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【新旧お宝アルバム!特別企画】第63回グラミー賞ノミネーション発表直前大予想(パート2)

time 2020/11/24

さて、昨日に続いて来年1/31(日本時間2/1)発表予定の第63回グラミー賞、主要4部門の残り2部門、最優秀アルバム部門と最優秀ソング部門のノミネートの予想、行ってみます。こちらも筆者がnote.comにポストした記事のダイジェスト版になっていますので、フル・バージョンがご覧になりたい方は、下記のリンクをチェック下さい。

ではさっそく行きましょう。

3.最優秀アルバム部門(Album Of The Year)ノミネーション予想

個人的には主要4賞のうちで最も作品に対する評価度が高くて重要だと思ってる部門がこの最優秀アルバム部門。そしてこれって、アーティスト達も同様に思ってるんだと思います。去年はビリー・アイリッシュが主要4部門を総取りして議論の余地がなかったわけですが、過去には第52回(2010)にビヨンセの『I Am…Sasha Fierce』を抑えてテイラーの『Fearless』が取ったんで、カニエが抗議のために乱入して来て物議を醸したのは記憶に新しいところ(カニエは、第57回(2015)にベックの『Morning Phase』がビヨンセの『Beyoncé』を抑えて受賞した時も乱入してましたw)。最近ではやはりビヨンセの『Lemonade』を抑えて『25』で受賞したアデルが受賞スピーチで「この賞はビヨンセにこそふさわしい」と語ったりしたことが、この部門の重要性を物語ってますよねえ。また、過去にROYとSOYは取ってもアルバムが取れていないケースが14回あることも(一番最近では昨年第61回で、チャイルディッシュ・ガンビーノがROYとSOYを取るもアルバムはケイシー・マスグレイヴスに譲った)、この賞の重要性をあらわしてる気がします。ということで予想です。

Fetch The Bolt Cutters – Fiona Apple

はい、今年の洋楽シーンでテイラーの『folklore』とはまた違った観点でこのコロナ禍の中で最も話題を集めた、フィオナ・アップルのアルバムです。フィオナのエキセントリックなパフォーマンスが、全体ピアノとかだけでなくいろんな変わったパーカッション(フィオナの死んだ犬の骨なんかも使われてるらしい)によるリズムと様々なサウンドビット(犬の吠え声とか)で彩られている、ピッチフォーク誌が10点満点付けたこのアルバムは、先程から話している純粋に作品のシーンへのインパクトやクリエイティブな質の高さ、という意味だと少なくともノミネートはされないといかんでしょうね(オルタナティブ・アルバム部門には間違いなくノミネートされるでしょうけど)。ちなみにピッチフォークの10点は、2010年のカニエ・ウェストMy Beautiful Dark Twisted Fantasy』らしいですけど、このカニエのアルバム、その年のグラミーに見事に無視されてしまってますから、このアルバムがノミネートされるかどうかってのはある意味アカデミーの姿勢の変化のリトマス試験紙になるかも。個人的には最初大変取っ付き悪かったんですが(一曲目の「I Want You To Love Me」でのフィオナヨーコ・オノばりの奇声が良くなかったw)、何度か聴き返すにつけ、特にタイトル曲なんかは奇妙な吸引力があるなあと思うようになりました。さてこのアルバム、ノミネートされるでしょうか。

Punisher – Phoebe Bridgers

はい、新人賞部門ノミネート候補にも挙げたフィービ・ブリッジャーズのアルバム『Punisher』もこの部門ノミネート候補にあげてみました。このアルバムについては自分の「新旧お宝アルバム!」でここnoteでもレビューしてるので詳しくはそちらの記事を見て頂きたいのですが、このアルバムも今年のコロナ禍の中、今回のグラミーの台風の目になっていると思われるテイラーの『folklore』の、ひょっとしたらインスピレーションになったアルバムではないか、と思うくらいテイラーのあのアルバムと作品の佇まいというか、作品へのアプローチや、サウンドの使い方がどことなく似てるんですよね。もう一つこのアルバムが秀逸なのは、極めて内省的で恐怖や不安といったような感情を表現していて、その表現手法はいわゆるインディ・フォークやオルタナティブ・ミュージックなのだけど、とても優れたポップセンスに裏打ちされている点。このアルバムもやはり主要部門にノミネートされてもおかしくないレベルの作品だと思います。

