新旧お宝アルバム!#99「White Light」Gene Clark (1971)

2017.9.11

新旧お宝アルバム #99

White LightGene Clark (A&M, 1971)

ちょっと前は天候も不順で、肌寒い日もあったりなどして一気に秋に行ってしまうのか、と思っていたらこの週末は久しぶりにいい天気と暑さが戻ってきてまだもう少し本格的な秋まではあるな、と思う一方、空気や空の雲やわたる風は明らかに夏のそれとは違ってきているのも事実。これからは徐々に深まっていく秋を感じながら音楽、楽しみたいですね。

さて今週は久しぶりに70年代初頭の古めのアルバムをご紹介。先週は今の若いオルタナ・カントリー系のシンガーソングライター、ジャスティン・タウンズ・アールをご紹介しましたが、今週はその親父のまたその上の世代のミュージシャンです。60年代後半の音楽的にはウッドストックジャニスジミといった影響力あるロック・ミュージシャンが若く他界するなど動乱の時期を経て、音楽界全体が成熟していった時期に60年代のキャリアを後に新たなシンガーソングライターとしてのキャリアをスタートしたカントリー・ロックの巨人、ジーン・クラークの2枚目のソロ・アルバムでこの時期のシンガーソングライターの傑作アルバムの一つと言われる『White Light』(1971)をご紹介します。

古くからの洋楽ファン、特にアメリカン・ロックのファンであれば、ジーン・クラークと言えば1960年代にある時はサイケデリックな、またある時は伝統的なフォーク・ロック的味わいを持つ数々のカントリー・ロックの名盤を残したバンド、ザ・バーズの結成メンバーの一人として既によくご存知の名前でしょう。ただ、同じバーズの結成メンバーで、その後クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(CSNY)などの輝かしいソロ活動で知られるデヴィッド・クロスビーあたりに比べるとどうしても地味な印象はあり、日本でも一部の熱心なファン以外に広く知られたアーティスト、というわけではないのが残念なところ。若い洋楽ファンにしてみればもっと彼の音楽に親しむ機会は少ないわけですが、実はバーズ時代から70年代のソロ時期にかけての彼の作品に大きく影響を受けた若いアーティスト達も多く、最近のバンドでいえばブルックリン一派の代表的バンド、グリズリー・ベアやシアトル出身のオルタナ・フォーク・ロック・バンドのフリート・フォクシズなどは頻繁にこの時期のジーンのアルバムを丸ごとライヴでやるなど今の若いアーティストへの影響は大きいものがあるのです。アメリカのアーティストだけではなく、UKのオルタナ・ロック・バンド、ティーンネイジ・ファンクラブなどはその名も「Gene Clark」というトリビュート曲をやってるほど。

バーズ時代は最初の2枚のアルバム『Mr. Tambourine Man』(1965)と『Turn! Turn! Turn!』(1965)に参加、「I’ll Feel A Whole Lot Better」や「Set You Free This Time」といったバーズのナンバーの中でもビートの効いたロックっぽい優れた楽曲を提供していたジーンですが、1966年にバーズを脱退、初ソロアルバム『Gene Clark With The Gosdin Brothers』(1967)を経た後、バンジョープレイヤーのダグ・ディラードと組んで『The Fantastic Expedition Of Dillard & Clark』(1968)『Through The Morning, Through The Night』(1969)といったカントリーロック色の強い作品を出すなど、その作風を少しずつ変貌させて行っていました。

そうしたタイミングでリリースされたこの『White Light』(ジャケにはタイトルがプリントされていませんが、ジャケにジーンのシルエットが見える丸い光をもってこの通称が使われています)は、いわゆるスワンプ系ロックでのスライド・ギター・プレイが有名なギタリスト、ジェシ・エド・デイヴィスがプロデュースおよび参加していることや、当時はまだバリバリのブルース・ロック・バンドだったスティーヴ・ミラー・バンドのメンバー、ベン・シドラン(ピアノ)とゲイリー・マラバー(ドラムス)が参加していることなどもあり、全体的にぐっとダウン・トゥ・アースな感じの強いアルバムになっています。楽曲はラス前のディランのカバー「Tears Of Rage」以外は全曲ジーンの自作自演。

