【新旧お宝アルバム!特別企画】第63回グラミー賞ノミネーション発表直前大予想(パート1)

皆さんコロナ籠りの三連休、いかがお過ごしですか?さてこの三連休週末の特別企画として、来る日本時間11/25(水)未明に発表予定の第63回グラミー賞(来年1/31、日本時間の2/1発表予定)のノミネーションのうち、主要4部門の大胆予想をお届けします。既にビルボード誌などが独自の予想を発表していますが、この記事はそれらの予想発表前に筆者個人のnote.comにブログとして発表したものを、こちらのサイト向けにダイジェスト版にしたものです。フルバージョンにご興味のある方は、下記のリンクからオリジナルの記事にアクセス下さい。

今年からは新人賞部門ノミネート要件の過去発表楽曲数の制限が撤廃されたり、ノミネート委員の人気が最大8年から5年に短縮されたりと、今年のアカデミーの新任CEOが急遽解任された事件などを受けて、アカデミーもいろいろと「変革のグラミー」を目指しているような節があります。一方、このコロナ禍の中、1/31の授賞式がどういう形で行われるか未だに最終発表されていないなど、そもそもグラミー自体の開催がどうなるかという状況ですが、賞(ショウ)マスト・ゴー・オン、ということで授賞自体は行われますので楽しみに待ちましょう。

このダイジェスト版グラミーノミネーション予想、今日と明日の2回に分けてお送りします。まず今日はパート1,最優秀新人部門と最優秀レコード部門のノミネーション予想です。

1.最優秀新人部門ノミネーション予想

Gabby Barrett

一昨年の第16シーズンの『アメリカン・アイドル』でも3位につけていた、ペンシルヴァニア州マンホール出身の今年若干20歳のカントリー・シンガー、ギャビー・バレットに取って今年は正にブレイクアウトな年になりました。他の女の子と浮気してる彼氏に「でも彼女もあなたを裏切って浮気してるといいわね」と屈折した女心を歌うシングル「I Hope」は、史上初の女性ソロシンガーのデビューシングルでカントリー・シングル・チャート1位(通算14週)になったばかりでなく、リリース後しばらくしてチャーリー・プスをフィーチャーしたリミックス・バージョンに火が付いて、Hot 100でも現在6位に昇る(依然上昇中)大ヒットに。このカテゴリーには毎年取り敢えずカントリー・ジャンルもカバーする意味からか、1〜2人カントリー・アーティストがノミネートされるんですが、この曲、今年11月開催予定のCMA(カントリー・ミュージック・アウォード)でも最優秀シングル部門と最優秀新人部門にノミネートされており、今年の場合、彼女のこの部門でのノミネートは実力的にまあ間違いないところでしょう。

Big Thief

グラミーのこのカテゴリーではオルタナ系のアーティストは弱めなんですが、去年はビリー・アイリッシュが圧倒的に勝利してるので、今年も女性ボーカル系のオルタナ・アーティストにはチャンスあるかな、と思って、去年何と2枚のアルバム『U.F.O.F』と『Two Hands』をリリースして、音楽メディアの絶賛を博したNYはブルックリン・ベースのビッグ・シーフは来るかもということで。ボーカルのエイドリアン・レンカーは今年ソロ・アルバムもリリースしてそれも高い評価を受けるなど、その叙情的ながらエッジの立ったフォークっぽいサウンドはとても気になるし、ここ最近ではかなり話題のアーティストなので。

Phoebe Bridgers

そして同様に女性ボーカルのオルタナ系シンガーソングライターでは、今年リリースしたセカンドアルバム『Punisher』が、いい感じのポップ・センスとヒリヒリとしたリリックとサウンドでその才能のほどを遺憾なく聴かせてくれた、フィービ・ブリッジャーズが、個人的にはノミネートされるんじゃないかと思ってます。彼女、来年に延期になったフジロックにも今年来る予定で、個人的にも観るのを楽しみにしてた、才能あるシンガーソングライター。今回の大統領選では「トランプが負けたらネットでグーグー・ドールズの「Iris」をカバーするわよー」なんて言ってるお茶目さもかわいいです(実はとっくにYouTubeでカバーしてるw)。

