さあいよいよグラミー賞のノミネーションも発表され、ビルボード誌の年間チャートも発表、我々洋楽ファンにとっての年末感がぐんぐん高まってくる今日この頃。この「新旧お宝アルバム!」のコラムもここのところ公私超多忙なのにかまけてしばらくお休みしてましたが、ここは年末感を盛り上げるためにも、年末特別企画としゃれこんでみます。
【年末恒例企画】My Best 10 Albums of 2018
そう、今年2018年にリリースされた数あるアルバムの中から、自分の独断と偏見に基づいて「これは良かった!」とか「一聴の価値ありますよ!」というアルバムを選りすぐってランキングをカウントダウンするという趣向です。他の音楽誌でも毎年同じような企画をやってますが、この「新旧お宝アルバム!」ならではの視点で選んだアルバムたち、そういった既存の音楽誌のランキングとは一味違うのでは、と密かに思っています。ではさっそく10位から。
10位:『Back Roads & Abandoned Motels』Jayhawks (Legacy)
第61回グラミー賞のノミネーションが発表されて、それまで58回はクリス・ステイプルトン、59回はスタージル・シンプソンがそれぞれ最優秀アルバム部門にノミネートされて、アメリカーナというジャンルもいよいよ主要音楽ジャンルとして認知と定着が進んだな、と思ってた矢先の去年60回ではなぜかヒップホップ・ラップ系が3枚もアルバム部門にノミネート、アメリカーナは主要四部門から締め出しを食らっていました。今年は5から8にノミネート数が拡大したこともあって、ブランディ・カーライルとケイシー・マスグレイヴスが見事アルバム部門にノミネート。楽しみなグラミーになりそうです。
で、1990~2000年代以降のアメリカーナ勃興に寄与したバンドといえばウィルコやウィスキータウンと並んで欠かせないのがこのジェイホークス。ご存知の方も多いと思いますが、出世作となった『Hollywood Town Hall』(1993)以降、『Tomorrow The Green Grass』(1995)等々の名盤をコンスタントにリリースして存在感を築き、ゲイリー・ルイスと共に双頭リーダーの一人、マーク・オルソンが途中脱退するなど紆余曲折を経たものの、再び二人が揃った『Mockingbird Time』(2011)ではその変わらぬハーモニーと心和むオルタナ・カントリー楽曲に癒されたものです。
でもその後またマークが抜けて、2016年に出た『Paging Mr. Proust』は正直何だかピンとこない内容でファンとしてはモヤモヤしてたもの。そこへ、昨年あのキンクスのレイ・デイヴィーズがアメリカ音楽への憧憬をあらわに綴ったアルバム『Americana』(2017)のバックに何とジェイホークスが全面参加してるという面白い展開に。レイの続作の『Our Country: Americana, Act. 2』(2018)でもマークをはじめとしたバンドの演奏やコーラス、唯一女性メンバーのカレン・グロトバーグの華やかな歌声も聞こえて、早く彼らのオリジナルアルバムが聴きたいなあ、と思ってたところに届けられたのがこのアルバム。
曲ごとの詳しい解説は、今年の9月にここのブログの【新旧お宝アルバム!】のシリーズで既に書いているので、そちらをご参照頂きたいのですが、基本的な楽曲構成はゲイリーがここ数年他のアーティストに書いたり、誰かと共作したりしてた曲10曲のセルフ・カバーと、2曲のゲイリーの書き下ろしということで、誠にジェイホークスファンにとっては懐かしくもうれしい、力強くも繊細で美しいメロディーとコーラスが満喫できるジェイホークス節炸裂の素敵な盤に仕上がっているというのが最大の魅力と言い切っちゃいます。