Rough And Rowdy Ways  – Bob Dylan

ディランがノーベル文学賞を受賞してから初めてのオリジナル・アルバム(彼の2017年のアルバム『Triplicate』はアメリカン・スタンダードのカバーアルバムでした)となったこのアルバム自体が大きな話題でしたが、中でも特に注目を集めたのがアルバムリリース前にYouTubeにリリースされた、16分を超える大作「Murder Most Foul」でしたよね。ケネディ大統領暗殺事件を中心に、過去から現在に至るアメリカ社会の凋落や、ビートルズをはじめとした様々なミュージシャンやポップ・カルチャーへの言及をディラン独特の鋭い言葉で訥々と語るように歌われるこの曲は、御年79歳の作品とは思えないほど、一種の文学作品のような名作でした。でもディランの凄さはそれだけじゃなくて、この曲を収録したアルバム自体が、オリジナルの作品群、それも今は伝説になったロックミュージシャンが引退前の手慰みにやってみました、なんてものでは全然なく、いずれも第一線のアーティストとしておかしくない、クオリティと力強さに満ちた楽曲満載。これもまた、アカデミーとしては絶対無視できないアルバムでしょう。まあ、ディランの場合、90年代後半以降充実した作品を立て続けに出すネオ黄金期に入ろうとしていた1998年(第40回)のこの部門で、その年の代表作、レディへの『OK Computer』を抑えて受賞してますから、大丈夫でしょうけどね。

Circles – Mac Miller

ここ数年、ポップチャートのメインストリームがヒップホップ、それもマスプロでステレオタイプ的なトラップ作品を大量生産するアーティストで占められていることは果たしてシーン全体にとっていいことなのかな、と思うことがよくありました。どんな音楽ジャンルでも、そのジャンルが盛り上がる時というのは様々な多様なスタイルや表現でアーティスト達がしのぎを削ることによって、そのジャンル全体が高められていくというのが社会文化的には一種の王道パターンだと思うんですよね。50年代に生まれたロックンロールが60年代後半にサイケデリックやガレージ、ブラスロックなど多様化していったり、70年代末にストリート・サブカルチャーとして生まれたヒップホップが90年代に70-80年代のR&Bの系譜と合流して豊かな発展を遂げたり、というのはその例だと。一方最近のヒップホップ、いやトラップ・シーンって正直みんな同じスタイルで、リリックの内容もいわゆるエモ・ラッパーと言われるジュースWRLDら以外は、いわゆる金と女と何とかと、という感じでクリエイターとしての貧困さを感じてしまうんですよね。

そういう意味で、マック・ミラーの遺作となったこの『Circle』はヒップホップアーティストの作品であることを超えた名盤だと思うんです。もはやラップとか歌とかそういうスタイルにこだわらず、自分の心情とか考えを自然に生まれてくるサウンドスケープに乗せて表現していて、かつそうした丹念に作り込まれたサウンドなりメロディなりリズムなりが聴く私達に不思議な安らぎというか、心の平静さを届けてくれるようなそんな気がする作品。このアルバムを聴くと、マックの頭の中にはまだまだ彼が表現したいこと、語りたいことがいっぱい詰まっていて、ラップというのはその表現手法の一つに過ぎなかったんだ、ということがヒシヒシと伝わって来ます。プロデューサーのジョン・ブライオンもいい仕事をしてて、アップル・ミュージックに掲載されている彼のコメントを読んでも、彼とマックが楽しみながらこのアルバムの元となった音源を造り、マック亡き後はジョンマックだったらこうしただろう、と精一杯考えながらアルバムを仕上げたことが判ります。音楽メディアの今年の年間ベストランキングの上位にきっと挙げられるであろうこの作品、是非ノミネートされて欲しいなあ。

