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新旧お宝アルバム!#187「Punisher」Phoebe Bridgers (2020)

time 2020/08/03

2020.8.3

「新旧お宝アルバム !」#187

PunisherPhoebe Bridgers (Dead Oceans, 2020)

コロナの新規感染者数の増加が続く中、これまでと異なった社会との関係性を改めて見つめ直したように思える作品や、通常の状況と異なる、ライブもできない、基本的に自宅にこもっているといった状況で予期しない形で生み出される作品なども発表され始めているここ最近ですが、今週の「新旧お宝アルバム!」では、ある意味ウィズ・コロナのこの状況にしっくり来る、そんなことをふと思わせるようなサウンドスケープと歌詞を持った楽曲で埋め尽くされた、LA出身の若き女性シンガーソングライター、フィービー・ブリッジャーズの2作目『Punisher』(2020)をご紹介します。

実は昨日今週のこのコラムでどのアルバムを取り上げようか、と考えていた時、先週突然予告なしにドロップされたテイラー・スウィフトの話題の新作『folklore』を聴いてました。テイラーがインディー・ロック・バンドのザ・ナショナルアーロン・デスナーや、あのボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンとコラボしてると聞いて、どんなアルバムになってるんだろう?と思っていたし、ある日本の音楽メディアでは「インディー・ロックへの転換」なんて論評もされていたので、興味津津で聴いてみたのです。そして自分の感想としては、これは「インディー・ロックへの転換」なんかではなくて、デビュー以来いろいろ表現スタイルを変えながら、コンテンポラリー・ポップにどんどん接近していっていたテイラーだったけど、改めて自分のこれまで経験したこと、感じたことをいつものように表現している、その表現スタイルが、いわゆるインディー・ポップやインディー・フォークのアプローチを取っているだけで、これまでと全く変わらないテイラーがそこにいる、そんなアルバム。むしろコンテンポラリー・ポップ・スタイルの余計な打ち込み音や派手なビートがない分、彼女のストレートな心情と自己を客観的に見た上での表現が素直に表されている、そんなアルバムだと感じました。

そしてもう一つ。『folklore』を聴いてて、アルバム全体の楽曲の肌合いとサウンドスケープのトーンとボーカルの感じが織りなす雰囲気が想起させたのは、1ヶ月ほど前に聴いて同じようなことを強く感じさせたこのフィービー・ブリッジャーズの『Punisher』だったのです。このアルバムがリリースされたのが6月中旬だったので、このアルバムを聴いてテイラーがアルバムのコンセプトを決めた訳はないのですが、ある意味フィービーのこの作品は、最近の同世代の女性インディー・ロック・シンガーソングライター達(シャロン・ヴァン・エッテンエンジェル・オルセン、そして後述しますがフィービーが「ボーイジニアス」名義でコラボしているジュリエン・ベイカーなど)の作品スタイルに共通したサウンドスタイルなので、テイラーがコロナ自粛で時間が存分にある中で作品を作るにあたって、こうしたスタイルでいこう、と考えてアーロンジャスティンにコンタクトした、というのは大いに有り得る話じゃないかな、と思ってます。それがたまたまそういうアプローチのエッセンスをポップセンスもふんだんに持った形にしている、フィービーのアルバムのサウンドスケープとマッチした、ということかなと。

そう、インディー・ロックというとややもすれば時に先鋭的に、ノイズなんかも交えながら、サウンド的にもエッジの立ったギターサウンドとかが一般的なメインストリーム・ポップ・ファンだとちょっと入れない感じのサウンドを想像するかもしれませんが、フィービーの作品はホントに楽曲が基本的なポップセンスに裏打ちされた、魅力的なメロディとリズムの曲ばかり。この『Punisher』もそうした楽曲で満載です。

そして一方、そのサウンド以上に彼女の作品は、自己の内面や経験にもとづいた、どちらかというとやや暗めの心象を率直に表現する、いわゆる「エモ」な描写や独白、といった感じのものが多いようです。アルバムのオープニングのまるでホラー映画のサントラ盤からのワンフレーズ、といった感じの「DVD Menu」という1分ほどのインストに続いて始まる「Garden Song」でドリーミーなエレクトロなバックグラウンドにのってフィービーのふわっとしたボーカルが歌うのは、彼女の夢にしょっちゅう出てくる悪夢の風景だそうで、こうした切り口の歌詞の曲が、一見(というか一聴)耳になじみやすいインディー・ポップスタイルで歌われる当たりが彼女の作品の秀逸なところですね。

