2017.8.14
新旧お宝アルバム #96
『Truth Is A Beautiful Thing』London Grammar (Ministry Of Sound / Metal & Dust / Columbia, 2017)
さて今週はお盆ウィークということで夏休みを取られている方も多いのでは。あいにく今週の天候は雨模様でぱっとしないようですが、蒸し暑い日々が続いたここ数週間を考えると真夏日にならないこういう天気も悪くはないかな、というところ。ところでゴルフ全米プロ選手権での松山選手、優勝まで1打差と迫りながら惜しくも最終日一緒に回ったジャスティン・トーマスに及びませんでした。朝から手に汗握りながら応援していましたが、きっと次のメジャー四大会ではこの悔しさをバネにしてトップを手にしてくれることと信じています。
さて先週一週間お休みしてしまった「新旧お宝アルバム!」、今週はまたは新しいアルバムの中からご紹介する順番。今週ご紹介するのは、イギリスはノッティンガム出身の男女3人組のまだレコードデビュー3年目という若いインディ・ポップ・バンド、ロンドン・グラマーが今年6月にリリース以来、シーンで評判を呼んでいる2枚目のアルバム『Truth Is A Beautiful Thing』をご紹介しましょう。
ジャケに写るメンバー3人の中でも一際目を引くのは、バンドのボーカルを務める女性シンガー、ハンナ・リードの何やら神秘的な雰囲気を称える魅力的なイメージ。そのハンナに寄り添うように写るギターのダン・ロスマンとキーボード・ドラムスのドミニク・”ドット”・メイジャーの3人で構成されるロンドン・グラマーは、2009年、ハンナとダンがノッティンガム大学の一年生の時にキャンパスでギターをつま弾くハンナにダンがバンドの誘いをかけたことから始まったバンドです。
音楽的には、アトモスフェリックという表現がぴったりの、控えめなギターと趣味よくプロデュースされたシンセ・サウンドを中心とした、宇宙空間に浮遊するような神秘的な音楽スタイルがとても印象的なバンド。その音楽性とハンナの取り憑かれたようなイメージのボーカルスタイルから、UKの音楽プレスではフロレンス&ザ・マシーンあたりに例えているようですが、フロレンス&ザ・マシーンほどシアトリカルでドラマチックな感じは強くなく、よりナチュラルな感じで緻密に作り上げられたサウンドとハンナのボーカルが自然に醸し出すドラマティズムで、新人にしてはスケールの大きい楽曲を聴かせる、そんなバンド。その涼しげなサウンドは今年のような暑い夏に聴くにはうってつけです。
2011年に大学を卒業した彼らはミュージシャンのキャリアに進み、2012年12月にYouTubeにアップした「Hey Now」で注目を集めたのをきっかけにBBCのRadio 1に出演するようになり、2013年2月にデビューEP『Metal & Dust』、そして同年9月にデビューアルバム『If You Wait』をリリースして一気にシーンに登場。同時期にリリースしたシングル「Strong」が全英最高位16位を、そして『If You Wait』は全英アルバムチャート2位に上るヒットとなるなど、ヨーロッパやオーストラリアを中心に一気に人気を集めました。
その彼らが満を持してリリースしたのがこの『Truth Is A Beautiful Thing』。今回プロデューサーにあのアデルやエリー・ゴールディング、シーアらのプロデュースを手がけ、今年2月のグラミー賞では最優秀プロデューサーを獲得した今や売れっ子のグレッグ・カースティンと、同じくアデルの『21』『25』のプロデュースと共作で知られるポール・エプワースを迎えて、アデルのあの世界に通じる雰囲気も加えた意欲作。今年6月にリリースと同時に全英アルバムチャートに1位初登場するという、ファンやシーンの期待を反映した形で発表されたこのアルバム、その人気はヨーロッパやオーストラリアに限らず、アルバム発売と同時にUSでも評判を呼び、ちょうど7月に自分がUS出張の帰りにロスの大手レコード屋に立ち寄ったところ、彼らのこのアルバムがデカデカとプロモーションされているのが大変印象的でした。
前11曲中、メンバーとグレッグ・カースティンの共作「Everyone Else」と「Leave The War With Me」、メンバーとポール・エプワースの共作「Non Believer」以外はすべて楽曲はメンバー3人の自作。
全体リヴァーヴがかかったピアノとアコギと、遠くに微かに聞こえるシンセのトーンのみをバックに、ハンナの低いゆっくりとした歌い出しから始まるシングルカット曲「Rooting For You」は、いかにもUKメインストリーム・ポップの伝統を思わせる、マイナーキーとメジャーキーを行ったり来たりするメロディが印象的なスローでスケールの大きい楽曲。「Big Picture」はジェネシスとかのプログレ系のバンドの曲を思わせる、短いオブリガート・フレーズを奏でるギターと教会音楽を想起させる抑えめのシンセをバックにハンナが歌う楽曲。この後「Wild Eyed」「Oh Woman Oh Man」「Hell To The Liars」までのメンバー3人のペンによる5曲は一貫して同じタイプのスケールの大きい、音数を抑えながら教会で演奏されるかのような落ち着いたナンバーです。
LPでいうとB面にあたる6曲目以降の楽曲は、前述の2人のプロデューサーとの共作曲「Everyone Else」「Non Believer」が続き、A面楽曲で聴かれるアトモスフェリックな楽曲のスタイルは変えず、若干テンポ早めでリズムをやや強調した印象を与えます。特に後者はドラムス音の減衰を短くカットしたドラムスのサウンド(80年代のジェネシスのレコードで聴かれたあのサウンドに似ています)が曲に引き締まった印象を与えてくれています。
その流れを受け継ぐかのように続くメンバー自作曲「Bones Of Ribbon」はややリズムを強調したミディアム・テンポの曲。同じくメンバー自作の「Who Am I」でも「Big Picture」で聴かれたシンプルながら印象に残るギター・リフがループのようにハンナのボーカルを彩っている楽曲。
もう一曲のプロデューサーとの共作「Leave The War With Me」はリズムの明確さはあるもののまたA面楽曲の印象に戻るような楽曲で、ピアノをバックに美しくも静謐な印象を与えてくれるアルバムラストのタイトルナンバー「Truth Is A Beautiful Thing」によるエンディングになめらかにつながって行きます。
しっかりと構成されたスケールの大きい楽曲と静謐なサウンド・プロダクション、そしてハンナのドラマティックなボーカルスタイル。このアーティスト、このアルバムを楽しめるかどうかは、良くも悪くもこうしたサウンド・スタイルに魅力を感じるかどうかにかかっていると言えます。
最近のUSのヒット曲やメインストリーム・アーティストの多くが安易なヒップホップとのコラボや、やや過度とも思えるエレクトロ的な味付けでここのところ80年代後半から90年代初頭を思わせるチープなマスプロ感を漂わせているのと比べると、このアルバムで聴けるサウンドは、メインストリームを軸足に抑えながら普通のポップ・ロック・バンドであることを微妙に外しているところが、ある意味フレッシュで魅力的なのです。
まだまだ蒸し暑い日々が続くこの夏、ロンドン・グラマーの涼やかなサウンドを体験してみてはいかがでしょうか。
<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバムチャート最高位129位(2017.7.1付)
同全米ロック・アルバムチャート最高位29位(2017.7.1付)
同全米オルタナティヴ・アルバムチャート最高位16位(2017.7.1付)