新旧お宝アルバム!#128「Under The Table And Dreaming」Dave Matthews Band (1994)

2018.8.20.

新旧お宝アルバム #128

Under The Table And DreamingDave Matthews Band (RCA, 1994)

静かながら暑いお盆週間が過ぎ、先週末あたりから急に朝晩そして昼間の気温も湿度もぐっと下がり、一気に秋の到来を思わせる素晴らしい天候が続いていますね。この週末はこの最高の天候でサマソニを満喫した洋楽ファンも多かったことでしょう。このまま一気に秋に突入してほしいものですが。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」、久しぶりに90年代を見直そうシリーズで、日米でこれだけ知名度と人気度のギャップの大きい実力派ロック・バンドもそうそういないのでは、と言うほど日本では一部の熱心なファン以外に知られていないのに、USでは年齢問わずクラシック・ロック・ファンの間で絶大な人気を誇る、アメリカを代表するロック・バンドの一つ、デイヴ・マシューズ・バンドがその人気を決定づけた2作目のアルバム『Under The Table And Dreaming』をご紹介します。

90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、通算第6弾。

日本でデイヴ・マシューズ・バンド(DMB)というバンドを知っている洋楽ファンは果たしてどのくらいいるのか。南アフリカ出身のデイヴ・マシューズを中心に、アメリカはヴァージニア州シャーロッツヴィルをベースに1991年から活動。本国アメリカでは今回ご紹介する『Under The Table And Dreaming』でメジャーブレイク、次作の『Crash』(1996)で人気を決定付け、その次の『Before These Crowded Streets』(1998)から今年6年ぶりにリリースされた新作『Come Tomorrow』までスタジオアルバム7枚連続をNo.1とし、U2(連続5枚No.1)やメタリカ(連続6枚No.1)を上回り、メインストリーム・ロック・アーティストでは同じく7枚連続No.1の記録を持つコールドプレイと並んで絶大なマス人気を誇るバンドなのに、日本では彼らの曲がオンエアされたり、名前が音楽誌等で大きく取り上げられることは大変少ない、という状況には常々疑問を持ってきました。

自分は90年代半ばに洋楽ファンコミュニティ「meantime」に関わった頃に当時エアプレイ・チャートでこのアルバムからガンガンにヒットを飛ばしていた彼らの作品に触れ、その後2000~2004年のNY駐在時に、現地でのDMBの人気の凄さを目の当たりにして以来この疑問はずっとあります。

彼らのサウンドや特徴を一言で表すのは大変難しいのですが、いくつかのポイントを挙げますと、

1.70年代ロックのスタイルを底辺に、ジャズ、フォーク、ファンク、R&B、ブルースといった様々なジャンルの要素を複雑に取り入れた多様な楽曲を、高い演奏力で90年代以降のロックバンドらしい先進性を持ったスタイルを実現している。

彼らの作品を聴いてすぐに気が付くのは、とても複雑な演奏とコード進行を駆使し、ほとんどジャズロック・バンドのような高い演奏力で複雑なグルーヴを聴かせてくれる、ということですが、彼らのサウンドの底辺を支えているのはジャズというよりも、むしろ70年代初頭の頃のメインストリーム・ロックやスワンプ、ブルーズロックなど、90年代以降新しい洋楽から離れてしまったシニアな洋楽ファンでもとても楽しめる要素なのです。このあたりが、USではシニアなファンも含めて絶大な人気を得ている大きな要因。

また、メンバー達の演奏力はただ者ではないレベルで、リーダーのデイヴはこのアルバムを含む最初の3枚では一切エレクトリック・ギターを使わずアコギでの演奏にこだわりながら、いわゆるアコースティック・ミュージックではなく、大きなうねりのあるグルーヴを生み出すサウンドを、エレクトリック・ヴァイオリンやサックスなど通常のロック・バンドではあまり使われない楽器も駆使した魅力的な個性を実現しているのです。

2.ライヴ活動を重視し、数々のライヴ・アルバムを通じて70年代のジャムバンド的なフォロワー層や人気を確保している。

彼らのライヴの人気もUSでは非常に高く、チケットはプレミアムがついてすぐ売り切れるのが当たり前(自分もNYで電話申し込みで一瞬チケットを確保しながら、クレジットカードを取り出している間にあっという間にチケットがなくなった、という悲しい経験をしています)。ライヴではその演奏力をバックに単にアルバムの再現をするのではなく、延々とインプロヴィゼーションを繋いで全く新しいアレンジで聴かせたり、アルバム未収録ながらライヴ定番の曲があったりと、ファンがDMBを「90年代のグレイトフル・デッド」と例えるように、ジャムバンド的なライヴのスタイルが有名です。

ことほどライヴを重要視してますが、デッドのようにライヴ音源録音自由で草の根によるファンへの音源供給というスタイルではなく、ライヴ音源の不法な商品化を行う業者を当局と連携して逮捕させたりして不公平な音源供給を防ぐ一方、これまで15作のライヴ・アルバム(そのほとんどが2枚~3枚組)をリリースし、ライヴに行けないファンにも音源供給を確保するなど、新世代のジャムバンドとしての対応を行っています。