個人的にはディキシー・チックスが最初にやった「Everybody Knows」、ゲイリーのボーカルがめっきり寒くなった今日この頃、心にしみるのです。今年だけでなく、長くジェイホークスのフェイヴァリット作の一つとして聴き続けるだろうな、と思ってます。
9位:『Blood』Rhye (Loma Vista)
これは最初は完全にジャケ買い。Pitchforkのレビュー欄をパラパラと見ていたら、いきなり女性の全裸の背中からの写真(ライことマイク・ミロッシュ君のガールフレンドらしい)に目を奪われ、評価も高かったのでApple Musicでちょっと視聴してみたところ、これがここ数年自分のマイブームである浮遊感満載のR&Bチューン集だったので迷わず購入。これも聴けば聴くほどに結構癖になるタイプのレコードで、一時期かなり自分のパワーローテーションに入ってました。
マイク君がカナダ人の白人で、彼のボーカルもかなり中性的でやや声もコントラルトっぽい高めのトーンでささやくように歌う、っていうこともあるんだろうけど、USの最近のオッド・フューチャーとかアーシーでヒップホップに深く根ざした感じとは全く異なり、どちらかというとエレクトロ系ポップに近い感じで、これをこのままBPMを倍くらいにするとまんまThe 1975やThe XXとかみたいになるんじゃないの?的な感じが聴いてる分に凄く気持ちよいのです。
もともとは2010年にベルリンにいたマイク君とデンマーク人のエレクトロ系アーティスト、ロビン・ハニバルとのデュオでスタートしたというライ、ライと言う名前以外は何も明かさずに二人で共作した楽曲をネット上にアップして人気を呼んでいたところでファーストアルバム『Woman』(2013)をリリース。その後USに渡ってマイクのソロ・プロジェクトとなったライとしてのアルバムがこの『Blood』。全編を深い霧のように包むエレクトロな音像と、マイクの官能的ともいえるボーカルで独自の世界を作りあげているのですが、「Please」「Song For You」「Stay Safe」「Phoenix」あたりは特にリズムの使い方に伝統的なR&Bの意匠も感じさせるエレクトロ・ポップに仕上がっていて、いわゆるクラブとかで大音量でかかっていても、薄暗いバーとかで控えめの音量で流れていても聴く者の耳を「ん?」と引くであろう、そんなレコードです。
そう、カリフォルニアで作ってるはずなのに明らかに明るい太陽の下で聴く音楽ではない(笑)。そういう意味では今の季節にぴったりかもしれません。
8位:『Things Have Changed』Bettye LaVette (Verve)
そしてさっきのライのレコードとは全く180度、対極にあるのがこの大ベテランR&Bシンガー(今年72歳!)ベティ・ラヴェットによる、全12曲ディランのカバー集の新作アルバム。
いやいやA面冒頭のアルバムタイトル曲「Things Have Changed」からガツーン!とぶちかましてくれるのなんの。このアルバムのプロデューサーで、全面バンドのドラムスを担当するスティーヴ・ジョーダンがパワフルなドカスカドラムス叩きながら冒頭「ベティ、気分いいかい?」というのに「いいわよ!」と吐き捨てて、年を全く思わせないパワフルなボーカルでぶちかますベティ、ひたすらカッコええ!
