新旧お宝アルバム!#46「Family Dinner, Volume One」Snarky Puppy (2013)

2016.6.6

新旧お宝アルバム #46

Family Dinner, Volume OneSnarky Puppy (Ropeadope, 2013)

関東地方もいよいよ梅雨入り。これからしばらく鬱陶しい天候の日々が続くのかと思うと気分も沈みがちではありますが、是非いい音楽を聴き、いいライヴに行って、気持ちだけはハイで夏の到来を待ちつつ、楽しい音楽ライフをエンジョイしたいものですね。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」、「新」のアルバムご紹介の順番ですが、既に2013年以来毎年来日、日本のジャズやR&Bのファンの間に既にファンを増やし始めている、NYはブルックリンを中心に活動する、様々な若手ジャズ・R&Bミュージシャン集団で構成されるユニークなグループ、スナーキー・パピーがメインストリームのリスナーにもブレイクするきっかけとなった2013年の7枚目のアルバム『Family Dinner, Volume One』をご紹介します。

Family Dinner Vol 1

自分がスナーキー・パピーの名前を知ったのは、このアルバムに収録された、あの有名なR&Bシンガーであるレイラ・ハサウェイ(ご存知ロバータ・フラックとの共演アルバムで有名な故ダニー・ハサウェイの娘)とのコラボレート曲「Something」が2014年の第56回グラミー賞最優秀R&Bパフォーマンス部門で見事受賞したとき。

毎年グラミー賞主要部門の予想をブログにアップしている関係で、この部門もノミネート作品をチェックしていて「ん?レイラ・ハサウェイは知ってるけどスナーキー・パピーって誰だ?」と思いYouTubeでチェックしたところ、大学の音楽大教室のようなところで10人以上の様々な楽器を演奏するミュージシャン達に囲まれて素晴らしい歌唱を披露しているレイラの映像が。

レイラの歌唱の素晴らしさもさることながら、その音楽スタイルたるや、オーガニックR&Bジャズとでもいえばいいのか、ごくごくスタンダードな楽器の音をメインにして、自然に生まれるグルーヴをそのまま音楽に封じ込めた、といった最近あまり耳にしないタイプの演奏スタイルだったので、即このアルバムをチェックしたという次第。

Chantae Cann

そしてこのアルバムの内容が、その「Something」も含めて、2013年にヴァージニア州のジェファーソン・センターでライヴ収録された、それぞれに異なるボーカリスト(ほとんどはR&B系のシンガー)をフィーチャーした8曲を収録したというもので、そのクオリティの高さにすっかりハマってしまったのでした。

アルバムは、インディ・アリーなどのバックの経験もあるR&Bセッション・ボーカリストのシャンテイ・カン嬢のチャーミングなボーカルをフィーチャーした、レイドバックなリズムのフュージョン・ナンバー「Free Your Dreams」でスタート。いかにもジャム・セッション的なゆったりしたグルーヴの中でシャンテイ嬢が気持ちよさそうに歌っていて、こちらも自然に体が動いてくる感じ。ウォームアップ・ナンバーとしては最適か。

2曲目はブロードウェイ・ミュージカル『Rent』や『ヘアスプレー』などに出演、ベット・ミドラーや最近ではリアーナの『Loud』ツアーのバックボーカルとしてのセッションボーカルの経験も豊富なベテランシンガー、シェイナ・スティール嬢の力強いボーカルをフィーチャー、ハードでドラマチックな70年代ブラック・ムーヴィーを彷彿とさせるファンク・ソウルナンバー「Gone Under」。1曲目ではキーボードがフェンダーローズだったのに、この曲ではクラビネットを効果的に配して70年代テイストを醸し出していて、うーん昔のスティーヴィー・ワンダーカーティスのアルバムを聴いている雰囲気。

SnarkyPuppy

3曲目はテキサス出身の黒人ジャズソウル・シンガー、ンダンビ(中央アフリカ語で「最高に美しい」の意)をフィーチャーしたちょっと落ち着いた感じの「Deep」。この曲もR&Bテイストががっつり出ている曲ですが、前の曲と異なり、90年代のR&Bルネッサンス期のエリカ・バドゥディアンジェロといった人達のやりそうな楽曲を、楽器の音数もミュート・トランペット、パーカッション、エレピくらいにぐっと抑えて演奏。このあたりにメンバー達のミュージシャンとしての力量が存分に発揮されています。