BTS

そしてやっぱBTSは今年は外せないんじゃないかと。一昨年から去年にかけてアルバム『Love Yourself: Tear』(2018年6月)、『Love Yourself: Answer』(2018年9月)そして『Map Of The Soul: PERSONA』(2019年4月)と立て続けに3枚をBillboard 200で初登場1位にしたので、昨年彼らがこの部門から漏れた時は、ネット上で大きなブーイングが上がったわけです。なので、本来従来の要件だと今年はまちがいなくアウトのはずなんですが、今回の規制緩和の目的の一つは、今回の対象期間でアルバム『Map Of The Soul: 7』(2020年3月)の初登場1位、そしてシングル「Dynamite」がHot 100初登場1位と更に一段上のレベルのブレイクアウトを見せた彼らをノミネートする、ということがあるんじゃないかと睨んでいます。彼らがノミネートされると、アジアからのこの部門のノミネートは史上初、ということになります。ダイヴァーシティを推進するアカデミー、いかにもやりそうですよね。

Doja Cat

ドジャ・キャットことアマラ・ラトナ・ザンディル・ドラミニ(彼女の母親はユダヤ系アメリカ人の画家で、父親は南アフリカ出身の黒人映画俳優)にとっても2020年は大きなブレイクアウトの年でしたね。70年代ディスコへのオマージュ的な理屈抜きに楽しいダンスナンバー「Say So」の大ヒット(2020/5/16付全米1位)と、そのセクシーな容姿を最大限活用したPVやビジュアルで恐らくティーンエイジャーを中心にネット上で大いに人気を集めました。夏頃にコロナ感染の報が伝えられましたが、その後完治したようなので、授賞式当日のパフォーマンスも期待できるところ。その露出度合いと華やかさで、ある意味今年を代表する(来年以降は判りませんが)アーティストの一人といっていいでしょう。

Pop Smoke

ここ数年残念なことに、毎年シーンに影響力のあるラッパーや才能ある若手のラッパー達が相次いで他界してますが、2020年最もそういう意味で衝撃だったのは、50セントがバックアップしてフロウスキルも高く評価されていて、NYはブルックリンのドリル(トラップの派生的ラップスタイル)・シーンを代表すると目されていた若干20歳のポップ・スモークが、デビューミックステープの『Meet The Woo Vol. 2』(2020年2月全米7位)でブレイク直後、デビューアルバム『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』(7月初登場1位)のリリースを目前にして今年の2月に自宅への不法侵入者に射殺されてしまったこと。ちょうど僅か3ヶ月前に、やはり若手のエモ・ラッパーの旗手として期待されていたジュースWRLDが急逝したばかりだっただけに、ヒップホップ・ファン全体への彼の死のインパクトは高かったですね。その影響も多分にあると思いますが、自分の毎週の「今週の全米No.1アルバム事情」でも以前お伝えしたように、初登場1位以来ずっとトップ4以内に13週ステイした後に3ヶ月ぶりに先月1位に返り咲くという長期間に亘るヒットに。没後にもかかわらずシーンでの存在感が増しているような状況ですから、これはきっとこの部門だけではなく他の部門でもノミネート、あるんじゃないかと思ってます。ジュースWRLDは残念ながらこの部門のノミネートから漏れてしまっていたので、ポップには是非少なくともノミネートは決めてほしいものです。