Shoot For The Stars, Aim For The Moon – Pop Smoke

そんなマスプロなトラップ・ラッパーたちで占められた今年のヒップホップ・シーンからこの部門にオーセンティックなラッパーの作品をノミネートするとしたら、リルベイビーでもダベイビーでもロディ・リッチでもフューチャーでもなく、トラップのサブジャンルであるドリル・シーンから出てきていながら、サウンド的にも単なるトラップとは一線を画したスタイルの作品が今年静かな人気と評価を集めている、このポップ・スモークの遺作でしょうね。彼の悲劇的運命に対する同情とかそういうことだけではなく、彼の作品がブレイク当初からTikTokをはじめとするSNSで何度もバズっていることとか(彼の「Mood Swings」の歌詞をコメディ・スケッチにした動画がバイラルになったなど)、他のドリル・アーティストとは異なり、R&B的要素を強く出した、スロウなトラックが多く人気を呼んでいることとか(「What You Know Bout Love」はジニュワインの2001年のヒット曲「Differences」をメイントラックのループとしてサンプリングしているなど)、いくつかのユニークな点がこのアルバムをロングラン・ヒットにしている要素なんだと思います。さてどうなりますか。

Hollywood’s Bleeding – Post Malone

最優秀レコード部門の予想のところでも言いましたが、去年のグラミーの対象期間締切直後(去年は通常より1ヶ月早く締め切られた)にリリースされたこのアルバム、本来は去年のグラミーを意識してリリーススケジュールが組まれてたんだと思うんです。その前年にもこの部門に前作『beerbongs & bentleys』がノミネートされていたポスティとしては、このアルバムで結構狙いに行ってたんではないかと。それをある意味裏付けるように、このアルバムの先行シングルでもあったスウェイ・リーとのコラボでポスティ3曲目のナンバーワンヒットになった『Sunflower (Spider-Man: Into The Spider-Verse)』にしても、もう一曲のナンバーワンとなった『Circles』にしても、それまでのトラップ・ベースのポップな感じの楽曲から、完全にポスティ風メインストリーム・ポップの世界に一段広がった世界をこのアルバムでは聴かせてくれてます。そういう意味では、このアルバムはヒップホップ・アルバムではもはやなく「ヒップホップ・フレイバーの質の高いポップ・アルバム」と言うべき。そしてそれって今のメインストリームとしては極めて強力なポジショニングですよね。特に既に確固たる人気を確保してるポスティにとっては。

folklore – Taylor Swift

そしていよいよ登場、テイラーの『folklore』。このアルバムのウィズ・コロナの同時代性において優れている点とか、これまでのメインストリーム・ポップのスタイルからアーロン・デスナーザ・ナショナル)というインディ・ロックのコンテクストを注入してくれる強力な助っ人を得ての、インディ・フォークというか、オルタナ・ロック作品的に優れた作品になっている点とか、もう既に自分も含めていろんな音楽メディアで盛んに言われてるのは皆さんもご存知のとおり。ある意味それほどに今年話題になった作品であり、アメリカで一番売れたアルバム(現時点で今年リリース作品で100万枚を売り上げてるのはこの作品だけのはずです)であり、初めてオルタナティブ・アルバム・チャートで1位を記録するなど、彼女のキャリアをいろんな意味で再定義した作品になりました。

テイラーは既にこの部門、第52回(2010)で『Fearless』で(あのカニエ乱入事件の年ですw)、そして第58回(2016)で『1989』(この年はケンドリック・ラマーのこれも2010年代を代表する『To Pimp A Butterfly』を抑えて受賞)で2度受賞してます。もし今回ノミネートされて受賞したとすると、フランク・シナトラ(第2回、第8回、第9回)とスティーヴィー・ワンダー(第16回、第18回、第19回)の最多受賞記録に並ぶわけで、これって何だかんだ言って凄いことだと思うんです。いずれにしても、僕の受賞予想でも多分本命◎を打つと思いますね。

