新旧お宝アルバム!#123「Sublime」Sublime (1996)

2018.6.4.

新旧お宝アルバム #123

SublimeSublime (Gasoline Alley / MCA, 1996)

2018年もとうとう6月に突入、今年もほぼ半分が過ぎました。幸い関東地区はこの週末も目の覚めるような素晴らしい好天に恵まれて、梅雨になる前に、とアウトドアやスポーツに時間をたっぷり過ごした方も多かったと思います。自分も久しぶりに近くのコースでゴルフのハーフラウンドなどして、この最高の天気を楽しんできました。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、またまた久しぶりに恒例の90年代作品再評価シリーズで。90年代を代表する(当時の)新興音楽ジャンルの一つ、日本でいうところのミクスチャー・ロックの代表選手の一つでしたが、その音楽スタイルのように90年代の短い期間を一気に駆け抜けた感のある、カリフォルニアはロング・ビーチ出身の3人組、サブライムの最後のアルバムとなった『Sublimie』(1996)をご紹介します。

90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、通算第5弾。

日本では90年代以降、ヒップホップ・ラップやレゲエ・スカとロック(場合によってはメタル・ロック)を融合したスタイルの音楽を指すのに頻繁に使われていたミクスチャー・ロックというジャンル名、実はいわゆる和製英語で、英米ではこういう言葉はないようです。なので正確にサブライムの音楽スタイルを表現するとすると、ヒップホップ風味を持ったスカコア・パンク・バンド、ということになるのでしょうか。いずれにしてもこういうスタイルのバンドは90年代に多く輩出して、今や大御所のレッチリリンキン・パークをはじめ、同じLAロング・ビーチ出身のノー・ダウトや以前このコラムでもご紹介したマイティ・マイティ・ボストーンズ、311などのよりメインストリーム・ロックをベースにしたバンドや、よりメタル方向に傾斜したリンプ・ビズキットレイジ・アゲンスト・ザ・マシーン、コーンなどが次々と活躍してました。

その中でもサブライムは当時同じシーンで活躍していたノー・ダウトのベーシスト、トニー・カナル曰く「最もヒップホップやレゲエ・スカとパンクやロックを要素を、リアルなスタイルの楽曲にしていて、リード・ボーカルのブラッド・ノウェルのソウルフルなボーカルがそれらの要素を切れ目なくバランスよくがっちりつないでいた」ということなので、当時シーンの中でも一目置かれた存在だったことがよくわかります。

そのサブライム、幼少からの友人だったエリック・ウィルソン(ベース)とバド・ガウ(ドラムス)がハイスクール卒業後始めたパンク・バンドに、当時カレッジをドロップアウトしたばかりのブラッド・ノウェル(ボーカル・ギター)が「お前ら、レゲエとかスカとかもいいぜ」と言って合流して1988年に結成。その後主に南カリフォルニアのスケートボーダー・カルチャーが濃密な地域で地元のクラブでのライヴを中心にファンを増やし、1992年にブラッドが設立したインディのレーベルからデビュー・アルバム『40oz. To Freedom』をリリース。レゲエ・スカ、パンク、ヒップホップ、サーフ・ロックを渾然一体としたスタイルが更に地元カリフォルニアで人気を呼んで地元のメジャー・バンドとしての地位を確立。

続く『Robbin’ The Hood』(1994)はラップや宅録のフォーキッシュな曲など実験的な内容だったこともあって商業的には失敗に終わり、サブライムの3人は次作となるこの『Sublime』の楽曲を準備しながら、ライヴ活動で更にファンベースを増やしていたのですが、1996年5月25日にヘロインのオーバードーズでブラッドが急逝するという事態に(享年28歳)。

残ったメンバーは録音していた楽曲をまとめて2ヶ月後にリリースしたのが、この3枚目にしてラスト・アルバムとなった『Sublime』でした。

ありがちなことですが、ブラッドの他界という要素もあってこのアルバムからは彼らの唯一のモダン・ロック・チャート1位に輝いた「What I Got」をはじめ、「Doin’ Time」(1997年全米最高位87位)、「Wrong Way」といった曲が盛んに全米のラジオでエアプレイされ、皮肉にもブラッドの死がサブライムを全国区バンドにしたのですが、ブラッドを失った2人はすでにこの時点でサブライムの解散を決意していたという皮肉な結果に。

