新旧お宝アルバム!#33「Tales Of Mystery & Imagination: Edgar Alan Poe」The Alan Parsons Project (1976)

2016.3.7

新旧お宝アルバム #33

『Tales Of Mystery And Imagination: Edgar Allan Poe』The Alan Parsons Project (20th Century, 1976)

ここ数日急に暖かさが増して、梅の花も満開の時期を過ぎ、そろそろ桜の蕾が膨らみを増していよいよ春本番が間近に来ていることを思わせる今日この頃、皆さんはいかがお過ごしですか?

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムとして、80年代に「Eye In The Sky」「Time」「Don’t Answer Me」などのヒットを次々に飛ばし、MTV世代の洋楽ファンの皆様にもお馴染みのアラン・パーソンズ・プロジェクトが1976年にリリースしたグループ処女作で、あの19世紀に「黒猫」「アッシャー家の崩壊」などの恐怖文学やミステリー・推理小説の原型となった「モルグ街の殺人」「黄金虫」など、数々の画期的な作品を著した鬼才、エドガー・アラン・ポーの作品を題材とした意欲作、『怪奇と幻想の物語~エドガー・アラン・ポーの世界~(Tales Of Mystery And Imagination: Edgar Allan Poe)』をご紹介します。

TalesOfMystery&Imagination (Front)

80年代に上記のようなポップなヒットシングルを量産していたアラン・パーソンズ・プロジェクト(APP)に親しんだMTV世代以降の洋楽ファンの方々に取って、APPスティーリー・ダンなどと並ぶちょっとセンスのいいポップ・バンド、というイメージかもしれません。

しかし、APPの中心人物、アラン・パーソンズは、あのビートルズの名盤『アビー・ロード』(1969)や『レット・イット・ビー』(1970)、そしてプログレッシブ・ロックの名盤ピンク・フロイドの『狂気(Dark Side Of The Moon)』(1973)といった60年代~70年代初頭のUKロックを代表する数々のレコードのエンジニアを務めるなど、当時の音楽制作サイドの重要人物として有名なお人。

自然、彼が1975年に相棒のエリック・ウールフソンと結成したAPPの当初の作品は、どちらかというとピンク・フロイドを思わせるようなプログレッシヴ・ロック的なシャープで映像的かつ独特のイメージを喚起するものが多かったのです。

その時代のスタイルを如実に象徴するのが今回ご紹介するアルバム。エドガー・アラン・ポーといえば、ミステリー愛好家のみならず、19世紀ゴシック文学に興味のある方であればよくご存知の作家。「怪人二十面相」シリーズの江戸川乱歩がそのペンネームを彼の名前から取ったことはあまりにも有名です。

そんなポーの作品を題材に、サウンド的にもゴシックな雰囲気をふんだんに湛えたこのアルバムは、プログレッシヴ・ロックの傑作であると同時に、後のAPPのポップ・フィールドでの成功を予感させるような、ちょっと影がありながら、魅力的なサウンドとメロディーの楽曲があたかもポーの小節をオムニバス映画化した作品のサウンドトラックのように緻密に構成されているポップ作品としても非常にクオリティの高い作品です。

この作品の重厚かつ緻密なサウンドを支えているのはもちろんアランエリックのペンによる楽曲群と彼らの演奏・ボーカルですが、彼らはこのアルバムに200人を超えるミュージシャンを起用し、かなりの制作費をかけた模様。またこのアルバムに参加しているパフォーマー達の顔ぶれも多彩です。

アルバム発売当時のCMスポット、及びオープニングの「夢の中の夢(A Dream Within A Dream)」の冒頭、そしてこのアルバムの中心である5つのセグメントから成る組曲的トラック「アッシャー家の崩壊(The Fall Of The House Of Usher)」の冒頭のアナウンスを担当しているのが、あの映画『市民ケーン』で知られる映画監督、オーソン・ウェルズ

アルバム2曲目の「大鴉(The Raven)」とアルバム最後の「To One In Paradise」でナレーションを担当しているのは、映画『ロミオとジュリエット』(1968)のロミオ役で有名なイギリスの名優、レナード・ホワイティング。

