新旧お宝アルバム!#19「Abandoned Luncheonette」Daryl Hall & John Oates (1973)

新旧お宝アルバム #19

Abandoned LuncheonetteDaryl Hall & John Oates (Atlantic, 1973)

日本シリーズが終わり、ワールドシリーズが佳境を迎え、野球シーズンもそろそろ終わりの2015年。そろそろ年間アルバムなどの選考もはじめなきゃ、と思う今日このごろです。さて第19回目、今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムで、10月に久々の来日を果たしてアラフォー以上の洋楽ファンの皆さんが盛り上がった、70~80年代を代表するブルーアイド・ソウル・デュオ、ダリル・ホール&ジョン・オーツのデビュー直後、2作目のアルバム『Abandoned Lunchonette』を取り上げます。

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既に今回の来日ライヴに駆けつけたベテランのホール&オーツ・ファンの皆さんならとっくにこのアルバム、知ってるよ!という方も多いでしょう。

でも、このアルバム、非常によく出来たソウル・ポップ・アルバムながら、今回のライブでも演奏された80年代の彼らの大ヒット曲「キッス・オン・マイ・リスト」「マンイーター」「プライベート・アイズ」といったあたりからのファンの方で、彼らのアルバムを最初の方まで遡って聴いた方以外には意外と知られていないのでは、と思い今回取り上げることにしました。

全米ヒット曲ファンには、「微笑んでよサラ(Sara Smile)」(1976年全米最高位4位)に続く彼らの2曲目のトップ10ヒット「追憶のメロディ(She’s Gone)」(同最高位7位)が収録されたアルバムとして知られるこのアルバム、彼らがヒット曲を連発するようになるRCA時代の前のアトランティック・レーベル時代の作品。アトランティックとはデビュー作の『Whole Oates』(1972) 、本作、次作トッド・ラングレンのプロデュースによる『War Babies』(1974)の3枚のみで、その後RCAに移籍してリリースしたアルバム『Daryl Hall & John Oates(邦題:サラ・スマイル)』からの「微笑んでよサラ」で、晴れてホール&オーツがブレイクしたのです。

え、ちょっと待って、でも「追憶のメロディ」は「微笑んでよサラ」の次のヒットなんでしょう?と疑問に思ったあなた。いいポイントです。

実は「追憶のメロディ」を収録したこの『Abandoned Lunchonette』、1973年の発売当時はアルバム・チャート最高位192位と全くヒットせず、「追憶のメロディ」もシングル・カットされたものの1974年3月に最高位60位とヒットとは程遠い状況でした。

ところが、この曲をどこで耳にしたのか、タヴァレス(70年代に「愛のディスコティック(It Only Takes A Minte)」など数々のヒットを飛ばしたR&Bグループ)が1974年のアルバム『Hard Core Poetry』で「追憶のメロディ」をカバー、これが何と同年12月に全米R&Bシングル・チャートでNo.1に。もともとフィラデルフィアでR&Bに強く影響を受けたバンドでキャリアをスタートした二人にとって、このタヴァレスのヒットには当時かなり元気付けられたことでしょう。

その後RCA移籍後「微笑んでよサラ」のヒットでブレイクしたホール&オーツを見て、アトランティックがこの『Abandoned Luncheonette』と「追憶のメロディ」を再発、ヒットにつながったというのが当時の経緯です。

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アルバムは全曲ダリルジョン、または二人の共作による曲9曲で構成され、全体のサウンドは、明らかに高度にソフィスティケートされたフィリー・ソウル・サウンドと、フォークやロックの要素が絶妙にブレンドされたもので、「追憶のメロディ」をはじめ今聴いても大変洗練されていて、非常にクオリティの高い楽曲満載のアルバム。

冒頭の「When The Morning Comes」「Had I Known You Better Then」はサウンドはどちらかというと70年代初頭のフォーク・ロックなのですが、シンセが控えめに使われていたり、ダリルのボーカルのソウルフルなフェイク具合やコーラスの付け方がR&Bテイスト充分。

先日のライヴでも唯一このアルバムから演奏されたという「Las Vegas Turnaround (The Stewardess Song)」はジョンによる、いかにもフィリー・ソウル然とした、エレピが印象的なミディアム・ナンバー。この曲は当時まだスチュワーデスだった後のダリル夫人で80年代の大ヒット曲の共作者、サラ・アレンのことを歌った歌とのこと。

問答無用の名曲「追憶のメロディ」はAメロ部分や間奏が長いアルバム・バージョン。そのシングルのB面でもあった「I’m Just A Kid (Don’t Make Me Feel Like A Man)」はまたフォーク・テイストのAORっぽいバラードナンバー。

アルバム・タイトル曲の「Abandoned Luncheonette」はちょっとスティーリー・ダンの初期やビリー・ジョエルの初期を思わせる、都会的なサウンドとメロディに、ストーリー性を持たせた歌詞の楽曲ですが、後半がだんだんフィリー・ソウル風になっていくのがホール&オーツ流。続いてややブルージーなメロディの哀愁漂うシャッフル・リズムの「Lady Rain」から、ややスーパートランプ10ccといったグループがやりそうな、ドラマチックでスケールの大きい展開のメロディでややドラマチックな組曲風の「Laughing Boy」で静かに盛り上がったアルバムは、ファンキーなギターリフとリズムでソウルフルに聴かせながら次々に曲調が展開していき、最後には何とバンジョーまで登場する「Everytime I Look At You」で幕を閉じます。

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デビュー作とこのアルバムは、アトランティック・レーベルがかなり力を入れて売り出そうとしたことが伺われ、ロバータ・フラック、ビー・ジーズ(『Main Course』)、アヴェレージ・ホワイト・バンドといった数々の大ヒット作を手がけた、レーベルを代表する大物プロデューサー、アリフ・マーディンを起用しています。

またこのアルバムのバックを固めるのも、ギターのヒュー・マクラッケン、ドラムスのバーナード・パーディーリック・マロッタ、そして後にスタッフとして活躍するキーボードのリチャード・ティーとベースのゴードン・エドワーズなど、当時の一流スタジオ・ミュージシャンで固められていて、制作サイドの体勢は万全だったことが判ります。

しかしこのアルバムの素晴らしいところは、そうしたプロデューサーやバックの演奏が織りなす、いかにも70年代のメインストリーム・ポップ・アルバム然としたサウンドの心地よさもさることながら、ダリルジョンが後の大ヒット作にも繋がっていくような、彼らの出自をきっちり踏まえた質の高い楽曲で満載であることですし、二人のボーカルやコーラスの上手さとソウルフルさでそれらの楽曲が引き立っていることです。

彼らはその後「リッチ・ガール」「ウェイト・フォー・ミー」の大ヒットを経て、80年代にはスーパースターへとのし上がって行くことになるのですが、そうした彼らがまだ素朴さを残しながら、フィリー・ソウルとフォーク・ロックの融合という自分たちの出自を明らかに聴かせてくれるこの頃の素晴らしい作品を聴きながら、彼らの本来の音楽的側面を見直してみるのも一興ではないでしょうか。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位33位(1976.11.20付)

RIAA(全米レコード協会)認定プラチナ・ディスク(100万枚以上売上)

She’s Gone(追憶のメロディ)

ビルボード誌全米シングル・チャート(Hot 100)最高位7位(1976.10.30~11.6付)
同全米ソウル・シングル・チャート 最高位93位(1976.10.9~16付)