After Hours – The Weeknd

ザ・ウィークンドはこの部門、第58回(2016)に『Beauty Behind The Madness』でノミネートされていて、テイラーの『1989』に後塵を拝してます。2020年は「Blinding Lights」の大ヒットはあったものの、このアルバムがシーンや音楽メディアでことさらに絶賛されているような感じは受けなかったんですが、改めて各メディアの評価などを見てみると、ピッチフォークが7.9点、ペイスト誌が7.5点、その他NMEやローリング・ストーン誌とかも軒並み高い評価ですね。メジャー・デビューする前にリリースした3枚組のミックステープ『Trilogy』(2012)の世界観をようやく完成形に近づけた作品になっている、ということなんでこのアルバム改めて聴いてみてるんですが、かたや『Trilogy』は簡単な生楽器と打込みサンプリングだけで構成されていたのに対し、このアルバムはとてもリッチなサウンド・プロダクションで楽曲が作り上げられていて、プロデューサー陣も『Trilogy』時代からのパートナーであるアイランジェロ、去年リゾを手がけて脚光を浴びたリッキー・リード、そして半分以上の楽曲を今や大ポッププロデューサーとなったマックス・マーティンといった重厚で隙のない布陣で固めていて、それぞれがさすがの仕事ぶり。ザ・ウィークンドのボーカルもなかなか冴え渡っていて、これは2016年以来のノミネート候補作としては充分の内容だな、と思いました。思うに「Blinding Lights」の血みどろPVが自分にとってはかなり×だったのがこのアルバムの全体の印象を悪くしてたようです。

さて以上8作品、最優秀アルバム部門ノミネート予想でした。これ以外にあるかも、と思ったのは、ディキシー・チックス改めザ・チックスの『Gaslighter』、ハリー・スタイルズFine Line』、テイム・インパラThe Slow Rush』、ジェネ・アイコChilombo』、ジュースWRLDLegends Never Die』、レディ・ガガChromatica』、ルーク・コムズWhat You See Is What You Get』といったところ。この部門も例年意表を突くようなノミネートがあるのでどうなるか判りませんが、予想どの程度ヒットしますか。

4.最優秀ソング部門(Song Of The Year)ノミネーション予想

一点注釈ですが、このSOY部門は、アーティストへの賞ではなく、楽曲の作曲者に与えられる賞です。なので、アーティストが、ノミネート楽曲の作者に加わってない場合は、アーティストは受賞者ではない、ということになります。この辺ご注意下さい。

I Hope – Gabby Barrett Featuring Charlie Puth(作者:Gabby Barrett, Zach Kale & Jon Nite

まず最初のSOYノミネート予想は、新人賞部門ノミネート予想したギャビーの今年を代表するヒット曲の一つ「I Hope」。新人賞の予想のところでも書きましたが、この曲、浮気をしている彼氏に対するうたで、あなたの浮気相手もあなたの知らないところであなたを裏切ってるといいなあ、なんて、結構さらっとした言葉でギクッとするようなメッセージを歌いこんでいるあたりが「うた」として秀逸だと思います。単なるラブ・ソングや、浮気しているパートナーに対する恨みつらみを歌うのではなく、ちょっと角度を変えてエモーションをしっかり伝えるあたりがなかなか強力。もともとは別れた彼氏に幸せを祈る、というしおらしい内容だったらしいですが、ギャビー自身が「いやいやそれではおもろないやろ」(何で関西弁やねんw)ということで、こうしたツイストの効いた歌詞に変えたとのこと。そうした歌詞に共感する女性も少なくないと思うし、彼女、作者としての才能あるなあと思います。