Rex Orange County

こちらはちょっと自分の趣味も入ってますが、UK出身の宅録系ポップ・シンガーソングライター、レックス・オレンジ・カウンティことアレクサンダー・オコナ—君もかなり有力な新人賞部門ノミネート候補ではないかと思ってまして。あのタイラー・ザ・クリエイターのアルバム『Flower Boy』(2017)にフィーチャーされたのがブレイクのきっかけで、その後もランディ・ニューマンとのTVでの共演を経て、昨年10月にリリースしたアルバム『Pony』は珠玉の今風宅録ポップ・アルバムで、自分も昨年のマイ・ベスト・アルバムの13位に入れたくらい気に入ってました。日本でも、早々に2018年のサマソニに来日以来、結構草の根的に人気を得てきているようで、今年単独来日のはずだったんですが、残念ながらコロナでキャンセルになってます。日本で人気のあるベニー・シングスなんかともコラボしたりしていて、そのポップ・センスは抜群なので、是非小さめのハコで聴きたいもんです。

Summer Walker

アルバム『Over It』がBillboard 200で初登場2位と、今年初頭に一躍シーンに躍り出た女性R&Bシンガーソングライター、アッシャーとの絡みが素晴らしい「Come Thru」など90年代R&Bマナーの楽曲群が素敵でした。

2.最優秀レコード部門(Record Of The Year)ノミネーション予想

Dynamite – BTS

自らのシングル(ちなみにシングルのリリース、対象期間締め切り直前の8/21でした)とアルバムを1位に送り込むだけでなく、今年後半、ジョーシュ685ジェイソン・デルーロの「Savage Love (Laxed – Siren Beat)」にBTSフィーチャリングのリミックス・バージョンが追加された瞬間に8位→1位になるなど、アーティストパワー全開だったBTSアカデミーのダイバーシティ重視の方針にもピッタリだし、このカテゴリーには入ってくるでしょうなあ。

WAP – Cardi B Featuring Megan Thee Stallion

WAPが何の略なのか、ということが判るとこの曲のアッケラカーンとした健康的なお下劣さ(変な表現だな)が判ると思うけど、このコロナ禍の下でこの曲に大いに笑って、スカッとした人は多かったんだろうなあと思う。この二人のコラボもお互いが惹きつけられるように話がまとまって、あっという間にトラックができたらしく、二人とも思いっきり楽しんでるのが判るし、だからこれだけの大ヒット(4週全米1位)になったんだろうなって思う。個人的には正直どーでもいい曲なんだけど、まあROYにはノミネートされてくるだろうね。これも8月のリリース。

The Bigger Picture – Lil Baby

将来2020年を歴史的に振り返る時に、コロナの年、トランプがバイデンに負けた年、ということと同等、いやそれ以上に「Black Lives Matter」運動で全米が揺れた年、という説明がなされるだろうな。それくらいジョージ・フロイド事件から始まったこのムーヴメントは2020年をいろんな意味で象徴するものになったわけでして。トランプバイデンに負けた大きな理由の一つでもあるわけだし。そしてそれを正面から題材にしたリル・ベイビーのこの曲は、ある意味2年前のチャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」を彷彿とさせるんですよね。いやもっと直接的かも。だってこの曲はジョージ・フロイド事件を目の当たりにして怒り、混乱しているリル・ベイビーの感情を抑えたようなフローがかなり印象的な曲だから。リベラルな音楽業界とグラミーを仕切るアカデミーが、この曲を今年を象徴する曲の一つに選ばれないわけがない、というのは多分的はずれな見立てではないと思うのだけどどうだろうか。

What You Know About Love – Pop Smoke

ポップが今年のグラミーで焦点の一つであることは既に新人部門のコメントで述べた通り。なのでROYでも必ずノミネートされるんじゃないか、と思うので、彼の『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』の中で、ラップというよりは歌うようにフロウを聴かせてくれるこのナンバーを予想に挙げときます。

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Circles – Post Malone

去年のグラミーの対象期間が8末で締まった時から、9月に入ってすぐリリースされたアルバム『Hollywood’s Bleeding』とこのシングルは絶対来年のグラミーの主要部門に来るなあ、と確信してた。この曲はそれまで「聴きやすいトラップ」楽曲をヒットさせてきたポスティが、一転、素晴らしくシンプルでストレートなポップ・ナンバーをやってみせた、というのが個人的には秀逸だなあ、と思った次第。またノミネートが発表されたら受賞予想をポストしますが、めでたくこの「Circles」がノミネートされたら、多分最低でも対抗○は付けると思う。それくらいの個人的お気に入り(先週末の金曜日の久しぶりのDJギグでもこの曲回しましたw)。

