新旧お宝アルバム!#20「Didn’t It Rain」Amy Helm (2015)

新旧お宝アルバム #20

Didn’t It RainAmy Helm (eOne, 2015)

秋もいよいよ深まりそろそろ紅葉の季節。一方では蟹を始めとする冬の海の幸が美味しくなるこの季節、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。先週仕事の関係でお休みしてしまった「新旧お宝アルバム!」、今週取り上げる「新」のお宝アルバムは、この秋の雰囲気にも合うアメリカーナ・ロックの素晴らしい作品で、あのザ・バンドの名ドラマー、故リヴォン・ヘルムの娘さん、エイミー・ヘルムのデビュー・ソロ・アルバム『Didn’t It Rain』をご紹介します。

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エイミーは今年45歳、リヴォン・ヘルムとやはりシンガーであり、リンダ・ロンシュタットのバージョンで有名な「Love Has No Pride」の共作者であるリビー・タイタスとの娘さんです。リヴォンリビーは70年代を通じてパートナーでしたが、80年代に離婚、その後リビーはあのドナルド・フェイゲンと1993年に結婚しています。エイミーはそんなミュージシャンたちに囲まれた幼少時代を過ごしたので当然のごとく若い頃から自らのバンドや、父のリヴォンのバンドに参加して演奏活動を行ってきていたようです。

その父リヴォンは2012年に残念ながら癌で他界したのですが、今回のエイミーのデビュー・アルバムには何と3曲(「Send Our Last Dime」「Sing To Me」「Heat Lightning」)在りし日の父と一緒に録音した曲が含まれているばかりか、エグゼクティブ・プロデューサーとして父リヴォンの名前が誇らしげに掲げられているのです。

またアルバムのインナースリーヴを見ると、母リビーリヴォンの前の夫、バリー・タイタスとの間の息子で、2009年に他界した異父兄のエズラの写真があり、「兄に捧げる」の言葉が。

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つまり、このアルバムはエイミーに取ってプロのミュージシャンとして初めてのアルバムというだけでなく、彼女を取り巻くファミリーのために大事に大事に作られた、とてもパーソナルなアルバムであることがわかります。そしてアルバムの全体のサウンドもそういうアルバムの出自を反映するかのように、とても暖かく、聴く者を包み込むような雰囲気でいっぱいのアルバムになっています。

アルバムオープニングのタイトルナンバー「Didn’t It Rain」はアップテンポなグルーヴ満点のドラムスとディストーションの効いたギターリフが印象的な、ニューオーリンズのミーターズを彷彿とさせる、いきなりソウルフルなナンバー。それもそのはずこの曲は有名なゴスペルナンバーを彼女とバンドメイトでこのアルバムのプロデューサーであるバイロン・アイザックスがアレンジしたもの。続く「Rescue Me」もメンフィス・ソウルを彷彿とするようなレイドバックなナンバーで、スーザン・テデスキを思い出させる、ブルーズとブルーアイド・ソウルが程よくミックスされたいい曲。このソウルフルな路線を続けるかのように、「Good News」はサム・クックのカバー。こちらはアップテンポかつソウルフルなエイミーの歌でアルバム全体のトーンをR&B基調に染め上げる本アルバムのキートラックの一つになっています。スライド・ギターが無茶苦茶気分。

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アルバム中盤に入ると、ぐっとスロウにエミルー・ハリスあたりを思わせるエイミーの澄み切った歌声が印象的な「Deep Water」、父リヴォンのドラムスをバックにオールド・タイムな味わいのカントリー・シャッフルの「Spend Our Last Dime」、またまたメンフィス・ソウル的なスロウなグルーヴでぐっと聴かせる「Sky’s Falling」と、アルバムを聴き進めるにつけ、エイミーの歌声とバックのソウルフルな演奏が一体となったサウンドがただひたすら気持ちよし。

このアルバム12曲中、エイミーとプロデューサーのバイロンが7曲を書いていてそのどれもが佳曲なのですが、自作曲以外ではゴスペルスタンダードのタイトル曲やサム・クックの曲と並んで印象的なのがベス・ニールセン・チャップマン作の「Gentling Me」。基本的にアコギの弾き語りでアルバムの中で唯一フォーキッシュな歌を聴かせるこの曲は、愛するファミリーを次々に失ったエイミーが「私に優しくして」と切々と訴えているかのように聞こえます。

I Can’t Make You Love Me」のボニー・レイットのような風情のバラード・ブルースナンバーの「Roll Away」、またまた父のドラムスをバックにゴスペル風の自作曲「Sing To Me」、プログレッシヴ・ブルーグラス的なバンドの演奏をバックにこちらもソウルフルに歌う「Roll The Stone」と、アルバム後半は静かな盛り上がりを見せていき、アップテンポなカントリー・ロック・ナンバー「Heat Lightning」で盛り上がった後、エレクトリック・ギター一本をバックにこれもまたブルース・ゴスペル風なエイミーの力強いボーカルによる「Wild Girl」でアルバムは余韻を響かせながら終わります。

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ボニー・レイットルシンダ・ウィリアムスのようにまだまだアメリカーナとロックサウンドが混然と円熟し切ったような域には達していないけど、エミルー・ハリスアリソン・クラウスのようにブルーグラスやカントリー寄りというよりは明らかにメンフィス、ニューオーリンズといったサザン・ソウルやゴスペルの匂いを強く感じさせてくれる、それでいてシェリル・クロウなどのようにメインストリームでも充分通用する華やかなグルーヴとノリを持った曲やサウンドを聴かせてくれるエイミー

今回のこのアルバムはまだ商業的にはブレイクしていませんが、既にルーツ・ミュージックのファンの間ではかなりの話題になっているとのこと。早くも次の作品が楽しみですが、それまでは、秋の味覚とお酒を楽しみながら、彼女の歌声に酔ってみてはいかがでしょうか。

<チャートデータ> チャートインなし