新旧お宝アルバム!#28「Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit」Courtney Barnett (2015)

2016.1.18

新旧お宝アルバム #28

Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit.Courtney Barnett (Milk! / Marathon Artists / Mom + Pop, 2015)

1月も早二週間が過ぎ、既に世間は通常ペースに戻る中、ようやく冬らしい寒さが出てきた今日このごろ、皆さんは風邪などひいていませんか?暖かくして素敵な音楽を聴きながら、身も心もいたわって楽しい洋楽ライフをお過ごし下さい。

さて、今週の「新旧お宝アルバム!」は「新」のアルバムご紹介の順番。今回は、昨年New Musical Expressを始めとする海外の各音楽誌で高い評価を集め、来月発表のグラミー賞の新人賞部門にもノミネートされている、オーストラリアはメルボルン出身今年28歳の新進ロック・シンガーソングライター、コートニー・バーネットのデビュー・フル・アルバム『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit.』を取り上げます。

SometimesISitAndThink_Front

コートニーの音楽は、一般的にはいわゆる「インディ・ロック」に分類されるタイプのストレートなロック。シンプルなギターとベースとドラムスの構成のバンドをバックに、自らエレクトリック・ギターをかきならしながら(ちなみに彼女は左利き)、その昔の80年代のパンクやニューウェイヴの香りを感じさせる、リズムのリフが特徴的なストレートでアップテンポな楽曲を、彼女独特の半分しゃべりのようなルースな感じの歌で聴かせるという、一度聴くとなかなか頭から離れないタイプの楽曲を聴かせてくれます。

一方、テンポを落とした楽曲では、そのしゃべりと歌の中間のような歌い方が例えばパティ・スミスとか、プリテンダーズクリッシー・ハインドといった先達のクールな女性ロッカーたちを彷彿とさせます。でもやってる音楽はいわゆるポスト・グランジというやつで、単純なニューウェイヴとかパンクではなく、R&Bやオルタナ・カントリーやブルースといったありとあらゆる要素をごった煮にして裏ごししたような感じ。

そして何よりも彼女の楽曲がユニークで魅力満点なのはそのクレヴァーで、ドライなユーモア満載な歌詞。例えばノイジーなギターリフととてもポップなリズムでいきなりアルバムオープニングで彼女のルースなボーカルが炸裂する「Elevator Operator」の冒頭の歌詞をご紹介すると、

”20歳のオリヴァー・ポールは毛はふさふさだけどハゲるのを恐れてる

9時15分に起床して、96番の地下鉄に何とか乗り込む

また今日も走りながらの朝食なので、醤油味のヴェジマイト・サンドイッチのクズをそこら中に撒き散らしているのは判ってる

自分のコンピューター見た途端気分悪くなりながら、スワンストンの通勤客をかき分けながら進む

やおらネクタイを引きちぎると、メトロバス停の隅に座るホームレスに渡し

「今日は仕事なんかしないぞ!電車が何分運行遅延してるかを数えながら

コカコーラの缶でできたピラミッド型の建物の前の芝生に座るんだ」”

とまあこんな感じ。この後オリヴァー・ポールはエレベーターの中でスネーク革のバッグと亀甲のネックレスを胸の谷間にぶら下げて、髪をひっつめすぎて頭蓋骨が見えるんじゃないかって感じの女性に遭遇するのです。

Courtney_Barnett

そもそもアルバム・タイトルからして「時々座って考える、そして時々ただ座ってる」なーんて人を喰ったタイトルでそれだけでも楽しいというかロックしてるっていうか。そしてビートルズの連中が2010年代にいたら書いてたかも、という感じのこういうウィットに富んだ歌詞が、ストレートでパンクでポスト・グランジなロックに乗ってるのも聴いてて気持ちいいのです。

もう一曲、こちらもシンプルなリズムリフのギターが印象的な「Dead Fox」という曲はこういう歌詞です。

”ジェンは買うなら絶対有機野菜っていうけどあたし最初ちょっと疑問だった

ちょっとくらい農薬使ってたって死ぬわけじゃなし

だいたいそんなお金持ちだったためしがないから

スーパーで買うのは安いけどクソみたいな添加物山盛りのものばかり

友達がいうにはリンゴにはニコチンが注入されてるって

あなたが私のこと見えないんなら

私もあなたのことは見えない”

とにかく日常の風景を彼女なりの独特の視点から、ウィットに富んだ歌詞でシンプルなロックンロールな楽曲に乗っけて歌う彼女は、一部のロック・アーティストが長年の間創りだしてしまってきている教条主義的というか難解こそ至上、的な価値観を鼻で笑いながらただひたすら楽しくロックしてる、っていうのが伝わって来て、聴いてて思わずニヤリ、としてしまうのです。

SometimesISitAndThink_back

こんなコートニーですが、ジャケのセンスは可愛らしいし、風貌も極めて健康的でキュート。この飄々とした楽曲や歌で今後もガンガン行って行って欲しいし、既に次のアルバムが楽しみ。冒頭に述べたようにグラミー賞の新人賞部門にもノミネートされていますが、今年のノミニーの顔ぶれだと、ひょっとして彼女が取ってしまうかも、とすら思わせてしまうコートニー、今後目を離せないアーティストであることは間違いないです。

既に英米の各音楽誌も注目度大で、昨年の年間アルバムランキングでは、スピン誌2位、Q誌6位、ローリング・ストーン誌6位、アンカット誌7位、ピッチフォーク誌9位、MOJO誌12位、NME誌22位と高い評価を集めてます。日本にも昨年10月にいち早く来日、一気にファンを増やしている模様。取り敢えずはグラミーの結果を見守りながら、このアルバムを楽しみましょう。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位20位(2015.4.11付)

同全米ロック・アルバム・チャート 最高位1位(2015.4.11付)

同全米オルタナティブ・ロック・アルバム・チャート 最高位1位(2015.4.11付)