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新旧お宝アルバム!#185「Daylight」Grace Potter (2019)

time 2020/07/13

2020.7.13

「新旧お宝アルバム !」#185

DaylightGrace Potter (Fantasy, 2019)

東京の新規感染者が4日連続200人超えという騒ぎになってますが、それよりも厚生労働省の発表による「要入院者数(220人)」が先週土曜日からいよいよ「退院者数(197人)」を上回ってることの方が懸念材料としては重要かと。厚労省もこれまでの対応は酷い部分もありましたが、このデータだけはきっちりアップデートしているので、これからはここを見ていきたいと思います。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」、前回前々回と新しめのアルバムが続いていたので一気に70年代に行こうか、とも思ったのですが、ちょっと前に買っててこの週末聴いてみたグレイス・ポッターの新作が、久しぶりに余計なこと考えずに70年代のメンフィスあたりの雰囲気をたたえていて、時にはロック、時にはカントリー・ロック、そして時には心に染みるバラードなど、様々な形で素晴らしいパフォーマンスをきかせてくれるという、予想以上にいい内容だったで、今週は一つこのアルバム『Daylight』(2019)を取り上げてみたいと思います。

アメリカ東北部ヴァーモント州出身のグレイス・ポッターは、特に高音やシャウトの時にあのジャニス・ジョプリンを彷彿とさせるハスキーな声がむちゃくちゃソウルフルな女性シンガーソングライター。自分が初めて彼女を知ったのは、自らのバンド、ザ・ノクターナルズを従えてブレイク作となった3枚目(全米最高位19位)、これぞアメリカの現代のバー・ロック・バンド!という痛快度満点なロック・アルバム『Grace Potter & The Nocturnals』(2010)でした。

いかにもバー・バンド然としたたたずまいでライブ・バーの表に並ぶ4人のメンバー(うちベーシストは後にプッシン・ブーツノラ・ジョーンズと組むキャサリン・ポッパー)の前にゴージャスでクラシックな髪型のブロンドでセクシーな衣装にハイヒール、という出で立ちのグレイスを捉えたジャケのこのアルバムのオープニングのナンバー「Paris (Ooh La La)」を初めて聴いた時の僕のぶっ飛び方は半端じゃなかったのです。迫力とセクシーさを共に備えたグレイスのキック・ユア・アス的なボーカルとヘヴィーなバンドの演奏で醸し出されるとにかくカッコいいブルース・ハード・ロック。でもアルバムはハード一辺倒ではなく、ミディアム・レゲエっぽいナンバーやファンキーなブギー・ナンバーやR&Bなアーシーなナンバー、そしてスローなカントリー・バラードなどなど、いやあアメリカにはこんな実力派バンドがごろごろいるんだなあ、と改めて思ったもんです。

続いてリリースされた『The Lion The Beast The Beat』(2012)はブラック・キーズダン・オーワーバックをプロデューサーに迎えてこちらも大ヒット(全米17位)。翌年には最初の頃からのバンドメンバーだったマット・バー(ds)とグレースがめでたく結婚。これからは順風満帆、と思われたのですが、しばらく経ってリリースされた『Midnight』(2015)は何とグレイスのソロ名義。そしてバンドの重要メンバーだったスコット・トーネット(g)が「グレースのソロのツアーには参加しない。僕に取ってはバンドは終わった」と爆弾発言。そしてその『Midnight』、ジャケを見た時からちょっと不安だったんですが、音を聴いてみて感じたのは大きな違和感でした。

楽曲自体は従来のブルースやR&B、カントリーやファンクの味わいを持ったロック・ナンバーもありましたが、明らかにコンテンポラリー・トップ40系(例えば当時であればイマジン・ドラゴンズとか初期のマルーン5とか)のスタイルのアレンジで、しかもシンセ系の音が必要以上に音像を埋め尽くしているという、明らかに彼女の良さが浮かび上がってこない内容だと当時は感じたものです。プロデュースはあのQOTSAの『Songs For The Deaf』(2002)や、スマッシュ・マウス、グッド・シャーロットといったロック系のプロデュースで実績あったエリック・ヴァレンタインだったのでこのプロダクション・スタイルは意外だったのですが、最近のグレースのインタビューを読むと「私は人の期待するものを作るのはいやなので、当時は全く違うものを作りたかった」ということなので、彼女の意志だったのでしょう。スコットの離脱もこの方向性が大きな影響があったのだろうと思いますし、このアルバム発表後の2017年にはとうとうマットと離婚。この後今回の『Daylight』リリースまでグレースは4年間沈黙を守ることになります。

そしてリリースされた『Daylight』。アルバムタイトルも前作と対照的ですが、何しろジャケを見た途端「これはイケるかも」と思わせるオーラが。そして、冒頭の「Love Is Love」を聴いた瞬間にその直感が間違ってなかったことを確信したのでした。グレース本来のソウルフルなそして伸びやかなボーカルで盛り上がっていく、ゴスペル的といってもいいR&Bミディアムナンバーで、もちろんバックも余計な音は鳴っていない、普通のバンドにオルガンが彩りをつけているくらい。そしてこのアルバム全体そうですが、楽曲が70年後半あたりのメンフィスのライブ・バーで演奏されているかのような、そんな空気感がもの凄くしっくり耳に、胸に入ってくるのです

