2017.9.4
新旧お宝アルバム #98
『Kids In The Street』Justin Townes Earle (New West Records, 2017)
先週末くらいからめっきり秋めいた気温と天気になってきた今日この頃、学校も始まって一気に新しい季節が到来した感満載なのですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。北朝鮮はポンポンミサイルを撃ったりと相変わらず世間は何かと騒がしいですが、芸術の秋、音楽の秋ということでいい音楽、引き続き楽しんでいきましょう。
さて先週イベント続きだった関係で一週間お休みしてしまったこの「新旧お宝アルバム!」、今週は新しいアルバムのご紹介の順番ですが、今日は来る秋にふさわしく、アメリカーナ・ロック・シーンで地味目ながら個性溢れる作品を作り出しているシンガーソングライター、ジャスティン・タウンズ・アールが今回ロックしている8作目のアルバム、『Kids In The Street』をご紹介します。
既にアメリカーナ・ロックのファンの皆さんにはお馴染みだとは思いますが、ジャスティンは1990年代にギター・サウンドを前面に押し出したロック寄りの骨太のカントリー・ルネッサンスの立役者となったギタリスト、スティーヴ・アールの実の長男です。
父スティーヴは、1986年のアルバム『Guitar Town』で鮮烈にシーンに登場、新時代のカントリーの旗手として脚光を浴び、『Exit 0』(1987)、『Copperhead Road』(1988)、『The Hard Way』(1990)と力強いギター・ロック・ベースのカントリー・アルバムを発表してシーンでの存在感を確立。しかし1993~94年にヘロインとコカインの不法所持で約一年拘留されるという試練を経た後、90年代後半からはカントリーの枠に止まらず、人種差別や社会的弱者が経験する不合理、中東戦争への疑問や共和党政権への反発をメッセージとした楽曲を、以前よりは内省的なスタイルながら相変わらず骨太な演奏と楽曲スタイルでコンスタントにアルバムをリリースし続けています。つい今年も16作目にあたり、彼が拘留中に支援し続けてくれたアウトロー・カントリーの第一人者、故ウェイロン・ジェニングスに捧げた『So You Wanna Be An Outlaw』(2017)をリリースしたばかり。
その父スティーヴが3回目の結婚でもうけたのが今回ご紹介するジャスティン。ミドルネームの「タウンズ」は、スティーヴが敬愛する60年代後半~70年代のカリスマ的なナッシュヴィルの無頼派シンガーソングライター、タウンズ・ヴァン・ザントの名前にちなんだものという、生まれも育ちもナッシュヴィルだったジャスティンは生まれながらにしてミュージシャンへの道が待っていたようなそんな境遇にいました。
ちょうど父が拘留された母と二人きりで取り残されてしまった頃、ローティーンの頃から親の悪いところを受け継いでドラッグに手を染めたこともあって高校をドロップアウトもしましたが、父が戻ってからは父のバンドの一員としてツアーに同行したり、ナッシュヴィルを拠点にバンドをやったりして自らのミュージシャンとしての経験を積み、2007年インディからファースト・アルバム『Yuma』をリリース。
その後2010年にリリースした4作目の『Harlem River Blues』が高い評価を受け、タイトル曲が翌年のアメリカーナ・ミュージック・アウォードで最優秀ソングを受賞して、ジャスティンの名前と評判は一気にアメリカーナ・ロック・シーンのみならず全米の音楽シーンに知られることとなったのです。
ただここ最近の作品は『Single Mothers』(2014)にしても前作の『Absent Fathers』(2015)にしても、父拘留中の時代を思い返すようなテーマのアルバムで、しかも楽曲もかなり内省的なスタイルのものが多かったので、このままどんどん地味になっていくのかな、と気になっていました。
ところが今回のアルバムに針を落として、一曲目の「Champagne Corolla」(シャンペン色のカローラ、そうあのトヨタカローラです)を聴いた瞬間に「おお、ジャスティン吹っ切れたな!」と思わず嬉しくなったもんです。何しろイントロの全力でドアをバンバン叩くような重厚なドラムスから、オルガンをバックにR&Bベースのロックンロールを、いつものレイドバックした歌いっぷりでぶちかますジャスティン、このアルバムは多分ここ数作の中で一番ロックっぽい作品になっていたのです。
そのひたすら元気のいい「Champagne Corolla」からレイドバックしたミディアムテンポの「Maybe A Moment」、このアルバムで一番カントリーっぽいナンバーでペダルスティール・ギターとウォーキング・シャッフルリズムで伝統的なカントリー・チューンの「What’s She Crying For」、そしてニューオーリンズのプロフェッサー・ロングヘアにインスパイアされたという、ニューオーリンズのR&Bファンク色いっぱいのクラシックなグルーヴ満点の「15-25」まで、アルバム前半はとにかくアメリカーナ・ロックといってもよりストレートでクラシックなカントリー、R&B、クリオールといった様々な要素を称えた楽曲を、ジャスティンが独特のレイドバックなボーカルで軽々とぶちかましてくれます。
自らの子供時代(といっても1990年代ですが)を懐かしむアコギ一本のしんみりとしたアルバムタイトル曲、南部のラウンジで奏でられているかのようなギターとマンドリンの音色がマリアッチっぽい情緒を思わせる「Faded Valentine」、ピッキング・ギターと時折入るペダルスティールギターとオルガンのみのシンプルなバッキングがジャスティンの個性的なボーカルを映えさせている「What’s Goin’ Wrong」など、アルバム中盤はちょっとペースダウンしたナンバーでほっこりさせてくれるのもこの人の味
後半に移るとまたまた南部の匂いが漂うロックな「Short Hair Woman」やトラディショナルナンバーを編曲した「Same Old Stagolee」、スローながらおどろおどろしさを感じさせる、これもいかにも南部的な「If I Was The Devil」などが続き、シンプルなギターのリズムが楽しい「Trouble Is」、そして最後は抑えめのオルガンのバックと控えめに入るホーンセクションが、南部の教会あたりで演奏されているのではないか、といったイメージを惹起させてくれる、ゴスペルちっくなナンバー「There Go A Fool」で締められます。
ジャスティンはこの7月に初めての子供を授かったらしく(名前がエタ・セント・ジェームス・アール。何とR&Bな名前の女の子なんでしょう)、この作品を作っている時は奥さんが妊娠中でもあったことが、今回のアルバムの比較的な明るさとアップビートで吹っ切れた感じにつながったことは容易に想像が付きます。結果、このアルバムは最近のジャスティンの作品の中では飛び抜けて優れたロック作品であり、ジャスティンの素直な心情が伝わってくる作品となっています。
なかなか来日はしてくれないでしょうが、野外フェスなどでは精力的にライヴ活動を展開しているジャスティン。そのうち親子で来日、なんてことがあれば絶対観に行くのですが、それまではこのジャスティンの最新作で、彼の心踊る楽曲を楽しむこととしましょう。
<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバムチャート最高位161位(2017.6.17付)
同全米ロック・アルバムチャート最高位37位(2017.6.17付)