新旧お宝アルバム!#41「As Segundas Intenções Do Manual Prático…(パーティ・マニュアル2)」Ed Motta (2000)

2016.5.2

新旧お宝アルバム #41

As Segundas Intenções Do Manual Prático…Ed Motta (Mercury / Universal Brasil, 2000)

ゴールデンウイークも半分が終わりましたが皆さんは大型連休をエンジョイされているでしょうか。基本的に天候もずっといいようなので、旅行、アウトドアなどには最高のお休みになってるんじゃないでしょうか。

そんな中、洋楽フレンドの企画でワールド系の音源を持ち寄るリスニングパーティーに行ってきたのですが、そのネタで選んだ盤が久し振りに聴いたらえらく良かったので今週の「新旧お宝アルバム!」で取り上げることにしました。

このコラムでご紹介する初の非英語圏のアーティストとなる、ブラジルの新しいポップ音楽シーンを代表するシンガーであり、著名なレコードコレクターとしてもその筋では有名なエヂ・モッタの2000年の作品『As Segundas Intenções Do Manual Prático…(邦題:パーティ・マニュアル(2))』です。

Ed Motta Party Manual 2

ジャケを観るとどういう音楽をやるのか皆目検討がつかない、おつむは落ち武者のごとく薄くあご髭をたっぷりと蓄えた、お世辞にもスマートとはいえない体型と風貌のエヂ・モッタ。ところがこのアルバムの楽曲を一度聴くとその風貌と、作り出すサウンドのギャップに大抵の方は驚かれるはず。大変スタイリッシュでオシャレなAORチューンや、ライト&メロウながらダンサブルなR&Bっぽいライトファンク・チューン、果てはデヴィッド・フォスターかお前は!という感じのフュージョン・ジャズ的なアダルト・コンテンポラリー楽曲など、とにかくスイートでキャッチーな曲が満載のアルバムなのです。かのライト&メローがメイン・フィールドの音楽評論家、金澤寿和氏が以前ブログで「ブラジルのクリストファー・クロス」と評したのもむべなるかな。そして実は日本のシティ・ポップやジャズ通でもあるというエヂ、楽曲のそこここに山下達郎角松敏生といった、日本を代表するシティ・ポップ・アーティスト達の雰囲気をふんだんに湛えているのも、我々日本のリスナーには非常に親近感がわくところ。

エヂは、日本でも90年代にニュー・ミュージック・マガジン誌(現ミュージック・マガジン誌)あたりを中心に盛り上がったカエターノ・ヴェローソらと並び称されて、ブラジルのポスト・ボサノヴァ的音楽ムーヴメントであるMPB(Musica Popular Brasileira)の騎手の一人であるような言われ方をすることも多いようですが、そのキャリアのスタートは何とヘビメタ・バンド。その後R&Bやファンクを経由してジャズについての造詣を深め、その過程で徹底的に自分の好きな音楽のレコードやCDを買い集めて今は数万枚のコレクションを持っているらしいというから凄い。もっと凄いのは、日本のジャズ・レコード(こちらについても大変造詣が深いらしい)を掘る過程で山下達郎に遭遇、日本のシティ・ポップのクオリティの高さにいたく感動して以来、日本のシティ・ポップやジャズのレコードも数千枚規模で所有しているというからぶったまげる。

実際、つい最近彼自身の選曲によるSoundCloudのプレイリスト「City Pop Vol.2」という1時間半に及びプレイリストがネットにアップされたのですが、これがチャーで始まって小坂忠、桑名晴子ハイファイセットから角松敏生、ブレバタで盛り上がり最後は伊藤銀次村田和人の曲で渋く締められる、という「この人いったいどこの国の人?」と驚愕する代物なのです。ご興味のある向きは是非一度チェックされたし(http://www.waxpoetics.jp/news/edmotta-citypopvol2/)。