最近ではボズ・スキャッグスの『Memphis』(2013)などのブルース・アルバムのプロデューサーで有名なスティーヴの他のバックのミュージシャンも腕利きぞろい。アメリカーナなギターを弾かせたら一流で、ディランの『Love And Theft』(2001) にも参加してたラリー・キャンベルのギター、ジョン・エントウィッスル没後のフーや、ディアンジェロのバンド、そしてスティーヴと一緒にジョン・メイヤー・バンドで活躍してる僕も個人的に好きなピノ・パラディノのベース、そしてあのヴァン・マッコイからアヴリル・ラヴィーンまで様々なアーティストとの活動経験を持つベテラン、リオン・ペンダーヴィスのキーボードが、一体となってベティの熱くもパワフル、表現力抜群でグルーヴ満点のボーカルを包むようにサポートしてるのが聴いていてひたすら気持ちいい。
選曲もこの手の企画にありがちの有名曲に偏るということもなく、新旧様々なアルバムからの曲がベティ自身の自信に満ちた解釈での楽曲に料理されているのがいい。特に冒頭の2曲、映画『Wonder Boys』に提供された「Things Have Changed」から「It Ain’t Me Babe」(アメリカ南部のラウンジ・バーで聴くようなリヴァーヴの効いたギターが最高)って、実はディランが今年の夏、フジロックで演奏した時のリストの最初の2曲と同じなんですよね。ひょっとしてディラン、ベティのこのアルバム聴いて刺激受けて意識してたんじゃないかな、なんて妄想するのも楽しいのです(^^)
あと「Political World」(1989の『Oh Mercy』収録)ではキース・リチャードがギターで参加して存在感たっぷりのソロを聴かせてくれますが、ベティは全く手綱を放さず自分の世界をがっちり聴かせてくれます。
一昨年はシャロン・ジョーンズのひたすらローでかっこいいR&Bファンク・サウンドにやられた後にシャロンの訃報に寂しい思いをしたので、ベティには是非この調子で当分ガツーンというカッコいいR&Bのアルバムをまだまだ聴かせてほしい。なぜなら自分がベティを知ったのはごく最近だったので、彼女の過去の作品もそして今後の新作も是非聴き倒したいなあ、と思うから。
7位:『Dear Annie』Rejjie Snow (300/Brace Face/BMG)
レジー・スノウっていう名前を初めて聞いたのはうちのヒップホップ・トラップ・ヘッズの息子から。去年だったか、毎日チキチキハイハットのトラップトラックを聴きまくり、自分でもトラックを作り始めてた息子は、今時のR&Bの新しいアーティストへの耳も早くて、ブレイク前からThe InternetとかSZAとかジョージャ・スミスとかは「オヤジが好きそうだぜ」と教えてくれててなかなか重宝していたので「今何かお勧めある?」と聞いたら帰ってきたのがこの名前。当時はまだミックステープを出したばっかりだった彼の「D.R.U.G.S.」って曲をYouTubeで聴いたところ、何しろ最近のヒップホップにしてはトラップっぽさが皆無(笑)で、サウンドのアプローチも90年代あたりのネイティヴ・タン系のポップ感覚溢れる感じ(PVもそんな感じのアニメなのも好感度だった)で、当時気に入ってたチャンス・ザ・ラッパー系の明るさが即気に入ったものでした。
そのレジーが満を持して今年初フル・アルバムをリリースした。これは買わねばなるまい、ということで即ヴァイナルで購入。このアルバムの収録曲20曲は、アルバムリリース前に2枚のEPに分けて発表されたもの。その楽曲はどれもこれも「D.R.U.G.S.」同様、ヒップホップアルバムとしては90年代あたりのクラシックなスタイルで、3曲にフィーチャーされているデイナ・ウィリアムス嬢などのR&Bシンガーも多数フィーチャーした、70年代っぽいR&B色もかなり濃厚な、クオリティも高い楽曲がずらり並んでいて、我々のように70年代ソウルを下敷きにして、90年代ヒップホップやR&Bに慣れ親しんだリスナーにはたまらない内容。でもそれでいて古臭さは全くなく、使われているサウンドスタイルや音像系は間違いなく今の時代のもの。カリードとかともサウンドは似てるけど、もっとオールドスクールヒップホップの香りと、90年代UKアシッド・ソウルなんかの影響も感じます。
