新旧お宝アルバム!#134「Shipwrecked」Gonzalez (1977)

2018.11.5

新旧お宝アルバム #134

ShipwreckedGonzalez (Capitol, 1977)

MLBワールド・シリーズもレッドソックスの圧倒的な勢いによる勝利で終わり、日本シリーズの決着も着いたということで野球シーズンも終了、日々朝晩が冷え込み始めていよいよ晩秋の雰囲気一色になってきた今日この頃、皆さんも音楽の秋を十分に満喫されているでしょうか。このブログがアップされる月曜日にはポール・マッカートニーの国技館公演というまあいろいろ賛否両論を呼びながら、ある意味歴史的なイベントも行われる中、そろそろ年間チャートや年間ベストアルバムの発表、そして来月頭にはグラミー賞ノミネーションの発表もあるという、音楽ファンにはいろいろと忙しい時期になってきました。

そんな中、深まる秋を楽しんで頂くべく、今回の「新旧お宝アルバム!」では、あまりスポットの当たることのないアーティストの隠されたお宝、Hidden Gem的なアルバムを、ということで、イギリスのホワイトR&B・ファンク・バンド、ゴンザレスが1977年の暮れに発表したアルバム『Shipwrecked』をご紹介します。

ゴンザレス?何か聞いたことあるな」と思われた洋楽チャートファンの方、いらっしゃいますよね(笑)。そう、このゴンザレスというバンド、ディスコ全盛期の1979年に「Haven’t Stopped Dancing Yet(邦題:ダンスは止まらない)」という中ヒット(全米最高位26位、全英最高位15位)でチャートを賑わしたあのゴンザレスです。

この曲がヒットした当時は「まあキャッチーだけどノー天気なディスコヒットだなあ」という印象(失礼)で、グループの素性も何も全く分からず、てっきり当時よくあったスタジオミュージシャンをかき集めて作ったワンショットグループだと思っていました。

ところが時は流れて30年以上が経ち、最近彼らの1975年のアルバム『Our Only Weapon Is Our Music』を耳にする機会があり、その洒脱でファンキーでブルー・アイド・ソウルなグルーヴ満点のサウンドを聴いて一発で気に入ってしまい、更にこのゴンザレスが「あの」ゴンザレスと同じバンドだと知って二度驚いたのでした。

彼らのことを調べると、実はこのバンド、同じく70年代中期以降80年代にかけて活躍した、アヴェレージ・ホワイト・バンドココモといった、いわゆるUKホワイトR&Bファンク・グループの代表選手の一つであり、かつその後シーンで活躍したミュージシャン達を輩出、あるいはそれまでにシーンで活躍したミュージシャン達がからんだ、ある意味登竜門のようなバンドだった、ということを知りました。

その最たる人物が、今日紹介するアルバムのプロデューサーで、B面1曲目に収録されているその「Haven’t Stopped Dancing Yet」の作者である、グロリア・ジョーンズ。オハイオ州シンシナティ出身の彼女は60年代自らR&Bシンガーとして活躍、この時期に録音した1981年にあのソフト・セルが英米で大ヒットさせた「Tainted Love」が70年代にUKのノーザン・ソウル・シーンで人気を集めるなど、カルトな人気を持っていたようです。

またグロリアは60年代後半以降70年代前半にかけてはモータウンのヒット曲ライターチームの一員で、この頃手がけたグラディス・ナイト&ザ・ピップスの「If I Were Your Woman」(1971年全米最高位9位)ではグラミー賞にもノミネートされるなど、ソングライターとしての地位も確立。

しかし彼女が最も有名なのは、あのマーク・ボランのパートナーとして、またTレックスのバック・ボーカル兼クラヴィネット奏者として、そして数々のセッション・ボーカルの実績で、70年代を通じてUK音楽シーンでそのポジションを確立していきました。

しかし1977年、自動車事故でマーク・ボランが亡くなった時、当の車を運転していたのが他ならぬグロリアで、事故で財産を失って以降はマークとの間にできた息子ローランと共に家族のいるLAに戻って細々と音楽活動を続けているようです。そしてその事故の直前に録音されたのが、このゴンザレスのアルバム『Shipwrecked』。

