新旧お宝アルバム!#3「End Of A Rainbow」Patti Austin

新旧お宝アルバム #3

End Of A RainbowPatti Austin (CTI, 1976)

今回で3回目のこの「新旧お宝アルバム!」、今度はまた「旧」に戻りまして1983年に「あまねく愛で(Baby, Come To Me)」の全米ナンバーワンヒットを放って当時からの洋楽ファンにはお馴染みのパティ・オースティンの1976年のデビュー・アルバム「End Of A Rainbow」を取り上げます。

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パティ・オースティンといえば80年代に小林克也さんの「ベスト・ヒットUSA」などで洋楽に親しんだ方々には上記のジェイムス・イングラムとのデュエット曲「あまねく愛で」の大ヒットで親しみのあるアーティストでしょう。

ただ、1990年代以降はメインストリームでの商業的成功は特にないため、80年代に彼女を知っていた方も、またここ最近洋楽を聴き始めた若いリスナーの皆さんにもあまり馴染みがなくなってしまっているのではないでしょうか。

そんな彼女のそもそものキャリアのスタートは4歳の時にジャズ・ミュージシャンだった父親に連れられて行ったアポロ・シアターでのジャズ/ブルースボーカルの大御所、ダイナ・ワシントンのコンサートでステージに上げられて歌った歌をサミー・デイヴィスJr.に認められたというなかなか華々しいものでした。

その後彼女は優秀なセッション・ボーカリストとして、様々なCMジングルや、ポール・サイモンの「恋人と別れる50の方法」、フランキー・ヴァリの「燃える初恋」、ビリー・ジョエルの「素顔のままで」など数々の有名作品のバックボーカルを努めて、当時ジャズ界に君臨していたクリード・テイラー率いるCTIレーベルからこのデビューアルバムを出す頃は、実力派としての地位を確立していたのです。

 

このアルバムのオープニングの「Say You Love Me」を聴いてまず感じられるのは、パティの澄み切った美しいボーカルと、ミディアム・テンポの日曜の昼下がりを思わせるようなゆったりとした曲調と、バックのタイトな演奏が一体となり、いきなり目の前に美しい庭園が開けたかのようなイメージを与えてくれることです。

このイメージはこのアルバム全体を通して基本的テーマとして一貫していて、このアルバムは音楽の素晴らしさ、歌を歌うことの喜びといったとてもポジティブなイメージを強く感じさせてくれる、そんな作品に仕上げられています。

 

全体のトーン以外にも、このアルバムを素晴らしいものにしている三つの大きな要素があります。

その一つは、上記に述べた一貫性をサポートする演出として、ストリングスの使い方が効果的なこと。それも各曲の中でのストリングスの使われ方ではなく、キーとなる曲から曲への移行部分に効果的にストリングスがインターミッション的に使われていることです。

冒頭の「Say You Love Me」から「In My Life」へのつなぎと、5曲め(レコードではB面1曲目)のフュージョン風の「Give It Time」からバックコーラスとの三声のコーラスでジャジーに始まる「There Is No Time」へのつなぎでこの演出が結構効いていて、アルバム全体の印象を締まったものにしています。このあたりはプロデュースも務めた御大クリード・テイラーのアイデアかもしれません。

 

第二の大きな要素は、このアルバム全体のバックを当時のジャズ系の超一流のスタジオ・ミュージシャンががっちり固めていること。

リズム隊はドラムスの神様スティーヴ・ガッドアンディ・ニューマーク、ベースはチャック・レイニーウィル・リー、ギターはエリック・ゲイルスティーヴ・カーン、キーボードはリチャード・ティー、サックス/ホーンはブレッカー・ブラザーズの二人、そしてパーカッションはラルフ・マクドナルドと、当時から80年代にかけてのフュージョンシーンを代表するバンド、スタッフの主要メンバーを含む、一流の連中が勢揃いしてタイトな、それでいてパティのボーカルをうまく支えて演奏していることがこのアルバムの素晴らしい出来には不可欠といっていいでしょう。

 

第三の、そして実は多分最大の要素は、このアルバム全9曲のうち、スパイラル・ステアケイスの1969 年のヒット曲「More Today Than Yesterday」のカバー以外の8曲全てをパティ自身が書いていること。

彼女の卓越した才能は歌だけではなく、NYのブリル・ビルディングのプロの作曲家が書いたといっても不思議がないほど素晴らしいバラードの「You Don’t Have To Say You’re Sorry」、ブロードウェイのミュージカルからの一曲のような「What’s At The End Of A Rainbow」、ちょっとモータウン的なフレイバーを感じるアップテンポの「This Side Of Heaven」といった自作の曲のクオリティの高さにも充分伺え、このアルバムの魅力を更に高めています。

自作であるがゆえに存分に表現力を駆使して自信たっぷりに歌っていることが、このアルバムでの彼女の歌唱パフォーマンスをクオリティ高いものにしているのは間違いのないところでしょう。
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長らくメインストリームから遠ざかっていたパティ、今年は「あまねく愛で」のパートナー、ジェイムス・イングラムとのデュエット・アルバムの企画もあるとのこと。それを楽しみにしつつ、この素晴らしいR&B/ジャズ・ボーカリストの瑞々しいスタートを振り返って、これからの季節の週末の昼下がりにピッタリのこのアルバムに耳を傾けられてはいかがでしょうか。

 

<チャートデータ>

ビルボード誌全米ジャズ・アルバムチャート最高位31位(1976)

Say You Love Me」 同全米R&Bシングルチャート最高位63位(1977.3.5〜3.12)