新旧お宝アルバム!#29「On The Border」Eagles (1974)

2016.1.25

新旧お宝アルバム #29

On The BorderThe Eagles (Asylum, 1974)

2016年はこれまで洋楽ファン、特に70年代に一生懸命洋楽を聴いていたシニアの洋楽ファンには辛い日々が続いています。1/8、69歳の誕生日に最新アルバム『★』リリースで華々しい復活を見せたその翌々日にある意味シアトリカルな形で逝ってしまったデヴィッド・ボウイ。そのショックが癒える間もなく、今度はアメリカン・ロックのシニアリスナー達を襲ったイーグルスグレン・フライの67歳での死去。いずれもあまりにも急な、そして早過ぎる他界の報に思わず耳を目を疑った方も多いでしょう。

今週の「新旧お宝アルバム!」は、そのグレン追悼のためにイーグルスのアルバムを取り上げますが、彼らのアルバムの中でも、初期のカントリー・ロック然とした作風からカントリーの域に留まらない、名実共にアメリカン・ロックシーンの屋台骨を背負うことになる『呪われた夜(One Of These Nights)』(1975)以降大きく変貌する直前のバンド状況を記した重要なアルバムでありながら、何故か他のアルバムに比べると陽の目を見ることの少ない1974年の名盤『On The Border』をご紹介します。

On The Border (Front)

イーグルスの代表作というと、あなたはどのアルバムを挙げるでしょうか。自分の大学時代の洋楽サークルなどでもアルバムの人気投票を行うと、イーグルスといえばどうしても『ホテル・カリフォルニア(Hotel California)』(1976)が大体ダントツの知名度と人気を持って選ばれることがほとんど。昔からのイーグルスに親しんだシニア・リスナーでも、リンダ・ロンシュタットらのカバーで有名な「デスペラード」を含む『ならず者(Desperado)』(1973)や『呪われた夜』を挙げる方が多いでしょう。間違ってもこの『On The Border』が挙げられることはまずないのでは。

ことほどさようにこの『On The Border』というアルバムは、ある意味「わりを食っている」アルバムですが、下記の3つの理由でイーグルスのキャリアの中で大きなターニング・ポイントとなった、極めて重要なアルバムなのです。

1.イーグルスに取って初の全米No.1ヒットを含むアルバムであること。

リンダ・ロンシュタットのバック・バンドとなったことでメジャーブレイクのチャンスを手にしたドン・ヘンリー(ボーカル、ドラムス)とグレン・フライ(ボーカル、ギター)は、ポコ出身のランディ・マイズナー(ベース)、フライング・ブリトー・ブラザーズ出身のバーニー・レドン(ギター、マンドリン、バンジョー)を加えて1972年『Eagles(イーグルス・ファースト)』でデビュー。グレンジャクソン・ブラウンとの共作「テイク・イット・イージー」のヒット(1972年最高位12位)で華々しいスタートを切ったイーグルス、その後も「魔女の囁き(Witchy Woman)」(同9位)のトップ10ヒットはありましたが、彼らが全米No.1ヒットを勝ち取ったのは、この『On The Border』収録の「我が愛の至上(The Best Of My Love)」が初めてでした。

ドン、グレンJ.D.サウザーのペンによる、失われてしまったがかつては確かに存在していた恋人との素晴らしい愛を思い、振り返り、悔やむという、恋に悩む者の心に響く歌詞を持つこの美しいバラードで全米1位を獲得したイーグルスは、この時クリエイティビティ面でも、バンドメンバー間の結束という意味でもピークに向かうアップトレンドを突き進んでいた時代でした。1位のヒットを飛ばすということは、それに「メインストリームを代表するアーティストの一人」という勲章を得ること。その意味からこのアルバムは彼らのキャリアで最重要の位置を占める作品と言ってもいいでしょう。

On The Border (Insert)

2.イーグルス最盛期のメンバーが初めて全員顔を揃えてほぼ全員がリードボーカルを取ったアルバムであること。

不動の4人でファースト、2作目の『ならず者』を発表してきたイーグルスが、この『On The Border』収録の「地獄の良き日(Good Day In Hell)」のスライド・ギターのために呼んだドン・フェルダー(ギター、スライド・ギター)を、正式に5人目のイーグルスとして追加。これで、イーグルスの商業的・クリエイティブ的な頂点になる『ホテル・カリフォルニア』のメンバーが全員揃ったことになり、最盛期のメンバーが出揃ったという意味でもこのアルバムは重要です。

そのドン・フェルダーは後に「ホテル・カリフォルニア」の有名なギター・ソロでバンドでの存在感の頂点を打つのですが、彼が加入のきっかけとなったスライド・ギターは、同じ『ホテ・カリ』収録の「駆け足の人生(Life In The Fast Lane)」(1977年最高位11位)で新加入のジョー・ウォルシュが超絶のプレイを見せたことが、その後のドン・フェルダーとメンバー間の不仲の原因となったことは誠に皮肉なことと言わねばなりません。

