『ZAPP II』/Zapp

初めまして、KARL南澤です。良い音楽をひとりでも多くの人に伝える、そんな仕事をしている音楽ジャーナリスト/プロデューサーです。

この度本HPにて、“ブラック・ミュージック系アルバム、この1枚”という題目で、歴史的にも、そして私個人的にも紹介したい作品を毎回1枚ピック・アップして、一節唸らせていただくという、僭越極まりないコラムを書かせてもらう運びとなりました。ちょっとだけお付き合い願えると嬉しいです。

とは言うものの、栄えある第1回目の作品を何にしようかと思案すると…あれやこれや思い浮かんできて収拾がつきませんでした。ブラック・ミュージックの歴史を俯瞰して、一般的に後世に残る名盤を選ぶならば、サム・クック、オーティス・レディング、アレサ・フランクリン等々のソウル・レジェンドたちやら、スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイの70年代のあの名作やら、80年代の潮流の一角を担ったルーサー・ヴァンドロスやジャム&ルイス、テディ・ライリー関与作品やら…いわゆる定番作品ということになるのでしょう。しかし、ここはひとつ、私のわがままを許していただく形で、個人的思い入れの強い名盤を選ばさせてもらいました。オハイオが誇るファンク・グループ、ザップのセカンド・アルバム『Zapp II』(82年)です。

“80年代ファンク”という言葉がブラック・ミュージック・ファンの間では普通に語られたりします。大雑把にいえば70年代ファンキー・ソウルの流れを汲み、基本人力のバンド形式による、重心の低い真っ黒なフロア・ミュージックのことで、だいたい79~85年くらいの時期に量産されたブラック系音楽を指します。あくまでも“ファンキー”じゃなくて、“ファンク”です。日本のオヤジ世代に絶大な支持を得ている“サーファー・ディスコ”系のサウンドとも一部カブッたりしますが、微妙に違ってたりもします。私はこのいわゆる“80年代ファンク”が、3度の飯より好きでして…ブラック・ミュージックの中でも、70年代コーラス・グループ系やら、NYサウンド系(70年代終盤~80年代前半/80年代ファンクと一部重複)やら、ディスコ・ソウル系やらの好物を押しのけても、好きだと言えるくらいに好きなんです。そんな“80年代ファンク”のど真ん中作品、ザップ(Zapp)のセカンド・アルバム『Zapp II』(82年)をピック・アップさせていただきました。

『Zapp II』/Zapp(82年)

稀代のヴォコーダー魔術師、類まれなる大道芸人ロジャー率いる大型ファンク・バンド、ザップは、80年「More Bounce To The Ounce」(80年86位/ブラック2位)でデビュー、初アルバム『Zapp』(80年)で、ジョージ・クリントンが体現していたPファンク・ワールドを、さらに独自のフィルターを通してザップ流Pファンクを創造していた。実際「More Bounce To The Ounce」を筆頭に、まるまる1曲全編ヴォコーダーで通しまくるという逆転の発想、打ち込み感強い無機質に聴こえる“反復の美学”を貫いて生まれるどこまでも黒いグルーヴは、既にデビュー時点で確立されていたと言えよう。それをさらにネクスト・レベルに押し上げたのが、ザップ史上最高傑作と呼べる『Zapp II』だ。何はともあれブラック・チャートでぶっちぎりの1位となった「Dance Floor」!82年といえばほとんどのファンク・バンドが人力から打ち込みへと移行しつつある、過渡期的な試行錯誤が始まりつつある時期だが、若い新世代らしく打ち込みを黒いグルーヴに変化させる術を自然に身につけているのだろう、この時代における真っ黒な“反復の美学”から生まれるファンクネスを滲みださせる楽曲の、最高峰的な作品となっている(この“反復の美学”は、後にジャム&ルイスがさらなる極みを創りだしている)。無機質な反復ドラム、ギター・カッティング、地を這うようなベース、そしてヴォコーダー・ヴォイス…すべてが混然一体となって迫りくる熱いファンクネスには、誰も抵抗することは不可能だろう。サウンド・プロデュースを担うロジャーの手腕が大きな要素を占めていると思われるが、実はロジャーのブラック・ミュージックの伝統に対するリスペクトが随所に聴かれるのも興味深い。ギターが時にブルース・コード的進行だったり、ドゥワップ風コーラスが聴かれたり(「Doo Wa Ditty」)、ソウル・マナーを継承した歌唱を配したり(「Do You Really Want An Answer?」)、ロジャーの趣味丸出しなジャジー風味だったり(「A Touch Of Jazz」)、随所に入る合いの手がJB風だったり(「Dance Floor」)…革新性一辺倒でないところが、アルバム全体の普遍性を高めていたりもする。ブラック層からの支持が非常に厚かったことも、彼らのファンクネスが本物だった証左でもあるのだが、EPMDを筆頭に後のヒップホップ・アクトから数多のザップ・レパートリーがサンプリング・ソースとして重宝された(特に90年前後が盛んだった)ことも、何をか言わんやという感じだ。とにもかくにも80年代ファンクの最高傑作「Dance Floor」が収録されているというだけでも、この『Zapp II』は聴かずに死ねない1枚と断言させていただきましょう。今だ高揚感を禁じ得ない「Dance Floor」…久しぶりに耳にして、1曲聴く間に、やっぱり5回ほど昇天させていただきました。初めて聴く方は、どうぞ下着の替えを用意しておいてください(笑)。