そして各曲のボーカルを担当するのは、APPの二人に加えて、70年代のホリーズのヒット「兄弟の誓い(He Ain’t Heavy…He’s My Brother)」や「安らぎの世界へ(The Air That I Breathe)」のボーカルを取っていたテリー・シルヴェスター、70年代後半UKでヒット曲を連発していたロック・シンガー、ジョン・マイルズ、そしてアルバム3曲目の「告げ口心臓(The Tell-Tale Heart)」のボーカルは1968年に英米で大ヒットした「Fire」のクレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウンアーサー・ブラウン。

また、各曲のトラックの演奏を担当しているのが、70年代中盤ポップヒット「Magic」「January」で知られるパイロットのメンバーと、70年代後半に「How Much I Feel」「Biggest Part Of Me」の全米トップ10ヒットを飛ばすアンブロージアのメンバーというジャンル関係なしの贅沢さ。

こんなメンバーを配していい作品ができないわけはありません。

TalesOfMystery&Imagination (Insert)

アルバムはオーソン・ウェルズのナレーションの後、ポーの詩を元にしたインストの「夢の中の夢」で静かに始まります。そして続くは「大鴉」(これも元はポーの詩です)。この曲はロックで初めてボコーダーを使用した曲らしく、アラン自らボコーダーを通したボーカルで何やら幻想的なポーの世界を作り上げるベースになっています。

続く「告げ口心臓」は老人を殺した男がその死んだ老人の心臓の鼓動に苛まれて自らの罪状を告白してしまうというポーの作品を、冒頭アーサー・ブラウンの叫び声とその後のちょっとワイルドなボーカルで見事に表現しています。

その次は「アモンティリヤードの酒樽(The Cask Of Amontillado)」。自らを侮辱した男に復讐するためにその男を酒蔵の奥に煉瓦とモルタルで塗り込めるという話とは裏腹に後の「Time」あたりに通じるような美しいメロディと力強いリズミックな曲調が印象的です。

そしてこのアルバムからの全米トップ40ヒットとなった「タール博士とフェザー教授の療法(The System Of Dr. Tarr & Professor Fether)」。新しい療法を開発したという触れ込みのタール博士とフェザー教授が実は二人とも狂人であったというお話ですが、曲はジョン・マイルズのソウルフルなボーカルが印象的なキャッチーな楽曲。

そして本アルバムの中核である「アッシャー家の崩壊」。精神的に病んだ友人に乞われてアッシャー家を訪れた主人公が、生きながら埋葬されてしまった友人の妹が地下から戻ってきて友人を殺し、一緒に屋敷共々地中に崩壊していくのを目撃するという、ゴシック恐怖小説の極致みたいなお話しを、APPはまるで映画音楽のサントラのようなひたすらドラマティックで美しいインスト組曲で表現しています。

そしてアルバムは静かで美しいメロディを持つ「To One In Paradise」で、ここまでテンション高く展開していたアルバムに終止符を打ちます。

TalesOfMystery&Imagination (back)

どうしてもプログレッシヴ・ロック的と言ってしまうと、難解でちょっと衒学的で、わかりにくい、といったイメージが伴いがちですが、APPのこのアルバムは後の彼らの作品でもそうであるように、楽曲的にはとても判りやすく、曲によってはとても美しい、あるいはキャッチーな曲が並んでいます。思うにアラン・パーソンズという人はイメージ的に音を作り上げることについては天才的なところがあり、この後も有名なSF作家であるアイザック・アシモフの作品をモチーフにした『I Robot』(1977)でもAIをテーマに非常にヴィジュアルな音表現による作品を発表しています。

80年代はどちらかというと楽曲単位で自らのサウンドプロダクションを発揮することでメインストリーム・ポップでの成功を果たしたアラン・パーソンズですが、その彼のそもそもの出自の部分を経験して頂く意味でもこの彼らの処女作アルバムを、一度じっくり聴いてみてはいかがでしょうか?

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位38位(1976)

(The System Of) Dr. Tarr & Professor Fether

ビルボード誌全米シングル・チャート(Hot 100) 最高位37位(1976.9.18付)

The Raven

同 最高位80位(1976.10.30付)