新旧お宝アルバム!#87 「Breakwater」Breakwater (1978)

2017.5.29

新旧お宝アルバム #87

BreakwaterBreakwater (Arista, 1978)

風薫る5月もいよいよ最終週となって、そろそろ来る梅雨の気配も感じられる中、それでもUSではメモリアル・デイ・ホリデー(戦没者を追悼する休日ですがアメリカ人一般には夏の到来を告げる休日で、各地でバーベキューを楽しむ家族が多い週末)のこの週末はいい天気で運動会なども多く開催されたようですが、皆さんも音楽とアウトドア、楽しまれましたか?

さて今週の「新旧お宝アルバム」はちょっと昔の旧盤をご紹介する番ですが、今回はそういう夏に向かう雰囲気にピッタリの軽快なグルーヴとライトでダンサブルなファンク・ナンバーを楽しく聴かせてくれるフィリー出身の8人組、ブレイクウォーターのデビュー・アルバム、その名も『Breakwater』(1978)をご紹介します。

70年代初期にフィラデルフィアで結成されたブレイクウォーターは、リード・ボーカルでキーボード、シンセ担当のケイ・ウィリアムスJr.、もう一人のリード・ボーカルでトランペットとフリューゲル・ホーン担当のジーン・ロビンソン、ジェイムス・ジー・ジョーンズ(ds.)、リンカーン ”ラヴ” ギルモア(g.)、スティーヴ・グリーン(b.)、ヴィンス・ガーネル(sax.)、メンバー中唯一の白人メンバーであるグレッグ・スコット(sax.)そしてジョン”ダッチ”ブラドック(perc.)の8人による、いわゆる70年代ソウル的に言うと、ボーカル&インストゥルメンタル・グループ。テンプテーションズフォー・トップス、スピナーズなど伝統的なソウル・グループがもっぱら歌唱に徹するスタイルであったのに対し、初期のコモドアーズがそうだったように、自らボーカルやコーラスだけでなく、楽器も全部こなしてしまうグループのことです。

このアルバムは既にフリー・ソウルのコンピに曲が取り上げられたり、今年になって音楽評論家の金澤寿和さん監修によるディスク・ユニオンさんのAOR名盤千円シリーズでCDが再発されたりしているので、特にAOR系や70年代80年代ソウル好きに方々の間ではお馴染みの盤かと思います。

でもこのグループのこのアルバム、1978年というディスコ全盛まっただ中の時代に、いわゆる安易なディスコ・プロダクションに流れることなく、正統派のダンサブルなソウル・ファンクをベースに、曲によってはAOR的な味付の楽曲や(すべてがAORではない)、曲によっては当時盛り上がりつつあったフュージョン的なスタイルを取り入れた楽曲で多様性を持たせながら、アルバム全体がガッチリとしたキャッチーなプロダクションで統一されているところが非凡なレコードだと思います。

ポイントはリーダーのケイ・ウィリアムスを中心にジーングレッグの3人がそれぞれのスタイルの曲を書くことができること、そしてこの後80年代にエア・サプライ、シンディ・ローパーフーターズなどメインストリームのポップ作品を次々にプロデュースすることになるリック・チャートフが絶妙のさじ加減で全体の楽曲スタイルと演奏をまとめ上げていることの2つでしょう。