話をエヂ・モッタに戻しましょう(笑)。

Ed Motta Party Manual

このアルバムは、邦題に(2)とあるように、この前にリリースされた『Manual Prático Para Festas Bailes e Afins, Vol. 1(邦題:パーティ・マニュアル)』のある意味続編的アルバムのようで、前作はよりダンス・グルーヴに軸足を置いていた作品のようですが(ちなみにこのアルバムのジャケのエヂがまた凄く、どう見てもこういう音楽をやるミュージシャンには見えない)、このアルバムでは冒頭に述べたように、よりシティ・ポップ的なアダルト・コンテンポラリー・チューンが多くを占めています。

ナイル・ロジャースを彷彿するカッティング・ギターにアル・ジャロウっぽいエヂのボーカルが絡むアルバム冒頭の「Mágica De Um Charlatão(ペテン師の魔法)」や80年代のファンカラティーナっぽいパーカッションからいかにも山下達郎風のエレピのリフが炸裂して思わずカクテルを手に浜辺のバーのダンスフロアに踊り出したくなる「Colombina」、そしてアーチー・ベル&ザ・ドレルズの「Tighten Up」っぽいカッティング・ギター・フレーズをうまくモチーフに使った「Coversa Mole(気の抜けた会話)」あたりは、このアルバムでのダンス・グルーヴ系を代表する最もアップテンポな楽曲たち。

でも他の曲もダンサブルでアダルトな洒脱なナンバーばかりで、後打ちのリズムがファンキーな「Dez Mais Um Amor(10足す恋は)」、70年代シンガーソングライター的マナーでボビー・コールドウェルあたりをいやでも思い出すバラードの「A Deriva(成り行きに任せて)」、変リズムや複雑なコード進行に載せたファンキー・シャッフルが明らかに達郎の影響を感じさせる「Pisca-Alerta(ハザード・ランプ)」、80年代アメリカ・ブラコンの匂いが色濃く漂う「Uma Vida Interia Pra Mim(人生丸ごと)」あたり、ボビー・コールドウェルなどの80年代ダンサブルAOR、昨年リリースされて日本でライヴもやったメイヤー・ホーソーン率いるタキシードあたりのライト&メロウな線がお好きな向きに取ってはめくるめくような楽曲がてんこ盛りの作品になっています。

アルバム後半は少しジャズ・フュージョン寄りのサウンドにシフトして、本アルバム中2曲だけ英語で歌われる「Suddenly You」「Drive Me Crazy」はアル・ジャロウのアルバムからのカット、と言われてもおかしくない感じの曲。「Assim, Assim(そんな風に)」なんて昔のインコグニートエヂは2013年にインコグニートとジョイントで来日している)だし、「Outono No Rio(リオの秋)」は正統派スイング・ジャズ、締めの「A Tijuca Em Cinemascope(シネマスコープで見たチジュッカ)」はフリージャズ風のインスト・ナンバー。彼がジャズとシティ・ポップが大好物、という話を裏付けしたアルバム全体の構成といっていいクロージングです。

既に述べたように達郎の大ファンで、2013年来日時も達郎の「Windy Lady」を日本語でカバーしたというから恐れ入るのです。そんな彼の日本のシティ・ポップのLPレコード購入第一号は吉田美奈子の『Flapper』(1976)のようです。もちろん日本だけではなく、アメリカのAOR系音楽にも大変興味と造型が深く、以前からアメリカに対する憧憬をあらわにしていたのですが、最新アルバムの『Perpetual Gateways』(2016)は最近話題のR&Bジャズ・シンガー、グレゴリー・ポーターのプロデューサーで知られるカマウ・ケニヤッタをプロデューサーに迎えて初のアメリカはLA録音。バックにはパトリース・ラッシェングレッグ・フィリンゲインズ、ヒューバート・ローズといった、錚々たる80年代のUSブラコンやフュージョン・シーンで名の知られたミュージシャンを配して、スティーリー・ダンを思わせるような作品に仕上げているようです。こちらも是非聴かねばと思っていますが、それまではこの『パーティ・マニュアル(2)』をGW中のホーム・パーティなどのお供に、是非ブラジルの鬼才が作り出した流れるようなソフト&メロウな楽曲群に身を任せてみてはいかがでしょうか。

<チャートデータ>

英米ともにチャートインなし