2017.12.18
新旧お宝アルバム #109
『Soul Of A Woman』Sharon Jones & The Dap-Kings (Daptone, 2017)
ちょっとここのところ自分の仕事があり得ないくらい大変だった関係もあってお休みしていたこの「新旧お宝アルバム!」、何とかまたお届けすることが出来る状況になってきました。その間に巷はめっきり師走モードで、今年も気がつけばあとわずか二週間。既にビルボードの年間チャートも発表になり、ちょっと前に自分のブログでやってた予想と比べると何とかトップ3は予想的中できたので一安心。その他各音楽誌や音楽サイトの年間アルバムランキングなども発表になり、音楽ファンには楽しい時期。皆さんもこの時期ならではの楽しみを満喫されますように。
さて久々の「新旧お宝アルバム!」となった今週は、長いキャリアを経てようやく2015年グラミー賞の最優秀R&Bアルバム部門ノミネートで第一線のスポットライトを浴びてさあこれから、という時に膵臓ガンを発症、残念ながら昨年11月に他界してしまったにもかかわらず、その他界直前まで現代のR&Bシーンのこれからの中心として期待されていたシャロン・ジョーンズと彼女が率いるR&Bバックアップグループ、ダップ・キングスによる、シャロンの遺作となったアルバム『Soul Of A Woman』(2017)をご紹介します。
シャロン・ジョーンズというシンガーは、この2010年代としてはかなりレトロといっても差し支えない、ジェームス・ブラウンやサム・クック、はたまたアレサやオーティスといった70年代ソウル・ファンクの流れを汲むスタイルのR&Bシンガー。そしてそのバックを固めるダップ・キングスは、人種混合のフルバンドにオルガンやホーンセクションを加えた、力強く腰の入ったファンキーなグルーヴを得意とする鉄壁の8人組ソウル・ファンク・バンド。
ファンクの帝王、ジェームス・ブラウンと同郷のジョージア州オーガスタ出身のシャロンは、幼少時の60年代にNYに家族と移住、当時はかなり治安も悪く低所得層の住民も多かったブルックリンのベッドフォード・スタイヴェサント地域で育ち、若い頃は近くの刑務所での仕事や現金輸送車護衛の仕事などを行う一方、地元の教会でゴスペルを歌ったり、ローカルのファンク・バンドで歌いながらタレント・ショーに出てはプロデビューを目指して地道に活動してきたという超苦労人。そして彼女がアーシーでファンキーなグルーヴを繰り出すダップ・キングスと出会って始めてアルバム『Dap Dippin’ With Sharon Jones & The Dap-Kings』(2002) を出して、世のファンク・ファンやDJの注目を集めたのは既に40代半ばの頃だったから、極めて遅咲きのアーティスト。
その後、何枚ものアルバムを発表する一方、ルー・リードやデヴィッド・バーン、ジャム・バンドのフィッシュといった幅広いロック系アーティスト達とのコラボでの素晴らしいパフォーマンスで、シーンでの存在感を着々と積み上げていったシャロンとダップ・キングスは2014年、6枚目のアルバム『Give The People What They Want』が第57回グラミー賞の最優秀R&Bアルバム部門にノミネート、受賞はトニ・ブラクストンのカムバック・アルバム『Love, Marriage & Divorce』に譲ったものの、一気にその名を一般ファンやシーン全体に知らしめたのでした。
しかしこの頃既にシャロンは精力的なライヴ活動やコラボ活動を進める中胆管ガンの宣告を受けていて、キモセラピーを受けながらもそのエネルギッシュでファンキーなグルーヴを繰り出すパフォーマンスを継続。治療の関係で頭髪を失いながらもカツラを付けることを拒否、禿頭で迫力あるライヴ活動を続けていたといいます。そのシャロンがついに膵臓ガンに発展した病魔に倒れたのが2016年の11月。
