新旧お宝アルバム!#7「The Original Soundtrack」10cc

新旧お宝アルバム #7

The Original Soundtrack10cc (Mercury, 1975)

第7回目の「新旧お宝アルバム!」、今回はまた「旧」に戻り、1970年代の作品を紹介します。今回は、名曲で彼らの最大のヒット曲である「アイム・ノット・イン・ラブ」を収録していながら、なぜかアルバム自体作品としてあまり最近語られることのない、イギリス人四人組のグループ、10ccの1975年のサード・アルバム「オリジナル・サウンドトラック」を取り上げます。

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まず最初に断っておきますが、タイトルに「オリジナル・サウンドトラック」とありますがこのアルバム、別に映画のサントラ盤などではありません。

このアルバムは、あたかも映画のサントラ盤であるかのような、ある時は皮肉たっぷり、ある時は芝居仕立てのメロディや歌詞をふんだんに盛り込んだ楽曲群で構成された、映画のサントラを模した巧妙なパロディ作品、と思って下さい。

アルバム・タイトルだけが赤文字であとはモノクロで統一されたジャケットには、古い西部劇の1シーン(当時の日本盤の故今野雄二氏のライナーノーツによると、1957年のパラマウント映画『胸に輝く星』に主演したアンソニー・パーキンスらしい)が移された映写機や、映画のフィルムリールなど、アルバムのテーマを体現するような小物が配されています。デザインは、ピンク・フロイドELOツェッペリンの「聖なる館」などのデザインで有名なアート集団、ヒプノシスの手によるもの。

ケヴィン・ゴドレー、ロル・クレーム、グレアム・グールドマン、エリック・スチュワートによる4人組、10ccは1972年のデビュー当初からこうした知的な遊び心とイギリス人らしい皮肉さ、そしてパロディ精神旺盛な作風で知られ、それが一つの形となったのがこのアルバム。

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アルバムのオープニングからして、パリを舞台にしたオペラかミュージカルの一場面を再現するかのような、SEもふんだんに使われた8分あまりの「パリの一夜(パリのある夜〜同じその夜のパリ〜夜がふけて)(Une Nuit A Paris)」。次から次に曲やメロディがどんどん変わっていき、途中には「オペラ座の怪人」からの一節も飛び出すという、まるで舞台を見ているかのような楽曲構成で一気に気分は映画の世界に。

そして多重コーラスによる分厚いオーバーダビング(3人の声を624人分のコーラスにしたというから凄い)で夢のシーンを表すかのような「アイム・ノット・イン・ラブ(I’m Not In Love)」。全英でNo.1、全米でも最高位2位の大ヒットとなったこの美しいメロディの曲、ご存知の方も多いと思います。しかしこの曲、美しいだけでなく、主人公は「壁に君の写真をかけているのは/そこにある汚いシミを隠すため/だからあまり騒ぎ立てて友達に僕らのことを話さないで/僕は君を愛してるわけじゃないから」と屈折しまくった内容の10cc一流の歌詞にも注目。

この後も、盗撮したヌード写真で女性を脅迫するつもりがそれが原因でハリウッドの大スターになるという「ゆすり(Blackmail)」や、クイーンの『オペラ座の夜』収録の「Love Of My Life」を思わせる、これも古い映画の一節のような「ブランド・ニュー・デイ(Brand New Day)」、そして「人生はごった煮の野菜スープのようなもの/人生は冷えたラザニアみたいなもの」とこれも皮肉たっぷりな歌詞の「人生は野菜スープ(Life Is A Minestrone)」など、10ccお得意のウィットと遊び心一杯の曲が次々に登場。

極めつけは、アルバム最後を飾る「我が愛のフィルム(The Film Of My Love)」。さしずめこの「オリジナル・サウンドトラック」を通じて登場した男女の主人公達が、この曲で全てのストーリーが完結するかのように、二人の愛を描いた映画は世界中で大ヒットしてオスカーを取るに違いない、とこれも皮肉たっぷりな(英語だと「tongue in cheek」)歌詞が、「オリエント急行」「荒野の七人」「風とともに去りぬ」といった古い名画のタイトルをちりばめながら展開する、というクロージングにぴったりの作品でこのアルバムは幕を閉じます。

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このアルバムが当時も評価高く、今40年の時を超えてもとても新鮮に聞こえるのは、ここまでご紹介してきたような、楽曲自体が「映画」という普遍的なテーマをウィットたっぷりに取り上げていることに加えて、「アイム・ノット・イン・ラブ」(1991年にフロリダのダンス・ポップ・グループ、ウィル・トゥ・パワーがカバーして全米最高位第7位を記録)に代表されるような極上のポップ・センスたっぷりの楽曲群で構成されていることに尽きると思います。

前述しましたが、このアルバムのとびきりポップな楽曲で映画というノスタルジックな題材を洒脱に料理したこうした構成は、実はクイーンの『オペラ座の夜』などのアルバムに大きな影響を与えたのではないかというのが私の見立てですがいかがでしょうか。

このアルバムの後、次の「びっくり電話(How Dare You!)」(1976) 発表後、よりアーティな楽曲を担当していたゴドレー&クレームが脱退。残った、よりポップな楽曲を担当していたグールドマン&スチュアートは「愛ゆえに(The Things We Do For Love)」(1977)の大ヒットを飛ばしたのをご記憶の方も多いでしょう。でも、四人が微妙なクリエイティブ・バランスを保って作り上げたこの作品の頃の10ccがやはりアーティストとしては一番エッジもあり、10cc「らしかった」と思うのは私だけではないと思います。

愛ゆえに」以前の10ccは「アイム・ノット・イン・ラブ」のシングルしか知らないという洋楽ファンの方、また「10cc」って誰?という若い洋楽ファンの方、このアルバムは最近スタートしたApple Musicでも聴くことができます。一度耳を傾けてみて、こんな洒脱でウィットに富んだロックが評価されていた1970年代後半のイギリスポップ・ロックシーンの雰囲気を感じてみてはいかがでしょうか。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位15位(1975.8.2〜8.9)

全英アルバム・チャート最高位3位(1975)

I’m Not In Love

  • ビルボード誌全米シングル・チャート(Hot 100)最高位2位(7.26〜8.9、3週間)
  • 全英シングル・チャート 最高位1位(6.28〜7.5、2週間)

Life Is A Minestrone

全英シングル・チャート 最高位7位(1975)