新旧お宝アルバム!#23「Pickin’ Up The Pieces」Poco (1969)

新旧お宝アルバム #23
Pickin’ Up The PiecesPoco (Epic, 1969)

いよいよビルボード誌の年間チャートや、各音楽誌の2015年年間アルバムランキングなどが出揃いはじめ、先週末はグラミー賞候補も発表、年末に向けて洋楽ファンにとってはいろんな情報に興味の尽きない毎日ですね。
さて今週の「新旧お宝アルバム!」、「旧」のアルバムとして、一気に60年代終盤に時計を戻して、70年代のカントリー・ロック・シーンをキックオフしたという意味では歴史的な名盤、ポコの記念すべきファースト・アルバム『Pickin’ Up The Pieces』を取り上げます。

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前々回のマリア・マルダー同様、ポコのこのアルバムはシニアの洋楽ファン、特にアメリカン・ロックに造詣の深い皆さんにとっては定番の一枚ですが「今の若い洋楽ファンや洋楽にあまり詳しくないリスナーに、昔の名盤でもあまり紹介されることのない作品をご紹介する」というこのコラムの趣旨に沿って選ばさせて頂きましたのでご理解下さい。
さて現在アラフォーくらいまでの洋楽ファンにとって、ポコというバンドはどの程度の知名度があるのでしょうか。よくポコについて引き合いに出されるのは、イーグルスの初代ベーシストであり「Take It To The Limit」の名唱で知られるランディ・マイズナーや、同じくイーグルスの2代目ベーシストでこちらも「I Can’t Tell You Why」で知られるティモシー・B・シュミットが在籍していたバンド、という説明。
でもこの紹介はイーグルスを知っているアラフィフ以上のシニアなら判りやすいのですが、そもそもイーグルスがリアルタイムでないアラフォーまでの方には今ひとつピンと来ないのでは。
でもポコというこのバンドは70年代を通じてアメリカで確立され大いに盛り上がった、カントリー・ロックというジャンルを代表するイーグルスドゥービー・ブラザーズといったバンドに比べれば地味で知名度も今ひとつなのですが、このジャンルの歴史を語るには欠かせないバンドなのです。

ポコの創始メンバーであるリッチー・フューレイ(ギター)、ラスティ・ヤング(ペダル・スティール・ギター、バンジョー、ギター)、そしてジム・メッシーナ(ギター)は、そもそも60年代後半、バーズが切り開いたといってもいい「カントリー・ロック」というジャンルを確立した伝説的バンド、バッファロー・スプリングフィールドに、後にCSN&Y(クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング)を結成するニール・ヤングスティーヴン・スティルスと共に在籍した、名うてのカントリー・ロック界のミュージシャン達。
1968年、バッファロー・スプリングフィールドがメンバーの対立から解散直後、この3人がベースのランディ・マイズナーとドラムスのジョージ・グランサムを加えて結成したのがこのポコというわけ。
よりエッジの効いたロック寄りの路線を求めたニール・ヤングスティーヴン・スティルス達に比べ、よりカントリー・ロックの可能性を求めたリッチー、ジム、ラスティの3人。アルバム・タイトルの「欠片を拾い集めて」というのは、この3人がバッファロー・スプリングフィールド終結後の活動開始に向けた思いを象徴する意味だったのです。

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アルバムは当時の作品にしては曲数の多い13曲(後にCD発売時にアルバム最後の「Do You Feel It Too」が加えられて14曲)のうち、ラスティ作のインスト曲「Grand Junction」を除く全曲でリッチーがペンを取っていることからも、ポコのスタート時点でのリーダーはリッチーだったことがよく判ります。バッファローでもエンジニア的役割だったジムはこのアルバムでもプロデューサーにクレジットされていて、曲作りよりアルバム作りの指揮を取っていました。
フェードインするサウンドが右チャンネルから左チャンネルに移動してくる、といういかにもこの時代を思わせるオープニングで、新しい出発を意識した「Foreward」でアルバムはスタート。
アルバム全体のサウンドは、ある意味カントリー・ロックの60年代と70年代をつなぐような、多彩な楽曲と演奏が満載のとてもクオリティ高いもの。
アルバム前半を飾る「What A Day」(リッチーバッファロー時代の作品)や「Nobody’s Fool」「Calico Lady」、そしてアルバム・タイトル曲の「Pickin’ Up The Pieces」などは、60年代のこのジャンルの先駆者である、バーズやナッシュヴィルへの傾倒を露わにした『Blonde On Blonde』以降のディランフライング・ブリトー・ブラザーズ、そしてバッファローといったバンド達のサウンドを明確に継承したカントリー色の強い楽曲。
一方でそうした先駆者たちと一線を画するかのように、メインストリーム・ポップ、それも後の70年代ポップを思わせるようなキャッチーなメロディの楽曲も多く含まれています。
歌い出しから切ないメロディとリッチーのボーカルで思わずハッとさせられる「First Love」や、イーグルスなどに継承されるコーラス・ワークをうまく使った「Make Me Smile」、70年代初頭のスワンプ・ロックを思わせるジムのボーカルがソウルフルな「Oh Yeah」、ラスティのペダル・スティールで気持よく始まる「Tomorrow」などはいずれも1973〜75年頃のイーグルスの初期のアルバムの曲、と言われても全然違和感のない楽曲群。
その後70年代のカントリー・ロックの隆盛にこのアルバムとポコというバンドが果たした影響の大きさを感じさせてくれます。

