佐藤直人の今週の洋楽この１曲！（第３２回）

私が独断と偏見で毎週１曲ずつご紹介します。

私は１９８２年に大学を卒業して山一證券に入社しました。上野支店に配属されて４／１５にはもうカバンと地図と中期国債ファンドのパンフレットと名刺をわたされ、新規開拓して来い！って外に出されました。

とにかく厳しい会社だったんですが、一緒に入社した同期とてもが出来るやつで、出来ない自分が情けないやら悔しいやら。

でもそんな時でも高校から聴き続けていたアメリカン・ポップス、特にビルボード・チャートに入る洋楽は欠かさず聴いていました。

ラジオ関東の『全米ＴＯＰ４０』がメインになっていましたが、ＦＭ東京、ＴＢＳ、文化放送、ニッポン放送の洋楽のベスト１０番組もみんな聴いて、毎週ノートにランキングを書いていたりしました。

学生の時からアルバイトでお金をためてはＬＰや７インチを買ったり、コンサートへ行ったりしていましたが、家族もこの世界に巻き込んで、妹と渋谷公会堂でリトル・リバー・バンドを見たり、父や母を武道館のビリー・ジョエルに連れていったり、母とはボズ・スキャッグスも行きました。

母親は当時ちょっと洋楽にはまって、「今度バリー・マニロウが来たらつれていきなさいよ！」って言われていたんです。

そのバリー・マニロウが１９８３年３月に初来日することになり、武道館のチケットを２日分それぞれ２枚ずつ買いました。友人と行くのと、もう１日は約束どおり母親を連れていくためにです。

しかし、ここで事件が！

３月２７日から３日間武道館でコンサートを行ったのですが、私は新人１年目で、しかも月末、年度末。新人だから先輩方よりは少ないとはいえ、ある月ではひと月に１５本も締め切りのノルマがあって、当然いつも夜遅くまで会社に残されて仕事をしなければならないという環境でした。

初日の２７日は日曜日で友人と見に行ったのですが、母親との約束が２９日の火曜日。

５時を回ったあたりから、出られるかな、どうしようか、母親とは武道館の入り口で待ち合わせをしているし。チケットは２枚とも自分が持っているし。当時は携帯はないので、遅くなる、あるいは行けないかも、となっても連絡のとりようがないんです。

そんなことはわかっていたのに、年度末を甘く見ていました。６時になっても６時半になってもとても出られる雰囲気じゃあない。誰も帰らないんです。自分のノルマが達成していても課のノルマが出来なければ、お先に失礼しますなんてとても言えない。

そうこうしているうちに母親から会社に電話がかかってきた。
「何してるの、コンサート始まっちゃうじゃない！」
「悪い。出られないんだよ、とても。」
「もう、しょうがないな、直人は！」

結局、会社を出たの１０時近く。ああ、もう１回バリー・マニロウ見たかったな。
当時父親が入院していたので、看病でちょっと疲れていた母親を元気づけてやろうと思って誘ったんですが、結局待たせた挙句に見れなかった。怒ってるだろうなと思って家へ帰ると、なんとバリー・マニロウのコンサートのパンフレットを持っている。

「どうした！」
「息子がチケットを持ってるんだけど、会社から出られないので私が入れない！って掛け合ったら入れてくれた」って！
信じられないけど、母親は適当な席を見つけて一人でコンサートを楽しんできたんです。

当時バリー・マニロウの７７年に１位になったアルバム『Barry Manilow Live』（現在は廃盤）を買って母親に聴かせたらファンになったんですが、その中から「Daybreak」という曲がヒットしたんです。日本語タイトルが「夜明け」。