新旧お宝アルバム!#130「Definition Of A Band」Mint Condition (1996)

2018.9.10.

新旧お宝アルバム #130

Definition Of A BandMint Condition (Perspective / A&M, 1996)

先週西日本を襲った巨大台風21号Jebiによる被害、そしてその数日後に北海道を直撃した震度7の地震と、先週の日本はまさに災害列島の様相を呈し、各地での犠牲者の方々、非難されて電気や水などのライフラインを断たれて大変な状況の方々の様子を知るにつけ、犠牲者の方々のご冥福を心より祈ると共に、被災者の皆さんの一刻も早い日常へのご復帰を祈らずにはいられません。一方昨日日本中をわかせた大坂なおみ選手の全米オープン優勝。セリーナや大会側のフェアとはいえない対応もありましたが、彼女の輝きがこれでくすむことはないので、このニュースが災害に苦しむ方々の力に少しでもなればいいですね。

さて一方で徐々に秋に向かう感じの天候になりつつある今日この頃、今週の「新旧お宝アルバム!」は、来る秋の雰囲気を感じさせてくれる、90年代のお宝R&Bアルバムをご紹介。90年代のソウルR&Bルネッサンス・ムーヴメントを代表する、セルフ・コンテインド・バンド(自ら楽器演奏するR&Bバンドのこと)の代表選手、ミント・コンディションの3枚目のアルバム『Definition Of A Band』(1996) をご紹介します。

以前もこのコラムで触れましたが、1970~80年代を通じて洋楽に親しんだファンの皆さんの多くが、新しい洋楽作品やアーティストから離れてしまった1990年代というデケイドは、実は80年代USの音楽シーンの多くがマスプロ偏重、シンセや打込みサウンドに偏重したことのアンチテーゼでもあるかのように、多くのアーティストがよりアコースティックで、オーガニックな演奏や歌唱、楽曲スタイルに回帰し、ロック、R&B、ヒップホップ、カントリー、ルーツ・ミュージックと多くのジャンルにおける質の高い作品が多く生み出された、実は音楽的には大変重要なデケイドでした。

かのMTVアンプラグド・シリーズが始まったのが1989年というのもそれを象徴しています。で、

90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、通算第7弾。

以前申し上げたように、個人的に90年代のR&Bシーンでのルネッサンス立役者は、テディ・ライリーブラックストリートガイなど)、ラファエル・サディークトニ・トニ・トニ)、ベイビーフェイスそしてジャム&ルイスソロジャネットの一連の作品など)だと思っているのですが、このうち唯一クリエイティヴ的には停滞期だった80年代の初頭から一貫してクオリティの高い作品を作り続けてきたのがご存知ジャム&ルイス

その二人が90年代の動きに呼応するかのように、A&Mレーベルの肝いりで1991年に立ち上げたレーベルがパースペクティヴ・レーベル。そしてそこからの第1号アーティストが、今日お届けするミント・コンディションでした。

ストークリー・ウィリアムス(vo.)、ホーマー・オデル(g.)、ラリー・ワデル(kbd.)、ジェフ・アレン(kbd., sax.)、ケリ・ウィルソン(g., kbd., perc.)そしてリック・キンチェン(b.)の6人からなるミント・コンディションは、1989年にミネアポリスのクラブで演奏しているところをジミー・ジャムにスカウトされ、当時彼がテリー・ルイスと立ち上げようとしていたパースペクティヴ・レーベルから1991年にはデビュー・アルバム『Meant To Be Mint』をリリース。

バンドメンバー全員が楽器演奏(しかもキーボード奏者が3人いて音の厚みが素晴らしいのです)し、全員が曲を書けるというミントが、キャッチーなバラード・ナンバー「Breakin’ My Heart (Pretty Brown Eyes)」(全米最高位6位、R&Bチャート3位)でたちまちヒットをものにしたのは、上記のような彼らの音楽的才能レベルの高さを考えればある意味当然だったかも。

彼らの音楽性は、当時の他のアメリカのR&Bアーティスト達に比べると、自らの演奏を主体に楽曲を自ら書いていく、そしてプロデュースもセルフでこなしてしまう、というスタイルも関係してか、ジャズ、それも90年代UKで同時に盛り上がっていったアシッド・ジャズ的なスタイルを強く持っていて、それが彼らを90年代R&Bルネッサンス・ムーヴメントの中でも、ユニークな存在にしている大きな要素のように思います。そしてこのアルバムもタイトル(バンドというものの定義)も彼らがバンド・アーティストであることの矜持を明確に示しているのは間違いのないところ。

