新旧お宝アルバム!#47「Sister Kate」Kate Taylor (1971)

2016.6.20

新旧お宝アルバム #47

Sister KateKate Taylor (Cotillion / Atlantic, 1971)

梅雨入りはしたものの、ここのところ雨はあまり多くない代わりに蒸し暑い日々が続いていますが皆さん体調など崩されずに元気に洋楽聴いてますか?

先週はお休みを頂いたこの「新旧お宝アルバム!」。今週は「旧」のアルバムをご紹介する番ですが、前々回の旧のアルバムでご紹介したバーバラ・キース同様、70年代初頭にリリースされた女性シンガーソングライターの作品をご紹介したいと思います。ただしこのアーティスト、ただのシンガーソングライターではなく、あのジェイムス・テイラーの実妹のケイト・テイラー。その彼女のデビュー・アルバムである『Sister Kate』をご紹介します。

Sister Kate (Front)

長兄のアレックス(1947生)を筆頭にジェイムス(1948生)、今回ご紹介するケイト(1949生)、リヴィングストン(1950年)そしてヒュー(1952年)の5人のテイラー兄妹はいずれもシンガーソングライターやパフォーマーとしてそれぞれのキャリアを残していて、一番有名で人気・実績の高いジェイムスを筆頭にそれぞれ様々な作品を残しています。

ちょうど兄弟紅一点のケイトがこのアルバムをリリースした1971年は、お兄さんが『Sweet Baby James』(1970)、『Mud Slide Slim And The Blue Horizon』(1971)と立て続けにアルバムチャートのトップ3に上る大ヒットを放ち、キャロル・キングの「きみの友だち(You’ve Got A Friend)」で全米ナンバーワンを放っていた最も人気を博していた頃。

そうした大スターの妹のデビューアルバム、ということで注目を集めたであろう一方、正当に彼女の作品が評価されにくい環境でもあったことは容易に想像がつきます。

しかしこのアルバム全体を通じて感じるのは、ちょっとジュディ・コリンズを思わせる線の細めな声質にもかかわらず、一つ一つの歌を結構ソウルフルに歌い上げるシンガー、ケイトの力強さです。当時マネージャーで、兄ジェームスの大ヒットアルバムも手がけたピーター・アッシャーのプロデュースで作られたこのアルバム、楽曲の選択もそれぞれの曲のアレンジも、そうした彼女の歌唱スタイルを最大限に生かすべく、ストレートであまり技巧を凝らさない楽曲アレンジとちょっとゴスペル的な風味を漂わせるもので統一されていて、70年代前半のシンガーソングライターに取って良き時代であった頃の雰囲気に乗せて、ケイトの魅力を伝えてくれます。

そしてバックを固めるのは、キャロル・キング(ピアノ)と当時の夫チャールズ・ラーキー(ベース)、そして後にウェスト・コースト・シーンで重要な役割を果たすダニー・コーチマー(ギター)の3人(彼らはこのアルバムとほぼ同時にリリースされて大ヒットとなったキャロルの『つづれおり(Tapestry)』(1971)の前にThe Cityとして活動)を中心に、リー・スクラー(ベース)、ラス・カンケル(ドラムス)といった後にセッション・ミュージシャン・スーパー・グループ、ザ・セクションを組む当時のアメリカン・ロックの腕利きミュージシャン達。

と、ここで気がついた方もおられると思いますが、このメンバー、その『つづれおり』のバックを固めるメンバーをほとんどそっくりそのまま持ってきたもの。つまりケイトはあの大ヒットアルバムと同じ演奏スタッフをバックにこのアルバムを作ったことになるわけです。

そんなプロダクション・スタッフとしては申し分のない布陣のもと、ケイトの伸び伸びとしたソウルフルな歌声が楽しめるアルバムになっています。

Kate Taylor

そうした布陣を最大限に生かすために、アルバムの冒頭「Home Again」とLPだとB面1曲目(7曲目)の「Where You Lead」はどちらもその『つづれおり』からのナンバーのカバー。全く同じメンバーでの演奏ですから、『つづれおり』の雰囲気そのままですが、上述のようにケイトの歌声はよりソウルフルな雰囲気をこの2曲に与えています。そして後者は特にオリジナルよりも遙かにダイナミックでソウルフルなアレンジで、この曲に全く異なる表情を与えています。