冒頭、ハーモニカと軽いタッチのジェシ・エドのスライド・ギターで始まる「The Virgin」ではジーンが気持ちよさそうにレイドバックしたボーカルを聴かせていて、オープニングからして古い友達に再会したかのようなリラックス感が満載。シンプルなアコギの弾き語りで内省的な歌を聴かせる「With Tomorrow」、ジャグバンド風のバックに乗ってちょっとディラン風に軽快に歌うアルバムタイトル曲「White Light」、オルガンをバックにちょっとスワンプ・ロック・バラード風に聴かせる「Because Of You」など、アルバム前半はかなりバラエティに富んだ楽曲構成なのですが、一本ジーンのゆったりとした暖かいボーカルが芯を通していてアルバム全体のトータル感が高いところが素晴らしいところ。

5曲目の「One In A Hundred」あたりから冒頭に出てきたジェシ・エドのスライド・ギターがあちこちに登場し、よりカントリー・ロックっぽい楽曲表現に効果的な役割を果たしています。LPだとB面の頭になる「For A Spanish Guitar」はシンプルな2台のアコギをバックに、70年代のシンガーソングライターの楽曲のお手本とも言えるようなポップとカントリーっぽさが微妙に一体となった楽曲構成の曲で、あのディランが「史上最高の曲」と絶賛したという噂もある、このアルバムのハイライトとも言える曲です。

このアルバムの中で唯一メインストリーム・ロックっぽいエレクトリック・ギターのフレーズがイントロで聴かれて「おっ」と思わせる「Where My Love Lies Asleep」などは初期イーグルスのアルバムに出てきてもおかしくない、70年代クラシック・ロックっぽい佳曲(事実イーグルスはファーストでジーンバーニー・レドンの共作「Train Leaves Here This Morning」を演ってます)。ザ・バンドの名演で知られるディランの「Tears Of Rage」は原曲とザ・バンドに敬意を表してか、オリジナルのアレンジにかなり忠実にカバーしたバージョン。そして、アルバムラストはイントロからヴァースにかけてのコード進行がこれもイーグルスの「You Never Cry Like A Lover」(アルバム『On The Border』収録)を彷彿させる(というかおそらくイーグルスはこの曲からコード進行のアイディアを頂いたに違いない)、ちょっとシンガーソングライターっぽくない、先進的なカントリー・ロック曲「1975」。当時1975年は未来だったわけで、歌詞の内容もそうしたまだ見ぬ未来に向けて何かを探して進んで行くことの意味を歌っているように思えます。

このアルバムは当時シンガーソングライター作品の傑作としてシーンでは評価されるものの、ジーン自身がプロモーションにあまり熱心でなかったこともあって商業的には残念な結果に終わっています。

ジーンはその後1973年のバーズの再結成に合流、アサイラム・レーベルから出た再結成アルバムに参加しますがバーズはすぐに再解散。再びソロになったジーンは同じアサイラムからの唯一のソロ・リリース『No Other』(1974)を発表。これも「White Light」をしのぐ傑作として高い評価を受けたのですが、こちらも商業的には振るわない結果となっています。

その後も2枚ほどのソロを出しながら、1979年にバーズのオリジナルメンバー3人でマッギン・クラーク・ヒルマンとしてアルバムを出したりと活動を続けましたが、晩年ドラッグとアルコール依存で健康を害してしまいます。1991年1月にオリジナル・バーズのメンバーとしてロックンロールの殿堂入り、自らの「I’ll Feel A Whole Lot Better」を他のメンバーと一緒に演奏したのが公的パフォーマンスの最後となり、同年5月、46歳の若さで他界。

秋の雰囲気が日々強くなる今日この頃、70年代のシンガーソングライター・ムーヴメントの走りとも言えるこの名盤の楽曲を味わいながら、早逝したカントリー・ロックの巨人、ジーン・クラークに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

<チャートデータ> チャートインせず