ちょうどその年発表され、以前この「新旧お宝アルバム!」でも取り上げたアメリカン・ルーツ・ロックのスタージル・シンプソンの『A Sailor’s Guide To Earth』(2016)が今年2月発表された第59回グラミー賞の最優秀アルバム部門にノミネート、そのアルバムのバックを全面的に努めたダップ・キングスが、授賞式のスタージルのパフォーマンスのバックで登場、シャロンを支えたあのアーシーでファンキーなサウンドを聴かせてくれた時、会場にいた多くの聴衆・ミュージシャン達はその時既に亡き人となっていたシャロンの存在を強く感じたのではないでしょうか。
その生前「女ジェームス・ブラウン」とも呼ばれたシャロンが残した最後の音源を元に作られたアルバムがこの『Soul Of A Woman』。
アルバムののっけから立ち上がってくるダップ・キングスのリーダーのボスコ・マンのベースとホーン・セクションが作り出す60年代R&Bファンクか、と思わせるようなグルーヴで一気に持っていかれてしまう「Matter Of Time」を聴いただけで、既にガンに冒されているにもかかわらず力強く存在感満点のシャロンのファンキーなボーカル・パフォーマンスに圧倒されます。同じくホーン・セクションが楽曲の中心になってドライヴするレトロ感満点のファンク・ナンバー「Sail On!」でもシャロンの熱いボーカルは死期を迎えた人間のそれではなく、生の躍動感に溢れたパフォーマンスです。
往年のJBのスロー・ナンバーを思わせる「Just Give Me Your Time」でパッションがほとばしるようなボーカルを聴かせるシャロンの歌が、あたかも「あたしはもっともっと歌っていたいのよ、だからもう少し時間を頂戴!」と言っているように聞こえるのは自分だけか。
スタイルをちょっと変えて爽やかなギター・ストロークに乗ってライト・ファンクな楽曲を軽々と、しかしシャロン独特のグルーヴをしっかりと聴かせてくれる「Come And Be A Winner」、ウォーやマロといったラテン・ファンクバンドの感じを漂わせるややラテン風のアレンジの「Rumors」などなど、シャロンとダップ・キングスがゴリゴリのファンクだけではなく、様々な切り口やスタイルでそのファンクネスの引出の多様さを知らしめてくれる楽曲が次々に繰り出されるこのアルバム。サザン・ソウル的なアレンジのハモンド・オルガンの音色に乗って、自らのこの後の運命を知るかのように神への思いをゆったりとシャロンが歌い上げるゴスペル・ナンバー「Call On God」で終わる全11曲まで、一気にシャロンとダップ・キングスの世界が満喫でき、聴き終わった後に不思議な高揚感を感じると共に、今は亡きシャロンへの思いをつのらせずにはいられません。
決して大ヒットするようなアルバム、作品ではありませんが、この作品、60年代から70年代のR&Bファンク・サウンドのルネッサンスを2010年代に見事に実現させた、その筋のサウンドが好きなファンにはたまらないアルバムに仕上がっています。
世間は年末で2017年という年を振り返る音楽メディアの報道も多くなってきていますが、華やかなポップ・レコードやEDM、ヒップホップといった今風の音楽が溢れる中で、あくまでも頑固にR&Bファンクという自らの音楽ルーツに根差したスタイルを貫いて、死の直前まで全精力を振り絞ったパフォーマンスを聴かせてくれたシャロンの歌声には改めて大きな感動を押さえられません。
バックをしっかり支えるダップ・キングスのサウンドと共に、生きるパワーを感じさせてくれるこのレコード、年末のパーティやイベントで皆さんに聴いて頂けるチャンスが少しでも多いことを祈って、自分でもレコードを回す機会があれば少しでもこのアルバム、プレイしようと思っています。
シャロンの素晴らしい歌声が皆様にいい年末、そしていい新年を呼び込んできてくれますように!
<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位106位(2017.12.9付)
同全米R&B/ヒップホップ・アルバム・チャート 最高位44位(2017.12.9付)
同全米R&Bアルバム・チャート 最高位10位(2017.12.9付)