とにかくヒップホップが楽しかった時代の記憶を随所で呼び起こさせてくれる楽曲揃いで、デ・ラ・ソウルのトラックにありそうな、メロウでリズミックなトラックに乗ってデイナ嬢のドリーミーナボーカルと去年ブレイクしたラッパー・デュオのアミネのフロウをフィーチャーした「Egyptian Luvr」とか、アルバムラストのシンガーのマイカー・ウィリアムスをフィーチャーした「Greatness」なんかでは「ママは俺が生まれた時スティーヴィー・ワンダーに夢中で/Superstitionを一晩中かけてた」なんてなフロウがぽろっと出てくるあたりも楽しい。キャロライン・スミス嬢をフィーチャーした「23」ではレジーも歌いながら、ドリーミーでラヴリーなサウンドとメロディに乗って口笛なんか吹いてる。「Spaceships」とかも『ファースト・フィナーレ』の頃のスティーヴィー・ワンダーまんまのご機嫌なソウル・ジャムだし。とにかく今時のヒップホップっぽくないけど、ヒップホップとR&Bの楽しさのエキスがぎっしり詰まってるようなそんなアルバムだ。多分このアルバム最初に通して聴いてたとき、自分はニヤニヤしてたと思います(笑)。
レジーって、ナイジェリア人の父親とアイリッシュ・ジャメイカンの母親の間に、アイルランドのダブリンに生まれ、フロリダに移り住む18歳までそこで育ったらしい。道理で普通のUSのヒップホップっぽくないわけだ。顔も結構いかついし。凄く音の素性がコスモポリタンな感じで、UKアシッド・ソウルの香りがあるのも納得できる。そのレジー、USには数年だけいて、今はダブリンに戻ってそこで活動を続けているらしい。
音的にはチャンスとか、ケイトランダとか、タイラー・ザ・クリエイターとか、最近のフィールグッドなスタイルのヒップホップのまた新しいアーティストが出てきたぞ、こいつはフォローしなきゃ、という感じですので、最近のチャンスとか90年代のネイティヴ・タン系のヒップホップとかがお好きな方には100%お勧めします!
6位:『Good Things』Leon Bridges (LisaSawyer63 / Columbia)
こちらは現代におけるネオ・クラシック・ソウルの旗手、という鳴り物入りで2015年に『Coming Home』でデビューしたリオン・ブリッジズの2作目。こちらも今年の5月にここのブログ「新旧お宝アルバム!」でレビューしてますので、詳しい曲ごとの解説とコメントはそちらをご覧下さい。
その時のブログにも書いたのだけど、『Coming Home』の時、あまりに「現代のサム・クック、オーティス」的に売り出されて、ジャケやアルバムの楽曲などもそれをえらく意識しすぎた(と自分は感じた)ために、当時は全くピンと来なかったけど、今回のこの『Good Things』は「クックやオーティスの先達の系譜を汲んでリスペクトしてるけど、自分は《いま》のソウルシンガーなんですよ!」という表明をするかのように、クラシックなスタイルの「Bet Ain’t Worth The Hand」(こちらは今回の第61回グラミー賞の最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス部門に、自分が8位に挙げたベティ・ラヴェットと共にノミネートされてる)や「Beyond」「Mrs.」など前作の意匠を継続するナンバーだけでなく、シックのダンクラ・チューンかと思うほど軽くモダンでファンキーな「If It Feels Good (Then It Must Be)」や「Forgive You」「You Don’t Know」といった70年代後半スタイルの軽快で洒脱なナンバーも軽々とモノにしてるところが素晴らしいところ。結果として、何度聴き返してもその都度発見があり、飽きずに繰り返し聴くことができるアルバムになっていると思います。
そしてアルバムを締める「Georgia To Texas」は南部テキサス出身であるリオンの出自を表現するかのように、極めてダウン・トゥ・アースで、黒人霊歌的なフィーリングを持つ楽曲でこれをリオンが静かに、しかしエモーショナルに歌い上げるのを聴くと、今回のアルバムでリオンの引き出しが二重にも三重にもなって、いろんな表現力を発揮できるシンガーになったな、と如実に感じます。そして全曲に共作者として関わっているところも重要。今回グラミー賞の最優秀R&Bアルバム部門へのノミネートも順当で、僕はH.E.R.の『H.E.R.』(2017年10月のアルバムなので、今回の自分の2018ランキングに入れられなかったのが残念)との争いになると見てます。早くも次作が楽しみなリオン、ソウル好きであれば聴くべしです。
ということでMy 10 Best Album of 2018、6位から10位でした。次回はトップ5ですのでお楽しみに。