新旧お宝アルバム!#93「Journey To The Land Of Enchantment」Enchantment (1979)

新旧お宝アルバム

2017.7.17

新旧お宝アルバム #93

Journey To The Land Of EnchantmentEnchantment (Roadshow / RCA, 1979)

この週末は今日の海の日を入れての三連休。この週末からもう夏休みという学校も多いでしょうし、海に山に小旅行と連休を満喫されている方も多いでしょう。そういうレジャーにも是非いい音楽、いい洋楽を携えて楽しんでおられる方も多いことと思います。

さて今週の「新旧お宝アルバム」は久々に70年代に戻り、メインストリームでの商業的成功は今ひとつでありながら、その素晴らしいバラード・ナンバーの数々で当時のR&Bシーンに大きな存在感を残し、後の90年代にR&Bが復興した際、ジェシー・パウエルらの伝統的スタイルのR&Bシンガー達にも大きな影響を与えたデトロイト出身の5人組コーラス・グループ、エンチャントメントの3作目『Journey To The Land Of Enchantment』(1979)をご紹介します。

エンチャントメント、というと全米トップ40ヒットファンやソウル・ファンの間ではあの名バラード「Gloria」(1977年全米最高位25位)を含むファースト・アルバム、いわゆる「カエルジャケ」で有名な『Enchantment』(1977)や、もう一曲の全米トップ40ヒット「It’s You That I Need」(1978年全米最高位33位)を含むセカンド・アルバム『Once Upon A Dream』(1978)の方が知られているかもしれません。いやそれ以前にエンチャントメントというグループ自体、熱心なソウルファン以外にはあまり一般的には知られていないというのが実態でしょう。

エンチャントメントは古くからのソウル・コーラス・グループの伝統的スタイルを受け継いだ、バラード・ナンバーにその素晴らしさを発揮するグループ。しかし彼らのバラード・ナンバーというのはどれも、それはそれは宝石のように輝く素晴らしいナンバーばかりで、そうした卓越したバラード・パフォーマンスこそが彼らの最大の強みであることは間違いないでしょう。

その彼らのスタイルの強みを最大限に引き出しているのが、ファースト以来このアルバムまで3枚の楽曲作りとプロデュースをつとめたマイケル・ストークス。彼の作り出す数々のバラードの名曲とサウンドワークが、エンチャントメントを70年代屈指のバラード・グループにした大きな要因でした。これほどのアーティストを育て上げたマイケル・ストークスですが、エンチャントメント以外ではこれといった実績を残しておらず、エンチャントメントマイケルの関係がお互い不可欠、ワン・アンド・オンリーであったことが分かります。

先ほどにも述べたように、このアルバムの前の2作からは全米トップ40ヒットも生まれていますし、前作はR&Bアルバム・チャートでもトップ10に入るなど、商業的にも盛り上がっていた後のこのアルバムからは前2作ほどの大きなヒットは生まれていません。しかし、このロードショー・レーベル最後、そしてマイケル・ストークスとの仕事最後となったアルバムは、その後半を構成する怒濤のようなバラード・ナンバーの洪水だけを持ってしても、充分「お宝アルバム!」の価値はある作品だと思います。

一方時は1979年、ディスコ・ブーム真っ只中の時代であり、アルバムの冒頭「Future Gonna Get You」は明らかにディスコな楽曲も用意しました、的な感じで正直あまり頂けません。2曲目の「Magnetic Feel」も同様の路線ですが、ただこちらはメインリフのクラヴィネットとホーンとベースのフレーズが、この2年後にブレイクするリック・ジェイムスの「Give It To Me Baby」を彷彿させたり、全体的にも70年代中期のテンプテーションズのアップナンバーを思い出させるようなしなやかさで決して悪くありません。このアルバムの最大の特徴は「だんだんよくなるエンチャントメントの3枚目」というものですが、正にその通りの展開で、次の「Anyway You Want It」はしなやかで洒脱なフレージングがフィリーソウルを思わせる素敵なミディアム・ナンバー。リードボーカルのエマニュエル・EJ・ジョンソンのファルセット気味のテナー・ボーカルが気持ちよく心に響きます。続く「Love Melodies」はちょっとサザン・ソウル風にスワンプ風味のギターとフェンダー・ローズとストリングスがダウン・トゥ・アースな気持ちよさを醸し出すゆったりとしたナンバー。

