2016.5.16
新旧お宝アルバム #43
『Natural Progressions』The Bernie Leadon / Michael Georgiades Band (Asylum, 1977)
日ごとに20℃越えの気温の日が多くなってきて、半袖姿もよく見かけるようになった今日この頃、素晴らしい気候のもと皆さん洋楽ライフを楽しんでますか?
今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムのご紹介の順番ですが、そうした気持ちのいい五月晴れの日にぴったりな、さわやかでしみじみと胸に迫る楽曲でいっぱいの作品のご紹介です。今年中心メンバーであったグレン・フライが他界してしまったイーグルス、その初期からバンドのキャリアの頂点に駆け上がる過程において、バンドのサウンドメイカーとして中心的な役割を果たしたバーニー・レドンが、1976年にイーグルス脱退後友人のマイケル・ジョージアディスと組んでリリースした、地味ながら珠玉の名盤『Natural Progressions(歌にくちづけ)』です。
あまりにも有名なイーグルスのアルバム『Hotel California』(1976)以降イーグルスを知った洋楽ファンの皆さんで、その時は既にバンドを離れていたバーニー・レドンのことはあまりご存知ない、と言う方も多いでしょう。しかしバーニーがいなければそもそもイーグルスというバンドがファーストアルバム『Eagles』(1973)を作るにあたり、当時としては新しい感覚のカントリー・ロックというアプローチがアイディアとして生まれていたか、ひいてはバンドとしてブレイクできたかも怪しいですし、あの名作『Desperado(ならず者)』(1974)や彼らのスーパースター級のアーティストとしての地位を確立した傑作『One Of These Nights(呪われた夜)』(1975)が作られた過程でも、バーニーのソングライター、ギターのみならずバンジョーやマンドリンなど様々な楽器の演奏者、そしてアルバムサウンドの統一感を確保するための貢献度には非常に大きいものがあったのです。
イーグルス結成当時、既に確立されたグループでの経験を持っていたのはカントリー・ロック・バンドの大御所であったフライング・ブリトー・ブラザーズに所属していたバーニーと、これもカントリー・ロックの中堅バンドとして成功していたポコ所属だったランディ・マイズナーの二人だけでした。
当時彼らのファースト・アルバムをプロデュースしたイギリス人の著名レコード・プロデューサー、グリン・ジョンズ(レッド・ツェッペリンのファーストや、フーの『Who’s Next』(1971)などのプロデュースで有名)は当時のことを振り返って、当時のメンバーはバーニー以外は何をどうやっていいかよくわかっておらず、バーニーが音楽的な面を引っ張っていた、とコメントしています。また、『ならず者』の後3枚目の『On The Border』(1975)の制作中に、ドン・ヘンリーとグレン・フライがグリンと対立して、グリンは首になってしまうのですが、この時のことをグリンは「ドンとグレンはカントリーよりももっとロックンロールをやりたがっていた。しかしロックンロールでは他にも凄いバンドが山ほどいるから、彼らのベストであるカントリー系のロックに徹しろ、と言ったんだけどね」と言っています。
その後『呪われた夜』のリリース後、同じようにカントリーをベースにしたロック・サウンドメイキングでバンドを支えてきたバーニーが脱退。
そのバーニーが、ジョニー・リヴァースのバックをやっていたギタリスト、マイケル・ジョージアディスに声をかけ、ベースのブライアン・ガロファロ、キーボードのスティーヴン・ゴールドスタイン、ドラムスのデヴィッド・ケンパーを加えた「バーニー・レドン&マイケル・ジョージアディス・バンド」を結成、そのアルバム制作のプロデュースを任せたのは、他ならぬグリン・ジョンズでした。
このアルバムでは、バーニーがイーグルスの『ならず者』や『呪われた夜』で模索していたと思われる、カントリーをベースにした、より先進的なロックの形を作り出そうとしているのがよくわかります。
アルバム冒頭の「Callin’ For Your Love」はアコースティックでリリカルな曲調が後半レイドバックなジャムセッション的に発展していき、リトル・フィートあたりを思わせるよりジャンルレスな曲を目指している意欲作ですし、続く「How Can You Without Love?」は美しいバーニーとマイケルのハーモニー・ボーカルと、靄のかかったような幻想的なアコースティック・サウンドが、『呪われた夜』に収録されていたバーニーの曲「I Wish You Peace」あたりを彷彿とさせる曲で、この2曲でこのアルバムでバーニーがやりたかったことの軸が大きく二つ見えてきます。
一方で「Breath」や「Rotation」といった、相棒のマイケルが書く曲は、とてもオーセンティックなカントリー・アコースティック・テイストが漂うシンガーソングライター的なナンバーが多く、事実「You’re The Singer」では「人生は謎なんかじゃない/ただ必要なところに愛を注いで/一つの長い終わりのない交響曲の中では/君が歌い手で人生が歌/誰もが一緒に歌ってくれるそういう歌の歌い手」と、このアルバムでことに自分達にとって最もしっくりくる「うた」を大事にしたいのだ、という思いが伝わってきます。
ちょっと重めのドラムスとリズムが印象的なロック色の強いマイケルのナンバー「Tropical Winter」を経て、ゆったりとしたピアノの弾き語りでバーニーがあたかも諭すような静かなトーンで「僕らは皆欲望の赴くまま世界中に夢を求める/僕らの運命が星に刻まれていると信じて/でも栄光はそれぞれ異なる明るさの光で輝いてるのさ/そして僕らはそれらの栄光をすべてつかまなくとも人生を送れる」と歌う「As Time Goes On」は、どこかイーグルスでの経験を踏まえて、自分に言い聞かせて自分を鼓舞するかのように聞こえます。
バーニーのちょっとトロピカル風味の漂うレイドバックしたナンバー「The Sparrow」、マイケルのブルース的なエレキギターのリフがロックしている「At Love Again」と楽曲は続き、アルバム最後は再びバーニーが得意とするプログレッシヴ・カントリー・ロックとでもいうべき幻想的なメロディとギターフレーズを持つ「Glass Off」で静かに幕を閉じます。
イーグルスが自分が追い求める音楽の形と異なる方向に向かう中、意を決して袂を分かち、自らの求める音楽の形を信頼する友人と共に極めようとしたバーニー。このアルバムで聴かれるサウンドと楽曲からは、そうした彼の静かな信念のようなものが感じられます。残念ながらこの後、このバンドで2枚目のアルバムを作ることはありませんでした。
その後バーニーは自らのルーツでもあるブルーグラスやカントリーをベースとしたバンドや、カントリー・ロックの有名バンド、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドへの参加などの活動を経て、1998年にイーグルスがロックの殿堂入りの際、昔のイーグルスのメンバーと再び演奏をしたのをきっかけに、2013年から行われた「History Of The Eagles」ツアーにも参加、このところは昔のイーグルスの面々と一緒にライヴ活動も行っていたようです。
しかしグレンが他界した今、もはやイーグルスとしてのバンド活動はありえないのでしょう。そうした状況のもと、バーニーは今もナッシュヴィルに居を構え、セッション・ミュージシャンとしてマイペースの活動を続けているようです。そんなバーニーが、一時期新たな音楽を作り出すという思いに燃えていたと思われる頃に作られた、この珠玉の一枚に是非とも耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位91位(1977.9.17付)