この曲、先日開催された今年のCMAカントリー・ミュージック協会)アウォードで、最優秀シングル部門にノミネートされてましたが、惜しくもマレン・モリスの「The Bones」に敗れています。さてグラミーでその雪辱を果たすのか。またチャート上でも、マレン・モリスThe Bones」はHot 100では最高位12位(2020/4/8付)ですが、カントリー・ソングス・チャートでは3/14付でチャートイン53週目でダン+シェイとジャスティン・ビーバーの「10,000 Hours」を蹴落として1位になり、そのまま19週1位をキープ。その時点で最も時間をかけて当該チャートの1位になった記録と、テイラーの「We Are Never Ever Getting Back Together」(2012)の11週を抜いて、女性シンガー最長1位の記録も樹立したのですが、前者はその「The Bones」を64週目で蹴落として1位になったこの「I Hope」が更新してます。その後2回ほど1位から転落しながら返り咲き、今週現在で通算16週目のカントリー・ソングス・チャート1位を継続中のギャビー。今週なんとHot 100でもチャートイン46週目で3位赤丸上昇中、と今年の後半をフルに時間かけてヒットしてるこの曲、何とかノミネートだけでもしてあげたいなあ。

Murder Most Foul – Bob Dylan(作者:Bob Dylan

ソング部門ノミネート予想2曲目は、まあこれが今年ノミネートされるかどうかはかなり微妙な気もするんですが、やはり「うたの作品としての完成度」という点だと外せないんじゃないかなあ、ということでディランの「最も卑劣な殺人(Murder Most Foul)」。アルバム部門ノミネート予想のところでも書いたけど、ケネディ暗殺以降のアメリカの精神的道徳的な凋落のようなものをシニカルに語りながら、一方でそのアメリカを彩ったポピュラー音楽、ロック、ジャズ、ブルース、映画、演劇やそれらのパフォーマーやアーティスト達の名前を羅列してアメリカの存在感 イコール ポップ・カルチャーの権化としての存在感である、とでもいうような一大叙事詩のように淡々とディランが語るように歌う16分超のこの曲は圧巻です。

各ヴァースの流れ方やいろいろな暗喩や固有名詞を多く含む歌詞なんかは、やはり「ロックの死、音楽の死」といった暗いテーマを歌ったドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」を想起させるのだけど、曲調はあの曲のように明るくなく、ひたすら薄暗がりの中で老詩人がつぶやいている、といった風情なのが一層この曲の存在感を増しています。この曲、リリースされた週の4/11付ビルボード誌のロック・デジタル・ソング・チャートに1位初登場し、ディランの楽曲としては初めてのビルボード誌チャートの1位を記録した、というあんまりどうでもいい点(笑)でもちょっと話題になってましたね。いずれにしてもこのビートニク詩人の作品のようなこの曲がノミネートされたら「おお、アカデミーもいろいろ目配りしてるなあ」と評価したいですね。

The Bigger Picture – Lil Baby(作者:Dominique Jones, Rai’Shaun Williams & Noah Pettigrew

3曲目のノミネート予想は、最優秀レコード部門のノミネートにも予想した、リル・ベイビーの「The Bigger Picture」。いやこれ、今年5月の警官によるジョージ・フロイド殺害事件に端を発した、今年のBlack Lives Matter関連の一連の事件とムーヴメントを真っ正面から取り上げていて、「ここはアメリカ、おれの近所は銃を持ってないとヤバい」「黒人だったら金稼がなきゃ、とおばあちゃんは言ってた」とラップしてたチャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」の何倍も直接的に、具体的にこの問題を機関銃のようなフロウに乗せてるところに社会文化的な大きなインパクトがあると思うから、「This Is America」がROYとSOYを総なめにするんだったら、この曲だって充分に、いやあの曲以上に可能性あると思うんだが

そしてこのリル・ベイビーの曲の特筆すべきは、そのリリックの内容が一方的に警官を糾弾していたりとか、白人への敵意を表明したりとかしているのではなく、「愛する人に外出するときは銃を忘れるなって言わなきゃいけないなんておかしいぜ」と警官を怖れざるを得ない黒人達の状況を淡々と語りつつ、「全ての有色人種がバカなわけじゃない/全ての白人が人種差別主義者なわけじゃない/オレは人を考えと心で判断する/顔の色なんか関係ねえ」と、全米を分断に導いているトランプ大統領のやり方とそれと同じ考え方をする人々の考えを明確に否定しながら、「問題は黒人だからとか白人だからなんかを大きく超えてる(It’s bigger than Black and White)/こんなこと一夜にして解決するはずない/でも解決に向けてどこかから始めなきゃいけない/始めるんだったら今日始めるしかない」と前向きなメッセージを発していること。2年前のチャイルディッシュ・ガンビーノの衝撃がまだ残る中、こういう曲がROYでもSOYでも取ると凄く意味あるな、と思う次第。