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自らの音楽の理想を追い求めて新たなバンドをスタートさせたリッチージムのこの作品に対する意気込みはかなり大きかったようで、アルバムの最終ミックスダウンのサウンドチェックに二人以外のメンバーを同席させなかったとか。これに憤慨してバンドを離脱したのがランディ
可哀想に彼のリードボーカルパートはドラムスのジョージのボーカルに差し替え、ジャケに彼の顔のイラストが入る場所に犬の絵が入れられるというあまりといえばあまりの仕打ちを受けてしまいました。
でもこのアルバムを聴いて明らかなのはメインソングライターのリッチーとプロデューサーのジムのサウンドメイカーとしての才能。ランディは手堅いミュージシャンですが、アルバムのサウンドをコントロールしたい、という2人が最終のアルバム仕上げを自らの耳にこだわったのは理解できます。

こうして作られたアルバムは、当時のローリング・ストーン誌のレビューで5つ星を獲得するなど評論筋の高い評価を得ましたが、セールス的には中ヒットに止まる結果に。
一方バッファロー解散で袂を分かったニール・ヤングスティーヴン・スティルスは本作リリース直後の1970年にそれぞれ「After The Gold Rush」(全米アルバムチャート最高位8位)、「Stephen Stills」(同最高位3位)といった大ヒット作を皮切りに華々しいキャリアをスタートさせました。

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リッチーはその後ポコのアルバムが商業的には奮わない中、1974年脱退、後に「You’re Only Lonely」(1980年Hot 100最高位7位)の大ヒットを放つJ.D.サウザー、バーズフライング・ブリトー・ブラザーズにいたクリス・ヒルマンサウザー・ヒルマン・フューレイ・バンドで再起を図りますが、このグループも2枚の中ヒットアルバムを発表して解散。
1979年にソロ名義で「I Still Have Dreams」(最高位39位)という何やら当時の彼の気持ちを暗示するようなタイトルのトップ40ヒットを放ちますが、その後一時音楽活動を離れて教会活動に身を投じた時期も。
その後ポコのオリジナル・メンバーで1989年に再結成、アルバム『Legacy』とトップ40ヒット「Call It Love」(最高位18位)のヒットで一線復帰、現在はまた昔のバーズバッファローのメンバーと時々ライブをしながら、今年には久々の新作「Hand In Hand」をリリースし、今でも活動を続けているようです。

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一方ジムポコにアルバム3枚参加後にプロデューサー業に専念するために脱退、ケニー・ロギンズを見いだしてデュオ、ロギンズ&メッシーナとして『Sittin’ In』(1971)を初めとするヒットアルバムや「ママはダンスを踊らない(Your Mama Don’t Dance)」(1973年最高位4位)などのヒット曲を放ち、リッチーに比して恵まれたキャリアを続けました。1980年代は一貫してAOR畑で活動した後、1989年のポコ再結成に合流。その後はソロアーティスト、及びプロデューサーとして地道に活動を続けているようです。

この『Pickin’ Up The Pieces』というアルバムは、この後のリッチージムの様々なキャリアの変遷が起きる前の、まだ瑞々しい意欲と自信と、何か新しいことを始めるんだ、という高揚した気分が、各楽曲に満ちあふれている、そんなとてもポジティヴな雰囲気に満ちた作品です。
また上述のように、とても60年代のアルバムとは思えないような、当時としては先進的な70年代の雰囲気を強く湛えたサウンドは改めてこのアルバムを聴くものを啓発してくれるような雰囲気さえ持っています。
60年代なんて古臭い、と思わず是非一聴されることをお勧めしたい作品です。きっと「ああ、聴いてよかった」と思って頂けると思いますので。

<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位63位(1969.9.20付)