そもそも音楽を聴く動機というのは、もちろん人それぞれでしょうが…ことブラック・ミュージックに関しては、伝統を継承したヴォーカルの力強さ、ブラックにしか醸し出せないグルーヴといったものに加えて、“時代の潮流を一気に変える革新性”も外せない要素のひとつです。少なくとも私にとってはそうなんです。これはブラックに限った話ではないかもしれませんが、ロック・エラにおける大衆音楽の歴史に、ブラック・ミュージックが与えた革新性(新たなムーブメントの胎動)は非常に大きな役割を果たしてきたことも確かでしょう。
80年代後半から90年代前半を彩った“ニュー・ジャック・スウィング”ムーブメントの立役者は、紛れもなくテディ・ライリーでした。盟友ティミー・ギャトリングと組んだ3人組キッズ・アット・ワーク(84年にアルバムあり/この頃16~17歳!)は、今風なヒップホップR&Bグループという感じでしたが…。ガイのデビュー・シングル「グルーヴ・ミー」(88年春リリース)の衝撃度といったら!とにかく脳天をブチ割られる興奮を与えられたことは間違いありません。打ち込みによる無機的機械音をここまで有機的に機能させ、いわゆる“跳ねた”ビートを独特な音色で創造、さらに随所に敷かれたアヴァンギャルドなシンセ・オーケストラ・ヒット…これらが混然一体となって、あくまでもフロアでの機能性を最優先したサウンドは、まさしくヒップホップ世代の新たなR&Bダンス・スタイルが誕生した瞬間でもありました。いや、本当にこの曲を初めて耳にした時の、“なんだ、この新しい音は!”的な衝撃は、筆舌に尽くしがたかったのですよ(陳腐な表現しかできないのがもどかしい)。前年テディがドラム・プログラミングで関わった、キース・スウェットの最大ヒット「アイ・ウォント・ハー」(87年初出/88年5位)が、“ニュー・ジャック・スウィング”の夜明け的位置にいるのでしょうが、「グルーヴ・ミー」の完成度・衝撃度はさらなる数百倍レベルだと言えましょう。
ほどなくしてリリースされたのがガイの初アルバム『GUY』(88年7月発売)だったわけで、シングルとなった金字塔的作品「ラウンド・アンド・ラウンド」、「テディズ・ジャム」、「アイ・ライク」、「スペンド・ザ・ナイト」等を筆頭に、テディ流新感覚の“ニュー・ジャック・スウィング”曲のオン・パレード!この時点ではまだ“ニュー・ジャック・スウィング”という言葉が定着していなかったのですが、世の(ダンサブル)R&Bフリークを熱狂させるのに充分な内容のアルバムでした。80年代中盤に隆盛を極めた“ゴーゴー”サウンドに、リズム・パターンの基盤を置いているという見方もありますが、何の問題がありましょうか。彼らのシングルがヒットを重ねるにつれ、“ニュー・ジャック・スウィング”サウンドはあっという間にブラック層を中心とする大衆音楽に蔓延、90年代初頭は猫も杓子も“ニュー・ジャック・スウィング”という現象まで見られました。テディ・フォロワーは枚挙に暇がありませんが、はっきり言えることは、テディの創ったビートは明らかに他のフォロワーとは一線を画していたということ。音の粒立ち、ソリッドさ、シンセの感触とか、全然違うんですよね。テディが“ニュー・ジャック・スウィング”の本家本元というのは、誰も否定できない事実です。
チャート・データ
アルバム『GUY』/Guy 88年チャート・イン~89年最高位27位
シングル「Groove Me」 88年ブラック・チャート4位
「’Round And ‘Round」 88年ブラック・チャート24位
「Teddy’s Jam」 88年チャート・イン~89年ブラック・チャート5位
「I Like」 89年「Hot 100」70位、ブラック・チャート2位
「Spend The Night」 89年ブラック・チャート15位