The Bones – Maren Morris(作者:Maren Morris, Jimmy Robbins & Laura Veltz

さてさっき何度も名前が出てきたマレン・モリスの「The Bones」が4曲目のノミネート予想曲です。ギャビー・バレットの「I Hope」と正面対決、みたいになってる、アルバム『GIRL』に収録の曲ですが、曲の内容もギャビーの方がネガティブな感情をさりげなく表現しているのに対し、こちらは「あなたとあたしの関係のコアな部分(The Bones)がしっかりしてれば後は関係ない/表面的な問題はいくらでもあると思うけど/二人がしっかりしていればそういう問題は解決するもの」と、随分とポジティブなメッセージの曲です。このコロナ禍の中で耐えているアメリカの、特にカントリーファン達には随分と琴線に触れるところがあったと見えて、ギャビーのところでも触れたように、先日開催のCMAアウォードで見事最優秀シングルを獲得しているので、まずこの部門ノミネートは間違いないところでしょう。楽曲もカントリーの香りはあまりないメインストリーム・ポップで、プロデュースはアデルを始め数々の大ヒットポップ作品を手がけ、第59回、60回と2年連続最優秀プロデューサー部門を制しているグレッグ・カースティンと楽曲作りの体制に隙はありません。なおこの曲、ギャビーの「I Hope」がチャーリー・プースを加えたリミックス・バージョンがあったように、アイルランドのシンガーソングライター、ホージャーを加えたリミックスがあるらしいです。

2年前の第61回グラミーではROYとSOYでノミネートされた「The Middle」でそのパワフルな歌唱力で「もういい加減ケンカは止めてお互いに真ん中で折り合わない?」と歌っていたマレン、その時は曲作りには参加していませんでしたが、今回はトーマス・レットの「It Goes Like This」(2013年25位)やキース・アーバン&ミランダ・ランバートの「We Were Us」(同26位)の共作者として知られるジミー・ロビンスと、ダン+シェイの大ヒット「Speechless」(2018年24位)の共作者でNY出身のソングライター、ローラ・ヴェルツとの共作で、マレンも名前を連ねてこの部門の受賞資格を確保してますね。主要部門のノミネートは第59回新人賞、「The Middle」の第61回ROYに続く3回目にして、この曲で初受賞を狙える位置にあると思います(主要部門以外では第59回最優秀カントリー・ソロ・パフォーマンス部門を「My Church」で受賞してます)。

Circles – Post Malone(作者:Austin Post, Louis Bell, Adam Feeney & Billy Walsh

5曲目のノミネート予想曲は、これもROYのノミネート予想に挙げていた、ポスティの「Circles」。ただひたすらポップソングとして素晴らしいこの曲、ポスティに取って4曲目のナンバーワン・ヒットですが、彼の単独クレジットの曲としては初めてのナンバーワンなんですよねえ。それまではトラップ・ポップ的な作風だったし、フィーチャリングXXXってのが今時の流行りなわけで、そういう意味でも名実共にソングスター、ポスティの力量とパフォーマンスを存分に発揮した楽曲でしょう。加えてこの曲、トップ10内39週チャートインという、Hot 100の記録まで打ち立ててます(と言っていたら、歴代2位のザ・ウィークンドの「Blinding Lights」が今週現在39週目で並んでしまいました。現在5位なので、この記録、間違いなく更新しそう)。