4曲目はフランス語のボーカルでマグダ・ジャンニコウ嬢が軽快に、アップテンポ・ボサのリズムに乗って楽しく聴かせてくれる「Amour T’es La?」(ダーリン、そこにいるの?)。

[youtube]https://youtu.be/0SJIgTLe0hc[/youtube]

そして5曲目は冒頭でも触れた、レイラ・ハサウェイとのコラボ「Something」。もともとブレンダ・ラッセルのペンによるオーセンティックなR&Bバラードですが、レイラのソウルフルなボーカルとスナーキー・パピーのメンバーのジャジーなグルーヴ満点の演奏が相乗効果して、後半に行くに従ってどんどんカタルシスに昇り詰めていく感じが素晴らしいのです。この曲の映像を見ていると、クライマックスのところでレイラがあたかも一人でハーモニー・ボーカルを出しているかに聞こえるところがあり(生理学的にそんなことは不可能らしいのですが)バンドのメンバーがびっくりする、というシーンがあり、彼らが実に一体となってこのコラボ演奏が生み出すカタルシスを楽しんでいる様子が見て取れてワクワクすること請け合い。

6曲目はUKのシンガーソングライター、ルーシー・ウッドワード(2003年全米最高位30位のヒットとなったステイシー・オリコの「(There’s Gotta Be) More To Life」の作者の一人として知られる)をフィーチャーした、こちらはぐっと重たい雰囲気の陰のある感じのナンバー「Too Hot To Last」。

7曲目は、本作唯一の男性ボーカルで、ノラ・ジョーンズビル・フリゼルらとのセッション経験のあるギタリスト、トニー・シェアーをフィーチャーした「Turned Away」。ぐっと雰囲気を変えてブルース・ジャズ風な曲調と、トニーの特徴のある歌い方が印象的な曲で、テキサスかテネシーあたりの小さなライブハウスにいるような気分にさせてくれます。

アルバム最後はこちらも黒人R&Bシンガーのマリカ・ティロリエン嬢のワイルドでしなやかなボーカルでどんどん盛り上がっていくドラマティックなソウルナンバー「I’m Not The One」で幕を閉じます。

Family Dinner Back

スナーキー・パピーは2004年に北テキサス大学出身のマイケル・リーグ(ベース)を中心に結成され、2006年にアルバム『The Only Constant』でインディーからデビューしたグループ。そのメンバーはマイケルを含む13名ほどの中心メンバー以外はアルバムやツアーごとに参加するメンバーが入れ替わり、延べでこれまで合計40名ほどのミュージシャンがメンバー経験を持つという、とてもユニークな音楽集団。今回のこのアルバムには参加していませんが、日本人のパーカッショニスト、小川慶太も初期のアルバムから参加しており、最新作の『Culcha Vulcha』(2016)でも彼のパーカッションを聴くことができます。

自分は昨年9月、横浜赤煉瓦広場で行われたブルー・ノート・ジャズ・フェスティヴァルに参加した彼らを生で見ることができましたが、既にその時点で3回目の来日だった彼らのステージを取り巻くファンが開演30分前からぎっしりいるのにびっくり。始まった演奏はそれはもうメンバーが演奏を楽しみきっているのがビンビンに伝わってくる内容で、正直言ってメインのジェフ・ベックパット・メセニーよりも楽しかったかも、という出来でした。

Something」で初のグラミーを受賞後、昨年にはオランダのメトロポール・オーケストラとのコラボ作『Sylva』(2015)を発表、これも今年2月に発表の第58回グラミー賞最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム部門を受賞するなど最近アゲアゲの彼ら。

Sylva

そして実は彼ら、今2016年極東ツアーの真っ最中で、来週6/16(木)赤坂ブリッツ、17(金)横浜ベイホールでのライヴが目前に迫っています。このアルバムに同梱のDVDにはアルバム曲の演奏の様子のPVと、更には7曲のビデオのみボーナストラックも収録されていて、それらを改めて観ると彼らの昨年の楽しかったライヴの様子が蘇ってきます。来週の彼らの来日、チケット代も最近のライヴにしては割安なので、梅雨入りした天気を吹っ飛ばすためにも、このアルバムや最新作をチェックの上、ライヴを覗きに行かれてはいかがでしょうか?

<チャートデータ>

ビルボード誌全米ジャズ・アルバム・チャート 最高位4位(2013.10.11付)