新旧お宝アルバム!(コロナ追悼企画)#178「Utopia Parkway」Fountains Of Wayne (1999)

お知らせ

2020.5.18

「新旧お宝アルバム !」#178

Utopia ParkwayFountains Of Wayne (Atlantic, 1999)

39県の緊急事態宣言解除は出たものの、まだまだ東京他大都市ではコロナへの緩みは禁物の状況は続いてます。そんな以前ザワザワした状態の中、今週の「新旧お宝アルバム!」は、2回前に取り上げたジョン・プライン同様、不幸にして今回のコロナウィルスの犠牲となり、4/1に若干52歳で急逝してしまった、90年代以降のパワーポップ世代を代表するソングライター&ベーシスト、アダム・シュレシンジャーが、ギターのクリス・コリングウッドと率いていたこれまた90年代から2000年代にかけて活躍したパワーポップ・グループ、ファウンテンズ・オブ・ウェインの2作目『Utopia Parkway』(1999)を、アダムの冥福を祈りつつご紹介します。

コロナ追悼企画第2弾、そして「90年代作品を改めて評価してみよう」第12弾。

1990年代中盤から後半にかけては、いろんな形でアメリカの音楽シーンに新たな音楽スタイルとアーティスト達が咲き誇った時代だったと思います。ロック・シーンでは90年前半のグランジやインディ・ロックの隆盛がピークを過ぎて、ポスト・グランジと総称される「洗練されたパワーロック」なバンド達に加え、ヒップホップ、パワーポップ、スカ・レゲエ、エモなど様々なタイプの音楽スタイルをポップなセンスで演奏するバンド達など、一気に多様化が進んだ時代。当時自分は「meantime」という洋楽サークルのスタッフとして、そうした大きなうねりを見せていた洋楽シーンの情報と論評をアルバムレビューやメルマガ、会報の特集記事などで取り上げていたのですが、その時期に登場したバンド達の中でも特に強い印象を受けたのは、いわゆるパワーポップ・バンドながら、とてつもなくレトロな楽曲アプローチと、歌詞も含めてそれらの楽曲の持つ世界観が独得の屈折したウィットと人間観察などで面白い、ベン・フォールズ・ファイヴウィーザー、そしてこのファウンテンズ・オブ・ウェイン(FOW)といったバンド達でした。

特にFOWについては、自分が高校時代から情熱を傾け続けていた洋楽へのハマリ込み状態が、1991-93年会社のニューヨーク留学でぶっつり途絶えざるを得なかった後、帰国後しばらくして参加した上述の「meantime」の活動を始めた1996年にデビュー作『Fountains Of Wayne』をリリース、当時のスタッフ仲間に勧められて一発で気に入って以来の付き合いなので、特に思い入れが深いバンドでした。なので、アダムの訃報を最初聞いた時は(冗談抜きで)マイケル・ジャクソンアーリヤ、プリンスといった自分に取って同時代の思い入れ深いアーティスト達の訃報を聞いた時同様、しばらく信じることができなかったほど。

そのデビュー作からのシングル「Radiation Vibe」が当時のロック・ラジオで人気を呼んでFOWの名前がシーンで知られるようになった直後、アダムは当時あのトム・ハンクスが初監督を務めた、ビートルズ成功物語のオマージュ・ストーリーの映画『That Thing You Do!(すべてをあなたに)』のテーマソング「That Thing You Do!」を作曲して提供。これが正にビートルズへのオマージュ感満点のビタースイートな素晴らしいポップ・ロック・ソングで、当時映画中のバンド名、ザ・ワンダーズ名義でヒット(Hot 100最高位41位)、その年のゴールデン・グローブ賞およびアカデミー賞の最優秀オリジナル歌曲賞部門にノミネートされ、またまたFOW、特にアダムにとっては大きなマイルストーンになりました。

The Wonders - That Thing You Do! (Official Audio)
"That Thing You Do!" by The Wonders:Listen to The Wonders: I try and try to forget you, girlBut it's just so h...

そうした順風満帆の勢いを持って、ある意味満を持してリリースしたのが今回ご紹介するセカンドアルバム『Utopia Parkway』でした。

ジャケットに青い空をバックに移されたニューヨーク市の道路標識に表示された「ユートピア・パークウェイ」(実際にNYのクイーンズにある通りみたいです)の文字から連想されるように、このアルバムは大都会の郊外に住むティーンエイジャー達の日常や感情をイマジャリー的に描こうとしたコンセプトアルバムとして作られたようです。そこでアダムクリスの2人がイメージしたのはキンクスの『Muswell Hillbillies』(1971)という、彼らが見たことも住んだこともない北ロンドンの郊外の街をバックグラウンドにして、キンクスデイヴィーズ兄弟が育ったその街の70年代初期の貧困と労働者階級生活の毎日を描いたアルバムだったといいます。ある意味彼らが育ったニュージャージーはニューヨークの郊外でちょっとイケてない感じの街(誤解を怖れずにいうと、東京と千葉の関係によく似てますねえ)だし、アルバムの舞台はクイーンズだとしてもそこもマンハッタンとの関係ではちょっとイケてない郊外、というイメージなので、そういう環境での若者の気持ちや生活をイメージしたアルバムを作る、というのは彼らにとって必然だったのかも知れません。

でも、彼らの非凡なところは、そうしたアルバムを、サウンド面や楽曲面では70年代後半から80年代初頭にかけてアメリカのティーンエイジャー達が聴きまくったであろうカーズ、チープ・トリック、ジャーニー、スティーヴ・ミラー・バンドといったポップなロック・アーティスト達のサウンドへのオマージュ感たっぷりな、それでいて90年代後半的なサウンドスタイルに料理した形でメチャクチャパワーポップな楽曲で表現しているところなんですね。