ダウンテンポな曲がほとんどを占めるこのアルバム中、2曲しかないアップテンポの曲が次の「Kyoto」。この曲、彼女が2019年に来日した時の経験をもとにしたということなんですが「今日は京都でオフ/お寺も飽きたし/セブンで時間つぶして/バンドのメンバーはゲーセン行ったけどあたしは行かなかった/日本ってまだ公衆電話あるのよ」というそれ風の歌詞がポップなインディー・ロック調のビートで歌われる一方、曲の後半になると別れた元カレの誕生日に10日遅れで電話した、なんていう彼女の個人的心象にテーマが移っていく、といったように彼女の頭に浮かんでは消える様々な感情や心象風景が次々に溢れ出てくる、今時の20代のLAの女の子らしいといえばそうなのかも、と思わせるような曲です。そしてこのベタなPV(笑)。何とこのアルバムのジャケでも披露している骸骨のスーツを着て、グリーンスクリーンに映し出される日本の光景をバックに(ホントは日本でロケしたかったらしいのですが、何分コロナなのでこうなったようで)嬉々とした感じでこの曲を歌うフィービーに、うーん今時のアメリカの大都会に住む女の子ってこういう感性なのかあ、と変に同じ年頃の娘を持つオヤジとしては納得したのでした(笑)。

アルバムタイトル曲の「Punisher」もやはりドリーミーなインディー・ポップ風の曲。骸骨スーツの趣味に通じる題材の「Halloween」はささやくようなフィービーのボーカルがたゆようようなソフトなエレクトロなトラックなのに歌詞にはスタジアムに来たファンが殺される話が顔を出したりしてドキッとさせられます。でも楽曲の雰囲気はドリーミーで、バックボーカルには、このアルバムの前に「ベター・オブリヴィオン・コミュニティ・センター」名義でデュオを組んでアルバムを出した、シンガーソングライター、コナー・オバーストが参加してます。

ゆったりとした楽曲が続く中、アルバム最後の2曲は、前述した「ボーイジニアス」名義で一緒にアルバムを作ったジュリエン・ベイカールーシー・デイカスが参加して、いわば「ボーイジニアス・パート2」的に3人による演奏とコーラスの曲でアルバムが終わるようになっています。その1曲目の「Graceland Too」は、プロデューサーのトニー・バーグの弾くイントロがふとテイラーの「Teardrops On My Guitar」を思わせて、「彼女は決心して靴紐をギュッと締めて/言い訳せずに部屋を出て行った/彼女は自分のやりたいことができる/家には戻れるけど、彼女は決してそうしない」という歌詞もあいまって、これってひょっとしてテイラーに対するオマージュ?と思わせる曲。

そしてアルバム最後の「I Know The End」は何やら黙示録的な内容で、終わりに近づいた世界を描写した歌詞が、最初は静かに、しかしエンディングに向かって大コーラスなども交えながら次第にクライマックスに向かっていく、そんな映画のフィナーレのような曲。そして終わり頃からはフィービーの叫び声が大音響のクライマックスと重なり、最後は、そうした悪夢からガバッと覚めた直後のような死にそうなフィービの息づかいで終わる、といういろんな意味で印象に残る終わり方をするアルバム構成になっています。

フィービーのこの作品、2枚目のジンクスも何のその、音楽メディア各誌ではかなり高い評価を集めています。ファーストの『Stranger In The Alps』(2017)(こちらもジャケにはオバQのようなハロウィーンのお化けの格好をしたフィービーの姿が)は、彼女の音楽キャリアの初期にサポートしていたライアン・アダムスに実は性的暴力を受けていたことを暴露した曲「Motion Sickness」で話題を集めると共に、作品自体も高く評価されていたのですが、今回の『Punisher』は全米、全英チャートにも上位にランクされ、ようやく彼女の評価が商業的成果につながった作品となりました。また彼女は今年リリースされたUKのインディー・エレクトロ・バンド、ザ・1975のアルバム『Notes On A Conditional Form』(2020)で3曲のフィーチャーされるなど、様々な形で露出していて、今年の話題のアーティストの一人になることが期待されてます。ひょっとしたら資格あるので来年発表のグラミー賞の主要部門(少なくとも新人賞)を賑わすのでは?と今から期待しています。

実は彼女、今年の3月に、テイラーの『folklore』で全面コラボしていたアーロン率いるザ・ナショナルのオープニング・アクトとして来日するはずだったんです。1月にこの発表があった時、自分は「おお!これは絶対観に行かねば!」と思ってチケット買ったんですが、残念ながらコロナのために公演は中止。その後今月のフジロックにもフィービーが出るということでこちらも楽しみにしていたのですが、ご存知のように来年延期になって、今年の注目アーティストを観るチャンスを半年で2回も逃しているのが個人的には残念。いずれにしてもテイラーとはザ・ナショナルというバンドを共通項に、図らずも自らの人生と心情を吐露したアルバムを作り上げたフィービーですが、音楽メディアのみならず一般メディアも大きく取り上げるだろうテイラーの新譜とは違い、まだまだメディアにその名前が載ることも少ないフィービーの、この素晴らしい作品を是非一人でも多くの人に聴いて頂きたいなあ、そして来年には彼女のライブを観たいなあ、というのが自分の今の願いなのです。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位43位(2020.7.4付)

同全米オルタナティブ・アルバム・チャート 最高位2位(2020.7.4付)

全英アルバムチャート 最高位6位(2020.7.2付)

オフ会映像

ひたすら・・・歌い出しがタイトル!の全米トップ40ヒットを聴く飲み会

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