませんね。また元に戻らないようにするためにも。

さて、先週も気持ちの癒やされるオルタナ・カントリー系の作品をお届けしましたが、今週はもう6月。梅雨も目の前にして、この時期にふさわしい、こちらも心安らぐボサノバ・ジャズ系の作品をお届けします。自分もここ20年くらいというもの、仕事その他でストレスが高まった時や、本当に心を落ち着けたい時などに、折に触れて聴くアルバム。ブラジルはサンパウロ生まれのピアニスト、セザール・カマルゴ・マリアノとリオ・デ・ジャネイロ生まれのギタリスト、ロメロ・ルバンボの二人による、心洗われるような清々しいボサジャズアルバム、その名も『Duo』(2002)をご紹介します。

ボサノバと言えば普通まず名前が出てくるのがアントニオ・カルロス・ジョビンであり、アストラッド・ジルベルトといった大御所達なんですが、普段あまり英米系の音楽以外の作品を聴かない自分がなぜこの二人の音楽に出会ったのか。きっかけは今から17年前、自分が会社の駐在でニューヨークに住んでいた頃に遡ります。

当時はそれこそNYの地の利を活かして、空いた時間があれば様々なアーティストのライヴを楽しんでいたものですが、洋楽関係の友人がNYに遊びに来た際に、何か一緒に行けるライヴはないかな、と情報をチェックしていたところ、ちょうど彼の滞在期間中にかのカーネギー・ホールであの坂本龍一氏が、ブラジルのボサノバのアーティストと共演する、というのを発見。一応自分はYMO世代ですが、それまで特に熱心な坂本龍一ファンだった訳でもなく、普通であれば「ふーん」でパスするところなんですが、何となく「カーネギー」と「坂本龍一」と「ボサノバ」というのが気になって「まあそうそうカーネギーにライヴ観に行く機会もないだろうから、一度行ってみるか」とチケット購入、かの友人とライヴに足を運んだのです。

結果は大当たり坂本のピアノと、セザールのピアノがある時はバチバチと火花を散らすかのように、またある時は二人の卓越した演奏が完璧なアンサンブルを作り出し、そこにロメロのアコギが流れるように絡みつき、ゴージャスかつ刺激的な演奏が繰り広げられる、という、それまで馴染みのあるロック系のライヴとは全くテンションレベルの異なる、素晴らしいものでした。すっかり彼らの演奏に感じ入って、会場で販売されていた二人のCDを購入して帰った、それがこのアルバムとの出会いでした。

自宅で買ってきたCDを聴いてみると、ライブの緊張感や真剣勝負的なテンションは観てきたライブほどではないものの、セザールのピアノとロメロのギターが、見事なアンサンブルとライブ感で絡み合い、支え合い、どちらがリードでどちらがサブ、ということもなく、全く対等なダイナミズムで楽曲を展開している高いミュージシャンシップに心酔してしまったのです。

その後、カマルゴが若い頃から神童と言われた、ブラジル音楽界の巨匠であり、1973年にはアントニオ・カルロス・ジョビンがブラジルのジャズシンガー、エリス・レジーナ(当時のセザールの奥様)と録音した歴史的名盤と言われる『Elis & Tom』のピアニストとしてのみならず、プロデューサーとしてブラジル音楽界に確固たる実績を持った実はスゴい人だったこと、ロメロも80年代から渡米して、ハービー・マンを初め数多くのジャズ・ミュージシャン達のギタリストとして長く活躍してきたこちらも定評あるミュージシャンだったことを知り、その高いミュージシャンシップもむべなるかな、と感じ入った次第。

1994年に活動の場をアメリカに移したセザールが、NYのブルー・ノートで行ったライヴに、上記の『Elis & Tom』でセザールの音楽に心酔したというロメロが駆けつけて、そこでセザールとの交流が始まったのですが、その後数々のライヴを共にした二人が、あのライヴでの演奏を再現して録音しよう、とニュージャージーのスタジオに集まって作られたのがこのアルバム。

収録されている楽曲の3分の2は、オープニングからだんだんテンションを上げていくアレンジの、ジャヴァン作の「Samba Dobrado」、かのクリフォード・ブラウンの名曲のサックスパートをロメロのギターが見事に務める「Joy Spring」や、ロメロ作のギターとピアノが刺激的な掛け合いで展開する「Mr. Jr.」、そして「April Child」といった曲のように、軽快なアレンジで、いわゆる週末の午後にうとうとしながら聴くボサノバ、という感じではなく、聴き手に一定レベルの覚醒を要求して、その音楽の一部となることを求める、そんな感じのもの。

かと思うと流れ出る小川のせせらぎのようにセザールのピアノが心の芯まで染み渡る、セザール作の「Choro #7」や、ジョビンが例の『Elis & Tom』でエリスのボーカル入りで演奏していた「Fotografia」をオリジナルがボーカル曲であるなんて全く想像がつかないくらいにアレンジして美しいナンバーに変貌させたバージョン、そしてこれもジョビンの名盤のタイトル曲を、半分くらいのダウンテンポにしてオリジナルのシンセサイザーが印象的な覚醒したナンバーを、静かに眠りに誘い入れるかのようなセザールの抑制したピアノタッチと、ロメロのたゆとうようなギターワークが本当に素晴らしいクロージング曲「Wave」といったように、スロウな曲もいずれもプロデューサーでもあるセザールのアレンジが光る、そんな楽曲達もこのアルバムを普通のボサジャズ作品とは一味も二味も違うものにしているのです。

NYから帰任後2年ほどで転職して外資系の企業に移った後、プライベートで辛い時、仕事のストレスが耐えきれない時、この『Duo』は自分の心の友になってくれ、ある時はスロウなナンバーで自分を優しくいたわり、ある時はアップテンポなナンバーで自分を鼓舞してくれたものです。そんな頃、転職前の会社で部下だったラテン音楽ファンのS君が、その後サンパウロ駐在になっていたのですが、その彼から私の所にこのアルバムをサンパウロの有名なライヴ会場で演奏する様子を収めたDVDが送られてきました。いや、狂喜乱舞したものです。しばらくはそのDVDを繰り返し食い入るように見入る日々でした。あの二人の演奏がまた映像で見れるとは。このDVD、もちろん日本では手に入りませんし、現在は海外でも入手困難になっているようなので、今や自分の宝になっています。今回このコラムを書くに当たって、改めて見始めたのですが、結局最後まで全部見きってしまいました(笑)。卓越した音楽の力と、S君には本当に感謝してもしきれません。そしてこのDVD収録の映像は、YouTubeのレーベル公式チャンネルでその多くを視聴することができますので、是非皆さんもご覧になって下さい。

コロナの感染拡大が復活しないように、まだまだ注意が必要な日々が続きますが、季節は確実に春から風薫る五月を経て、緑がいっぱいの初夏の雰囲気になりつつあります。こんな時に、ちょっと窓をいっぱいに開けて、庭があるなら庭先に出て、あるいは近くの公園にソーシャルディスタンスを守りながら出かけて、セザールとロメロの素晴らしい演奏を聴きながらより自由な夏への期待を膨らませてみませんか

<チャートデータ> チャートインせず

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