この他にもちょうどこの年の初めに大ヒットアルバムとなった、当時まだブレイクしたてのシンガーソングライターだったエルトン・ジョンの『エルトン・ジョン3(Tumbleweed Connection)』に収録されていた「Ballad Of A Well Known Gun」と「Country Comfort」の2曲のカバーもそれぞれA面・B面の中心的なナンバーとして収録されています。前者はファンキーなダニー・コーチマーのギターとタイトなバックの演奏、そしてローリング・ストーンズの「ギミー・シェルター」でのミック・ジャガーとの共演で有名な黒人シンガー、メリー・クレイトンらをバックに従えたオリジナルよりもテンポを上げてとっても「黒い」アレンジで、オリジナルに勝るとも劣らないカッコいいバージョン。

そして後者はオリジナルのエルトンのバージョンはピアノで切々と弾き語り後半ゴスペル風に盛り上がる王道パターンのバラードなのですが、ケイトはこれを冒頭からバンジョーとアコーディオンをバックに、カントリー・ジャグ・バンド風のアレンジからソウルフルな展開に持って行くあたりが技ありの一本。こちらのバックにはあのリンダ・ロンシュタットがコーラスに入ってます。

兄弟たちももちろん万全のサポートで、ジェイムスはあちこちの曲でギターやバックボーカルで支える一方、ヒットしたばかりのアルバム『Mud Slide Slim…』からの「You Can Close Your Eyes」を提供している一方、プロデューサーのピータージェイムスのブレイクアルバム『Sweet Baby James』収録の「Lo And Behold」を、ザ・バーズドゥービー・ブラザーズのバージョンで有名な「Jesus Is Just Alright」とマッシュアップした「Lo And Behold / Jesus Is Just Alright」でアルバム後半の盛り上げのアクセントとしています。

また弟のリヴィングストンもピアノとベースを中心にしたシンプルなバラード「Be That Way」を提供。ここでのケイトの歌も、他のソウルフルな楽曲群とはちょっと違った感じを醸し出しています。

でもこのアルバムを一番象徴するのが3曲目の「Handbags And Gladrags」。そう、ロッド・スチュワートの初期のバージョンで有名で、2001年にはウェールズ出身のロックバンド、ステレオフォニックスのバージョンでUKでヒットとなった、いかにも60年代後半から70年代初頭のR&Bロックの雰囲気をプンプン言わせているこのソウルフルな名曲を、ケイトはまるで昔から自分の持ち歌だったかのように自然に歌いこなしています。バックにはキャロル・キング、リンダ・ロンシュタット、メリー・クレイトンといったそうそうたるシンガー達を従えて。

アルバムの最後は、キャロルのピアノをバックにせつせつと歌うバラード「Do I Still Figure In Your Life」に続いて、女性ギタリストであるベヴァリー・マーティンのブルージーなロック曲「Sweet Honesty」で終わります。

Sister Kate (Back)

ケイトは、アルバムチャートのトップ100に入るスマッシュヒットとなったこのアルバムの後、『Kate Taylor』(1978)、マッスルショールズ・スタジオで録音の『ケイト・テイラー・スクラップ・ブック(It’s In There)』(1979)と良質なアルバムを着実にリリースしていましたがどれもチャートインすることもなく、その後、2人の娘の子育てのために音楽活動を休止。

次にシーンに戻ってきたのは2003年の『Beautiful Road』で夫のチャーリー・ウィザムとの共作曲を中心としたアルバムでしたが、残念なことにチャーリーはこのアルバム制作中に病気となり、リリース前に急逝するという悲しい復帰作となってしまいました。その後2009年に『Fair Time!』というアルバムをリリースしているようですが、残念ながら現在活動しているかどうかは不明です。

このアルバムは10年ほど前にイーストウェスト・ジャパン(当時。現ワーナー・ミュージック・ジャパン)さんの「名盤探検隊」シリーズでめでたく世界初CD化されましたが、再び今、ワーナー・ミュージック・ジャパンさんの「新・名盤探検隊」シリーズの6月発売作品のうちの1枚として正に今月発売されたところ。

CD屋さんでこのちょっと垢抜けない風貌のケイト姉さんのジャケを見たら、迷わず手にしてみて下さい。70年代初頭の『つづれおり』に代表される、R&Bテイスト満点のアーシーなシンガーソングライター作品がお嫌いでなければ、きっと気に入って頂けると思いますので。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位88位(1971.3.27~4.3付)