ジャケは昔船乗りがギリシャ神話のアルゴ号のお話にちなんで、海難を避けるために船首に彫り込んだという女神の船首像を模したような女性が船首に据え付けられた図、というレコ屋でもちょっと目を引くデザイン。このジャケのアート・ディレクションは実はスティーヴ・ミラー・バンドの『Book Of Dreams(ペガサスの祈り)』(1977)、ビートルズの『Rock ‘N’ Roll Music』(1976)、ジョン・レノンの『Shaved Fish』(1975) そしてR&Bバンド、メイズの1977~80年の一連のアルバムのジャケを手がけた日系アメリカ人のロイ・コハラ氏。こんなところにも我々の感性に響く要素があるのかも。そしてサウンドは、ブチブチ・ファンクあり、メローなフュージョン・インストあり、そしてUKソウルマナーで、ダンサブルなグルーヴ満点のナンバーありと、70~80年代のブラック系がお好きな向きにはたまらないアルバム構成になっています。

オープニングの「Just Let It Lay」はいわゆる当時のディスコ調の軽い感じではなく、スレイヴとかザップと言ったオハイオ・ファンク的な重たいシンセ・ベースが効いた、それでいて洒脱な感じの漂う長めの、フロアで人気を呼びそうなファンクナンバー。そして続く「Rockmaninoff」は、何とタイトルからも想像できるように、あのエリック・カルメンも「All By Myself」で使った、ラフマニノフピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18のメロディーをモチーフに使ったナンバー。この下手すればコケそうなアイデアを70年代中期の一番脂が乗ってた頃のクルセイダーズを彷彿とさせる、スタイリッシュなフュージョン・ファンク・ナンバーに仕立て上げてるあたりはメンバーのミュージシャンシップの高さを感じさせます。

ストリングスを優雅に配したスロウなメロディを、後にアラン・パーソンズ・プロジェクトに転じるボーカルのレニー・ザカテクAPPの「Games People Play」等のボーカルは彼)が歌う、クラシカル・ゴスペル風のスケールの大きい「Oh I」に続きA面を締めるのはアルバムタイトルの「Shipwrecked」。波の音と船体がギシギシときしむ音にかぶさって始まる軽快なアップテンポなメロディとリフ、そして70年代初頭フィリーサウンド風のコーラスがキャッチーなナンバーです。

B面トップはヒット曲の「Haven’t Stopped Dancing Yet」。何となくアルバム全体ではやはり浮き気味のナンバーだけど、改めて聞いてみると中盤のリフがフォートップスとかのモータウン系のサウンドを本歌取りしてるのが分かって、さすがノーザン・ソウルの女王、グロリアのペンによるだけあってただの「ノー天気なディスコ」ではないなあと再評価。続く「Bob Gropes Blues」はフルート/ソプラノ・サックス担当のスティーヴ・グレゴリーのペンによる、ムードあるセンシュアルなフュージョン・インストナンバー。デヴィッド・T・ウォーカーを思わせるゴードン・ハンテのギターとホーンの絡みがひたすら気持ちよし。

再びムードをファンクにシフトした「Tear Down The Business」は、これもオハイオ風な、でもちょっとバーケイズあたりを思わせるブチブチ・ファンク・ナンバー。ただのファンク一辺倒ではなく後半の展開がちょっとシャレオツな感じになるのはUKバンドならではか。そしてアルバムフィニッシュにふさわしく、映画のエンドロールのバックにいいのでは、といった感じの「Baby, Baby, Baby」はちょっとレトロな感じのホーンセクション中心で、メロが70年代UKポップ風のライトファンクのインストナンバーです。

このアルバムには参加していませんが、クリス・リアミック・テイラーのバック等でUKシーンで活躍した日本人ベーシスト、クマ原田もこの頃ゴンザレスに在籍していたようですし、80年代に英米のダンス・チャートで「If You Could Read My Mind」(1980年全米ダンス・チャート2位)などのヒットを放ったヴァイオラ・ウィルスも一時期所属していました。

このアルバムはリリース当時は全く注目を浴びませんでしたが「Haven’t ~」のヒットを受けて、アメリカでは『Haven’t Stopped Dancin’』(1979)というタイトルで、ジャケ・収録曲も変えて再発、一応チャートインしています。しかしこの後バンドは2枚のアルバム『Move It To The Music』(1979)、『Watch Your Step』(1980)をリリースしましたが、商業的な成功には恵まれず、中心メンバー、キーボードのロイ・デイヴィーズの他界をきっかけに1986年には解散しています。

この秋のお供としてはなかなかお勧めのこのアルバム、できれば再発盤(ジャケもいかにもディスコ!って感じ)ではなく、オリジナル・パッケージ、オリジナルの曲構成で聴いて頂き、彼らのタイトな演奏力と楽曲の流れを楽しんで頂ければ嬉しい限りです。

<チャートデータ> 

チャートインせず

(再発盤『Haven’t Stopped Dancin’』はビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位67位(1979.3.10-17付))