新旧お宝アルバム #18
「Fifth」The Autumn Defense (Yep Roc, 2014)
ここのところ秋晴れの日々が続く一方、気温も徐々に下がってきて、秋風がちょっと肌寒くなってきましたが、今週の「新旧お宝アルバム!」で取り上げる「新」のお宝アルバムは、そういう秋風の吹く季節にぴったりの、哀愁のメロディと緻密に作りこまれたポップ・センスが素晴らしい、アメリカのオルタナティブ・カントリー・ロック・シーンで活躍する、ジョンとパットの2人を中心としたバンド、その名もオータム・ディフェンスのインディ5作目『Fifth』をご紹介します。
実はこのオータム・ディフェンスの中心メンバー、ジョン・スティラット(vo., b., g., kbd., )とパット・サンソン(vo., g., kbd., perc.)は、オルタナ・カントリー・ロック・シーンの代表的なバンド、ジェフ・トウィーディーの率いるウィルコの現ラインアップのメンバーでもあります。
つまりこのオータム・ディフェンスは、2002年のファーストから既に5作目を数えますが、ある意味ジョンとパットのサイド・プロジェクト的位置づけ。
しかしかたやウィルコの方がやや先進的なサウンドも駆使しながら、オルタナ・カントリー・ロックの可能性を追求するバンドであるのに対し、このオータム・ディフェンスは1960年代から1970年代のポップ・ロックの素晴らしい作品群をほうふつとさせるような、美しいボーカル・ハーモニーやキャッチーなメロディ、ソフトで緻密な楽曲構成で作りこまれた珠玉のポップ・ソングを聴かせてくれるバンドなのです。
ちょうど60年代で言えば『ラバー・ソウル』前後のビートルズや、ホリーズ、70年代ですとアメリカやクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングといった、美しいコーラス・ワークを魅力のメインとするアーティスト達を思わせる曲を聴かせてくれるのがオータム・ディフェンス。
そのポップでキャッチーながら哀愁を帯びたメロディーの楽曲群は、正に新旧を問わず日本の洋楽ポップ・ファンの皆さんに気に入って頂けると思います。
アルバム冒頭を飾る「None Of This Will Matter」はゆったりとしたメロディと1960年代後半のバーズやホリーズといったアコースティック・ロック・バンド的なギター・ストロークのリフが効果的に使われた、とても懐かしいナンバー。続く「This Thing That I’ve Found」もアメリカの「金色の髪の少女(Sister Golden Hair)」をちょっと思わせるアコギのストロークを中心にした、やや哀愁の漂う70年代アコースティック・ポップ。後半のエレクトリック・ギターのフレーズなどは10ccやスーパートランプといったイギリス系のちょっと個性のある70年代ポップ・バンドを思わせます。そして3曲目の「I Can See Your Face」。こちらはサージェント・ペッパーズ以前のビートルズやホリーズといった60年代のポップなイギリスのグループをもろ想起させるようなメロディとリフで、特にオールド・タイマーなポップ・ファンにはたまらない佳曲です。
アルバム中盤の「Calling Your Name」はエレピのイントロと70年代初頭っぽいエフェクタをかけたフィル・スペクターっぽいギターのリフが、いかにもという感じのポップナンバー。でも楽曲の作りこみやコーラス・ワークなどが完璧なので既視感はあるが嫌味になっていないのがこのバンドのいいところ。ザ・バンドとかを思わせるメロディが楽しい「Can’t Love Anyone Else」や正に「名前のない馬」のアメリカの全盛期の頃の秀逸な楽曲を思わせながら楽曲クオリティでは引けを取っていない「August Song」、ヴァン・ダイク・パークスやアンドリュー・ゴールドあたりのバーバンク系のウェストコーストロックを思わせる曲調で、一音ずつベースが下がっていくギターのアルペジオとコーラスの絡みが美しい「Under The Wheel」など、本当にこのアルバムは珠玉のポップ・チューン揃いで、商業的に全く注目を集めなかったのが嘘のよう。
スティーリー・ダンの『Aja』や『Gaucho』がスタジオ・ミュージシャンの一つ一つの楽器の完璧なサウンドビットをモザイクのように組み上げたポップ・アルバムの傑作だとすると、この『Fifth』はジョンとパットを中心とした気心の知れたバンドメンバーだけで、一個一個の楽器のサウンドビットではなく、美しいキャッチーなメロディ、過去の優れたポップ作品の様々な意匠、コーラス・ワークの緻密な構成、魅力的なコード進行のアイディアや楽曲構成といった、いわゆる「いい曲」の様々な構成要素、エキスをうまーく凝結させたポップ・アルバムの傑作といえます。
そしてこのアルバムの凄いのは、聴いているとただただ気持ちよく、その「凄さ」を全く感じさせないこと。
アルバムラストの「What’s It Take」もさり気なく、柔らかいメロディが心地よい佳曲。ゆっくりと余韻を感じさせながらアルバムのエンディングを締めてくれています。
かくいう自分も最近洋楽愛好家の友人からこのアルバムとアーティストを教えてもらい、その素晴らしさに嬉しい驚きを押さえられませんでした。まだまだ世の中には知られていないけど、素晴らしい音楽が埋もれているなあと実感した次第。アマゾンや輸入CD屋さんでも容易に手に入るこのアルバム、メジャーなワイナリーものではないけど、ふと手に入った掘り出し物のワインを楽しむように、この秋の深まりの中で彼らの音楽を楽しんでみてはいかがでしょうか。
<チャートデータ> チャートインなし