オープニングのタイトルナンバー「Utopia Parkway」は途中からチープなシーケンサーのメロディが入るあたり、もろカーズのオマージュ満点。シングルでもリリースされた「Red Dragon Tattoo」は軽快なパワーポップ・ナンバーでこんな感じでこのアルバムのコンセプトを打ち出してくれてます。

「月曜日は地下鉄Nライン(NYの地下鉄でロングアイランドにいく路線)でコニー・アイランドに行くんだ

バイトでためた金でタトゥー入れにいくのさ

山ほどベイジル・ヘイデン(バーボンのブランド)引っかけなきゃ

やってる間は直視できないんで景気づけで

ロングアイランド最高、ネオンの下で

もうすぐ僕のレッド・ドラゴンのタトゥーが完成

君のために入れたのさ

さあ他に何もなくても僕が欲しいかい

僕のハニーになってくれよ」

何か微笑ましいというか、いいですよね、この感じ。続くこのアルバムで唯チャートに入った「Denise」はちょっとグリーン・デイ風なパンキッシュなロックな感じでもっと直接的です。

「デニースって娘を知ってるよ

会うたびに膝がガクガクするようなマブい女の子

ラヴェンダー色のレクサスを乗り回してて

住んでるのはクイーンズなんだけどお父さんはテキサスに住んでるらしい

彼女が僕を抱きしめると(シャララララ)

もう僕はたまらなくって(シャラララ)

ねえ、言ってくれないかデニース、僕を愛してるって

彼女、バツイチらしいって聞いた

パフ・ダディの曲が好きで、リバティ・トラベル(大手の旅行エージェント)で働いてるらしいね」

なかなか面白いイマジャリーですよねえ。

こういう風に次々にいろんなスタイルの楽曲に乗せていろんなイメージを届けてくれるFOWのこのアルバム。この後もちょっとダウンビートなメロディで「僕は帽子と足だけなんだ」ってよく判らない、前作収録の「Sink To The Bottom」なんかにも通じる感じの「Hat And Feet」とか、60年代サイケデリック・ロックっぽいサウンドで郊外のモールで買い物しまくるぞ、と歌う「The Valley Of Malls」とか、一転して叙情的なしんみり系のメロディで歌う「Troubled Times」とか、また60年代ロックンロール系パワーポップで「さあみんなでレイザー・ショーを見に行こう/帰りはLIE(ロング・アイランド自動車道)で帰ろうぜ」と歌う「Laser Show」とか、チープ・トリック系正当派パワーポップで「あの娘見たかい/可愛い子だけどありゃ宇宙に行っちゃってるね/何言ってるかさっぱり判んねえし/こっちが言ってることも判ってない風だけど/でもオレあの子スキ」ってかなり頭悪い(笑)「Lost In Space」とか、かなり屈折したウィット満点の楽曲満載。FOWの最大の魅力炸裂してるアルバムなんですね、これが。

こんな風にかなりの意欲作だったこのアルバムも、評論家筋の評価は高かったんですが、彼らの人気はあくまで知る人ぞ知る、に止まってたこともあって商業的には振るわず。結局アトランティック・レーベルに契約を切られてしまって、クリスはかなり落ち込んで一時期メンタルも危うかったらしいです。でも気を取り直して作ったこの次のアルバム『Welcome Interstate Managers』(2003)からの、これぞカーズのオマージュの極致!的な曲「Stacy’s Mom」が彼ら唯一のHot 100ヒットとなって(最高位21位)、やっと彼らの苦労も商業的に報われたのでした。

彼らはこの後もアルバムをリリースし続けたのですが、クリスのメンタル問題も依然あり(2006年には来日公演中にメンタルおかしくなって公演キャンセル事件とかあったらしいです。僕は残念ながら行ってないですけど)、2011年に日本主導でリリースされたアルバム『Sky Full Of Holes』とその翌年のツアーの後、2013年10月のミネアポリスのライヴを最後にバンドは残念ながら自然解散。その後もクリスアダムもそれぞれの活動を続けて、アダムは2016年にデビュー50周年記念で生存してるオリジナル・メンバーでリリースしたあのモンキーズのアルバム『Good Times!』をプロデュースしたり、TVのコメディ・ミュージカル『Crazy Ex-Girlfriend』(2015-2019)の音楽監督の仕事でエミー賞を受賞したりとまだまだ活躍を続けていたのですが、冒頭お知らせしたように、アダムはコロナの犠牲となって帰らぬ人に。

彼の逝去後、あのグリーン・デイビリー・アームストロングがネットでアダム作の「That Thing You Do!」をカバーしてアダムを追悼したり、4/22にはニュージャージーの医療従事者に感謝するチャリティ音楽イベント「Jersey 4 Jersey Benefit」ではクリスをはじめとするFOWの残るメンバーが、ベースには同じニュージャージー出身の新進気鋭のシンガーソングライター、シャロン・ヴァン・エッテンを入れて、アダムの追悼でFOWの曲を演奏したりと、彼に対するシーンのリスペクトを強く感じる反応が止まっていません。

改めて今回このアルバム、そしてFOWの他のアルバムと「That Thing You Do!」を聴き直して、やはりアダムってとんでもない素晴らしいメロディメイカーでソングライターだったんだな、と実感しました。特に70年代後半から80年代に熱く洋楽を聴いていた、僕らアラフィフ世代の洋楽ファンだったら、彼らの作品はどれをとってもビンビンに響くものばかりだと思いますので、もしまだFOWをご存知ない、という方は取り敢えず手始めにこの彼らの意欲作『Utopia Parkway』を聴いてみてはいかがでしょうか。コロナの在宅生活がぐっと楽しくなること、うけあいですから。

<チャートデータ> チャートインせず