そのアルバムを語るに欠かせないのはミクスチャーな音楽性もさることながら、南カリフォルニアのスケートボーダー・カルチャーを色濃く反映したアルバムのアートワークです。ジャケには鮮やかながら独特の雰囲気を持ったスケートボーダー・イラストがあしらわれる中に、背中に誇らしげに「SUBLIME」というタトゥーを背負った男の背中がバーンとあるという、なかなかインパクトのあるジャケ。当時のこのあたりのカルチャーをよく知る人にはこのジャケだけでもサウンドの中身が何となく想像がつくのでは。

https://youtu.be/0Uc3ZrmhDN4

さてアルバムはルースなレゲエのリズムに乗って、途中ヒップホップなスクラッチを交えた、当時のレッチリのナンバーを思わせるゆったりとしたナンバー「Garden Grove」でスタート。彼らの最大のヒットとなった「What I Got」はレイドバックなブラッドのアコギのリフとタイトなリズムがだんだん盛り上がり、途中からトースト・レゲエ風になったブラッドのボーカルが途中からヒップホップ・スクラッチをバックにフリースタイル風に変貌していくという、ラジオから流れてくると「おっ、これ何?」と耳を引くこと必至なナンバー。

こちらもエアプレイヒットとなった「Wrong Way」は典型的な軽快なスカコア・ナンバーで、天気のいい日のライヴでやると盛り上がりそうなナンバー。他の曲でもそうですが、エリックのベースのミックスが強めになっていて全体のグルーヴを強化している効果を果たしています。

https://youtu.be/uLifSFBs_Lk

更にスピーディーなスカコア・ナンバーでライブではモッシュ必至の「Same In The End」を経て、あのロドニー・キングのリンチ事件に起因する1992年のロス暴動を題材として、ラジオや警察無線を模したSEをバックに、ダブっぽいトラックとほぼラップに近いボーカルで異様なテンションを構築、ふとクラッシュを思い出してしまう「April 29, 1992 (Miami)」では一気にそれまでのノー天気な雰囲気から、アルバムはシリアスな感じに。

やはりエアプレイヒットの「Santeria」は一転してアップビートなレゲエ・リズムにブラッドのピロピロと奏でるギターリフとボーカルが印象的な曲。リリックは自分の彼女を取られた男が復讐しようとするが、返り討ちにあって銃で脅されるとなかなか情けないですが(笑)。

https://youtu.be/AEYN5w4T_aM

超ハイスピードのパンク・ロックフレーズとレゲエ・フレーズ、そしてスカ・コア・フレーズが代わりばんこに登場して最後は一体になるというなかなか楽しい「Seed」やレイドバックなレゲエ・ロックの「Jailhouse」を経て、またまたダブっぽいリズムに乗った醒めた感じのするエッジの効いたギターとブラッドの絞り出すようなボーカルで、またまたクラッシュポリスあたりのナンバーを思わせる「Pawnshop」でアルバムは後半に。

パンク一発の「Paddle Out」、レイドバックなダブ・ロックの「The Ballad Of Johnny Butt」、アップのスカコア「Burritos」などなどと、サブライムの音楽スタイルを順繰りにまたもう一度お披露目した後、アルバムの最後は、「What I Got」のアンプラグド・ヴァージョン的な「What I Got (Reprise)」、そして最後は彼らの唯一のHot 100ヒットで、ハービー・マンのフルートをサンプリングしたヒップホップのスタイルであのガーシュインの「Summertime」のフレーズをモチーフに、サウンド・コラージュにラップを乗っけるような感じの不思議なグルーヴを感じさせる「Doin’ Time」で全17曲、約1時間のサブライム・ワールドが終了します。

ブラッドの死によってサブライムは解散しましたが、2009年に残ったエリックバドが、サブライムのファンの一人、ローム・ラミレスをボーカルにサブライム再結成をトライ。再結成そのものはブラッドの遺族のクレームでかないませんでしたが、彼らは現在も「サブライム・ウィズ・ローム」名義で活動を続けているとのこと。

その後近年のアナログ・レコード復活に合わせて、このアルバムを含む3枚のアルバムが2016年には180g重量盤でアナログ・リイシューされるなど、最近またサブライムに関する関心がシーンで静かに高まりつつあるようです。

これから梅雨の時期ですが、太陽いっぱいのカリフォルニアの空を思いながら、90年代の一時期を飾ったサブライムのこの独特のサウンドに身をゆだねて、初夏の到来を待つというのもいいのではないでしょうか。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位13位(1997.7.26付)

同全米ロック・アルバム・チャート 最高位41位(2017.5.6付)

同全米オルタナティヴ・アルバム・チャート 最高位23位(2017.4.1付)