新旧お宝アルバム!#26「All Your Favorite Bands」The Dawes (2015)

新旧お宝アルバム #26

All Your Favorite BandsThe Dawes (Hub, 2015)

みなさん明けましておめでとうございます!2016年もいよいよスタート、今日1月4日から仕事始めという方も多いことと思います。昨年25枚のアルバムを紹介させてもらったこの「新旧お宝アルバム!」、今年もよろしくお願いします。

さて、今年最初の「新旧お宝アルバム!」でご紹介する「新」のアルバムは、カリフォルニア州ロサンゼルスをベースに活動する、70年代の西海岸ロックが商業化されて大きくなる前の頃のサウンドを彷彿させるサウンドを聴かせてくれる三人組、ザ・ドーズ(The Dawes)が昨年リリースした4作目となるアルバム『All Your Favorite Bands』を取り上げます。

All Your Favorite Bands (Front)

テイラー(ボーカル&ギター)とグリフィン(ドラムス)のゴールドスミス兄弟と、ベースのワイリー・ゲルバーの3人からなるこのザ・ドーズというバンド(キーボードのテイ・ストラセアンはこのアルバム発表後に脱退)、全てのアルバムをインディ・レーベルからリリースしていることもあり日本盤リリースはまだないようですが、おそらく70年代前半の西海岸ロックに傾倒した経験のあるシニアの洋楽リスナーの方であれば、きっと気に入って頂けるタイプのサウンドと楽曲を聴かせてくれるバンドです。

ステレオタイプを恐れずに言ってしまうと、ザ・バンドを思わせるルーツ・ロック、アメリカーナ・ロックなバンドサウンドに乗せて、そこここでジャクソン・ブラウンを想起させるテイラーのボーカルを中心に、CSN&Yがちょっと入ったフィーリングのボーカル・ハーモニーを聴かせるバンドで、楽曲の歌詞もジャクソン・ブラウンっぽいストーリー性を持たせたものが多く、サウンドだけでなく、テイラーの書く楽曲の歌詞を評価する米国音楽評論筋やファンも多いようです。

フォーク・ロック・バンド、と紹介されることも多いドーズですが、どちらかというと、アメリカーナ・ロック・バンド、と言った方が相応しいそのサウンドは、リヴァーヴの効いたそれでいて弾きまくらないテイラーのギター・ソロや、オルガンやピアノ、ドブロのサウンドなどがアメリカーナでアナログな感触満点で、聴く者に何やら懐かしい気持ちを抱かせてくれるものです。かといって単なる懐古趣味サウンドのバンドでもなく、インディー・バンドらしくウィルコジェイホークスといった前を向いたオルタナ・カントリー・ロックっぽいサウンドも持ったバンドです。

それもそのはず、彼らをシーンでブレイクしたセカンド・アルバム『Nothing Is Wrong』(2011)をプロデュースしたジョナサン・ウィルソンは、カリフォルニアのローレル・キャニオンと呼ばれる一帯を中心に活動するウィルコジェイホークスのメンバーや、ブラック・クロウズクリス・ロビンソン、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズベンモント・テンチらを集めた私的ジャムセッションを2010年前後に開催し、この一帯の音楽シーンの盛り上げの中心人物となった人物。そういう意味では、ドーズはアメリカの昔からのルーツ・ロックやアメリカーナ・ロックと2000年代以降のオルタナ・カントリー・ロックの両方の遺伝子を持っているバンドです。

All Your Favorite Bands (Insert)

この4作目では、プロデューサーにこちらも今を代表するフォーク系シンガーソングライターであるギリアン・ウェルチのギタリストとして有名なデヴィッド・ローリングスを起用。アルバム全体を包む心和むアメリカーナなサウンドに貢献しています。

アルバム冒頭の「Things Happen」は彼らが持つ一つの要素である「今」を感じさせてくれるバンドサウンドに乗ったテイラーの優しげなボーカルが「辛いことや口もききたくない人達など、そうした物事は起きるもの」と諭すように語りかけます。「Somewhere Along The Way」はそれに続く「Don’t Send Me Away」共々、サウンドといい、テイラーの歌いぶりといい、このアルバム中最もジャクソン・ブラウンの初期の楽曲を彷彿させる曲たちです。後者は後半のリフレインに緊張感をそこはかとなく掻き立てるコーラスによるハーモニーをフィーチャーし、ドーズの真骨頂を発揮していると言えるサウンドでこうしたCSN&Yとかに通じるサウンドに懐かしさを感じるリスナーをぐいぐい引っ張り込みます。

アルバム・タイトルナンバーの「All Your Favorite Bands」も前2曲同様、テイラーのボーカルはジャクソン・ブラウンをいやがおうにも思わせるものですが、それだけでなく「そのうち監視なしの生活が送れるという君の思惑がその通りになるといいけど/君の兄貴のシボレー・エル・カミーノがずっと走り続けてくれるといいが/君は僕にとってずっといい奴だったから、世間の連中も同じように思ってくれるといいけど/そして君の大好きなバンドが解散せずに続いてくれますように」という一時期を同じ街で、一緒に親しく過ごした古い友人に送るメッセージ的な歌詞がおそらく聴くものの甘酸っぱい青春の想い出を、インディー映画のワンショットのように淡々と描写するあたりが、このバンドがアメリカで手堅く支持されている所以なのでしょう。

プロデューサーのデイヴィッド・ローリングスとそのパートナーであるギリアンもバックに参加した「I Can’t Think About It Now」は、淡々と演奏されるバンドサウンドをバックに哀愁を帯びたメロディの曲。そして、あたかもどこか西海岸のライヴハウスあたりでやった演奏を一発取りしたかのような雰囲気のギターとピアノとオルガンのサウンドと、叙情的なメロディの醸し出す楽曲全体がとても懐かしさを掻き立てる「To Be Completely Honest」など、どれを取ってもこのアルバムの楽曲は間違いなく今のバンドの音なのに、いい意味でとてもレトロな肌触りと親しみやすさでいっぱいの楽曲ばかりなのです。

All Your Favorite Bands (Back)

新しい年を迎えて、今年もまた新しい魅力的なバンド、レコードに巡りあってみたいという熱心な洋楽ファンの方、昔からアメリカン・ロック、特に西海岸ロックに親しんできたけど最近のバンドはよくしらないというシニア洋楽リスナーの方、アメリカーナとかオルタナ・カントリーは興味あるけど、あまりバンジョーとかスティール・ギターとか満載のどカントリーっぽいのはちょっと、という方。このドーズの『All Your Favorite Bands』をチェックしてみてください。ああ、今でもアメリカにはこういうサウンドとこういう楽曲を魅力たっぷりに聴かせるバンドがあるんだ、と嬉しい発見をして頂けること、請け合いです。

みなさん、今年もどうかいい音楽、いいアーティストと巡りあえる、素敵な洋楽ライフをお送り下さい。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位37位(2015.6.20付)

同全米ロック・アルバム・チャート 最高位4位(2015.6.20付)

同全米フォーク・アルバム・チャート 最高位1位(2015.6.20付)