The Box – Roddy Ricch

昨年最優秀ラップ・パフォーマンス部門を受賞したニプシー・ハッスルの「Racks In The Middle」にフィーチャーされていたために、今年の新人賞部門ノミネート資格を失ってしまったのですが、今年のブレイクアウト・アーティストとしては5本の指には入りそうなロディ・リッチのこの大ヒット曲も、ROYの候補としてはかなりありそうです。Hot 100で11週1位だけではなく、R&B/ヒップホップ・ソングチャートでも12週1位、ラップソング・チャートでは14週1位といずれも2020年のそれぞれのチャートで最長不倒記録を樹立。名実ともに今年を代表する1曲の一つだけに、この部門でかなり強力なんじゃないかと思いますね。

Cardigan – Taylor Swift

さあいよいよ出てきたテイラー・スウィフト。今回のグラミーでは彼女の『folklore』かなりメインの台風の目になることはまあ間違いないでしょう。ウィズ・コロナ時代を象徴するかのような、インディ・フォークとエレクトロのそこはかとない雰囲気とドリーミーなテイラーのボーカル、そして思索的な歌詞を載せた楽曲が、コロナ籠りの音楽ファンの気持ちに寄り添ったというのも大きいと思いますね。その中でROY候補というと、『Shake It Off』(2014)以来彼女にとって2曲めのHot 100初登場1位を決めたこの曲ですかね。また詳しくはアルバム部門ノミネーション予想のところで。

Blinding Lights – The Weeknd

ザ・ウィークンドも2020年は大いに売れた1年でした。去年の11月末にこの曲と「Heartless」が同時に先行シングルとしてリリース。この曲は11位初登場の後チャート上で下降線をたどった一方、「Heartless」の方は32位初登場→1位とはなばなしいチャートアクションで、改めてザ・ウィークンドの人気のほどを見せたわけですが、3月にこの2曲を含むアルバム『After Hours』がリリースされるやBillboard 200で初登場1位の後4週連続1位をキープ(それまでの2020年の最長記録、8月にテイラーに更新されますが)。するとそれに煽られるかのようにこの曲がHot 100を再上昇、4月から5月にかけて通算4週1位をマークするという大ヒットになったのでした。80年代の打ち込みブラコン・ダンス・チューンのような趣きのこの曲、その後もチャートでの存在感を維持し続けて、ラジオ・ソング・チャート(昔のHot 100エアプレイチャート)では23週1位、ホットR&Bソング・チャートに至っては、途中ドジャ・キャットの「Say So」に間を3週抜かれたものの、今年の4月から今週に至るまで通算34週1位を独走しているというロング&メガ・ヒットになっています。自分はウィークンドの才能は認めるものの、この前のアルバムくらいから彼が出てきたばかりの頃に比べて、音作りが「狙いすぎ」に聴こえてしまうのがちょっとダメで、この曲の血みどろのPVの悪趣味さとかもあってどうもこの曲苦手なのですが、延々とR&Bソング・チャート1位ってのもこの曲がいやんなる要因なんですよねえ。そこまでいい曲かよって。でもまあ今年を代表する曲の一つであることは間違いないので、まあこれも当然ノミネーションには入ってくるでしょう。

これ以外に候補になりそうだな、と思ったのはドジャ・キャットSay So」、トーンズ&Iの「Dance Monkey」、ハリー・スタイルズAdore You」、ジュースWRLDの「Righteous」あたり。このあたりが上記のいずれかと入れ替わっても、全くおかしくないと思います。

ということでパート1,今日はここまで。明日は残る2部門のノミネーション予想ダイジェスト版をアップしますのでお楽しみに。