新旧お宝アルバム!#64「Light Upon The Lake」Whitney (2016)

2016.11.7

新旧お宝アルバム #64

Light Upon The LakeWhitney (Secretly Canadian, 2016)

先週最大の話題は何といっても実に108年ぶりにワールドシリーズチャンピオンとなったMLBのシカゴ・カブス。対戦相手のクリーヴランド・インディアンズに王手をかけられてから何と三連勝で逆転優勝。しかも木曜日の第7戦は8回ツーアウトまでカブスが4点リードしていてこのまま楽に優勝するか、と思いきやインディアンズが驚異の粘りで同点にして、延長10回で決着がついたという正に死闘。長くMLBファンやってますが、おそらくこれまで見た中でも1、2を争うポストシーズンベストゲームでした。シカゴカブスとにかくおめでとう!

ということでその興奮も醒めやらない中、今週の「新旧お宝アルバム!」はそのシカゴ出身のインディー・バンドで、今年リリースしたデビュー・アルバムがその地に足のついた、アメリカーナやR&Bの香りもほんのり漂う秋らしいしなやかなロック・サウンド満載ということでロック・メディアの注目を集めているホイットニーの『Light Upon The Lake』をご紹介します。

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ホイットニーといってもヒューストンじゃござんせん。ホイットニーはギタリストのマックス・カカセックとドラマー&ボーカルのジュリエン・エアリッチのソングライティング・コンビを中心としたリズム・ギターのザイヤッド・アスラー、キーボードのマルコム・ブラウン、ベースのジョサイア・マーシャル、そしてブラス・プレイヤーのウィル・ミラーを含む6人組。

ソングライティング担当の二人が影響受けたアーティストとしてザ・バンドリヴォン・ヘルムとニューオーリンズの大御所、アラン・トゥーサンを挙げていることからも判るように、彼らのサウンドはザ・バンドあたりのフォーク・ロックやアメリカーナ・ロックのスタイルを軸に、シカゴのバンドだけあってブラスを効果的に活かしたソウルやブルーズや、エレクトロ・ポップなどでうまーく味付けをしている、アメリカン・ロック、それも中西部から西のサウンドがお好きな方であればおそらく大変気に入って頂けると思われるもの。

ただそのサウンドとややアンマッチにきこえる一つの大きい特徴はボーカルのジュリエンの不思議な声質。一瞬ファルセットのようにきこえるのですがどうもそうではなく、夢の中で聴いている音楽のボーカルのような、そんな一種独特の魅力を持った声質で、聴いているとまるで催眠術にかけられるかのような感じを持ってしまいます。

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アルバム冒頭は、リヴァーヴを聴かせたエレピのイントロにブラスがかぶさり、アコギのストロークをバックにそのジュリエンの不思議なボーカルが乗って歌われる、物悲しげでありながらオプティミスティックな響きのある「No Woman」でスタート。この曲を聴いていると、80年代から90年代にかけてUKから多く出てきたR&Bテイストのインディー・ロック・バンドを思い出します。続く「The Falls」はがらっと雰囲気を変えて、小気味のいいドラム・フレーズのイントロで始まるアップテンポのナンバー。ここでもブラスが効果的に使われて、ウキウキするようなポップ作品になっています。

Golden Days」はジュリエンのハイノートからの歌い出しの高音催眠ボーカルがその威力を存分に発揮した、こちらはもろにザ・バンドあたりを想起させるアメリカーナ・ロック・ナンバー。曲調がとても郷愁に満ちた、70年代的なオマージュに満ちていながら、その音色と曲のイメージは明らかに今の時代を感じさせます。

[youtube]https://youtu.be/Op4HT0-W428[/youtube]

アコギのオブリガード・フレーズが印象的なフォーキッシュな「Dave’s Song」に続いてこちらもCSN&Yあたりの70年代前半のフォーク・ロック・バンド的なイメージ満載のアルバムタイトル・ナンバーでアメリカーナ色はいやが上にも高くなってきます。続く「No Matter Where We Go」は、イントロからエレキとアコギのユニゾンでの力強いストロークで始まる骨太のアメリカーナ・ロックで、この間ご紹介したサン・ヴォルトあたりを彷彿させる曲。曲の力強さとは対照的に、ここでもジュリエンの高音ボーカルが、明らかに別れる直前の恋人達のことを歌っている曲の内容にふさわしい、一種の寂しさと傷つきやすさを表現しています。

[youtube]https://youtu.be/SN-9ZAr2ePQ[/youtube]

ちょっと変則リズムでスワンプっぽい「On My Own」に続いて、タイトなリズムセクションによるロックなリフをバックに、ニューオーリンズのセカンド・ライン的なホーンによるソロがフィーチャーされるという、このアルバム唯一のインスト曲「Red Moon」で、バンドの音楽性の奥深さを垣間見せます。続く「Polly」はこれぞアメリカーナ、これぞザ・バンド!という感じの佳曲で聴く者の心をわしづかみ。この曲が想起させてくれるのは、広大な原野の中を遠く夕陽の中に去りゆく50年代モデルのオープンカーのシボレーをただたたずんで見送る情景、というもの。高らかに鳴り響くホーンで締められるエンディングなど正に昔の映画のエンディングを見るよう。

[youtube]https://youtu.be/mtU5O-A0OMI[/youtube]

そしてアルバムはこれもやや70年代レトロ的なハッピーなアメリカーナ・ナンバー「Follow」で余韻を残しながら終わりとなります。

全編を通じて、ロック、カントリー、フォーク、R&B、スワンプ・ロックといった、いかにもなアメリカーナの要素をふんだんに持ちながら、とてもビジュアルなイメージを想起させてくれる曲が満載なこのアルバム。インディー音楽誌「ピッチフォーク」誌も「何も新しいことをやっているわけではないが、ホイットニーは今この時代において完璧なサウンドを作り出している。正に正しい時に正しい場所で作品を作っているという他ない」と絶賛しています。

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インディーながら特に新奇をてらわず、自分たちの中から生まれてくる音楽を素直に、肩の力を抜いたある意味レイドバックなサウンドで表現しているホイットニー。同様の作風を続けるウィルコドーズといったバンド共々、今後の活動が気になるグループがまた一つ増えました。この秋、彼らのちょっとレトロで心和むロック・サウンドを聴きながら、ゆったりとした時間を過ごしたいものです。

<チャートデータ>

ビルボード誌ロック・アルバム・チャート最高位28位(2016.6.25付)