2016.12.19
新旧お宝アルバム #69
『Makings Of A Dream』Crackin’ (Warner Bros., 1977)
さて2016年も後残り2週間を切って、今週はクリスマス・ウィークということであちこちで忘年会、イベント、クリスマス・パーティなど賑やかな週になりそうですが、食べ過ぎ呑みすぎで体調など崩さないよう、お互いに気を付けましょうね!
さて今週の「新旧お宝アルバム!」、旧のアルバムをご紹介する順番ですが、今回は70年代後半に数枚の都会的なR&B・ファンク・サウンドのクオリティの高いアルバムを出したものの、その後のAORブームに乗ることなく解散してしまった、知る人ぞ知るバンド、クラッキンのセカンド・アルバム『Makings Of A Dream』(1977)をご紹介します。
クラッキンは、ネブラスカ州オマハ出身のレスター・エイブラムス(kbd., vo.)を中心とした白黒混合の7人組ユニット。レスター自身、両親共にネイティヴ・アメリカンや黒人と白人の混血だったこともあり、非常に多様な文化背景の少年時代を過ごしたレスターは地元のバンドでドラムを叩くように。
60年代後半には後にクラッキンの母体となるバンド、ザ・レス・スミス・ソウル・バンドを率いるレスリー・スミス(vo.)、リック・チュダコフ(b.)、アーノ・ルーカス(vo., perc.)らと合流、その後L.A.カーニヴァルというバンドを経て、70年代半ばに再合流、ピーター・ブネッタ(ds.)、ボブ・ボーディ(g.)、G.T.クリントン(organ, synth.)を加えた7人組のクラッキンをスタートさせました。
クラッキンのサウンドは冒頭にも書いたように、都会的なソフィスティケイトされたR&B・ファンク・サウンド。それに加え、ポップなメロディと達者なコーラス・ワーク、ソウルフルなボーカルで、80年代前後から大きな盛り上がりを見せるAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の先駆けのような洒脱なサウンドを聴かせます。
このアルバムを聴いて、マイケル・マクドナルドを中心とした後期ドゥービー・ブラザーズを連想する人も多いと思いますが、実はレスターはクラッキン解消後そのドゥービーと合流、1979年のグラミー賞レコード・オブ・ジ・イヤー/ソング・オブ・ジ・イヤーの両方を獲得した「What A Fool Believes」のアレンジ、同曲が含まれたアルバムのタイトル・ナンバー「Minute By Minute」をマイケルと共作するなど、この手のサウンドメイカーとしてしっかり活動を続けていたのです。
レスターがそうした成功を収める前のバンド、クラッキンがランディ・ニューマン『Sail Away』(1972)、ライ・クーダー『Pardise & Lunch』(1974)、ジェイムス・テイラー『Gorilla』(1975)など数々の名盤を手がけた名プロデューサー、ラス・タイトルマンと組んで制作したのがこのセカンド・アルバム『Makings Of A Dream』です。メンバーをモノクロのトーンでとらえたスタイリッシュなアルバムジャケの写真は、ご存知あのノーマン・シーフによるもの。
アルバム冒頭のレスター作の「Feel Alright」から、タイトなベースとドラムにクラヴィネットとエレピがからみ、そこにレスリーの伸びやかなボーカルが乗って、澄み切った青空に飛び上がって行くような爽快でソウルフルなサウンドが展開、一気にクラッキンの世界に聴く者を引っ張り込んでくれます。リックとレスリー作の「Take Me To The Bridge」はコーラス主体のボーカルがこの時代の作品としては新しかったであろう、ややムーディなミディアム・ナンバー。続くレスター作「Beautiful Day」はイントロからクラヴィネットが唸るミディアムなファンク・ナンバー。こちらもレスリー、レスター、アーノの3人がコーラス・ボーカルでクールなファンクネスを演出しています。そしてアルバムA面はレスターが自作自演でウォーキング・シャッフル・リズムの『Silk Degrees』の頃のボズ・スキャッグスあたりがやりそうなポップなR&Bナンバー「I Want To Sing It To You」で中入り。
アルバムB面はエレピ・クラヴィネットとリズム・セクションがフュージョンっぽいリズムを繰り出すレスターのナンバー「Well And Good」でスタート。アーノのボーカルが高めのトーンのメロディをソウルフルに歌います。
続く「Who You Want Me To Be」はリックとアーノのペンによるややスロウないわゆる「AORっぽい」佳曲。冒頭の「Feel Alrigt」でもそうでしたが、レスリーの伸びやかなボーカルは黒人にしてはブルー・アイド・ソウル・シンガー的な発声とメロディ回しなのが新鮮でもあり、クラッキンのサウンドを都会的に聴かせている大きな要因のように思います。A面と同様に3曲目はボブのワウ・ギターが活躍し、レスリー、レスター、アーノが交互にボーカルを取り、要所は素晴らしいコーラスで締めるというファンク・ナンバー「What Goes Around Comes Around」。同じくレスターとアーノのツイン・ボーカルでカッティング・ギターとリックの跳ねるベースが気持ちのいい「You’re Winning」の後、後にレスターが手がけるドゥービーの「Minute By Minute」を思わせるようなエレピのイントロで始まり、またもやレスター、レスリー、アーノのトリプル・ボーカルがゴージャスな「(There’s A) Better Way」でアルバムは余韻を残して終了します。
この後クラッキンは、後にクリストファー・クロスを手がけてブレイクさせたプロデューサー、マイケル・オマーティアン・プロデュースによるアルバム『Crackin‘』(1977)『Special Touch』(1978)の2枚をリリース、一部の評価は得るものの、商業的な成功にはつながらず、バンドは自然消滅の格好となります。
しかしレスターがその後ドゥービーと合流したように、リックとピーターの二人はその後プロデューサー・チームとして活躍。中でもロビー・デュプリーのデビューアルバムで全米トップ10ヒットの「Steal Away(ふたりだけの夜)」を含む『Robbie Dupree』(1980)、マシュー・ワイルダーの同じく全米トップ10ヒット「Break My Stride(想い出のステップ)」を含む『I Don’t Speak The Language』(1983)、そしてR&Bレジェンド、スモーキー・ロビンソンの6年ぶりの全米トップ10ヒットとなった「Just To See Her」を含む『One Heartbeat』(1987)などなど、80年代を通じてAORシーンの重要なサウンドメイカーの一つとして活躍していたのです。
そしてもう一人のクラッキンの中心人物、レスリーも、80年代を通じてリッキー・リー・ジョーンズ、ロビー・デュプリー、ローレン・ウッド、ビル・ラバウンティ、ライオネル・リッチー、マイケル・ボルトンといったAOR/R&B系のメインストリームのアーティスト達の名盤にセッション・ボーカリストとして参加、他のメンバー同様、確実に80年代のAORシーンを支えていたのです。
このクラッキンというグループとこのアルバムは、その後時代の中に埋もれて忘れ去られていたのですが、90年代渋谷を中心に盛り上がったいわゆる「フリー・ソウル」ムーヴメントで次々にリリースされたオムニバス・アルバムに「Feel Alright」が取り上げられたをきっかけに再評価、昨年にはこのアルバムを含む3枚のアルバムがワーナー・ミュージックさんからSHM-CDでリイシューされるという盛り上がりぶり。
入手しやすくなったこのアルバム、この機会に手に取り、洗練されたクラッキン・サウンドを楽しんでみてはいかがでしょうか?
<チャートデータ> チャートインなし