この後アルバムはやや中だるみとなり、ムーディなミディアム・スロー「Oasis Of Love」、これもややディスコ仕様だけど凡庸な「I Wanna Boogie」、そして何故かイントロにサーカスの呼び込みのメロディがあしらわれて、ややオールド・タイム・ミュージック風を狙っているような「Fun」の3曲が続きますが、正直この3曲は全体の流れを止めてしまっていて熱心なファン以外は飛ばして聴いて頂いても大丈夫です(笑)。

そしていよいよ怒濤の後半がスタートするのは「Let Me Entertainment You」。ここではまだ凄さはありませんが、エマニュエルを中心に60年代のテンプスか、70年代のフォートップスか、というくらい完璧にコーラスワークを決める5人のボーカルが、心地よくリスナーの耳を包み込んでくれるミディアム・ナンバー。「ここから思い切り楽しんでくれ」という彼らの決意表明のようにもきこえます。そしてホーンとストリングスとリズムセクションが刻むイントロが入ってきた瞬間に素敵な時間を予感させる彼ら屈指の名バラード「Forever More」。アルバムジャケにメンバーのバックに写る星空から降ってくる流れ星のような音をシンセで散りばめながら抑えたバックトラック、コーラスもやや抑えめにリードのエマニュエルの素晴らしいテナー・ボーカルに寄り添ったパフォーマンス。「君の愛と一緒にいると素晴らしい/僕はずっと永遠に君の愛を大事にするよ」というベタベタのラヴソングなのですが、ここでの彼らのパフォーマンスこそ素晴らしいの一言。

そしてこのアルバムの実質のラスト・ナンバー「Where Do We Go From Here」。知り合ったばかりの男女が二人きりになったのだけど、このまま何もなかったかのように立ち去るべきか、それともお互いに手を取って何が起こるのか試してみるべきなのか、ねえ君、これからどうすればいいんだろう、と歌うこの歌は、ギターとシンセによるスペーシャスなトラックをバックにゆったりと始まります。ここでもひたすらエマニュエルの素晴らしいファルセット・テナー・ボーカルとそれにぴったりと寄り添うコーラスによるエンチャントメントのパフォーマンスは、正に「クワイエット・ストーム」という言葉がぴったり。

曲はそのままアルバムクロージングの「Journey」になだれ込みますが、これは先ほどのスペーシャスなトラックがまた前面に出てきて2分ほど流れてフェードアウトする、というもの。

自分が1991~93年にNY駐在の頃、地元のブラック専門FM局、WBLSをよく聴いていましたが、週末の夜10時頃からやっていた名物番組「Quiet Storm」のDJだったヴォーン・ハーパーバリー・ホワイト顔負けのロー・バリトン・ヴォイスの名DJ、惜しくも昨年71歳で他界)はよく番組の最後にこの「Where Do We Go From Here」から「Journey」の流れを使っていました。彼の「Journey」にかぶせてしゃべる「昨日から今日に時間が変わる真夜中…あなたにお届けしてきたQuiet Storm…」というMCが本当に印象的で、このアルバムを聴くたびにあのヴォーン・ハーパーのセクシーなMCを思い出すということもあり、自分にとっては特別なアルバムなのです。

一部の曲は今聴くとやや時代を感じてしまうものもあるのですが、後半の一連のバラード曲は今聴いても全く古さを感じさせない、名ソウル・コーラスグループ、エンチャントメントの真骨頂とも言える素晴らしさだと思います。夏の夜、ジャケにあるような星空を見ながら、ソウル・バラードの神髄を楽しむには絶好の盤だと思いますので、是非一度聴いてみて下さい。

 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位145位(1979.4.28付)

同全米ソウル・アルバムチャート最高位25位(1979.4.7-14付)