2017.11.27
新旧お宝アルバム #108
『Let’s Face It』Mighty Mighty Bosstones (Mercury, 1997)
いよいよ11月も最終週、USはサンクスギヴィングホリデーも終わって、今週末からは12月に突入、この後はクリスマスそして年末年始と怒濤の季節に向かってまっしぐら。皆さんも何かと忙しい毎日が続くでしょうが、いい音楽には耳を傾けて、そして体調に気を付けて、楽しい年末年始を迎えられるよう、この時期乗り切って下さい。
先週はラナ・デル・レイのやや重めの作品をお届けした「新旧お宝アルバム!」、今週はまったく正反対のあっけらかんに楽しんで、乗れて、理屈抜きに盛り上がれる、そんなアルバムをご紹介。90年代に何故か突然リバイバル的に盛り上がって、ある意味エモやパンクのサブジャンル的に位置づけられて、数々のバンドが登場したスカコアというジャンルを覚えていますか?70年代後半もパンクが登場する中、それに対応する形でスペシャルズやマッドネス、セレクターなどというUKの2トーン・レーベルから多くのバンドを輩出したスカというジャンル、90年代のリバイバルの時はスカ・コアというジャンルの下、多くのUSバンドが出てきたのが特徴的でした。その90年代のスカコア・シーンの先鞭を付けたともされる、ボストン出身のマイティ・マイティ・ボストーンズのメジャーブレイク作となったアルバム『Let’s Face It』(1997)をご紹介します。
スカという音楽ジャンルはもともとジャマイカ発祥で、レゲエが独特のリズム・パターンで世界的に有名になったのに対して、スカはそれに類似のリズムに西洋のR&Bやジャズの要素を取り入れながら、2拍目と4拍目を強調した独特のスタイルのもの。70年代末の2トーン・スカも、90年代のスカコアも、いずれもこれをベースにしながらハードコア・パンクあたりのひたすら疾走感溢れる楽曲にホーンセクションを加えて(90年代スカコアではギター・サウンドも多く用いられる点がよりパンクやエモに近い)独特の異国的な雰囲気とロックが融合したような魅力を醸し出しているのが特徴。
今日ご紹介するマイティ・マイティ・ボストーンズは、1983年にボストンでリード・ボーカルのディッキー・バセットとベースのジョー・ジトルマン(この二人でほとんどの曲を書いている)を中心に結成された97年当時はサックスやトロンボーンを含めた8人組。
何と言ってもこのアルバムの信条は「速く、楽しく、そして短く」(笑)。全12曲でわずか34分、一曲平均3分以下という潔さ。そしてそれぞれの曲がポップなフックが最高なスカ・ロックだったり、もろパンクっぽい曲だったり、ハードコア・エモだったり、時々スカのリズムがどっか飛んでいってしまうのはご愛敬ですが、いずれもバンドがノリノリで演奏して、こりゃあライヴでも観に行ったら最初から最後までタテ乗りのリズムで体が動きまくってしまうこと請け合いのアルバムです。
そして注目はバンドメンバーのファッション。PVなどを見ると余計明らかに分かりますが、このジャンルの出自であるジャマイカのスカをはやらせたルードボーイ達(地方からキングストンに集まってゲットーに住んだ若年貧困層)が、昔クラブで身を包んでいたクールなファッションを纏ってプレイ。聴いている者、見ている者の気分をその昔のジャマイカのクラブに連れて行ってくれます。
のっけの「Noise Brigade」からリスナーを煽るかのようなスネアとホーンセクション、跳ねるベースライン、そしてジェットコースターのようなスピードでスカのリズムが刻まれる高揚感。続く「The Rascal King」は当時MTVで結構パワープレイだった、個人的にも本作で最も好きなナンバーですが、こちらも潔いホーンから一気にスカのリズムに突入、さびのコーラスがキャッチーでしばらく耳から離れないこと請け合いです。ちょっとダブっぽい処理も入ったややレイドバックしたビートの「Royal Oil」に続いての「The Impression That I Get」は彼らの人気がブレイクするきっかけとなった当時のエアプレイ・ヒット。イントロのジャンプするようなギターのリフからホーンセクション、そしてスカのリズムを刻むギターに乗って野郎どもの大合唱のコーラスというこのスカコアのアンセムといってもいいナンバーです。
アルバムタイトル曲の「Let’s Face It」まではこうした絵に描いたようなスカコアの魅力たっぷりのナンバーが続きますが、アルバム後半はそうしたスカコアずばりのナンバーに混じって「That Bug Bit Me」、「Nevermind Me」、「Descensitized」といったギターのコードストロークを前面に押し出してスカコアリズムがあまり感じられない正にパンクかエモか、といったナンバーや「Numbered Days」や「Break So Easy」のように、スカコアとパンクのハイブリッドのような(リズムは普通の4ビートだがホーンの入りかたがスカコア風など)楽曲が登場して、単にスカコア一辺倒の単細胞バンドでもないよ、とでもいいたげなプロダクションが微笑ましいところです。
こんな一見ワンパターンに陥りやすそうなスタイルのマイティ・マイティ・ボストーンズですが、あのマッドネスだって未だに現役でやっているように(昨年の来日ライヴは素晴らしいものでした)、2003年から2007年の間にバンド活動を休止した他は、現在も元気にライヴもこなし、アルバムもこの作品以降も2011年の『The Magic Of Youth』まで9枚リリースしているという現役感満点ぶりです。またボストン地区の若いバンドのサポートにも熱心で、このアルバムでブレイクする前の1994年からボストンのケンブリッジ地区で「ホームタウン・スロウダウン・フェスティヴァル」のホストとしてこのフェスを開催し続けていて、今年も12月28日~30日の日程での開催が予定されているというから感心します。
年末忘年会やパーティが多い季節。ダンスフロア・クラシックやヒップホップ・チューンだけでなく、こういうスカコアの楽しいナンバーなんかに合わせて楽しく踊る、なんてのもなかなか盛り上がっていいかもしれません。それだけでなく、単純に楽しめるビート満点の音楽を求める方にはこのバンド、このアルバム、お勧めですよ。
<チャートデータ>
RIAA(全米レコード産業協会)認定 プラチナ・アルバム(100万枚売上)
ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位27位(1997.7.12付)