新旧お宝アルバム!#91「How Will The Wolf Survive?」Los Lobos (1984)

2017.7.3

新旧お宝アルバム #91

How Will The Wolf Survive?Los Lobos (Slash / Warner Bros., 1984)

先週は一週間US出張の関係でお休みしてしまったこの「新旧お宝アルバム」、帰国してみると成田を立つ前に比べて湿気も増えて、少し梅雨らしくなったなあ、と思ってましたが肝心の雨はそこそこで蒸し暑さだけは全開のここ数日。皆さんも体調崩さぬよう洋楽ライフを楽しんで下さい。

そのUSは正に今独立記念日ホリデーの真っ最中ということで、ゆったりした時間が流れているようですが、ここ東京では週末の都議選の結果が自民惨敗、小池都知事の都民ファーストの圧勝となりました。この後の展開は不透明ですが、奢れる安倍下ろしの一歩になったのであれば国民にとって歓迎すべきことだと思います。

さて今週の「新旧お宝アルバム」は時代を80年代に戻して、自らの民族的ルーツと音楽的表現を試行錯誤しながら見事にオリジナルでカッコいいロック作品を作り上げた、ロス・ロボスのメジャーブレイク作『How Will The Wolf Survive?』(1984)をご紹介します。

ロス・ロボスというと、全米トップ40ファンの間では1987年の同名映画の主題歌で、その映画の主人公でもあった50年代のロカビリー・スター、リッチー・ヴァレンスのヒット曲のカバー「La Bamba」の全米No.1が最もお馴染みだと思いますが、彼らがロック・シーンにおいてメジャー・ブレイクを果たしたのはその3年前にリリースされたこのアルバム『How The Wolf Survive?』でした。

メンバーはLAで最もラティーノの人口割合が多い(90%以上がラティーノ)イーストLA出身の6人組、特に自らの民族的ルーツをメキシコに持つメンバーが多く、このアルバムにおいて彼らはメキシコの民族性とロック・サウンドの融合による新しくオリジナルなスタイルでのテックス・メックス・ロック(メキシコ音楽とカントリーの融合した音楽スタイル)を見事なサウンド・プロダクションと楽曲で実現しているのです。

メンバーのうちリーダーのデヴィッド・ヒダルゴ、ルイ・ペレス、セザール・ロサス、そしてコンラッド・ロザーノの4人はギター、ベースといったロック・バンドの基本楽器の他、テックス・メックスに欠かせないアコーディオン、レキント・ハローチョやギタロン、ハラーナ・フアステカといったメキシコ音楽特有の弦楽器の数々を要所要所で駆使しており、これが彼らの独自のサウンドに欠かせないものになっています。

そうしてこうした文化的多様性を内包した音楽性を見事にロック作品として昇華しているのに欠かせないのが、後にコーエン兄弟の映画『オー・ブラザー(O Brother, Where Art Thou?)』(2000) のサントラ盤やアリソン・クラウスロバート・プラントの歴史的コラボ作『Raising Sand』(2007)などでアメリカン・ルーツ・ミュージックを基盤とした音像豊かなロック・プロダクションで知られる名匠Tボーン・バーネットのプロデューサー・ワークです。彼の必要最低限の音数を使い、余計な装飾的なサウンドを一切廃した「引き算」のプロダクションがこのアルバムをとてもタイトに、されどインパクトあるものにしているのです。

アルバムはいきなりストレートでシンプル、でもインパクトのある軽快なロック・ナンバー「Don’t Worry Baby」で勢いよくスタート。ロス・ロボスは90年代にこちらも名プロデューサーのミッチェル・フルームを迎えた『Kiko』(1992)『Clossal Head』(1996)といった名盤をものしていますが、そのあたりのサウンドの萌芽を感じさせるような、力強いサウンド。ここでは伝統的なロック楽器のみの演奏ですが、既に何か違うぞ、的なものを期待させてくれるそんなオープニングです。

[youtube]https://youtu.be/tao8rbrnfbc[/youtube]

