折しもDaft Punkの超話題の新曲「Get Lucky」が「Hot 100」の19位に飛び込んできて(5/4付)、Daft Punk史上初のトップ20ヒットが誕生したということで、Pharell Williamsと共にこの曲に大フィーチャーされているNile Rodgersに触れてみたくなった。「Get Lucky」でもあの印象的ギターを披露しているナイルだが、もちろんかの一世風靡したChicの重要メンバーであったことは周知の事実だろう。実は彼のソロ・アルバムは、83年と85年にリリースされた計2枚が残されてるが、ここでは初ソロ作『Adventures In The Land Of The Good Groove』(83年)についてスポット・ライトを当てたい。
83年のナイルといえば、Chicの盟友ベーシスト、Bernard Edwardsと共にプロデューサー・チームを組んで(あるいは単独で)、既に他アーティストを手掛けて、ヒット・メイカーとして認知されていた頃。大きなヒットになったのはSister Sledge(79、80年)、Diana Ross(80年)等だったが、一方で本体Chicは80年以降どんどん失速して80年代最後のアルバム『Believer』のリリースが奇しくも83年だった。本作『Adventures~』が83年3月リリースで、David Bowie「Let’s Dance」のチャート・インとほぼ同時期。「Let’s Dance」以降、Duran Duran、Madonnaを筆頭にさらなるポップ・ヒットを連発するわけで、この『Adventures~』は、ナイルがモンスター・プロデューサーとして君臨する直前のアルバムということがわかる。
基本的には打ち込みを中心とした楽器は全てナイルが担って制作され、Chicでも披露していたあのヘタウマ・ヴォーカルも全曲で聴ける。ナイルのトレード・マークであるキラキラ・ストラトキャスターから繰り出される印象的なカッティング・ギター・サウンドはとにかくフィーチャーされまくっているが、表題曲や「Yum-Yum」、「Get Her Crazy」あたりは結構派手な作りではあるものの、当然Chicとは一線を画したどことなく実験的なサウンドという印象を受けざるを得ない。要は全曲83年という時代の空気感を反映したちょっと“ダサい”ファンク系の作品群が並ぶということ。ファンク・バンドにとっての打ち込み過渡期というこの時期は、(一部Cameo、Midnight Star、Dazz Band等を除いて)ポップに振り切るわけでもなく、真っ黒なド・ファンクに寄るわけでもなく、実に中途半端なファンクになってしまう傾向があったが、ナイルもこの打ち込みの振り切り方は試行錯誤していたのではないだろうか。どうしてもプロデューサー・アルバムって、実験作になりがちな傾向があって、実につまらない(売れない)作品が多いが(80年代ならばLeon Sylvers、FM2とか)、インスト(楽器)に拘った痕跡の見えるナイル作品もご多聞に漏れなかったということか。ある意味若干低迷していた時期の作品ということも言えるが、とにかくこのナイル初ソロ・アルバムはまったく売れなかった。まあ、実験的サウンドという印象を受けてしまうのと、全編ナイルのヴォーカルという点が敗因なのか(笑)。ただし、「Yum-Yum」、「Get Her Crazy」、実にChicらしい「Rock Bottom」、同じくChicらしいスロウ「My Love Song For You」等は、突き放すには惜しい曲だったりして、Chic作品に聴かれるスタイリッシュ・ファンクだったり、他アーティストに聴かれるポップ・フィーリングは感じられないものの、ダサかっこいい愛すべき曲でもある。ナイルのやりたかったことと、Chicサウンドを融合させた怪作といったらいいのかもしれない。当時も今もまったく話題にならない作品だけど、そう、なぜか愛着の湧いてくる不思議なアルバムなんだよなあ。
<チャート・データ>
無し