そして続く「On My Way」がこれまたグレースの面目躍如たる、ビートの早いジャニス・ジョプリン登場、ってな感じのキック・アス・ロック・ナンバー。あー気持ちいい(笑)。そして前半R&Bバラード風から後半コール&レスポンス風のカタルシス満点のゴスペル風盛り上がりを見せる「Back To Me」もグレースのボーカルあってこその素晴らしいナンバー。そしてこの曲を含めてこのアルバム中4曲でソウルフルで分厚いバックコーラスを提供しているのが、ブルックリン出身のインディ・ポップ・バンド、ルシアスのツイン・女性リード・ボーカルでもあるジェス・ウルフホリー・レシッグの二人。次のカントリー・バラード風からサビは分厚いギターやバンドサウンドが乗っかってスケールの大きいロック・チューンに展開していく「Every Heartbeat」。ここでもグレースのボーカルが要所要所でフェイクしたりハスキー・ファルセットに一瞬入ったりするところがスリリング。そしてこの曲はPVにも登場するグレースとプロデューサーのエリックの間に2018年に生まれた息子、セイガンへの愛を真っ直ぐに歌った歌。そう、グレースは前作のプロデュースからの仲であるエリックと再婚してたんですねえ。びっくりですねえ。いやしかしそうやって聴くとこの曲はなかなか感動的ですよ。自分も思わずギターコピーとかトライしちゃいました。

そして感動といえばこのアルバムの発端の曲の一つだったという「Release」。グレースエリックが前作リリース後住んでいたロスのハリウッドに近いローレル・キャニオンからより海に近いトパンガ・キャニオンに引っ越す日に、バスタブの中でグレースがふと思いついた「あなたを解き放つわ/言葉にするのは辛いけど/もう燃やしてしまった橋にしがみついていることから/解き放ってあげる」という詞から生まれたというこの曲は、彼女に取ってこのアルバム録音に戻るために必要な曲だったようです。そしてメランコリーな曲調からこれもゴスペル的に盛り上がるこの曲を定義するかのようにバックに流れるピアノを弾いているのは、共作者でもあり、昨年惜しくもこのアルバムリリース直前に亡くなった、2010年代を通じてドートリー、レディA(旧アンティベラム)マレン・モリスなどのプロデュースでナッシュヴィルを代表するプロデューサー、バスビーことマイケル・バスビー。自分が音楽をやろうとすると周りとトラブルになることが多く、前作後は音楽をやめようかとも考えたというグレースにとって、この曲は恐らくこのアルバムの中でも最も重要な曲の一つだったのだと思います。

B面も、ミディアムR&Bのスタイルが何気にカッコいい「Shout It Out」や、アカペラで始まり、途中からナッシュヴィルのバーにいるかのようなリヴァーヴの効いたギターが寄り添う、昔のパッツィ・クラインあたりを思わせるクラシックなカントリー・バラード「Repossession」など、やはりグレースのボーカルがひたすら生きる楽曲とアレンジは、いずれも「よけいな音がなってない、必要な音だけが鳴っている」ということに尽きます。このアルバム中唯一スタイルが異なる「Desire」に続いて冒頭の「Love Is Love」そして「Release」同様、バスビーとの共作の「Everyday Love」もコード進行といい、バックのリヴァーヴの効いたギターといい、こちらは60年代のグレン・キャンベルジミー・ウェッブとの作品群を思わせるようなクラシックなアレンジから、後半グレースらしくロックっぽく上り詰めていくあたりが快感のナンバー。

そしてこのアルバムを通じてのもう一人の重要メンバー、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズベンモンド・テンチのピアノ・リフが、こちらは往年のライチャス・ブラザーズのR&Bバラードを思わせる「Please」。でもアレンジはフィル・スペクターではなく、オルガンなども効いた、あくまでもメンフィス仕様なのが心地いいところです。そしてアルバムを締めるのは、珍しくノイジーなギターの音からグレースのシャウトから始まって一気にダウンテンポした後、アルバム全体の締めくくりにふさわしく、ジワジワとブルース・ロック的なスローな展開から一気にグレースのボーカルがこれでもかと迫ってくるこれも70年代ロックな「Daylight」。

とにかくこのアルバム、グレースの基本である、ロックでカントリーでブギーでブルースでR&Bなスタイルに立ち戻って作られている作品なのが大変うれしいところですが、単に基本に戻っただけでなく、いろいろな経験と苦難を超えたことがしっかり滋養になって、それが彼女の書く楽曲や、パフォーマンスそして表現力に大きな深みと価値を加えているように聞こえました。

このアルバムリリース後、1月から3月にかけて全米ツアーも行ったグレースエリック。幸いコロナ禍が始まる直前にツアーを終了できたようなので、おそらく本人は今、やりきった感と、今のコロナの状況の中次をどう踏み出していくかをいろいろと考えているのかもしれません。いや、むしろこのコロナによる活動中断を、息子セイガン君と夫エリックとの家族をはぐくむ大事な時間として大いに楽しんでいるんでしょう。そうした経験から、また次の素晴らしい作品が生まれることを期待して、今はこの『Daylight』に詰められた、グレースの新しい人生のステージについてのステートメントを彼女の素晴らしいボーカルと共にただ楽しむこととしたいものです。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位74位(2019.11.9付)

全米ロック・アルバム・チャート最高位9位(2019.11.9付)

オフ会映像

ひたすら・・・歌い出しがタイトル!の全米トップ40ヒットを聴く飲み会

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