またこのアルバムではドン・フェルダー以外の各メンバーがそれぞれ作曲とリードボーカルを綺麗に分けあっており、グレンが2曲(「過ぎた事/誓いの青空(Already Gone)」「James Dean」)、ドンが3曲(「恋人みたいに泣かないで(You Never Cry Like A Lover)」「On The Border」「わが愛の至上」)、ランディが2曲(「Midnight Flyer」「Is It True?」)そしてバーニーが1曲(「My Man」)を担当しています。また、グレンドンのダブル・リード・ボーカルで「地獄の良き日」とトム・ウェイツ作のバラード「Ol’ 55」を歌っており、バンドの結束感を如実に物語っています。

Already Gone

3.カントリー・ロックサウンドからハードなロックサウンドに大きく舵を切った、イーグルスのその後の路線を確定したアルバムであること。

イーグルスはファーストアルバムと2作目『ならず者』を、オール・アメリカンのイメージを持たせながらもイギリス人のプロデューサー、グリン・ジョンズレッド・ツェッペリン、フー、ハンブル・パイらのプロデュースで有名)を起用、ヒットに繋げました。しかし彼らは明らかにバンドのサウンドを次のレベルに持って行きたかったのだと思います。その一つの現われが、エッジの聴いたスライド・ギターを弾くドン・フェルダーの新加入、そしてプロデューサーに60年代からB.B.キングジョー・ウォルシュなどR&B、ロックの各分野で力強いサウンドメイキングに定評のあったビル・シムジクを迎えたことでしょう。

デビュー以来、当時70年代前半アメリカ・ロック・シーンのメインストリームであったカントリー・ロックをスタイルとしてきたイーグルスのメンバー、特にドングレンの二人に取って、更に大きくバンドとして成長するためにサウンド面の変革は不可欠であったはずです。そんな中、前2作の成功でカントリー・ロック・フォーマットを継続しようとしたグリン・ジョンズとバンドが対立、よりエッジの効いたサウンドを求めたバンドがジョンズを解雇し、シムジクを起用したというわけ。

シムジクのプロデュースとよりハードな路線を求めるバンドの意欲は、後のジョー・ウォルシュ参加曲を思わせるようなハードなエレクトリック・ギター・サウンドが顕著な「On The Border」「地獄の良き日」に明らかであり、全面にバンジョーがフィーチャーされたこれまでのイーグルス路線の「Midnight Flyer」とバラードの「Ol’ 55」「我が愛の至上」を除き、全ての楽曲でエレクトリック・ギターの音が全面に出されています。つまりここから『呪われた夜』『ホテル・カリフォルニア』『ロング・ラン』に続くハードなロック路線が始まったのです。

上記のような本作の歴史的意義もさることながら、このアルバムを構成する楽曲はバラエティに富んでいながら、アルバム全体の作品としてのバランスには素晴らしいものがあります。

On The Border (Back)

従来のイーグルスのロック的側面を象徴する突き抜けるような爽やかロックサウンドの「過ぎた事/誓いの青空」「James Dean」「Is It True?」、しめやかなバラードで聴くものの感動を呼ぶ「我が愛の至上」やトム・ウェイツの渋ーいバラードを完璧なコーラスワークでゴージャスなイーグルス作品に仕上げている「Ol’ 55」、バーニー・レドンのバンジョーワークが軽快なカントリー路線の「Midnight Flyer」、バーニーがこの前年ドラッグ過剰摂取で26歳の若さでこの世を去ったカントリー・ロック界のレジェンド、グラム・パーソンズを偲びながらせつせつと歌う「My Man」、そして新しいイーグルスを象徴するハードな「On The Border」「地獄の良き日」。デビュー作のひたすら爽やかカントリー路線や、『ならず者』の西部のならず者を描いたコンセプト・アルバム路線から、一気にアルバムとしての多様性が顕著となっており、初めて聴く人でもいろんな側面を楽しめる出来になっています。

実は自分がイーグルスのアルバムで最初に買ったアルバムがこの『On The Border』。当時、こんなにいいアルバムなのにあまり評判にもなっておらず、No.1ヒットの「我が愛の至上」も日本ではあまりラジオでもかかっていなかった記憶があります。このアルバムの一般的なリスナーに取っての位置づけは今でもあまり変わっていないようですが、グレンが他界した今、彼がドンと共に新しいイーグルスを模索していたこのアルバムを聴いて、当時の彼の情熱に思いを馳せる、そういう聴き方も彼への追悼としてふさわしいのではないのでしょうか。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位17位(1974.6.1付)

RIAA(全米レコード協会)認定ダブル・プラチナ・ディスク(200万枚売上)

Already Gone(過ぎた事/誓いの青空)

ビルボード誌全米シングル・チャート(Hot 100)最高位32位(1974.6.29付)

James Dean(ジェイムス・ディーン)

同 最高位77位(1974.10.12付)

The Best Of My Love(我が愛の至上)

同 最高位1位(1975.3.1付)