いずれにしても今回のグラミー対象期間には入っているものの、どちらかというと去年のヒット、という感じになってしまったこの曲がどれくらいの存在感を発揮できるかがキモなんでは。今年はしかもテイラーとかウィークンドとかいろいろ強敵も多いので去年後半にリミッター一杯に振り切るくらいアーティストパワーがあったポスティが、どれくらい可能性を確保できるかは正直未知数ですね。ちなみに作者はポスティ自身(オースティン・ポストは彼の本名)と、ホルジーラナ・デル・レイとの仕事で知られるルイ・ベル、今売れっ子プロデューサーのフランク・デュークスことアダム・フィーニーのこの曲のプロデューサーチームに加え、これまでのポスティのほとんど全ての楽曲作りに絡んでいて、ザ・ウィークンドジェイムス・ブレイクのスタイリストもやってるというビリー・ウォルシュの4人の共作でした。

Watermelon Sugar – Harry Styles(作者:Harry Styles, Mitch Rowland, Tyler Johnson & Thomas Hull

6曲目のノミネート予想曲は、もう元ワンダイワン・ダイレクション)という枕詞は不要なくらい、ソロアーティストとしても充分な実績を積み重ねてきたハリー・スタイルズのアルバム『Fine Line』からの4枚目のシングル、「Watermelon Sugar」です。ハリーのこのアルバムもポップ・アルバムとしての完成度は高いし、今年のブリット・アウォードの最優秀アルバム部門にノミネートされるくらい(受賞は今年のマーキュリー賞も取った、コンシャス・ラッパー、デイヴの『Psychodrama』にさらわれましたが)注目かつシーンからも評価された作品だったので、アルバム部門ノミネートも充分ある訳ですが、残念ながら今回該当しそうな作品が多いので予想からは漏れました。しかしそのアルバムの中でも光っているこのR&B/ライト・ファンクっぽいグルーヴのこの曲は本国UKでは4位止まりだったものの、Hot 100では彼初のナンバーワンヒットになりました。歌詞の内容は、明らかに女性とのセクシャルな関係をイチゴやスイカに例えてるという内容で特にディープな意味はないですが、このやや官能的ともいえるサウンドとソウルフルなメロディによくマッチしてますなあ。正に夏にビーチで聴くと気持ちいいかも、という曲調で、ナンバーワンになったのも今年の8月でした。

ワンダイOBのUSでのソロ活動という意味ではゼイン(・マリック)がソロデビュー曲「Pillowtalk」(2016)で1位を取って以来のナンバーワンということになりますが、既にハリーはデビューアルバム『Harry Styles』(2017)と今回の『Fine Line』と連続ナンバーワン(UKは1位と3位)ですし、トップ10ヒットもソロデビュー曲の「Sign Of The Times」(2017年4位)、今回のアルバムからの「Adore You」(6位)に続く3曲目と、いずれも他のメンバーを凌駕してますね。この「Watermelon Sugar」も優れたポップ楽曲、という意味でノミネートされても全くおかしくありませんよ。作者は、ハリー自身に加え、彼のソロ作のほとんどを共作しているギタリストのミッチ・ロウランド、ハリーの前作と今作のプロデュースとほとんどの楽曲を共作しているタイラー・ジョンソン(今個人的に気に入ってるLAのエレクトロポップ・バンド、LANYの『Mama’s Boy』もプロデュースしてるのに今気が付いた!)とキッド・ハープーンことトーマス・ハルの4人。こういう極上のポップ・ソングもたまには脚光を浴びて欲しいもんです。

Exile – Taylor Swift Featuring Bon Iver(作者:Taylor Swift, William Bowery & Justin Vernon