このアルバムに先立ちリリースされたEP『…And A Time To Dance EP』(1983)で買ったGMドッジ・バンで全米ツアー中に、このアルバムの最初の曲として作られた次の「A Matter Of Time」もまだ通常のギター中心のサウンドですが、レイド・バックしたブルース調の楽曲とギターの音色がテックス・メックス色を強く醸し出している気持ちのいいナンバー。

そして次の「Corrido #1」からはアコーディオンとドラムスをバックにしたエキゾチックな演奏で、一気にテックス・メックスの世界に突入。シャッフル調のリズムが心地よい「One Last Night」、ヒダルゴの要所要所を締める巧みなギターリフとアコーディオンのバッキングとレトロな曲調が楽しい「The Breakdown」、そして軽快なギターリフとリズム、そして「昨夜はジン一本ですっかりベロベロ/でも気分は最高/昨夜はウィスキー一本で酔っ払っちゃったぜ/でもそう、俺は気分最高」という楽しい歌詞で思わず踊り出したくなる「I Got Loaded」あたりまでは一気にロス・ロボスの軽快でノリのいいテックス・メックス・ロックの世界に引き込まれてしまいます。

自らの民族性への誇りを思わせる伝統的メキシコ音楽スタイルに徹した演奏で、全編スペイン語の歌詞の「Serenata Norteña」(北部のセレナータ、セレナータというのは夜に女性の窓の下に来て歌う求愛歌)がそうしたロック・サウンドに続いて登場するこのアルバム構成、嫌がおうにも彼らのスタイルの独自性を実感させられますが、続く「Evangeline」「I Got To Let You Know」ではすぐさままた彼らのテックス・メックス・ロックスタイルに戻り、思わず聴きながら体が動いてしまう演奏で盛り上げてくれます。ラス前の短いインスト・ナンバー「Lil’ King Of Everything」ではメンバーがギターやベースをメキシコ音楽特有の弦楽器に持ち替えて、砂漠に開くサボテンの花を思い浮かべるような美しいメロディを聴かせてくれます。

[youtube]https://youtu.be/lJVsUMKftMo[/youtube]

ラストナンバーの「Will The Wolf Survive?」ではまたテックス・メックス・ロックのスタイルに戻り、ヒダルゴのギターリフやメキシコ弦楽器の美しい音色をバックに「果たして俺たち(ロス・ロボスというのはスペイン後で「狼」の意味)はこの厳しい音楽シーンで生き残っていけるのだろうか?」というある意味深刻なメッセージを、極めて明るく開放的なトーンで唄いながら、アルバムを締めます。

このアルバムはリリースされるや、数々のロック評論筋から高い評価を受け、かのローリング・ストーン誌などは1984年に発表した「1980年代で最も偉大なアルバム100枚」の第30位にこのアルバムを挙げるなど「テックス・メックス・ロック」という新しいジャンルを確立した作品として広く受け入れられたそんな作品。

ラ・バンバ」の思わぬヒットでイメージを限定される恐れもあったのですが、その後前述した90年代のミッチェル・フルームを迎えての作品群への高い評価や、2000年代に入って自らプロデュースした『Good Morning Aztlán』(2002)、エルヴィス・コステロトム・ウェイツ、サルサの雄ルーベン・ブラデスらを客演に迎えた『The Ride』(2004)、グラミー賞の最優秀アメリカーナ・アルバム部門にもノミネートされた『Tin Can Trust』(2010)など、コンスタントにクオリティの高い作品をリリース。2015年には17枚目にあたるオリジナル・アルバム『Gates Of Gold』を発表、相変わらず力強くもやや円熟の域に達しつつある、彼ら独特のテックス・メックス・ロックを聴かせてくれます。

先週のUS出張の帰りにLAに立ち寄りましたが、日本と違ってLAは昼間は30度を超す猛暑の毎日で、ロス・ロボスのこういう乾いた、それでいてメキシコの異国情緒を感じさせる音が似合う気候でした。日本はまだ湿気も多くカラッとは行きませんが、これからどんどん暑くなる毎日。ロス・ロボスのレコードでも聴きながら辛いメキシコ料理とビールで夏を乗り切ってみる、というのも乙なのでは?

 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位47位(1985.3.9付)