アルバムオープニングはフリー・ソウルのコンピで取り上げられてその筋にも人気があったという「Work It Out」。静かなエレピのイントロから始まってだんだんテンポを上げていってメインは軽快なカッティング・ギターをバックにトロピカルな味付けのミディアム・ダンスナンバーになっていくというアルバムのウォーミング・アップ的楽曲。続くは「You Know I Love You」。こちらは白人メンバーのグレッグ作だからというわけでもないでしょうが、初期ホール&オーツ的ブルー・アイド・ソウル風味全開のバラードでリスナー思わずほっこり。ソングライターメンバー3人の共作による軽快な正統派的ソウル・ファンク・ナンバーの「Unnecessary Business」に続いて炸裂するのが、個人的にはこのアルバムのベスト・カットではないかと思う「No Limit」。70年代のこの時期に既に80年代のチェンジS.O.S.バンドといったバンドが達成していた、シンセベースとカッティング・ギターの組み合わせによるスタイリッシュでいて腰の入ったメロウ・ファンクを聴かせてくれます。おそらく80年代にダンスフロアで青春を過ごした年代の方々であればたまらない楽曲でしょうね、これは(笑)。ちなみにこの曲はこの直前にLTDの「Back In Love Again」(1977年最高位4位、ソウル・チャート1位)の作者としてブレイク、自らも同時期「Dancin’」をソウル・チャート最高位8位のヒットとしていたグレイ&ハンクスの作品。熱心な70年代のソウルファンであればこの名前、よくご存知のはず。

LPだとB面に移ると、今度はソウル風味のメインストリーム・ポップ・ソング的メロディとリズムが魅力の「That’s Not What We Came Here For」。この曲がちょっと他の曲と毛色の違う、ポップ色の濃い曲調なのはこの曲の作者がこの後80年代にエア・サプライEvery Woman In The World」、シーナ・イーストンModern Girl」、パティ・オースティンEvery Home Should Have One」といった数々のポップ楽曲をヒットさせるドミニク・ブガティフランク・ムスカーのソングライティング・チームだったため。続くのはダンサブル・ファンクのお手本のようなケイによる「Feel Your Way」。すぐさまブレイクウォーターの本来のスタイルに戻してくれるこの曲はシンプルな歌詞で演奏を前面に押し出した、フュージョン的な色合いの濃いダンス・ナンバーです。シンセ・ベースをガンガンにフィーチャーして更にソウル・ファンク・ナンバー「Do It Till The Fluid Gets Hot」はメンバー全員の共作。ボーカル&インストゥルメンタル・グループのアルバムには必ず1曲は入っている「皆でジャムってたらこんな曲できたよ」って感じでライヴなグルーヴがビンビンに伝わって来ます。

そしてアルバムラストはホーン・セクションを前面に押し出したイントロからこちらもメロウな感じを残しながらベースはブチブチのファンクの「Free Yourself」で締めです。

リーダーのケイ・ウィリアムスJr.はよくフリー・ソウル系の情報だと「後にチェンジハイ・グロスに参加した」と書かれてますが、チェンジのメンバーであったことはなさそうで、唯一彼らの1982年のアルバム『Sharing Your Love』に収録の「Keep On It」の作者として名前をクレジットされているだけのようです。ハイ・グロスについては未確認なのでご存知の方の情報、お願いします。それよりも彼は80年代のソウル・グループ、キャシミアのプロデュースや、「On The Beat」のダンス・ヒットで有名なBB&Qバンドの最後のアルバム『Genie』(1985)の全曲提供とプロデュースなどで主としてプロデューサーとして活躍、1988年には同じフィリー出身の3人組、プリティ・ポイズンの大ヒット「Catch Me (I’m Falling)」(最高位8位)のプロデューサーとして晴れてメインストリームの成功を収めています。

セカンド『Splashdown』(1980)リリース後、ケイのプロデュース業以外では消息を知られていなかったブレイクウォーターですが、ここ数年再評価の動きもあり、地元フィリーやロンドンでのR&Bやファンクに関わる各種イベントに昔のメンバーを中心に集まった11人のメンバーでライヴ参加しているとのこと。フィリーもロンドンもこの手のサウンドには目のないファンが多い土地なので、まだまだ彼らのサウンドへの需要は尽きないのでしょう。フィリーやロンドンでなくとも、こういうちょっとスタイリッシュで、でもガッチリとしたファンクサウンドはこれからの季節にピッタリ。再発CDも1,000円で買えるとのことですので是非この機会に手に取ってみて下さい。

 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位173位(1979.4.21-28、5.12付)

同全米ソウル・アルバムチャート最高位36位(1979.3.17-4.7付)