はい、そして(何度も言ってるけど)今回のグラミーの台風の目の一つ、テイラーのアルバム『folklore』からの、唯一テイラーがボーカルを他のシンガーと分け合っている曲、「Exile」が7曲目のノミネート予想曲です。プロデューサーのアーロン・デスナーザ・ナショナル)と、コロナ禍の下、もっぱら電話とメールでやり取りしながら作られたこのアルバムの収録曲は、テイラーが自分の頭の中に現れたイメージを曲にしたため、基本テイラーが語る物語やイメージをテイラーが歌う、というスタイルですが、この曲に限っては、ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンとのデュエット。男女のすれ違いによって関係が壊れてしまったことに対する不満と悲しみと後悔をお互いの立場から語り合う、というなかなかセットアップだけ聴くと演歌ですが(笑)、むしろ映画の中で愛し合っていながら、お互いの感情のすれ違いで別れなくてはいけなかった二人のやり取り、といったイメージがヴィヴィッドに想起される、そんな楽曲(テイラー・ファンならご承知の通り、彼女の書く曲のテーマは失恋や破局が多いですよね、この曲もそういう曲の一つです)。サビのところでジャスティンが「君は警告のサインすら出してくれなかった」と歌うとテイラーが「サインはたくさん出したわよね」とかぶせて歌うあたりはかなりエモーショナルな瞬間です。

この曲はテイラージャスティンの他に共作者としてウィリアム・バワリーという名前がクレジットされてますが、奇妙なことにこれが誰なのかについては、プロデューサーのアーロン・デスナーも「会ったこともなければ話したこともないんだ。コロナでこのアルバムの制作はほぼ完全にリモートでテイラーとやったからね。多分彼女の知り合いのソングライターだと思うんだけど」と言って知らない、って言ってるんですよね。一部に誰か(例えばテイラー自身)の変名ではないか、という噂もあるようですが、実際のところはテイラー自身も何もコメントしていないため謎です。なので、もしこの曲がソング部門にノミネートされて受賞して初めてその素性が明らかになるのかも。そういう意味で、このアルバム他にも素晴らしい曲はいろいろあるんですが、この曲がノミネートされたら面白いな、と思うんです。

Blinding Lights – The Weeknd(作者:Abel Tesfaye, Ahmad Balshe, Jason Quenneville, Max Martin & Oscar Holter

そして最後のノミネート予想曲は、ROYにもノミネート予想したザ・ウィークンドの「Blinding Lights」。この曲についてはもうROYの予想のところで随分掘り下げて書いたので、ここであまりコメントすることもないのですが、ザ・ウィークンドにとっては2014年第58回で「Can’t Feel My Face」(マーク・ロンソン+ブルーノ・マーズの「Uptown Funk」が受賞)がROY、アルバム『Beauty Behind The Madness』(テイラーの『1989』が受賞)が最優秀アルバム部門にノミネートされて以来の主要4部門ノミネートのチャンスが大きくある今回なので、狙ってるでしょうねえ

曲は、ザ・ウィークンド自身(エイブル・テスフェイというのは彼の本名)とプロデューサーのご存知マックス・マーティンと、同じスウェーデン人でケイティ・ペリーらとの仕事で知られるオスカー・ホルターの3人のこの曲のプロデューサーに加え、カナダ時代からザ・ウィークンドと一貫して仕事しているパレスティナ系カナダ人ラッパー、ベリーことアーマッド・バルシーとプロデューサーのダヒーラことジェイソン・クェネヴィルの5人の共作。さてザ・ウィークンド、この曲ノミネートはほぼ堅いと思うのですが、実際受賞の可能性はどうでしょうか。

以上8曲の最優秀ソング部門のノミネート予想でした。この他にノミネートされるかも、と思ったのは、意表を突くBTSの「Dynamite」(ないかなあ)、ダン+シェイ&ジャスティン・ビーバーの「10,000 Hours」、ロディ・リッチThe Box」くらいかな。え?マルーン5Memories」?いやあそれはないでしょう。

ということで、来週に発表を控えた第63回グラミー賞主要4部門のノミネート予想、いかがでしたか?この記事をアップしたらビルボード誌の予想も覗いてみようと思ってます。皆さんもノミネーション予想はともかく、ノミネート発表されたらそれぞれにについてご自分なりに予想してみるのも楽しいですよ。そんなこんなでコロナの年のグラミー、どういう開催形態になりますか、見守りながら今年も最後まで楽しみましょう。

オフ会映像

ひたすら・・・歌い出しがタイトル!の全米トップ40ヒットを聴く飲み会

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