まるでジャムセッションのような、ドラムスのソロからカリプソ・スティール・ドラムやサックスが入り乱れる短い「Definition Of A Band (Intro)」で始まるアルバムは最初からただのR&Bアルバムじゃない感満載。リズムを強調したグルーヴがいい「Change Your Mind」から、ミントお得意のゆったりとしたグルーヴを内包したバラードのシングル「You Don’t Have To Hurt No More」になだれ込むあたりの気持ちよさはこのバンドの真骨頂。

https://youtu.be/RT3j1_v26PM

レコードのスクラッチノイズ的SEをバックにこちらもうねるグルーヴとリズムが快感の「Gettin’ It On」を経てこのアルバム最大のヒットシングルとなった完全クワイエット・ストーム・フォーマットの「What Kind Of Man Would I Be」。同時期最盛期を迎えていたベイビーフェイスの影響も感じるメロディを歌うストークリーの艶のあるボーカルと時折入るミント得意のリズムのキメがアルバム前半のハイライトを構成。

https://youtu.be/ORva1mGyyJ0

その後冒頭の曲を更にスイング・ジャズ・セッション風にアレンジした「Definition Of A Band (Swing Version)」に続いて演奏される「Ain’t Hookin’ Me Up Enough」はそれまでの楽曲に比べてファンキーさを前面に出したナンバー。そしてそこからいきなりボコーダーをフィーチャーしてザップ風のヘヴィー・ファンクを聴かせる「Funky Weekend」、ピーヒャラ・シンセをフィーチャーした「I Want It Again」あたりはいわばこのアルバムのファンク・セクション。それでもそれに乗るストークリーのテナー・ボーカルが楽曲のしなやかさを演出してるところがミントたるところ。

On & On」からはまたお得意のミント節に戻り「The Nerver That You’ll Never Know」は90年代R&Bの典型的なアレンジで彼らのミュージシャンシップを感じさせるナンバー。そこからまた「Raise Up」ではスローながらまたファンキーな楽曲を挟んだ上で、ボーイズIIメンを思わせるほぼアカペラの「On & On (Reprise)」でまた少しメインストリームに戻した後、アルバム終盤はバンド演奏ならではのジャムセッションにボーカルが乗ったような楽曲スタイルの2曲「Sometimes」「Missing」でシャッフル調のグルーヴを展開した後、クロージングはピアノのみの弾き語りでストークリーが両親への愛情を気持ちをこめて、しなやかに歌い上げる「If It Wasn’t For Your Love (Dedication)」で終了。最後にストークリーが「Love you, Mom & Dad」とつぶやくのがいい。

ストークリーの歌のうまさ、アシッド・ジャズやジャズのジャム・セッション的グルーヴで聴かせるバンド演奏と楽曲構成、そしてキメのリズムやメロディをメリハリよく配置したそつのないソングライティングがミントの魅力の主たる構成要素で、このアルバムは初期3枚の中でもこれらが最もバランスよく、絶妙に作り込まれている作品だと思います。

この後ミントパースペクティヴ・レーベルのクローズに伴いエレクトラに移籍して『Life’s Aquarium』(1999)をリリースの後、6年間のバンド活動休止に入ります。トニ・ブラクストンと結婚したケリの脱退後、活動を再開したミントはインディから4枚ほどのアルバムをリリース。いずれもそこそこの結果を残していたのですが、彼らの名前を久しぶりにメジャーなニュースで聞いたのは2016年の第59回グラミー賞で、彼らが前年に出したクリスマス・アルバム『Healing Season』が最優秀R&Bアルバム部門にノミネートされたこと。残念ながら賞はレイラ・ハサウェイに持って行かれてしまいましたが、彼らの健在さを改めて実感したことができて嬉しく思ったのを覚えています。

秋の気配が少しずつ強くなる今日この頃、ミントのグルーヴ満点な楽曲と演奏、そしてストークリーの素敵なボーカルを聴きながら過ごしてみるのも乙なのではないでしょうか。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位76位(1996.10.12付)

同全米R&Bヒップホップ・アルバム・チャート 最高位13位(1996.10.12付)