新旧お宝アルバム!#55「Tonight!」The Four Tops (1981)

2016.9.5

新旧お宝アルバム #55

Tonight!The Four Tops (Casablanca, 1981)

いよいよ9月に入り、夏の暑さも少しずつ和らぐ一方、毎週のようにやってくる台風ですっきりしない天気が続く今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。この秋もいろいろなフェスやアーティストのライヴが予定されていることもあり、皆さん洋楽ライフを楽しんでおられることと思います。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムの順番ですが、今回は「旧」といっても比較的最近に近い80年代初頭に、60年代から70年代にかけてモータウンやダンヒル・レーベルで次々に大ヒットを連発、不動の人気を誇っていた大御所ソウル・グループ、フォー・トップスが心機一転、カサブランカ・レコードに移籍して放ったアルバム、『Tonight!』をお届けします。

Four Tops Tonight

フォー・トップスといえば、60年代のモータウン・レーベルの台頭を、シュープリームス、テンプテーションズ、ミラクルズといった中心グループ達と並んで支えた4人組。彼らのモータウン時代のヒット曲「Baby I Need Your Loving」(1964年最高位11位)、「I Can’t Help Myself (Sugar Pie Honey Bunch)」(1965年1位)、「Reach Out I’ll Be There」(1966年1位)、「Standing In The Shadows Of Love」(同6位)などはその後様々なポップ、ロック、R&Bアーティストたちにカバーされたクラシックです。

70年代に入ってモータウンがデトロイトからLAに移った時、彼らはデトロイトに残ってABC/ダンヒル・レーベルと契約、後にタヴァレスの「愛のディスコテック(It Only Takes A Minute)」(1975年10位)などを手がける、70年代を代表する白人ソングライター・コンビ、デニス・ランバート&ブライアン・ポッターと組んで「Keeper Of The Castle」(1972年10位)、「Ain’t No Woman (Like The One I’ve Got)」(1973年4位)などの大ヒットを飛ばすなど人気を誇っていました。

何といっても彼らのすごいところは、1953年のグループ結成から1997年にメンバーの一人、ローレンス・ペイトンが他界するまでの間、太く男性的な歌声が特徴的なリード・ボーカルのリーヴァイ・スタッブスを中心に40年以上、一度もメンバー変更がなかったこと。正にソウル史上不動の地位を確保しているレジェンドなグループであることは間違いありません。

その彼らも70年代後半はヒット作品に恵まれず不遇の時期を過ごしていましたが、80年代に入ってカサブランカ・レーベルと契約してリリースした、言わばカムバック・アルバムがこの『Tonight!』。ホイットニー・ヒューストンの「I Believe In You & Me」(1996年4位)の作者としても知られ、70年代後半から様々なポップ・R&B作品に関わっていたデヴィッド・ウォルファートをプロデューサーに迎えて作り上げたこの作品から、A面冒頭の「When She Was My Girl」が全米11位まで昇る、彼らとしては久々の大ヒットとなって見事カムバックを果たしたのは、全米トップ40ファンをはじめとする当時の洋楽ファンであればご記憶のことと思います。

80年代というと、MTVが一世を風靡し、シンセサイザーを中心として打ち込み系のサウンドがポップ・R&Bシーンを席巻したデケイドでした。当時としてはそれが最先端のサウンドメイキングであり、時代が求めた音でもあったのですが、この時代のややもすると人工的なサウンドを多用しすぎた無機的なサウンドは、今聴き直すと残念ながら大変浅薄な作り物的なサウンドにきこえてしまい、最先端であったはずの音がとても古臭いものにきこえてしまうものが多いのは否めないところ。

しかしこのフォー・トップスのアルバムは、オーガニックな楽器演奏の温もりのある音と、シンセサイザーなどの80年代的なサウンドが、大変趣味よくバランスされており、今聴いてもほとんどの曲は「80年代的古臭さ」を感じることはありません。それどころか、やはり40年以上の結束を誇るフォー・トップス4人のコーラス、とりわけリーヴァイ・スタッブスの野性的で高音域ではシャウトする男臭いリード・ヴォーカルは、このアルバムの多くの楽曲に血と肉を授けて、楽曲の魅力を高めています。

そうやって聴いてみると、アルバム冒頭の軽快で洒脱な、トップスの名刺代わりのヒット「When She Was My Girl」で途中に出てくるピアニカ風の音色も、プロデューサーのデイヴィッドがサウンドの自然さを出すべく工夫したものに違いありません。往年の「Reach Out I’ll Be There」などの路線を踏襲した、力強いコーラスがどんどんテンションを盛り上げていく「Don’t Walk Away」、当時同じく華々しいカムバックを果たしていた、モーメンツ改めレイ・グッドマン&ブラウンのスタイルに張り合うかのような、ゴージャスで美しいコーラスが印象的な「Tonight I’m Gonna Love You All Over」など、冒頭からガンガンにトップス節で攻めてくるこのアルバムのA面は、聴く者をとても興奮させてくれる素晴らしい出来です。

 

面白いのはA面ラストの「Who’s Right Who’s Wrong」はあのケニー・ロギンズMr.ミスターリチャード・ペイジの作品で、ケニーのアルバム『Keep The Fire』(1979)に収録されていた作品。極めてこの時代的な、シンセキラキラな音満載のAOR的アレンジの曲ですが、リーヴァイの野太いボーカルで聴くと不思議にトップス節に塗り替えられてしまうあたりが魅力。

アルバムのバックを固めるのは、これもこの時期そうだったように名うてのミュージシャン達。ドラムスのジェフ・ポーカロ(Toto)、ベースのネイサン・イースト、ピアノのグレッグ・マティソン、シンセのカシーフなどを中心としたバッキングの演奏は文句なしにタイトですが、逆に言えばこの時期にありがちなサウンドになりがちなので、B面のいくつかの曲では残念ながらこれが裏目に出てやや中だるみのような印象を与えてしまっています。しかしここでもリーヴァイの男臭いボーカルが全体を引き締める役割を果たしていて、スティーヴィー・ワンダーのカバーの「All I Do」あたりから再び盛り上がり、アール・クルージョージ・マーティンが作者に名を連ねるアルバム最後の「I’ll Never Ever Leave Again」では一転しっとりとしたボーカルでフュージョンっぽくアルバムのエンディングを演出しています。

Four Tops Tonight (Back)

このアルバムで見事カムバックを果たしたトップスでしたが、カサブランカの居心地がいまいちだったのか、この後もう1枚アルバムを出した後、10年ぶりにモータウンに復帰しています。

その後トップスは1990年にロックの殿堂入りし、ベテラングループとして精力的に活動していましたが、残念ながら1997年にローレンスが、2005年にはレナルド・ベンソンが、そして2008年にはトップスの顔であるリーヴァイが他界して、ついに創立メンバーはテナーのアブドゥル・フェイカーのみに。しかし、アブドゥルローレンスの息子のロクウェルなど新しいメンバーを加えて今でも「フォー・トップス」として活動しているとのこと。

トップスの既に半世紀以上に及ぶそのレジェンドなキャリアに敬意を表して、彼らが80年代のシーン変革期に力強く放ったこの作品を聴きながら、改めて彼らのR&Bレジェンドとしての数々の偉業に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 <チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位37位(1981.11.21付)

同全米ソウル・アルバム・チャート 最高位5位(1981.10.24-11.7付)