そのDMBのメジャーブレイク作となったこの『Under The Table And Dreaming』はまさしく上述した様々な音楽的要素が既に高い完成度で練り上げられ、高い演奏力で複雑なグルーヴによるロックを聴かせてくれる、そんなアルバムになっています。そしてそのアルバムをプロデュースするのは、先進的でエッジの立った音作りでは定評のある名匠スティーヴ・リリーホワイトDMBの初期3枚をプロデュースした彼もDMBのシグニチャー・サウンドの形成に大きく貢献した一人。

https://youtu.be/rvi7xgBR_OQ

オープニング「The Best Of What’s Around」はややレイドバックしたリズムをバックにやや陰りのある複雑なメロディを聴かせますが、サビの部分はキャッチーに聴かせるナンバーで、デイヴのちょっと鼻にかかった独特のボーカルでラジオ等でかかれば一発で「あ、DMB」とわかる曲。

デイヴと僚友のギタリスト、ティム・レイノルズの二人が繰り出す達者なイントロの複雑でリズミックなアコギのフレーズから強いビートのメインに入っていく「What Would You Say」はR&B的要素が強い、彼らの最初のエアプレイヒット。あのマイケル・マクドナルドがバックコーラスに入っており、バックでハーモニカを吹いているのは当時人気の高かったブルース・トラヴェラーズジョン・ポッパーです。

https://youtu.be/1D7mekHjG5k

続く「Satellite」も複雑なアコギのフレーズ(デイヴがギターの運指練習に使っていたフレーズを使ったとのこと)とそれをバックアップするヴァイオリンの演奏から静かに始まり、6/8拍子のテンポに乗ったゆったりとしたナンバーでこちらもエアプレイでヒット、ライヴなどでも人気の高い曲。

こちらも複雑なギターリフをバックに珍しくデイヴがつぶした声でのヴォーカルで歌う「Rhyme & Reason」、静かなアコギのイントロでちょっと息をつく、こちらもライヴ定番曲「Typical Situation」に続いて再びマイケル・マクドナルドがバックコーラスに入った「Dancing Nancies」はちょっとミュージカルの挿入曲のようなシアトリカルなアレンジで始まり、メインに入るとちょっとメンバーのリロイ・ムーアのアルト・サックスが効果的な異国調のコード・メロディが展開されるちょっと変わったスタイルの曲。

https://youtu.be/dCsmGb0mm9w

後半は、彼らの看板的な代表曲で、初期の最大のエアプレイ・ヒットだった「Ants Marching」。エレクトリック・ヴァイオリンやサックスのリフをバックに後打ちのシャッフルリズムに乗って時にはファルセットを駆使してボーカルを聴かせるデイヴが気持ち良さそう。静かなアコギをバックの、しかしリズミックな「Lover Lay Down」に続いて出てくるのは、これこそDMBライヴでの定番人気曲、彼らのライヴ盤には必ずといっていいほど収録、それも延々とインプロヴィゼーションを加えてショーのハイライトとして演奏される「Jimi Thing」。タイトルの通り、あのジミヘンをイメージして作られた曲だと思われますが、初期ドゥービーを思わせるアコギストロークのイントロから次第次第にDMBのお馴染みに複雑で無国籍なグルーヴとリズムに発展するこの曲、ライヴで聴くとまた一段と盛り上がること必至。

その「Jimi Thing」同様、初期の頃から現在に至るまでライヴでの人気が高くほとんどのライヴで演奏される「Warehouse」はこちらもデイヴティムのアコギ2台の複雑なギターワークが大変印象的で、そこからどんどん後半にかけて様々な楽器やリズムがなだれ込んでカタルシスを上げていくというDMBお得意のパターンの楽曲。

https://youtu.be/_hTMHLfk1h0

アルバムの最後は後乗りリズムでのアコギのリフに乗ってデイヴが歌う静かめな「Pay For What You Get」に続き、このアルバム唯一のインスト・ナンバー「#34」でアルバムは終わりますが、この曲はのち2008年に事故死するバンドのサックス奏者リロイ・ムーア他2名との共作。曲中何度も複雑に転拍するアコギのフレーズにリロイのサックスがオブリガードのように乗って演奏されるこの曲、最初にライヴで演奏された1993年のバージョンでは歌詞があったものを、このアルバム録音ではインストにしたという楽曲。2008年リロイ逝去後のサマーツアーではアンコールブレイクでリロイの映像を流すバックにも何度か使われたというこの曲、その後も何度かライヴでは歌詞付でプレイされたという、DMBにとって様々な意味で特別なこのナンバーで静かに終了します。

このアルバムがリリースされる直前の1994年1月には、デイヴの姉アンの夫が自殺直前にアンを殺害するというショッキングな事件があり、アルバムのライナーには「このアルバムをアンの思い出に捧げる」というコメントが入っており、そうした意味でもこのアルバムはデイヴ自身にとっても大変特別なものだったに違いありません。このアルバムのブレイク、そして次の『Crash』の大ヒットで名実ともにアメリカを代表するロック・バンドとなったDMB、このアルバム収録ナンバーの多くが今でもライヴで演奏されるあたりに、彼らのこのアルバムに対する思いが忍ばれます。

今年リリースの新作『Come Tomorrow』でも変わらぬ個性あふれるグルーヴ満点の楽曲を聴かせてくれているDMB。恐らくギャラの問題が大きすぎてなかなか来日は難しいのでしょうが、そのうちフジロックあたりに来てくれないか、と密かに思っているのです。それまではこのアルバムをはじめ、DMBの作品を聴いてそのグルーヴに身を任せることとしましょう。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位11位(1995.6.10付)